46話 蛙の子は蛙
昨日は体調不良でお休みして申し訳ない。
今日はいつも通りお届けです!
「えーと、何故わたしが実況席に座ってるんでしょうかゼロス殿下? というか、昨日に引き続き王族が実況とか、何しているんですか!?」
エキシビジョン開始直前、アメリの声がコロシアムに木霊した。
疑問を感じていた観客全員が頷く。
「昨日の実況が見事でな……、他の生徒が担当する筈だったんだが、辞退して勉強させてもらいたい、と」
「それで良いんですか!? 活躍の場ですよ貴族の跡取り様? ――って後ろにいたぁ! …………え、何? 貴女の声に惚れました、付き合ってください? いえ。カミラ様を倒してから言ってください」
ノータイムでバッサリあっさり、男子生徒をフるアメリの姿に観客席から笑いの声が。
「…………いくら何でも、あの女傑に挑めというのはあんまりではないかアメリ嬢? こう、手心というものをだな」
「いえ、声を褒めて下さったのはいいですし、もしかするとわたしの方が、実況に向いているかもしれませんが。……お仕事を放棄される方はちょっと……」
「ああ、うん…………ドンマイ元実況者よ。せめてそこでアメリ嬢の声を聞き惚れているとよいぞ」
「追い出さない殿下お優しい……、ではなくてですね。何故昨日のジッド王に引き続き殿下が?」
「いや何、俺も一度やってみたくてな……、それに我が友が何やら面白い事をしでかすというではないか……せめて声援をだな」
「ヤジを飛ばしたい……の間違いでは?」
「はっはっはー」
「せめて否定して下さいよゼロス殿下!?」
観客達は、友人思いの殿下だとか、フレンドリーな王族ってイイネ、とか思い思いにぬかす。
――それでいいのか王国民よ。
「ゼロス……お前ってヤツは……、いや、悪のりが好きな奴だって知ってたが……」
「ふふっ、愛されてますねユリウス様」
「誰の所為だ、この性悪魔女め!」
「最早逃げられませんよユリウス様……今逃げたら、女として恥ですので、貴男を殺して私も死にます」
「逃げないッ! 逃げないからその珍妙な剣をしまえッ! マジな目をするなッ!」
登場ゲートの前で待機中のカミラとユリウス。
彼らがマイペースに、イチャついて……イチャツいて? いる間にも試合前の実況は進む。
「では、エキシビジョンマッチ開始前に。対戦者の解説をお願いします殿下」
「ああ、任された。――まずは我らが王国一の魔法使い、カミラ・セレンディア。その実力は解説無用、ハンデを背負ってなお無双していた昨日の戦いは、皆にも良く目に焼き付いている筈だ」
「ええ、そのお陰で予選出場者が軒並み辞退しましたからね――この玉無しどもめっ! 昨日の皆の様にせめて一撃と、かかってこんかあああああああい!」
「どうどう、どうどう。おさえろアメリ嬢。彼らは勝敗の可能性と、敗北時のリスクをきちんと計算できる戦士、臆病者ではないさ」
「そうですかぁ?」
「考えてもみろ、このトーナメントに参加するだけでも多少なりとも金がかかる、その上、武具が壊れても修理費は自分持ちだ。――予選を戦い抜いて、その先は?」
「成る程、どう足掻いても武具を粉々にされた上、勝利など小石ほどの可能性も見いだせない、カミラ様という壁があるのですね。…………申し訳ありません、彼らは賢明な戦士でした」
「うむ、そういう事だ。……お前も大変だな、カミラ嬢の側にいて」
「いえいえ、そんな好きでお側にいるのですから」
「だから、アイツへのその好感度の高さは何なのだ……」
疑問を代弁し、ヘイトコントロールを行う二人に、カミラは感心した。
これならば、出場辞退した者に批判が集まりすぎる、という最悪の事態は無くなった。
「アメリ嬢は、本当に得難い人間だぞ。大切にしろよカミラ」
「言われなくとも、アメリは最高の友人であり、最良の部下ですわ」
などと言っている間に次の紹介だ。
「そのカミラ様と組むのは、謎の銀髪の男装――――いえ、失礼しました。ユリシーヌ様と同じ銀髪で同じ聖剣を持つ、極めて謎の人物、ユリウス様ですっ!」
「ああ、極めて謎の人物ユリウス……いったい誰なんだ。昨日カミラ嬢と激戦を繰り広げたユリシーヌ嬢と同じ顔をしているが、彼女の男装に見えるが、いったい誰なんだ謎の男ユリウス!」
つまりは、そういう設定だと暗に……いや公に言う。
無粋なツッコみ不要。
ノリのいい観客らも、誰シーヌなんだ……わからねぇ……等の声が上がる。
いったい何ユリシーヌなんだ……、わからねぇぜ!
