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43話 屋上からの百合と愁嘆場のコンボ、どうしてこうなった…?

凄く遅れましたが、まだ日付変わってないのでセーフ。

送れついでに、いつもの約三倍の分量でお届けです!



 閉会式を保健室で過ごし、夕方に目覚めたカミラは屋上に来ていた。

 同じく寝ていたであろうユリシーヌは、既に退出したらしく、保健室にはカミラ一人。


「ユリシーヌ様を探してもよかったけれど……ええ、こうしているのも悪くはないわ……」


 夕焼けの中、風に長い髪を揺らし眼下をぼんやりと眺める。


「……きっと、これが青春というものなのね」


 前世はわりと灰色の青春だった。

 ――だってオタクだもの。


 今回はやりたい放題しているが、それもこないだの誕生日からだ。

 それまでは、下準備に過ぎない。


「あらあら、片づけご苦労様だこと……」


 カミラはユリシーヌを探した。

 前世でも今背でもユリシーヌ一筋、どんなに豆粒でも某赤白ストライプおじさんを探せ的なあれでも、ユリシーヌならコンマ一秒で見分ける自信がある。

 しかし――。


「残念……、校舎の中かしらね……」


 見つからなかった事を残念に思う。

 カミラはずくずくと疼く疵痕をそっと撫で、溜息を一つ。

 このまま今日は、夜まで黄昏ているのも一興かもしれない。

 アンニュイな気分で、そう考えていると――しかし、そうは問屋が下ろさない。

 もとい、アメリが許さなかった。


「ああ~~! カミラ様、こんな所にいたあっ!」


「……アメリ。今、私はメランコリックに黄昏る夕日の中の美少女を演出しているのだから、邪魔しないで頂戴」


「そうそう、夕日とカミラ様はとてもお綺麗……じゃなくてっ! 傷がまだ塞がっていないんだから、安静にして下さいよぉ~~!」


 うるうると瞳を揺らし、カミラに縋りつくアメリ。


「はいはい、心配させてごめんなさいね」


「そうじゃないですよっ! もっと御自分の体を御自愛してくださいって話ですぅ~~! うう~~、ぐりぐり~~」


 カミラに抱きつき、その胸に顔を埋めるアメリ。

 だがカミラは数秒もしない内に違和感を感じた。

 ――もしかして、怒っているのだろうか?


「ちょっとアメリっ! くすぐったいったらっ! やんっ、もう…………って、アメリ? 何か力強くない?」


「いいえっ! そんな事っ! ありっ! まっ! せんよっ! ていっ!」


「あ痛っ! ちょっ! ちょっとっ! 痛いってっ! 何傷口バシバシ叩いてるのよっ!」


「どうせカミラ様は言って解っても繰り返すんですからっ! 体に直接っ! 教え込むんですぅ~~」


 うるうるから、えぐえぐに変わってきたアメリに、カミラは仕方がないと、されるがままにした。

 アメリの指摘は妥当であるし、繰り返す自信もある。

 ならば、可愛い部下の気持ちを、受け止めるくらいはしよう。


(でもまぁ……、それだけじゃ面白くないわね)


 カミラとしては、そっちの気は余りないが、他人の素肌に慣れるという点では、予行練習になるだろう。


「それに、女同士だからノーカン、ノーカンよね」


「……カミラ様、何か言いました? ……ちょっと! 離してくださいよカミラ様っ! 顔近っ! 何するつもりですか!? いやホントマジでっ!?」


 不穏な空気を感じ取ったアメリは、直ちに離脱しようとするが、時は既に遅し。

 哀れ、カミラに肩をがっちり捕まれている。


「私としてもね、こう、同性同士っていうのも余り理解出来ないけど。誰か男をあてがうのも違う気がするし……、ならユリシーヌ様の予行練習もかねて、ね?」


「可愛く首傾げても駄目ですよカミラ様ああああああああああああああああ! 無理無理無理っ! わたしだってそっちの気はありませんよっ! って言ってる側からベンチに押し倒さないでくださいいいいいいい!」


 カミラは屋上のベンチの上で、アメリの膝に馬乗りになる。


「あら、そうなの? でも折角だし、女同士の快楽でも試してみれば、フられたときの慰めになると思わない?」


「ひゃうんっ! お尻っ! どこでそんなイヤラシい手つき学んだんですかぁっ! っていうか、わたし好きな人が出来ても、フられるの前提なんですかっ!?」


 必死に抵抗しながら、がびーんとショックを受けるアメリ。

 カミラはあれ? と誤解を解く。


「安心しなさいアメリ……フられた時、というのは。私がユリシーヌ様に失恋した時だから」


「それもっと駄目なヤツじゃないですかあああああああああああっ! 早く来て下さいユリシーヌ様ああああああああああ! わたしの貞操がカミラ様にいいいいいいいいいいいい!」


