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44話 童貞ユリウスは、カミラ様の猛攻に耐える事が出来るのか!?

今日も元気に毎日更新!



 今日は、魔法体育祭の二日目タッグトーナメント戦。

 行事予定的に二日目となっているだけで、実際には自由参加。

 学院の敷地にあるコロシアムを利用するから、という理由と予算の関係で魔法体育祭に組み込まれているのである。


「……ねぇアメリ、今日の衣装は格好いいかしら、可愛いかしら?」


「カミラ様…………何度目ですかその質問。大人しく犠牲者……じゃなかった。ユリシーヌ……ああ、今日はユリウス様でしたっけ。ええ大人しく待ちましょうよ」


「犠牲者って何よ!? ご主人様に向かって酷くないっ!」


「悪戯でも~、押し倒して禁断の領域に落とそうとする人に~、向ける敬意なんてありませ~ん」


「…………ぐぅ」


「おや、カミラ様でもぐうの音が出るんですね?」


「もうっ……白々しい……」


 カミラとアメリは今、寄宿舎の前でユリウスを待っている最中であった。

 なお、カミラが気にしている本日の服装は。

 所々皮で防護されたドレス……、そう戦いには向かないドレス。

 戦いやすい様に編み上げブーツと、皮の手甲を付けているが、どうみても昨日の騎馬戦のほうがしっかりとした装備である。


「拗ねた顔のカミラ様も可愛いですよー。とまぁそれはそれとして、そのテンガロンハット似合ってますけど、何か意味はあるんですか?」


 質問に、カミラは顔をぱあっと輝かせて答える。


「ええ、勿論あるわ――――今日のコーデはガンマン令嬢スタイル……といった所なのよ! 格好いいでしょう!」


「いや、確かに格好いいですけど……」


「ポイントはね、この大きなホルスター付きベルトなのっ!」


 カミラは腰のベルトを叩く、するとホルスター事銃が、否、拳銃と長剣を組み合わせた様な、奇妙な代物、もといロマン武器が頼もしそうに揺れた。

 ――しかも右と左で計二丁、ロマン追い求めすぎである。


「可愛くて綺麗な女の子と、不釣り合いな物騒な武器。それが男性の好みってものでしょう?」


「……聞いたことありませんよ? 何処情報ですかそれ?」


「……あれ? 違った?」


 カミラは首を傾げた。

 前世では定番だと思っていたのだが。

 ――その辺り、前世で恋人がいなかった理由が伺えるものである。


「っていうか、何ですその武器。銃ってやつは危険だから領地でも秘密にされているんじゃ?」


「大丈夫よ、これは鉛弾を飛ばすんじゃなくて、私の魔力を飛ばすものだから。それに接近戦も出来る優れものよ?」


「……普通に、魔法と剣で戦った方が早いのでは?」


「そこはそれ、これはこれ、よ」


 ウインクをばちこーんと投げ、カミラは誤魔化した。

 言えるわけがない、未だ攻撃魔法を制御しきれないなんて。

 そんな事、筆頭魔法使いの沽券に関わる。

 制御をうっかり間違って、観客を巻き込んでコロシアムを吹き飛ばしてしまったら大惨事だ。


「まぁ、クラウス叔父様と戦うには、慣れぬ武器のほうが丁度言いハンデかもしれませんね」


「そうよね……それがあるのよね……」


 カミラは困った顔で溜息を吐き出す。


「クラウス叔父様とセシリー叔母様に勝ったら、ユリウス様との事、認めて貰えるんでしたよね。頑張って下さい! ――だってカミラ様がとっとと結婚してくれなくちゃ、わたし嫁ぎ遅れてしまうじゃないですか」


「アメリ、貴女の心配はそこなのね……」


 一瞬感動しかけたカミラだったが、続く言葉にがっくしと肩を落とす。

 そんなカミラに、アメリは大真面目に答えた。


「カミラ様はその辺、気にしないですけど、わたしの様な立場では、結構気にしないといけないんですからね! お子さまが産まれるなら、こっちも合わせて産むように言われてますし……」


「……その心遣いは嬉しいけど、何かちょっと複雑だわ」


「カミラ様って、何か庶民感覚ありますよね? 市井で一人暮らしとか、無いですのに」


「もって産まれたものね、貴女がフォローしてくれればいいわ。……頼りにしてる」


「ええ、お任せ下さい」


 優しい笑顔に、元気に胸を張って答えるアメリ。

 こいつら、本当に百合の気ないんだろうな……?


 誰に見せるでもなく、主従が仲の良さを披露していると、寄宿舎の扉が開いた。

 ぎゅるっと顔をそちらに向けるカミラの姿に、アメリは苦笑する。


「カミラ様はブレませんねぇ……」


 ユリウスが言っていた“泣かせてしまった”とはいったい何だったのか。


(強い人……、でもそこが心配な所でもあるんですよカミラ様……)


 次からは、気を利かせても覗き見だけはしようと、心に強く誓いながら、アメリはカミラの為に一歩下がった。


「――――おはようカミラ、そしてアメリ嬢。どうやら待たせたみたいだな」


「うむ、すまぬな二人とも、ユリシーヌがユリウスとなるのに、少しヴァネッサがな……」


「もうっ! わたくしだけの所為じゃないですわよっ! ゼロス殿下だって、悪のりしていた癖に!」


 ぷりぷり怒るヴァネッサの様子に、ご機嫌取りを始めるゼロス。

 いつもの光景として放って置く事にしたユリウスは、ぽーっとしているカミラに近づく。


「……どうした? ヴァネッサ様の趣味が入っているとは言え、そう悪い格好ではない――」


「――いい」


「カミラ?」


「いい……良いですわヴァネッサ様! こんな、こんなにユリウス様がカッコよくなるなんて!」


「おいちょっとッ! カミラッ!?」


 きゃーきゃーくねくねと、奇声を上げ胸板やら、腰やらをぺたぺた触るカミラに、ユリウスはドン引きした。


(昨日の涙はどこ行ったんだコイツ!)


