42話 勝利の栄光の行方……そんなもん決まってるだろ!
うふふふふ、知っていますか……
貴方の皆様のカミラ様が、今日も転移転生の日刊恋愛にランクインですよ。
幸せだなぁ、ボカァ……
「“これ”を使わなければいい、私はそう思っていました……」
カミラと相対するユリシーヌは、受け継ぎし『聖剣ランブッシュ』を虚空より取り出す。
その光景に、カミラは思わず槍を取り落としかけ、素に帰った。
「――え? 本気ですの?」
「ええ、勿論。条件付きで帯剣の許しを陛下から得ています」
すらりと音もなく抜剣。
実用的であるのに豪奢さも備える宝剣を、ユリシーヌは構えた。
「ユリシーヌ様が剣を新たに取り出したああああああああああ! ……あれ? 武器の持ち込みって禁止されてませんでしたっけ? それに……」
「ああ……どこかで、見たような……」
首を傾げる二人と観客に、ジッド王が答える。
「勝負が一方的になってはつまらないと思ってな、儂が条件付きで許可したのだ…………あの聖剣を」
「成る程、どのような条件だったんですか? だいたい想像はつきますが」
「うむ。ユリシーヌ嬢が最後まで残り、カミラ嬢と一対一となった時のみ、使用を許可している」
「……いえ、いえ、いえいえ!? いえいえいえいえ!? 聞くのはそこじゃないですよアメリ嬢!?」
「あ、エミール様が長く喋るの初めて聞きました」
「うむ、儂も初めてじゃ」
「違いますよお二人とも!?」
エミールが観客の気持ちを代弁する様に、勢いよく立ち上がる。
普段、ローテンションな彼にしては珍しい行為。
しかし無理もあるまい。
「聖剣って!? あの聖剣ランブッシュですか!? あれは行方不明になっていた筈じゃ……!? そもそもなんでユリシーヌ様が使えて!? あれは限られた者にしか使えない筈では!?」
「あああああああっ! そうですよジッド王陛下! あれ聖剣ランブッシュじゃないですか!?」
驚きざわめく群衆と二人に向かって、ジッド王は高らかに言い放った。
「今まで隠しておったのだがな……、そこにいるユリシーヌこそが、――――前勇者の血族にして。聖剣ランブッシュを受け継ぎし者なのじゃ!」
「陛下まで……、ここでそれをバラすのですの……?」
カミラは急展開に、頭をくらくらさせた。
こんなの聞いていない。
(いえ、今はそうでは無く。私が魔王だと知っている陛下が、その天敵である“聖剣”の使用を許可したという事実)
ジッド王は、カミラと敵対するつもりなのか。
浮かんだ考えを、カミラは即座に否定した。
(幾らユリシーヌ様とて、禄に実践経験の無い若輩者。魔王である私を殺させようとする筈がない)
ならば、ならばこれは――――。
(――――そう、試練なのね)
ユリウスを思う王からの試練。
魔王であるその身で、魔王の力を使わずにユリウスを越える力を、守れる力を示す試練。
「手加減はしない、出来ませんよカミラ様。降伏するなら今の内ですわ」
「貴女が聖剣を使ってくるのは予想外だったけれど――――、打ち破ってみせましょう!」
「……貴女なら、そう言うと思いました」
ユリシーヌは魔動馬に魔力を注ぎ込み、突撃の構えを見せる。
対しカミラは槍を構え、突撃に備えた。
カミラ達が気を伺う一方、実況ではユリシーヌの拝啓について、ジッド王からの説明が終わろうとしていた。
無論、性別の事は隠してある。
「――成る程、ユリシーヌ様はそのお血筋と聖剣故に、今まで存在を隠されていたと」
「……合点が、行きました。……それで、ゼロス殿下と、最初から……親しかったの、ですね……」
「すまぬな。どこから魔族に漏れるかわからぬ以上、迂闊に広めることは出来なかったのじゃ……」
「では、何故今のタイミングで話したのですか陛下?」
「一つは、ユリシーヌが成長し力を付けた事。もう一つは――――」
ジッド王はカミラを見る。
「カミラ様……ですか?」
