37話 カミラ様の綻び
カミラ様だって、不安定になる時もある。
だって女の子だもん。
あの後は、それぞれの陣営で昼食を取るということで分かれた二人。
カミラは、迎えに来たアメリと行動を共に。
今は、食後のティータイムと洒落込んでいた。
「それで? 聞くまでも無いみたいですけど、楽しんでいらっしゃいますか? カミラ様」
「ええ、とても。とっても愉しいわ! アメリっ!」
「……何か今、楽しいのニュアンスが違った様な?」
「ふふっ、さぁて。どうかしらね?」
「折角お膳だてしているんですから、素直に楽しんでくださいよ……」
げんなりした顔のアメリに、カミラは頭を撫でる。
「貴女には感謝しているわ――だからこそ、とても素直に行動しているの、私は」
「白組のスパイが、紅組生徒に工作しているのを見逃すのもですか?」
「ええ、勿論」
「……わたしには、カミラ様のお考えが解りません」
嘆くアメリに、カミラは不敵に笑った。
「別に、勝利が欲しくない訳ではないわ。でもやるからには、――効果的に、勝利しなくては」
「つまり、わざわざ自軍に。いえ、カミラ様に不利な状況を作り出している、という事ですか?」
カミラはその答えに、人差し指を立てた。
「1カミラポイントって所ね」
「……いや、どこまで続けるんですかそのポイント」
「私の気の向くまま、よ」
「それは良いですけど、本当にいいんですか? このまま白組からの離間の計が続くと、そもそも魔法体育祭事態のルールが変更になりかねませんが?」
カミラはニヤリと笑い、満足気に頷いた。
「――それこそ、私の狙う所よ」
「……マジですか?」
「ええ、マジもマジ。大真面目よ。――噂は、そのた為のものだから」
「……現在、紅組に流れている噂は二種類」
アメリは思案する。
「わたし達が流した噂『白組に勝てば、何でも一つ言いなりに出来る』というもの」
「ではアメリ、白組が流した噂は何かしら?」
アメリの思考を助ける為に、カミラが方向性を与える。
「『あくまで勝負の約束事は、カミラ様とユリシーヌ様のモノであり、紅組生徒は利用されている。邪悪な扇動から目を覚ませ』……文言は流し手によって違いますが、概ねそんなものかと」
「ではアメリ、私は何故。噂を流したと思いますか?」
悪戯を楽しむ童女の様に軽やかな口調のカミラに、アメリは眉をしかめた。
「……白組が対抗措置を取ってくる事を見越しての事? いえ、真逆……紅組生徒を扇動していたのも、その為!?」
「付け加えるなら、劣等生で固められてた紅組生徒に、意識の改革を。勝利の喜びと自信、同胞との団結――そして、希望」
「希望? ですか……」
今一つ納得しきれないアメリに、カミラは言の葉を紡ぐ。
「ええ、成績の優劣なんて関係なく、やりかた次第で自分達は何者とでも戦える、勝利できる。――そういう希望」
「でもカミラ様は、紅組が分裂するのを見過ごしているじゃないですか? 現に、白組へ寝返る者が出て着始めています」
「それで彼方に着いてくれるのなら、手間が省ける、というモノよ」
「……それは余計に敗北を招き入れる事。真逆、彼らへの試練とでも言うんですか?」
「違うわアメリ、敢えて言うなら――私自身への試練。ええ、わくわくするじゃない」
「……カミラ様は、紅組からの孤立を狙っている、と?」
心配そうな顔をするアメリに、カミラは笑う。
――其れは、常人ならば狂人の所行。
――其れは、力ある者の高慢。
「『敵対』――――それが私の目的」
カミラは嗤う。
幼子の成長を喜ぶ、聖なる母親の様に。
宿敵の出現を喜ぶ、獰猛なる戦士の様に。
「ふふふっ、ふふふふっ! 嗚呼、嗚呼。愉しみだと思わない! 皆が私を倒しに来るのっ! 剣を以て、槍を以て、魔法で以て、戦意と殺意を垂れ流しにしながら、私を倒しに来るのよっ!