「大丈夫よ、破りませんわ」


「ちっとも大丈夫じゃないですううううううううう!」


 念のために言うと、カミラは本気ではない。

 アメリの反応が愉しいので、襲うふりをしているだけなのだ。

 しかし、抵抗に必死でそれに気づけないアメリは、一心に神に祈った。

 

 ――そして、救いの神。

 もとい、救いの女装美少年は現れた。


「――やっと見つけましたカミラ様ッ! 今まで何処に…………何処に…………。えっと、お邪魔、でしたか?」


「違います邪魔じゃないです助けて下さいユリシーヌ様ぁっ!」 


 勢いよく屋上へやってきたユリシーヌが見たモノは。

 今まさに、一線を無理矢理越えようとしている、禁断の歪な主従愛。 

 助けてと聞いたものの、顔見知りがそういう関係である衝撃に、頭が追いつかない。

 ――そしてそれは、カミラも同じ。


「あ、あら? ええっと……、その……こ、これは……誤解、なのよ?」


 取り繕う様に、殊更ニッコリと。

 が、駄目。

 アメリの触り心地の良い尻を、撫で回しており。

 当然、そこにユリシーヌの鋭い視線が刺さる。


「ああ、いえ。本当にお邪魔したようで……」


「待ってっ! 待ってくださいましユリシーヌ様!」


「カミラ様! 手、手ぇ! 止めて下さい! ああもうっ! わたしは席を外しますからっ! ――――ほらっ! ごゆっくりっ!」


 アメリはフリーズしかけたカミラを残し、逃走。

 残された二人は、しばし無言で見つめ合う。

 やがて、カラスの鳴き声で我に返ったカミラは、慌ててベンチから立ち上がり、ごほんと咳払い。

 簡単な身繕いを済ませた後、扇をバッと広げ、キリッとユリシーヌに近づく。


「――――それで、何のようですのユリシーヌ様?」


「あれを流すのかお前はッ!」


「ユリシーヌ様、素が出てますわ」


「あれを流すのですか!? カミラ様! ――ではないですわ。ええ解ってますとも、どうせいつものじゃれ合いの類でしょう? アメリ様がお可愛いのは解りますが、からかうのも程々にするんですよ」


「ふふっ、善処しますわ」


「…………はぁ、貴女らしいですわね」


 胡散臭いカミラの笑顔に、用事を思い出したのか、ユリシーヌは本題を切り出した。


「所で――、知っていたんですの?」


「何を、と問い返すのは無粋ですわね……ええ、答えましょう。“あれ”は関知の外ですわ。勿論、何れはと私も考えていましたが……」 


「となると、陛下のご判断ですか……」


 ユリシーヌは黙り込んだ。

 今まで王国の影となるべく育てられた身だ。


「戸惑っていらっしゃるの? ユリシーヌ様」


「……そうですね。あれが貴女の差し向けた事なら、納得がいきましたが。しかし、真逆、陛下が……」


 俯くユリシーヌ。

 長く綺麗な銀髪に隠され、表情は解らないが。


(戸惑いでは無いわ。たぶん…………)


