38話 魔王ムーブが止まらない……何故こんなヒロインになってしまったのか
GW中でも関係なしに毎日更新だぜ
紅組の陣地に戻ると、カミラは一斉に視線を浴びた。
しかし、皆一様に顔を見合わせるだけで、話しかける者は無い。
(さて、どうみるべきかしら?)
視線の内容は、不安が半分、疑いが半分とした所か。
先ほどはアメリに色々言ったが、目的は圧倒的な力を見せる事、その先だ。
(疑っている半分の生徒達は、そうかからずに白組へと寝返るでしょう……、問題は不安の子達)
カミラは手元で遊んでいた扇子を開くと、アメリへの通信を繋ぐ。
この扇子は、通信機能も持たせたハイグレード品なのだ。
(アメリ、聞こえているわね。騎馬戦での特殊ルール、こちらからだとはっきり判る形で提案しなさい)
(了解しました。……あまり敵を作るやり方は感心できませんよカミラ様)
(敵を作るのでは無いわ、いざという時の為の予行練習という所よ)
(予行練習?)
(ええ、お伽噺/ゲームの最後は決まっているのだから)
(はあ、そうですか……)
腑に落ちない声を出すアメリに、紅組への噂を流す様に指示し、カミラは通信を打ち切る。
後は“その時”が来るのを待つだけだ。
「――“全て”が終わった時…………、いえ、私は本当に“終われる”のかしらね」
自嘲気味に吐き出された言葉は、誰に届くこともなく、喧噪の中に消えた。
□
それから先は、何事もなく競技は進んでいった。
応援合戦は、良くも悪くもカミラの演説程の盛り上がりは無く。
一年生合同の組み体操は、練習で見かけた時より完成度を上げ、見せ物としては上々。
なまじ魔法を使っているだけに、前世のそれより安全に、かつアクロバティック。
(――私がいなくとも、世界は回る。もっと静かに、もっと幸せに……でも)
でも、それでは“つまらない”し、カミラ自身が幸せに成れない。
(ああ、駄目ね。思考が暗い方向へ行ってしまうわ)
苦笑しながら、カミラは首を横に振る。
その様子を見たミリアが、不安そうに声をかけた。
「……カミラ先輩? やっぱり先ほどの短距離走の結果にご不満が?」
「そうでは無いわ、圧倒的な勝利ではなかったものの。良い勝負をしていたじゃない」
「ありがとう御座います! 皆もその事を聞けば喜ぶでしょう!」
「喜ぶ……ね」
「カミラ先輩?」
何処か意味深に微笑むカミラに、ミリア戸惑う。
カミラは、紅組に楔を打ち込む為、皆にも聞こえる様に大声で話始めた。
「ねぇミリア……、貴女達はそれで満足?」
「満足とは、どういう事ですかカミラ先輩」
聞き耳を立て始めた者達を一人一人見渡してから、カミラは口を開く。
「貴方は自分達より上の実力者と互角に、ともすれば勝利さえ出来る事を知ったわ」
「はい、カミラ先輩のお陰です!」
「ええ、ありがとう。――でも、それでは足りない」
「足りない……ですか?」
カミラはミリアの問いに、大きく頷いた。
観戦していた長距離も終わり、選手達も戻ってきてカミラの言葉を聞いている。
「貴方達がこれから先、生きていく上で重要なモノが。――今の貴方達には足りない」
「敢えて言いましょう。……貴方達の半数以上が、密かに白組に寝返っている事は知っています」
紅組生徒達がざわめく。
「その者達は幸いです。そして、その事を責めたりしません。皆も、責める事は禁止します」
ざわめきが大きくなる。
たまらず、ミリアが声を出す。
「で、では!? カミラ様は知っていて放置していたと!?」
「ええ、勿論」
「何故……」
ミリアに、そして紅組全員に優しく微笑むと、カミラは真実の一部を明かす。
「色々な噂を聞いているでしょう……、それらは正しい。――私とユリシーヌ様は勝負をしている。そして」
「皆さんを、私は利用している――――」
「そ、それがどうしたと、言うのですか。私達はそれぐらいで裏切ったりしません!」
声を張り上げるミリアに、カミラは冷静に告げる。
「ありがとうミリア。貴女の献身に感謝を。――そして皆にも。でも現実を見なさい」
カミラは白組の陣地を指し示す。
そこには、魔法体育祭開始時より員数が増えた白組の姿があった。