あの拙く弱き者達が、意志と力を振り絞って立ち向かってくれるっ!
あの高慢な強き者達が、敗北の苦渋を発条に剣を振り上げて追い立て回すっ!
嗚呼っ! 嗚呼っ! とても滾るわっ! ――そうしたら、私はどうなるのかしら? 多勢に無勢で蹂躙される? それとも、私が呆気なく踏みつぶしてしまうかしら?
そして勿論、最後はユリウス様と戦うの……嗚呼、嗚呼。あの方はどの様にして立ち向かってくれるのかしら? 絶望に決して折れたりしないでしょう……けれど、怯えと恐怖の顔を見せてくれるのかしら……嗚呼、私に打ち勝ち、冷たく見下ろされるのもいいわっ!――――」
「カミラ様……」
アメリはカミラの変貌ぶりに、そっと目を閉じた。
気付いてはいたのだ。
敬愛する主が、狂気を身に宿している事を。
人知を越える力に、心を壊していた事を。
――でも。
(ユリシーヌを想っている時は、確かに幸せそうで、正気であられたのに……)
だから、ユリシーヌをけしかけたのだ。
それが幸せに、心の安寧に繋がると信じて。
アメリはいつの間にか俯いていた顔を、きっ、と上げて、拳をぎゅっと握りしめる。
「――御心のままに、カミラ様。このアメリは、何時如何なる時、どの様な最後であろうとも、未来永劫お側に」
アメリの言葉が届いたのか、カミラの瞳から狂気が遠のく。
「嗚呼、ああ……。少し、高ぶりすぎたわね」
「少し、ではありませんよカミラ様」
「ふふっ、ありがとうアメリ、嬉しいわ。……貴女の献身と忠誠、確かに受け取りました」
いつもの様に優しく微笑むカミラに、アメリは苦笑した。
この精神の落差を愛おしいと感じている時点で、きっと自分も可笑しくなっているのだろう。
「光栄ですカミラ様…………ところで、さっきから一つ余っているプチシュークリーム食べて良いですか?」
「あら駄目よ、それは私が食べるんですもの」
「ええっ! そんな酷いっ! 可愛い忠臣にご褒美として上げてもいいんですよっ!」
「それはそれ、これはこれ、よ。私も食べたいもの」
「くっ、こうなったら下克上を…………!」
「やれるものなら、やってみなさい――!」
アメリは拳を振り上げ、カミラも負けじと、手を高く掲げる。
「じゃーーんっ!」
「けぇえええええん!」
「「ぽいっ!」」
振り下ろされた拳は拳のまま、アイコとなる。
「「あーいっこーで、しょっ!」」
次に出された手も同じ。
二人とも、さっきの雰囲気は何処へやら、がるがると唸りあう。
「ちょっとアメリっ! 貴女も下僕なら主人に渡しなさいっ! このおっぱいお化け!」
「はんっ! 美味しいデザートの前に、主従関係など無いのですよ! 大人しく譲ってください! ポンコツ恋愛脳(笑)の癖に!」
「このっ! それを言ったら戦争じゃないっ!」
「気にしてる事を言うのが悪いんですぅ~~!」
「むむむっ……!」
「ぐぬぬ……!」
「てやっ! 隙アリですカミラさ――きゃん!」
「隙だらけなのは、貴女ですわアメ……リ……、あら、ふかふかなのに、ずっしりとした重量感があって、なのに張りがある――これが、母性!?」
「あんっ! やぁ……、うぁん……んんっ、カミラ様っ! なんでそんなに上手いんですか!?」
「ふふっ、昔取った杵柄ってやつよ」
「昔って、ずっと一緒に居たのにっ! あんっ! やんっ! ああ~~」
結局、予鈴の鐘が鳴るまで。
百合の花咲くじゃれ合いは続いたのであった。
これから二、三日は騎馬戦の予定です。
ええ。みんなもっとブクマや評価を入れていいんだぞ!
さあさあ未だの人は、恥ずかしがらずに、おもしろーい、ってブクマや評価を入れるんだ!
主に私のモチベが上がります。
では、明日もこの時間で。




