40話 楽しんでこその学園行事
遅くなりましたが、毎日更新ですよ!
開始早々に紅組・白組連合軍の三分の一を削り取ったカミラだったが。
その後の戦況は良く言えば拮抗。
悪く言えば停滞していた。
「……まだ、このまま。……です、かね……?」
「ああ、恐らくはな」
「あれ? どういう事です? カミラ様は順調に連合軍を倒している様に見えますが、違うのですか?」
アメリの疑問に、ジッド王が答える。
戦場ではカミラによってまた一人、また一人と、討ち取られている所だ。
「先の百人斬りで、流れが変わったのは判るな?」
「はい、連合軍の動きが鈍り、カミラ様が各個撃破を始めた様に見えますが」
「そう、それよ」
「それとは? お教え下さい陛下」
代わりに、エミールが答えた。
「鈍った、んじゃない……、次の為に押さえている。……そして、各個撃破の……状況に、持ち込んでる」
「加えると、カミラ嬢がそれに付き合っているという所だな。――よく見るといい。カミラ嬢の周りに幾重にも魔法が掛かっているのが判るだろう?」
「ええ、カミラ様は気にしていない様ですが」
「あれ……は、不可視の刃を。……可視化する……魔法」
「刃の奇跡さえ見えれば、防ぐのは容易い。あの百人切りの本質は奇襲性にある。いくらカミラ嬢とて、種が割れた手品は使わない、ということだよアメリ嬢」
「なるほど、判りやすい解説ありがとうございますジッド王陛下」
アメリと観客が現状を把握している一方、カミラは連合軍の脅威度を上方修正していた。
「ふふっ、褒めてあげますわっ! ええ、そうね。五十人の防御が破られたなら、倍にすればいい」
言いつつ槍を一振り、また一人敵を倒す。
「四十人の魔法が打ち破られたなら、倍にすればいい」
また一人、槍に貫かれ脱落していく。
「見えぬ刃は見えるようにすればいい」
振り向きざまに、すれ違いざまに。
時に槍を投げ、槍を奪い。
その動作一つ一つで、敵を倒していくカミラ。
「十人が破られたら倍にすればいい。――言うのは簡単だけど、ええ。よく実行できたものね」
包囲網の中で、倍の堅さと早さになった決死隊五十人は徐々に数を減らし、もう数人も残っていない。
「けれど、惜しかったわね。手が足りなくて魔法専門の隊も使わせながら前線に出すから――ほら」
汗だくで息も切れ切れの数人を、カミラは一度に脱落させる。
「こんなにも簡単に溶けてしまう。――さ、貴方が最後の一人。この後は何を見せてくれるの?」
汗一つかかず、余裕の笑みすら浮かべるカミラに。
元紅組の男子生徒が、槍の杖に組み付き叫んだ。
「流石カミラ様! この後もお見通しでしたか! ならばこの後はどうしますかな! ――ぐあぁああああっ!」
男子生徒はそのまま剣を抜きカミラを狙おうとするが、やはり無駄。
カミラの方が遙かに素早く抜剣、彼が剣に手を伸ばす前に鉢巻を切り落とす。
脱落判定が宣言される前に、男子生徒は最後の攻撃とばかりに声を張り上げる。
「――皆! 今だああああああああああああああ!」
次の瞬間、脱落判定が下されると同時に彼は離れ。
そのタイミングがギリギリ故に、カミラは連合軍の術中にはまる。
「――これはっ!?」
騎馬戦始まって初めて、カミラの顔に焦りが浮かんだ。
「だだだだだ、大ピイイイイイイイイイインチっ! カミラ様、拘束され身動きが取れないいいいいいいいいいいっ!」
「成る程、これを狙って時間を稼いでいたのか」
「土属性、の魔法で……物理的拘束……」
「先ほどの応用で、魔法結界の範囲を狭めて牢獄に。考えたものだな」
「ちょっとおおおおおおおおおお! たった一人に対してガチ過ぎじゃありませんかあああああああ!」
「……贔屓、よくない……アメリ嬢」
「おお、攻撃魔法まで始まったな。圧倒的実力者に対しての答えが、この一つという訳だな」
動けないカミラに、攻撃魔法が雨より激しく降り注ぐ。
「動けなくして……、遠くから消耗、させる……」
「鉢巻が取れれば儲けもの、そうでなくても大幅な疲弊が狙える。――――だが、狙い道理にいくものかな?」
「それは……?」
楽しげに笑うジッド王に、エミールが不安を覚えた瞬間、――それは始まった。