 カミラは慈悲に満ちあふれた声で、そっと寄り添った。


「何故、陛下は貴女のことを言い出したと思いますか?」


「…………私の事が、いらなくなった。そう考える程子供ではありません。――きっと、聖剣を持つに値すると認めて下さったのだと思います……」


「でも、納得がいかない。と?」


「納得……とは違うと思います。ただ……」


「ただ?」


 促されユリシーヌは、ぽつりぽつりと心を吐露し始める。


「……不安とも違うんです。きっと。――貴女があの日、私の秘密を言い出したときに、何かが変わる予感はしていたのです……心の何処かでは」


「陛下のなさりようは、甘い。私を本当に“影”として育てる気があったのならば、私は今この場に居らず、この手も血に塗れていたでしょう……」


「解っていた、解っていたんです……でも、それがどうしてか解らない。どうしていいか、私には、解らない…………」


 ユリシーヌはふらふらと歩くと、先ほどのベンチに力なく座り込んだ。

 カミラは再びユリシーヌに近づくと、その顔を胸に、そっと抱き抱える。


「“ユリウス”様……、貴男はきっと、知らないだけなのですわ……」


「……知らない? 俺が、何を……?」


 柔らかな体と、どこか安心する匂いに。

 ユリウスは無意識に甘えを求め、瞳を閉じて身を委ねた。


「――『愛』」


「…………あ、い?」


「ええ、貴男を育てたエインズワースの方々に、家族としての、親としての愛が無かったとは言いません。……それは貴男が一番ご存じでしょうから」


「では、何の愛だと言うんだ……?」


 カミラはユリウスを抱く腕に、少し力を込めた。


「……“血”そして、敬愛する叔父を失い、行き場を喪った、哀れな“愛”」


「でも勘違いしないで、それは決して後ろ向きなものではない。ただ、愛する者の忘れ形見を守ろうとした、不器用な愛」


「エインズワース家の娘ユリシーヌではなく。カイス殿下の息子ユリウスとして、貴男は血の繋がった者達に愛されているの……」


「だからこそ、俺を影に置いておきたくなかった……、日の当たる場所に……か。勝手な話だ」


「ええ、勝手なのです。陛下も私も、そして貴男も」


「俺も? ……いや、そうだな。俺も、勝手に思いこんでいた。王国の影でいる事を、ユリウスとして生きる事を、心の底では勝手に諦めていたんだな」


 カミラは何も言わずに、ただ微笑んだ。


「――――ッ!?」


「どうしました? ユリウス様。お顔が赤いですわ? 何処かまだ御加減でも……」


「ち、違うッ! ただ――」


 ユリウスは言い淀んだ。

 言えるわけがない。


 ――その笑顔に、見とれてしまったなんて。


 その気持ちを悟れまいと、ユリウスはバッとカミラの腕から逃れると、目を泳がせ逡巡した後、ぼすんと彼女の膝へ頭を倒す。


「ユ、ユリウス様!?」


「き、今日は疲れたッ! お前は勝者だろッ! 勝者の余裕として、俺をお前の膝で休ませろッ!」


(ななななななッ!? 何言っているんだ俺は――――――ッ!?)


 しかめた顔でユリウスがパニクる中、突然そんな事をされたカミラも冷静ではいられない。


「え、ええっ! それぐらい、それぐらいかまわなくてよっ! ふふふふふふっ!」


(え、何? 何これは!? ユリウス様がついにデレた!? デレてくれたの!? じゃあじゃあ、このままイッちゃう? 夜までゴーなの私!? やだやだ、今汗くさいの、今日の下着運動用でちょっとダサいのよ!?)


 顔はあくまで、先ほどと同じく慈母の笑みで。

 中身は妄想激しい乙女に。

 だが悲しいかな、頭の冷静な部分が告げる。

 ――はて、そういえば、ユリウスは何の為に来たのだろうか?


「ええ、ええ……(このままで居たいから、本当は、本当に聞きたくないけれど)ユリウス様、先ほどは私を探していらした様子でしたけど、何かご用があったのでは?」


「あ? ああ、そうだった。だがその内一つはもう済んだ」


「済んだのですか?」


「……よくも外堀から埋めやがって、と一言文句でも言うつもりだったんだ」


「あら、あら。うふふっ、それは残念でしたね」


 内心、面倒な事でなくて良かったと安堵しながら、カミラはユリウスの髪を撫でる。

 ――しかしこの男、カミラより髪がさらさらである。


「ああ、そうでない事は解ったし、お前のお陰で愛されている事を知れた。その辺も含めて、後で陛下に聞きに行くさ……」


「ええ、そうなさるのがよろしいわ。けれど、残念でしたわ。私ならば、陛下よりもっとドラマティックにお披露目したものを…………」


「…………ああ、陛下に俺は、本当に愛されているんだな」


「ちょっと! 何処を聞いたらその言葉が出てくるんですユリウス様っ!」


「今のお前の言葉を聞いたら、誰だってそう思うぞ……」


 ぷくっと頬を膨らませるカミラに、ユリウスは衝動的に、人差し指でその頬をツツく。


(こういうコロコロ表情が変わる所、見てて飽きないな…………、って! 俺は今何を考えた何をしたあああああああ!?)