「ああ、若くして国一番の魔法の使い手にして、希代の発明家、経営家。武術の腕も優れる彼女に、ユリシーヌは勝てるのか。それともカミラ嬢が勝つのか……見てみたくなったのじゃ……」
「どちらが勝っても、負けても。親友同士であるお二人は共に成長出来る……そういう事ですね」
「うむ」
「ならば……我々は、見届けましょう……次の王を支える、忠臣達の戦い、を……」
恐らくは、ジッド王の話術の巧みさだろう。
会場の空気を、良い方向へ持って行った会話に、カミラは苦笑する。
「嗚呼、嗚呼。案外とやっかいなモノね……」
カミラは今、攻め倦ねていた。
それはユリシーヌも同じであるのが、せめてもの慰めだ。
(“聖剣”……、それは“魔王”に人が対抗する為に生み出された“世界”の絡繰り。――ええ、認めましょう。この騎馬戦において、ユリウス様は手強い)
聖剣に対峙した魔王の“理”として、カミラは今、大幅に弱体化していた。
具体的に言うと、魔王の魔力が大幅に制限されている状態だ。
(今の膠着は、ユリウス様が戦士として未熟であるから。――そして、私に“決め手”がないからだわ)
だが、だが。
カミラとて、聖剣を持たぬ身で魔王を屠った実力者だ。
負ける訳にはいかない――――!
「予告しますわ。…………この一回の突撃で、見事、貴女を破って見せましょう!」
カミラは槍を高々と掲げ、ユリシーヌに宣言する。
会場が割れる程の声援を背にしながら、魔動馬へ全ての魔力を注ぎ込む。
「いいでしょう……ッ! やれるものなら、やってみなさい――――ッ!」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」
「やああああああああああああああああああああああッ!」
カミラは爆発しそうな勢いで、魔動馬を直進。
ユリシーヌも一歩も譲らず直進。
「危なああああああああい! このままでは、ぶつかってしまうぞおおおおおおお!」
「これは……」
「若いのう……、そのままぶつかる気じゃな」
その実況の直後、ドガンと大きな音がして二者の魔動馬が激突。
「――やはり、そう来ましたか」
「考える事は同じ、でも貴女の槍はもう使えない――――ッ!」
観客達が見たものは、激突による惨事ではなく。
互いに武器を突き立てあった、壊れた魔動馬。
そして――――!
「私の勝ちですカミラ様――――ッ!」
聖剣を引き抜き、振りかぶるユリシーヌ。
カミラの槍は魔動馬を壊した衝撃で折れ、使い物にならない。
逃げる場所など何処にも無く、代わりの武器もない。
――――最早、敗北を座して待つのみ。
誰もが、そしてユリシーヌさえもそう考えた瞬間――。
「この瞬間を――――待っていたわ」
刹那の出来事だった。
頭を反らし、紙一重で鉢巻への一撃を避けたカミラは、聖剣の一撃を金属の重石が着いたままの右腕で受け止める。
そして、刃が腕や肩に食い込むのを気にせず――――。
「――――かはッ! ……肉を斬らせて、骨を断つ…………、見事、でした…………ッ!」
ユリシーヌは、腹部へ強烈な一撃を受け昏倒した。
カミラのボディブローが、綺麗に決まったのだ。
「……傷つけて、ごめんなさいユリウス」
愛する者を抱き留め、聞こえてないであろうに。
否、聞こえていないからこそ、その耳に謝罪の言葉を残す。
そして、聖剣による痛みを耐えかねて、カミラも昏倒した。
意識を失っても、ユリシーヌを離さなかったのは、愛のなせる技、とアメリは後日語ったが。
ともあれ――――。
「ついに決着ううううううううううううううう! 勝者はカミラ様っ! 紙一重の戦いでしたっ! 皆さんお二人に惜しみない拍手を――――!」
ここに、魔法体育祭学生の部は全て終了した。
勝者は、騎馬戦を制したカミラ――引いては紅組。
なお対軍騎馬戦は、次の年から目玉競技として伝統となるのだった。
次回、魔法体育祭エピローグ
朝ってからトーナメント編開始です
また明日、夕方七時に!
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