「――――ゼロスゥううううううううううう!」
「ぷぷっ、くすくすくす……」
「笑うなカミラッ! その衛兵さんも笑うんじゃないッ!」
そんな微笑ましい遣り取りの中、アメリとゼロスは爆弾をもう一つ落とす。
「んで、聞きましたか殿下。今回のエキシビジョン。その戦いの行方に、ある女性の人生がかかっているようですよ?」
「うむうむ……くくくっ、聞いているぞ。何でも結婚の許可を得る為の戦いとか……くくくっ」
「ええ、性別を越えた愛……いえ違いました。ぷぷっ、ええ、謎のユリウス様は男ですものね……愛を賭けた決闘と言う訳です……ぷぷぷっ、関係ありませんがユリシーヌ様、ガンバってくださいご愁傷様です」
「ああ、戦いに関係ないが、何かに巻き込まれたユリシーヌ嬢よ、頑張るのだぞ……くくくっ」
密やかに広まっていた噂を肯定するアナウンスに、観客のテンションが上がる。
(見かけだけは)麗しい美少女同士の禁断の愛だ! 応援する他ねぇぜ、とく訳である。
――頭沸いてるんじゃないか、大丈夫か王国民!
「ご・愁・傷・様、ユリシーヌ……あらいやだわ。愛しいユリウス様」
「――帰る」
無表情で踵を返したユリウスの腰に、カミラはしがみついて縋る。
「嘘嘘ごめんなさいユリウス様! 後生だからっ! この状況で帰られたら本当に恥だから、私生きていけないから帰らないで下さいいいいいいいいいいいい!」
「ええいッ、解ったからくっつくなッ! 尻を頬ずりするなこの馬鹿女ッ!」
「くくっ、大変なんですねユリシーヌ様、いいえ、ユリウス殿……くくっ」
「頼むから笑ってくれるな衛兵殿よ……」
ユリウスにコロシアムの全てから同情が集まっている中、紹介は対戦相手に進む。
「そしてカミラ様&ユリシー……げふんげふんユリウス様ペアに対するのは、もう皆様もお気づきでしょう…………クラウス様、セシリー様のセレンディア当主夫妻でありますっ! ――ところで殿下。わたし叔父様方の実力知らないのですが、勝負になるんですか?」
「ああ、昔王城に居た者や、夫妻の同世代者以外は、余り知らないかもしれないな。……近年ではカミラ嬢の活躍が幅広く、そして大き過ぎて、影にかくれてしまっているからな……」
「と、いいますと?」
「クラウス伯爵は、剣聖としても有名だった勇者カイス殿下の従者にして愛弟子でな。在籍期間こそ短かったが、親衛隊隊長まで勤めたかなりの実力者だ。……その実力故、兵達の中では、あのグラダス将軍でさえも軍務復帰を望んでいるという強者なのだよ」
「成る程、知りませんでした。そんな実力者だったとは……」
「俺達とは世代が違うからな、知らなくても仕方あるまい」
「ではセシリー様は?」
「うむ。彼女もまた、その世代では有名な魔法使いでな……、クラウスとのラブコメ……じゃなかったラブロマンスは、今だ王城では話の種だ」
「…………もしやカミラ様のは、血ですか?」
「明言は避けよう……、彼女は魔力の大きさこそ普通だが、いざ戦闘となると、あの手この手で相手を蹂躙する様はまさしく魔女だと、評判であった……父も言っていた。カミラ嬢の戦いはセシリー様の生き写しだと……」
カミラがモブたる所以は、ある意味そこであった。
原作のユリウスルートのアフター設定を書いた公式同人では。
娘を殺されたセレンディア夫妻が、復讐心に飲まれた挙げ句、原作セーラとユリウスに敵対する事が匂わされていた。
しかし、匂わされているだけで名前は出てこない。
実力者であろうとも、モブの娘はモブなのである。
閑話休題。
王子の言葉に、アメリは頭を抱える。
鳶が鷹を産んだのかと、失礼ながら思っていたが、鷹の子が鷹だっただけである。
ただしその鷹は、オリハルコンの爪を持った鷹であったが。
「やはり、血じゃないですか!」
「はっはっはっ。この戦い、どうなるかはカミラ嬢がどう動くかだな……」
「ユリウス様は聖剣を持っていますが、そこは?」
「うむ、いくら強い剣を持ち、学院最強であろうと、クラウスの方が実力は上だからな」
「成る程、そこでご両親を足して2でかけ算した様な、カミラ様の動きが重要になってくるのですね?」
「ああ、カミラ嬢がご両親に対して、真っ向から戦えるかが鍵だな」
「でもカミラ様ですものねぇ」
「カミラ嬢だものなぁ……」
実況の声に、噂はかねがねな観客も頷く。
あのカミラ・セレンディアが両親とはいえ、手加減するのかと。
「さて、そろそろ会場の方にも、王城魔法師団の方々が、カミラ様の魔法にも耐えられそうな超強力な結界を張り終えた様ですので、選手入場ですっ!」
「夜を徹しての作業、苦労であった。――では両者、指定の位置に付いてくれ」
カミラとユリウス。
そしてセレンディア夫妻が、舞台の上で相対する。
「それでは――――試合開始っ!」
魔法の花火が今、戦いの開始を告げた――――!
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評価欄は最新話下
知ってますか……最初の予定では、ユリウス編終了が60話だったたんだぜ?
え、あと14話で終わるのか?
いやはやいやはや……、ぶっちゃけ30話くらいに予定していた話がトーナメント編です。
後は……解るな? ユリウス編終了が最短で75話前後となる見込みです。
ユリウスの完デレまで、後30話くらいだ! 頑張れカミラ様!