 ユリウスは目を丸くしたあと、動揺を隠すように顔をお腹の側に向ける。

 だがそれは悪手、彼女の甘い匂いと柔らかな躰の感触が増えただけであった。


 カミラと言えば、予想外過ぎるユリウスの反応に同様し、彼の耳が真っ赤になっているを痛恨の見逃し。

 自分も耳まで顔を真っ赤にしながら、目を泳がせて次の話題へ。


「もうっ! ……それで“二つ”と言いましたけど、もう一つは何ですの?」


「……いいにお――ゴホンッ! あ、いや……、もう一つ――って、解らないのかお前?」


「何の事です?」


 コテン、と首を傾げる姿すら胸が高まる状況に、何なんだこの気持ち、と叫びたいのを堪え、ユリウスは鉄の意志で回答した。


「……なんだ、忘れたのか? 俺達は、勝負をしていただろう」


「勝負? …………ああ! 勝負でしたわね!」


 色ボケした頭では、若干時間がかかったが、カミラはしかと思い出した。


「……お前、絶対忘れてただろう」


「さ、さて? 何のことですやら……」


「いや本当、何の為にお前は勝利を重ねてきたんだよ」


 溜息混じりの言葉に、カミラはぐぅと唸った。

 確かに、途中から、否、最初から勝利こそが目的だった。


「……敗者は、勝者の望む言葉で愛を囁き、口づけをする。確かそうでしたわね」


「ああ、そして俺はお前に負けた。悔しいけど負けた敗北者だ」


「あら、拗ねているんですの?」


「こんな格好だが、一応男だからな、意地ってものが多少なりともある……。さ、言え今日だけは何でも望む言葉を言ってやる」


(ただし、口づけは額か頬だ。唇にはしてやるものか)


 だが、カミラから放たれた言葉は、ユリウスの想定を越えたものだった。



「ええ、――――いりませんわ」



「成る程、いらないと…………? いらない? え!? はぁッ!? どうしたんだお前! さては偽物だなッ!?」


 ガバっと起き上がり、ズザササッと距離を取ったユリウスに、カミラは不満げな視線を送る。


「……幾ら何でも、その反応は傷つきますわユリウス様」


「あ、いや……すまない。でも何故?」


 カミラは、はぁ、と溜息一つ。

 ついで再び扇子を広げて、ニッコリと笑う。


「今日は楽しかった…………という理由は如何ですか?」


「今考えただろう、それ」


「ふふっ。信じてしまったら、どうしようかと思いましたわ」


「抜かせ……、で、本当の理由は?」


 カミラは直ぐには答えず、手すりの所まで移動する。



「――偽物なんて、必要ありませんわ」



「偽物……」



「ええ、そうです。……とても、とても魅力的な報酬でした。私の望むがままの言葉を囁いて欲しい、そして唇じゃなくても、貴男のキスが頂けるなら……」



「お見通しだったか……、でも、それならば……」



「でも駄目なんです。私が欲しいのは“私の望む言葉”じゃない。貴男が“心から発する言葉”です」



 ユリウスは、言葉が出なかった。



「――最初から解っている嘘の愛の言葉など、後で泣いてしまうでしょうから」



「…………で、は。では何故、……お前は、勝利を欲したんだ?」



 絞り出した様な苦しげな声色に、カミラは振り返り優しく微笑んだ。



「貴男に示したかった。本気の貴男に勝って、証明したかった。私が、私なら貴男を守れると」



「この先どんな敵が現れても、どの様な苦難が待ち受けていても、私だけが、私こそが、貴男を。――その心も身体も、全て守りきれると」



「ユリウス……私は誓いますわ。例えどんな事があろうとも、貴男を守ると……」



 その姿にユリウスは見惚れ、そして戸惑いを覚えた。

 夕日に照らされ、カミラの輪郭が燃えるような赤に染まる。

 真っ直ぐに向けられた金色の瞳は、静謐に輝き。

 その口元は、まるで我が子を見る慈母のそれ。


 安心と、信頼と、愛情と、そして力強さ。

 何より情念の深さが伺えた。


(なのに……、なのにどうして俺は……)



 このカミラ・セレンディアという女が、今にも壊れそうな程、儚げに見えているのだろう。



「俺、は……」


 何を言えばいい、何と言えばいい。

 この言葉を受け止めればいいのか、拒否すればいいのか。

 ユリウスはそれすらも解らなかった。


(嗚呼、嗚呼。やはりユリウス様はお優しい、戸惑うなら、解らないなら、拒否されたなら、私は絶望出来るのに――――)