「――――ふふふふふふふふっ! あはははははははははっ!」
「嘘だろっ! 何重に結界魔法掛かってると思ってるんだっ!」
「そもそも腕も足も金属で固めて地面と一体化させてるんだぞっ! なのに、なのに何で――――っ!」
「何で動いているんだよおおおおおおおおおおおおおおお!?」
それは、連合軍から見れば悪夢のような光景だった。
遠方から放たれる攻撃魔法は、何一つ効果は上げられず。
塗り固められた金属は、ミシミシと罅が入り数分も持たずに分離。
重石として機能している分、マシである。
結界魔法で移動が制限されているが――、それもたった今、無駄になった。
「ああああああああああああああああああっ!」
魔王の魔力を以て、魔法を使わずに、魔力による身体機能の強化。
たったそれだけで、カミラは素手を以て結界を引き裂く。
「そうよっ! それでこそ我が学院の生徒達っ! あはははははっ! もっと! もっと私を楽しませなさい――――っ!」
結界を無茶苦茶に突破された反動で、術者の生徒が一斉に脱落する。
気絶も敗北条件なのだ。
「これも突破するか……いざ対面すると、凄まじいものだなカミラ嬢は。なぁユリシーヌ」
「カミラ様の魔法を禁止にして、漸く互角かと思いましたが。想定以上に一筋縄では行きませんね」
この阿鼻叫喚を目の前に、冷や汗こそかいていたものの、ゼロス王子は冷静だった。
ユリシーヌも同様だったが、二人の目には絶望の光は一切無い。
むしろ――――。
「こういう行事は面倒だと思っていたが、面白いものだな!」
「ええ、楽しいですね殿下!」
「はっはっはっ! 我らも楽しいですぜ殿下! なぁ、そろそろでしょう! 行かせてくださいなぁ!」
楽しげな司令塔と頭脳役に、連合軍のエース。
筋肉まで脳味噌と名高いウィルソンが、獰猛に笑い槍を高々に掲げる。
「そう逸るな、もう少し待てウィルソン」
「ええ、この後直ぐに。カミラ様は“本当に”動けなくなります。――そこが狙い目です」
ユリシーヌが策の真意を語った瞬間、カミラもまたそれに気付いていた。
(――しまったっ! 真逆、これが狙いだったと言うの!)
嗚呼、嗚呼、とカミラは歓喜の声を漏らす。
物理的拘束も、魔法的拘束も、遠距離からの攻撃すら“囮”
全ては今の状況を作り出す為――――!
「おおおおっっとおおおおおおお! カミラ様が動かなくなったぞおおおおおお! いったいどうした事かあああああああ!」
「……そういう、事。か……」
「そうか、この封殺劇すら囮であったか……。カミラ嬢自体は突出していても、使う魔動馬はそうではない」
「カミラ嬢の……膨大な、魔力に……耐えられない……」
「ああ、見て見ろ。あんな無茶をしたのだ。魔動馬から煙が上がっている」
「そういう事ですかっ!? 魔動馬が動かなくなってもルール上負けではありませんが――――」
「普通なら……、実質的に、負け……」
「これは、負けてしまうのかカミラ様あああああああああああああああ!」
アメリの言葉に、観客や連合軍の中に勝利ムードが漂った。
(言ってくれるわねアメリ。けど、このカミラ・セレンディア。魔動馬が動かなくなった所で、負ける女じゃないわ――――!)
「はっはっはーー! 者共! 我に続けえええええええええ! 覚悟はいいかカミラ嬢――――!」
この後に及んで、更に歓喜の笑みを深めるカミラに、ウィルソン率いる主力戦力が突撃を始める。
「嗚呼、嗚呼。楽しい、愉しいわぁ! さあ! いらっしゃいっ! 私に人の輝きを見せて頂戴っ!」
最早槍は不要と投げ捨て、剣に持ち替えるカミラ。
自棄になった訳ではない、その証拠に両手に一振りずつ剣を持ち乱戦に備える構えだ。
騎馬戦は、最終直面に達しようとしていた――――!
これ書いてる途中に気が付きましたけど。
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では、また明日。
明日はいつも通りの夕方七時に投稿の予定です。
遅くなっても日が変わる前には投稿しますので、楽しみに待っててくださいね!




