49話 負けないで童貞女装美少年ユリウス!
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今日はある意味力作です
実力者相手に見事勝利を納めたカミラとユリウス、――特にユリウスは生暖かな視線と盛大な拍手が送られる。
歓声を背に控え室に戻った二人は、休憩する間もなくセレンディア夫妻の襲撃にあっていた。
「………………非常に」
「はい」
渋い顔のクラウスに、神妙に頷くのユリウス。
「ひっ、じょーーーーーーーにっ!」
「アナタ、長い」
「何ですのパパ様?」
妻の指摘も娘の疑問も何のその、苦虫を潰しまくった表情でクラウスは続ける。
「ひじょおおおおおおおおおおおおおおおおにっ! 不本意だが、不本意だが、不・本・意! では!あるがっ! ユリウス殿よ……お前を認めよう」
「ええ、貴男にならカミラちゃんを任せられるわ」
「あ、有り難うございます……?」
そういえば、とユリウスは思い出した。
最初は哀れみと周囲の空気に流されて、偽装恋人を請け負ったのだ。
ユリウスにカミラを嫁になどする気は毛頭ない。
ない……が――――。
(――――何で、そんな姿を思いついてしまった俺!?)
カミラの嫁入り姿か、と。
うっかり脳裏に描いてしまったのは、ウエディングドレスを来たカミラ。
(何故幸せそうに微笑んでいるッ! 何で俺の隣にいる姿をッ! 駄目だ駄目だッ! こんな悪女と一緒にいたら苦労は目に見えているぞッ!)
そもそも、問題はそこでは無い。
酔っぱらっている者が、自分は酔っぱらっていないという程には、カミラという“毒”が回っている事に気づいていないのが問題なのだ。
(どうなっているんだ、俺の頭……)
更に言えば、カミラも計算外でユリウスも自覚していなかったが。
長い女装人生の影響で、乙女回路がしっかりと根付いていたのだ。
それ故の妄想、幸せな家族生活への渇望。
本人が自覚している以上に、ユリウスは人の温もりに飢えている。
ともあれ、そんな心中に気付くことなく、クラウスは、ポン、ポン、ガシィ! とユリウスの肩を掴む。
「――痛ッ! ちょっとッ! (カミラの)お父さん、痛いですってッ!」
ギリギリと肩にに食い込むクラウスの手、ユリウスは正気に戻ってこれた事は感謝したが、痛いモノは痛い。
「……くれぐれも、うっ、ううっ! くれぐれも……娘を、娘を頼みますぞ婿殿おおおおおおおお!」
「早いッ! まだ早いです伯爵ッ!」
男泣きして、もはや婿入り確定ムードにユリウスは焦る。
(ヤバイヤバイッ! 糞女めッ! 今ここで流されたら、絶対人生終わるッ! 絶対人生終わる気がするぞッ!)
――結婚は人生の墓場とよく言ったものである。
(何がヤバイのかは、あの自信家な女を支配出来るんじゃないかとか、そもそも結婚自体が何故か嫌じゃない気がするのが、超ヤバイッ! 王国の影となると誓った以前の俺を、思い出すのだッ! 頑張れ俺ッ!)
カミラ以外は誰も気付いていない、気付くことすら出来ない事だが。
ユリウスへと巡らした計画は、カミラが百年以上試行錯誤して作り上げた緻密なモノだ。
たった一人の男を手に入れる為に、魔王を殺し簒奪までした女の執念、抗える方が奇跡だ。
(何か、夫妻が立ち去る前に、ちゃんと断りの言葉を言うんだ俺ッ!)
カミラが愉悦に浸りきった顔で、その様子を愉しんでいる事にも気付かず。
ユリウスは無駄な抵抗を口にした。
「待って下さい……(カミラの)お父様はお気づきでしょうが、私は王国の影として、そして政変を未然に防ぐため“女”として育てられました。ですので――――」
「――――婿殿」
悲しそうな演技と共に出された言葉に、クラウスは優しく笑った。
(やったッ! 通じたぞおおおおおおおおおおおッ!)
が、駄目。
肩を掴む手により力を込めて、クラウスは上機嫌で力強く言う。
「――――大丈夫だ。心配なされるな婿殿、セレンディア家の全てを以てして、婿に迎えてやるからな、最早逃げられないと思え!」
(解ってて言っているこの糞馬鹿親ああああああああああああああああああッ!)
実際に叫ばなかっただけ、ユリウスの理性を誉める所だ。
そして追い打ちをかける様に、セシリーが一言。
「カミラちゃんと仲良くね。……そうそう、孫ができても許します。というか早く見たいわ。ねぇアナタ?」
そしてクラウスまでが、肯定する様な事を言う。
「セシリー、確かに孫は欲しいが…………、わかっているだろうな――カミラに手を出したら殺す」
仲睦まじく、腕を組んで去ろうとする二人に、ユリウスは必死で言葉を探すも――――。
「――――ちょ、ま」
「では仲良くな」
「ごきげんよう」
形になる前に、二人は去って行った。
後に残るは、幸せそうにぐへへ笑うカミラと、女装生活と共に独身生活も終わろうとしている哀れな男が一人。
「うへ、えへへへへへへ……けっこん、けっこん。ユリウス様とケッコーン」
笑うな歌うなその歌詞は何だ。
「これは偽装だった筈だろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
外堀が埋められる所か、本丸が炎上している有様にユリウスは膝を付いた。
まだ別の所(ゼロス王子)に城(逃げ場)があるから、と自分すら騙せない嘘を、必死に信じようとしているが残念。
その逃げ込もうとしている所は、敵の友軍である。
とっとと物理的に逃亡するしか、逃れる方法は無いぞユリウス!