「あそこに居る紅組の者達は、私の企みを見抜いた者、その上で、敵対を選んだ勇気ある者達……」
「ミリアの様に、噂を聞いてなお揺らがず共に居ようと考える者もいるでしょう。しかし大多数はそうではない」
カミラはゆっくりと見渡す。
“そうでない”者は、心当たりがあるのか視線を反らした。
「み、みんな!? これはどういう……!?」
カミラはミリアの頭を撫でてから、静かに強く言い放つ。
「貴方達には、――――失望したわ」
「上の私利私欲を良しとし、さりとて迎合するのでも無く、現状に満足し目を反らし続ける」
「幾ら力を付けようと、知恵を身につけても。今の貴方達は――――負け犬」
「力ある者に逆らえない、逆らう意志を持たない、負け犬」
カミラの言葉に、幾人かが拳を握りしめる。
「白組と互角に戦えたのだから、満足? だから、使い捨ての駒と知ってなお、何もしない程に諦めてしまった?」
「では! 我らはどうすればいいのだ!」
誰かが、声を張り上げた。
その声は震えていたが、カミラには好ましく聞こえた。
故に――道を示す。
「――――戦いなさい」
「そして――――意志を持ちなさい」
「誰かに利用されるのを良しとする弱者ではなく、利用される事すら利用する強者なる為に」
「貴方達が、真に矜持ある貴族である為に」
「守るべき者を守れる、勇士である為に」
「――――戦いなさい」
戦え。
その言葉が紅組全員の心に染み渡る、刻まれる。
「ではカミラ様! 私は白組に行き! 貴女と戦わせて貰います!」
晴れやかに、誰かが叫ぶ。
「俺は貴女の側で、戦わせて欲しい! 貴女の盾となり、矛となり、共に勝利の栄光を掴ませて欲しい!」
負けても良い、利用されても良い。
所詮お遊びだから、本気にならなくてもいい。
そんな考えで染まっていた生徒達が立ち上がる。
カミラは満足気に頷き、最後の一押しを始める。
「貴方達の心意気、しかと聞き届けました。――その勇気を私は称えましょう」
「――しかし」
「どうか、一つだけ。私の我が儘を聞いてくださいませんか?」
ミリアを始め、全ての紅組生徒が静かに続きを待った。
「私と、共に戦わないでください」
「カミラ様……?」
皆の空気が困惑に満ちる。
カミラが、言葉を重ねた。
「皆も知っている通り、私はユリシーヌ様と勝負をしております」
「そして、それに勝つには、紅組の勝利が必要です」
「ならば、我らにも手伝いをさせてください!」
「私達は、カミラ様に着いていきます!」
「貴方達の気持ちはとても嬉しいわ――それ故に、我が儘なのです」
カミラは真摯に皆を見つめた。
「どうか、私一人で戦わせてください」
「どうか、私一人で勝利を手に入れさせてください」
「私一人だと負けるかもしれません。しかし、ユリシーヌ様に、私を刻むには、私一人で戦いたいのです」
「…………カミラ様」
激しすぎる恋の熱情を帯びた言葉に、カミラに着こうとしていた者達が思いとどまる。
「カミラ先輩……、本気、なんですね」
「ええ、ミリア。馬鹿な女だと笑って頂戴。けれど私には、これしか方法が思いつかないの」
儚げに笑うカミラに、離反しようと考えた者も、そうでない者も、その全てが口々に肯定の意を表した。
「ありがとう皆様。でも本気で倒しに来てくださいね」
そしてもう一つ、カミラは駄目押しに餌をぶら下げる。
「白組の皆様にも伝えて下さい――――騎馬戦で私を倒した者には、このカミラ・セレンディアの名にかけて“何でも好きな願いを一つ”叶えましょう」
「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」」」
「カミラ様! その言葉お忘れ無きよう!」
「ううっ! 我らの為に、その様な約束を――! 心苦しいですが、カミラ様の望みとあれば、全力で我ら立ちふさがりましょう!」
カミラ様、カミラ様、カミラ様。
観客や白組の注目を集める程の、シュプレヒコールが巻き起こる。
騎馬戦が始まるまで、後僅かでの出来事だった。
騎馬戦編は、後三話くらいですお付き合いください。
そして、ブクマや評価、レビューもください。
では、また明日も夕方七時に。