 無論、明後日の彼方である。


「ふわああああああ、まるで王子様……私の王子様……このユリウス様が今日一日私のモノに……ヴァネッサ様! このカミラ! 未来永劫貴女についていきますわ!」


 カミラと違い、ユリウスはきちんと装備を整えていた。

 動きやすい軽装の鎧に、白いマント。

 鎧の下は、ゼロスから借りた王族用の軍服だ。

 ――ただ、戦いをするには少々華美ではあったが。


「ええ、ええ! お解りになりますかカミラ様! ほら殿下、カミラ様はとても喜んでいるではないですか! 多少の待ち時間で、男がぐだぐだ言うものではありませんわ」


「……ユリウスの着替えに三時間が、多少?」


 げんなりとするゼロスに、ユリウスが苦笑した。

 大変だったのだ。男とばれずにヴァネッサの見る前で着替えるのは。

 途中で、何か疑うような目で見ていたのは気のせいだと信じたい。

 いや、気のせいである。


「んちゅ~、ヴァネッサ様大好き!」


「あん、カミラ様ったら。唇は駄目ですわよ」


「いや、ほっぺも駄目だぞカミラ嬢! ヴァネッサの全ては俺のモノなんだからなっ! これ以上は絶対にやらんぞっ!」


 喜びのあまりヴァネッサの頬に口づけしたカミラを威嚇しながら、ゼロスはヴァネッサを抱き抱えて遠ざかる。


「もう……、殿下ったら……心配しなくても、わたくしわ殿下の女ですわ」


「ああ、すまないヴァネッサ。例え女同士の他愛のない戯れであっても、俺はお前を独占していたいのだ……」


「殿下……!」


「ヴァネッサ……!」


 ヒシッと抱き合う二人に、ユリウスはまたも苦笑した。

 カミラはその隙に、ユリウスの側に寄る。


「ああなっては暫く戻ってこないな……仲が良いのは結構なんだが……」


「いいではありませんか、まだ時間はありますし。それに、ユリウス様は大事な事をお忘れですわ――」


 何かを期待する様に、上目遣いのカミラに、ユリウスはふむ……と考えた。


(大事な事…………、ああ、そうか)


 一時的にでも男に戻った事で、すっかり失念していた。

 女性とはそういう生き物だと、よく身に染みていたというのに。


「今日の格好は、お前に良く似合っているな……かわ――、いや何でもない」


 女である時の様に、可愛い、と続けようとして止めた。

 今日は何故だか、素直に褒め言葉が出てこない。


「本当ですか!? えへへ……、やっぱりユリウス様も、この様な格好がお好きなの? でしたら普段から……」


「――――ッ!?」


 腕にぎゅっと抱きついたカミラに、ユリウスは驚愕した。


(馬鹿な…………、ただの肉だ、こんなのは!)


 言い聞かせた言葉は、虚しく己の心に消える。

 そう――カミラの衣装は夜会用のドレスを改造したものだ。


 即ち、胸元が大きく空いてある。


 そして、カミラの胸はそこそこ大きい。


 さらに、ユリウスの腕に押しつけてある。


 この方程式の意味する所とは――――。


(何なんだコイツ! わざとか!? 天然なのか!? 今にも、こぼれそうじゃないか…………ッ!)


 残念ながら、計算ではなく天然である。

 前世の影響ですっかりコスプレ気分のカミラは、褒められた事と相まって、頬を赤く染めて幸せ気分で一杯なだけなのだ。


(くそッ、くそッ、くそッ! 不公平だこんなのッ!)


 果たして何が不公平なのか。

 ともあれ、やらねばならぬ、と謎の覚悟を決めたユリウスは、逆襲を開始する。


「カミラ……、今日のお前は、いつもより美しい」


「え、ひゃっ!? ユリウスさま……?」


 抱きついたままのカミラの頬に、空いている手を添えて瞳を見つめる。

 ――断じて、胸元なんて見ていないし、頬の柔らかさに動揺なんてしていない。


「ああ、その様に頬を赤くするお前も可愛いよ……」


「ゆ、ゆりうすさまぁ…………はふぅ…………」


 腰砕けになり、崩れ落ちそうなカミラを支え、その柔らかな肉体の感触に、ほわっ! と内心叫びながらユリウスは続ける。


「そうだな……、普段のからこういう格好も良いかもしれない。……でも、お前の肌は、俺以外に少しでも見せたくないんだ……」


「……はい、ゆりうすさまぁん」


 参考にしたのはゼロスが以前、ヴァネッサに向けて言っていた言葉。

 だが、本当に借り物かどうかは、最早解らぬままに。

 本能が訴えるまま、ユリウスはカミラを褒め続けた。


「えー…………、何この、甘ったるい空間……」


 アメリは、一人身を寂しく思いながら眺める。

 なにやらユリウスが盛大な自爆をしている気がするが、カミラが幸せそうならそれで、と放置の方向だ。


 結局この光景は、トーナメントに遅刻しそうになるまで続いたのであった。



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これ合言葉にしましょう!


今から暫くタッグトーナメント編です。

変わりつつあるカミラ様とユリウスの関係もお楽しみください!

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