(ああ、ユリウス。ちょっと想像していたのと違うけれど、そうして悩み苦しむ貴男も素敵……。もっと、もっと私の事だけ考えてユリウス――)
これ以上ユリウスを染め上げてどうするのか、小一時間問いつめたい様な思考のカミラは、見るだけでは満足出来ないと、行動を開始する。
両親がいた分、次の出場までの時間が減ってしまったから、過激に濃密に。
そんな無駄な決意を秘めて、カミラはユリウスにすり寄る。
「うふふっ、……ふひっ、ふへへへ」
「……気持ちの悪い声で、笑うんじゃないこの魔女め」
床だと言うのに、とうとう座り込んでしまったユリウスの隣に、カミラは座る。
「あらごめんなさい――、ああ、そういえば忘れていました」
わざとらしく、手をぽんと叩いたカミラに、ユリウスは不機嫌に言う。
やめろ、今くっつくな、しなだれかかるんじゃない。
そんな言葉を飲み込んで。
「……何だ、言ってみろ」
カミラはユリウスの胸を、服の上から撫で回しながら、耳元で囁く。
押しつけられる豊満で柔らかな感触に、ユリウスは硬直した。
「何故、助けてくれたのです?」
「う……、そ、それは――」
顔真っ赤にして言いよどんだ後、そっぽを向いて続ける。
――ご覧頂けているだろうか、これが童貞男の悲しき、せめてもの抵抗である。
「――、只の、只の気紛れだそんなの。あれで負ければ殿下と結婚話が蒸し返すだろう? それでは、ゼロとネッサがあまりにも可愛そうだったからだ」
「だから決して……、決してお前の為では無い……」
力なく出された言い訳に、カミラは素直じゃない所も可愛いと微笑んだ。
「ええ、ええ……それでも、私は嬉しいですわ。貴男が私の事を考えて行動してくれた。それだけで世界一の幸せ者ですわ」
「だからお前の為じゃないッ! というかいい加減離れろ暑苦し――――ッ!? カミラぁッ!?」
ユリウスの声が裏返った。
カミラがユリウスの手を取り、自らの母性の塊。
生で大きい柔肌に、服の隙間から直に導いたのだ。
「ななななな、ななななななあああああああッ! こッ、この手を放せぇッ!」
「なら、力付くでふりほどいて下さい……」
カミラは情欲で濡れた目で、ユリウスに誘いをかける。
――果たして。
超気になっている美少女の、生のアレを直に触らされて、指から伝わるの感触を、指を蠢かしたくなる本能を押さえる童貞が、この世にいるだろうか?
いや、いない。
そしてここにも、抵抗できなかった無念の男が一人。
「あ、ん……ふふっ。いいんですのよ……」
カミラはユリウスの耳朶を舐めた。
「――ふひゃぁッ!」
「もっと強くしても……、お気持ちの儘に。その情欲の赴く儘に、思いっきり貪っても」
なおこの甘言に乗ると、人生の墓場が待っている模様。
故に、ユリウスは必死に言葉をひり出す。
――悲しいかな、揉みしだいて幸福に犯されながらであったが。
「……お前が、言ったんだろう。…………気持ちがないと、駄目、だと……」
「あらあら、一本取られてしまったわね」
でもそれは、抱きたいと暗に言っている、とカミラはクスリと嗤い、でも指摘しなかった。
自分で気づいて欲しいのだ。
今、――この場から逃げ出さない意味を。
(だから、気付くまで貴男を誘惑してあげる。……本能に負けて、押し倒されたら。ええ、その時は二度と逃がしてあげませんわ)
カミラはとうとう胸を肌蹴ると、ユリウスの視線が釘付けになった隙を付き、もう片方の手も取って、その指を舌をくねらせながら、舐め始めた。
「……んちゅ。ちゅ……ちゅ…………ん、はぁ」
「~~~~~~~~~~~~ッ!?」
「指、傷ついてますわユリウス様。これは“治療”です」
“治療”だから、何をしてもいい。
カミラは暗にそう言った。
それは、指先に走る初めての快楽に絶句したユリウスの脳髄を、確かに犯し始める。
「もっとよく見て、触って確かめて下さい…………、私の胸、傷ついてないかしら?」
「――――傷、なん、て……ついて、いな……い……」
「では……こちらは、どうかしら?」
カミラは胸に添えていた手を、お腹を伝いお尻へ。
ゆっくりと時間をかけて、太股へ行った後、内股からその上で誘導し始める。
ユリウスは俎板の上の鯉の如く、口をぱくぱくさせてされるが儘だ。
――抵抗する気など、欠片しか残っていない。
欠片でも残っていると賞賛すべきかもしれないが。
「……ん、はぁ……ちゅ。これは、独り言ですが……」
その独り言と言う名の、蠱惑的な誘惑を。
ユリウスはもどかしい快楽に、頭を痺れさせながら聞いた。
(どうにか、なってしまいそうだ――――ッ!)