 沈黙するユリウスに、カミラは告げる。

 きっとそれは純真な“それ”ではないけれど。

 たぶん、呪いでしかないのかもしれないけれど。


 もっと、伝わればいい。

 もっと、私だけをみればいい。

 もっと、もっと――――。



「――――愛していますユリウス。遙か喪われた現在から、そして今この瞬間も」



「――だから、だからッ! そんな顔で泣くなカミラ」


「私は……」


 何時の間に泣いていたのだろう。

 震える指でそっと頬に触れると、一筋の滴。


「いつもお前はそうだッ! 俺が好きだと言って泣くッ! 嬉し涙で、絶望の顔でッ!」


「ユリウス様……」


「頼むから……そんな顔で泣かないでくれ……、何故だか、俺の心が痛むんだ……」


 そう言って、ユリウスはこの場から逃げ出した。

 これ以上ここにいると、自分でも何を言い、何をするか解らなかったからだ。


「…………好きになって、愛してしまってごめんなさいユリウス様」


 カミラの言葉は、屋上に吹く風に溶けて消えた。



 屋上へ続く階段を駆け下りたユリウスは、踊り場で立ちすくんでいた。


(今まで、何処か他人事だった。現実味が無かった。…………アイツは、本当に俺の事が好きなんだな)


「――でも、俺にどうしろって言うんだ。……俺はどうしたいんだ」


 言葉に出せども、聞くものは誰も居らず。

 ユリウスは鬘が乱れるのにも構わず、頭をかきむしる。

 すると――――。


「――あれ? ユリシーヌ様何やってるんです? カミラ様とのお話終わりました? あ、もしかしてカミラ様、もう帰っちゃいましたか?」


「あ、ああ。アメリ様ですね。お見苦しい所をお見せしました。――カミラ様なら、まだ屋上ですよ」


「本当ですか! ありがとうございます、ではわたしはこれで――」


 階段を走りだそうとしたアメリを、ユリシーヌは引き留めた。


「――待てッ! ……いえ、お待ちになって」


「えへへ、大丈夫ですよ男口調でも、カミラ様から聞いてますから」


「あの女は……いえ、そうではなく。迎えに行くのは少し待って頂けないかしら」


「……カミラ様と何かありました?」


「ええ、少し……」


 ユリシーヌは自嘲気味に言った。


「たぶん私は、カミラ様を傷つけてしまった。……泣かせてしまいました……だから……」


「……わかりましたユリシーヌ様。わたしの前では涙なんて見せないカミラ様ですもの。きっと今行けば困らせてしまいますね」


 寂しげに笑うアメリに、ユリシーヌは問う。


「……私を責めないのですか?」


「カミラ様を泣かせた事は、ちょっと信じがたいですし本当なら気に入りません、不愉快です。――でも」


 羨望と嫉妬そして希望の混じった瞳で、アメリはユリシーヌを見た。


「きっとカミラ様は、ご両親の前でも涙を見せたことが無いんです。ユリシーヌ様はそれだけ特別で、わたしには立ち入れない領域ですから、だから――お願いします」


「直ぐ解るようなくだらない嘘をついたり、悪戯ばっかりするカミラ様ですが、貴男にだけは正面から向き合おうと、素直でいたいと思っている筈です」


「だから、貴男の心にその時がきたら、その時はカミラ様に答えて上げて下さい。ユリシーヌ様が拒否なさる理由は、今日も一つ剥がれました。きっとこれからも剥がれていくでしょうから」


 お願いしますと、深々と頭を下げるアメリに、ユリシーヌは、ユリウスは答えた。


「何時になるか解りません。けれど、その時がきたらきっと、――心からの、誠実な答えを」


「はいっ! ――おっと、何時までもこうして喋っていたら、カミラ様が来てしまうかもしれません。さ、さ、もう行ってください」


 背を押すアメリに苦笑しながら、ユリシーヌは歩き出す。


「ええ、感謝するわアメリ様。――それではまた明日」


「はい、また明日!」


 先ほどの事を考えると気まずいが、明日はタッグトーナメント戦だ。


(それにアイツは、何事もなかった様な顔で、挨拶してくるに違いない)


 そうであればいい、そうしなければならない。

 いつも通り、いつもの顔でこちらも答えるのだと。

 ユリシーヌは心の痛みを無視しながら、寄宿舎への帰途についた。



皆様、薄々気づいていると思いますが。

その日の投稿分を、その日に書く自転車操業に突入しております。

なので、夕方七時に間に合わない日も出てきますが、一日一話お届けを黄金の精神で続けていくので宜しくです!


なおブクマは画面左上

感想レビューは画面上

評価は最新話の下ですよ皆さま!


明日はタッグトーナメント編突入! お楽しみに!

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