「私に、堕ちてくれていいんですよ」
「堕ちてくれたのなら。地位や名誉――そして、快楽」
「――――あぁッ!」
カミラはユリウスの指を甘噛みした。
そしてたっぷり涎を舌で塗り、見せつけるように、糸を引きながら唇を放す。
「ああ、ああ……」
「――――、あむ。……ふふっ、ユリウス様も欲しいですか?」
カミラはその糸を引いた涎を、自らの指で器用にからめ取ってペロリと嚥下した。
そして濡れた指先で、喉から下を、女性の曲線を強調する様になぞり、下腹の辺りで止める。
「堕ちてくれたのなら、私の体も、貴男の――思うが儘」
その淫靡すぎる光景に、ユリウスはごくりと大きく喉を鳴らす他ない。
(き、危険だ……こいつの言葉は、きっと全てが本当で本気なんだ。けど惑わされては駄目だ。与えるモノ全てが俺の気を引く為の、そしてその反応を見て悦ぶ為の“餌”なんだ……)
「ねぇ……、決して、損はさせません」
「体の、精神の、魂魄の芯から快楽でとろけさせてあげますわ……」
そう言うとカミラは、ゆっくりと体を倒し、ユリウスの上に多い被さった。
そして、再び耳元で囁く。
「ねぇ、嘘でも、この場だけの嘘でもいいのです」
「ただ一言」
「ただ一言本気で」
「魂の底から、私の全てが欲しいと」
「そう言ってみませんか?」
「私を組み伏せ、本能のままに腰を打ち付けて」
「極上の快楽を、得てみませんか?」
「う……ぁ…………ッ!」
ユリウスは助けを願った。
目の前の巨大な誘惑から逃れられる何かを。
(駄目だ駄目だ駄目だッ!)
たった一度、嘘と前置きしても。
――本気で言ってしまえば、未来永劫それに捕らわれてしまう。
(この女を本気で――愛してしまう)
カミラは卑怯にも、それを狙っているのだ。
ユリウスは何か言い返そうとして、しかし。
一つ一つ外される服の釦を、ただ恨めしげに睨むこともできない。
言葉を探して。
カミラの涎で塗れた指で慰撫される胸板の感触に、脳が痺れてしまう。
だめだ、だめだ、触っては嗅いでは、近づいては。
蜘蛛の糸に捕らわれる錯覚を覚えたとき、ユリウスは、はたと気が付いた。
その言葉の意味を吟味する事も出来ずに、迂闊にも声にだしてしまう
「……お前。処女なのに、何で自信満々なんだ? もしや――――――あがッ!?」
瞬間、ガンと後頭部に強い衝撃が走った。
頭を掴まれて、床に打ち付けられたのだ。
「――――――――ユリウス様?」
意識がクラクラする中、ユリウスは非常に鋭い殺気に体を強ばらせる。
そして殺気元を恐る恐る探ると、これ異常なく美しく微笑んだカミラの顔がそこに。
「それ以上侮辱したら、今すぐここで、問答無用で純血の証を身を以て証明しましょう」
「そして孕むまで交わった後、その姿のまま結婚届けを出しに行きます」
その澄んだ目は、本気に満ち溢れていた。
やっと正気に戻ったと同時に、様々な恐怖で体がふるえだしたユリウスは、沈痛な声で謝罪する。
「本当に、本当に済まなかった…………女装ばかりしている糞童貞故の無遠慮な言葉だった、どうか許して欲しい」
その声は苦渋も大いに含まれ、ついでにコンプレックスが少し漏れ出した。
その事に目ざとくきづいたカミラは、にんまりと笑って、鼻血をドバっと出す。
――嫌な予感しかしない。
「…………カミラ? 今のどこに鼻血を出す所が?」
「――今すぐ童貞卒業させてあげますわ糞童貞ユリウスきゅ~~ん!」
次の瞬間、カミラはユリウスの服を力付くで破き始めた。
「ほわあああああああああああああッ!? 誰か男の人呼んでくれ、犯されるううううううううううううううう!」
「叫んでも無駄よ、貴男は今私に犯されるの! パパにしてあげるわ!」
「マジで誰か助けてくれええええええええ!」
ユリウスの声が届いたのか、カミラの日頃の行いが悪かったのか。
次の瞬間、バンと勢いよく扉が開かれた――――!
「なんか凄い声……したん……です、けど……。あー、お邪魔、ですか?」
「後ろに下がるな扉を閉めるなアメリ嬢ッ! 頼むからこの女を止めてくれえええええええええええええ!」
結論だけ言おう。
今日は、ユリウスの純潔もカミラの純潔も守られた。
本番してないのでセーフ
あると思います。
ではまた明日、この辺の時間に。




