35話 運動会にトラブルは付き物
しかし、トラブル違い
「さあ、もう少しで追いつかれてしまうぞ! 頑張れカミラ様~~!」
「そこは……一位、を……応援する……所」
あっと言う間にぐるぐるバットまで着いた二人は、別れてぐるぐると回り始める。
(こ、これは思ったより酔いますわっ! そして足首も痛ぁあああいっ!)
カミラは心の中で悶える中、実況が入る。
「ぐるぐるバットから二人三脚の紐が解かれますが、酔った状態でいかにして進むのかが問われますね!」
「ああっ! ……現在一位が……転倒、早く……しないと……追いつかれます」
「ちゃ、チャンスですカミラ様……大丈夫、ですか?」
「……な、何とか? ……はうぅ」
揺れる視界の中、カミラが千鳥足な上、片足を引きずっているのを見たユリシーヌは、即座に判断してカミラに近づく。
「失礼しますよッ!」
「ユリシーヌ様!?」
ひょいっとカミラをお姫様抱っこにしたユリシーヌは、唇を噛みしめ酔いを止めながら走り出す。
「おおっと! 羨ましいぞカミラ様っ! これはルール的にアリなんでしょうかエミール様?」
「ええ……ここから先、は……お姫様抱っこでも、大丈夫、です……」
「と、言うわけですっ! これは後続にも期待がかかります! お二人に負けない位の絆の力を見せてくれるのでしょうかっ!」
「アメリ嬢……、あまり、煽らないで……」
エミールの制止は遅く、隣で走るカップルも負けじとお姫様抱っこを始める。
「うおおおおおおお! 俺たちの愛は、カミラ様達と言えど負けないいいいいいいい!」
「きゃーー、素敵! 男らしいわよっ!」
ドドドド、ダダダダと、デッドヒートが繰り広げられ最後の関門へと二組同時に到着する。
「さあ、最後のラブ試練! 借り物ゾーンですっ!」
「くじ引きを……箱から引いて、書いてある指示を……、遂行……。これ最早、借り物ではないのでは?」
「細かい事は言いっこ無しですエミール様! 借り物も中には入っているからOKですって!」
「いいん……ですか、それ……?」
カミラをユリシーヌに抱き抱えられたまま、係員の差し出した箱に手を入れる。
「こ、これは――――!?」
「何を引いたんですカミラ様? どれどれ…………はぁッ!?」
二人は目を合わせ、お互いに顔を真っ赤にして離れる。
「ちょ、ちょっとアメリっ! 何ですのこれっ!」
「いくら何でも、やりすぎではありませんかッ!」
「おや……、ご指名、ですよ、アメリ嬢」
「何を引いたんでしょうねぇ……? あ、参加する皆様! くじの箱には魔法がかかっていて、二人の関係が面白くなる様に自動で判断! 最適なくじが引かれる可能性が高くなっているので、楽しみにしてくださいね!」
「阿鼻……叫喚の、間違い……では?」
首を傾げるエミールの視線の先には、もう一組の前に、女の父親が立ちはだかっている。
「よくぞその札を引いたな青二才がっ! ゴールし娘を娶りたければ、この儂を倒してからいけええええええええええ!」
「ご覚悟を、義父上えええええええええ!」
「まだ、父上と呼ぶんじゃなああああああああい!」
係員に渡された模造剣で、決闘が始まった。
一方、カミラとユリウスは、くじの内容でまだ躊躇っていた。
「ど、どうするのですの……、こんな、こんな観客の目の中で……!?」
「どうするって、やらねば……でも……、こ、こんな破廉恥な……ッ!」
二人は再び、引いたくじを見る。
「何回も見たって、変わりませんよ。何引いたんです……どれどれ。おおっ! それわたしが入れたやつですね! 大当たりですっ!」
「貴女が入れたのっ!? こんのっ! お馬鹿ああああああああああああああ!」
「何考えてるんですか!? こんな所で出来る訳がないでしょう!?」
「あははー。大丈夫ですって、あちらに多目的ボックスを用意してますから、そこでどうぞ。あ、一つの部屋に二人で入ってくださいよ。判定はわたしと王子でしますので、諸々はご安心を!」
ウインクするアメリに、カミラはぎゃーすと叫んだ。
指し示す先を見れば、一つの部屋が更衣室の大きめなロッカーサイズしかないボックスが。
あそこで、ナニをしなければいけないのか。
「後で覚えておきなさいよーーーー! で、ど、どうしましょうユリシーヌ様……!」
「どうしましょうって、やるしか……ああ、でも……本当に……」
目を合わせては、もじもじと俯く二人。
それを何回も繰り返す様子に、アメリは煽る。
「ほらほら~、迷っているうちに、他の方も追いついちゃいましたよ~~!」
見れば、後続も頭を抱えそうな状況に陥っている。
でも、明らかに種類が違うのは気のせいだろうか?
「恋敵? え、ダーリン私達に恋敵っていたかしら?」
「真逆、真逆――!?」
「気づいた様だな我が恋いのライッ! ヴァルッ! よッ! ボクを認めさせないとここは通さないぞ――――!」
「そんな……! 貴男はクラスメイトのケイオス様!」
「やはりハニーを諦めていなかったか……いいだろう! 勝負だっ!」
そんな一方、追いついた二組の片割れも、珍妙な事が起こっていた。
「ごほっ、ごほっ! 何だこの煙……どこだ、手が放れてしまった!」
「何も見えない……いえ、煙がはれて――そんな」
カップルが驚いた先には、お互いにもう一人の自分が存在し、伴侶に寄り添ってではないか!
「「ば、馬鹿な! どっちが本物なんだ!?」」
「「真似しないでくださいまし!」」
混迷しているゴール前、あと十メートルの距離がとても長い。
「さ、さ。迷っていると先に越されちゃいますよ~~! 最後の一組も来たようですし。にしし~~!」
「――やるしか、ないようですわね」
「その様ですね。ここまで来て棄権はしたくありません」
ごくりと唾を飲み、カミラとユリシーヌは意を決してボックスへと入る。
「こちらを……見ないでくださいまし……後生ですから……」
消え入りそうな声で、最早、相手の顔も見れなくなったカミラが言った。
ボックスの中は狭く、相手に密着状態なので、お互いに何をしているのか丸分かりだ。
「上を、向いてるから……早くしてくれ……」
「はい……」
体操着越しに伝わるお互いの体温。
しゅるしゅるとした衣ずれの音に、ユリシーヌは必死で耐える。
(くそッ! 何でこの魔女はこんなにいい匂いなんだ――――! それにしても、こんなに小さくて、柔らか――柔らか?)
ふにっとした感触に、ユリシーヌはつい手を動かす。
「ひゃあああっ! ゆゆゆりしーぬさま……後生ですからその手を……うう、本当にお嫁にいけませんわ……」
「わ、悪いッ! そんなつもりじゃ……うう、すまない……」
(あったたかった、やわっこかった、おおきおかった、手が下にあった事を考えればこれは――――いやいや、考えるな俺!)
「んっ……はぁ……くぅん……」
(な、何でもない吐息が、吐息が――――ッ!)
ユリシーヌの男としての本能が、堤防の決壊を知らせようとした時、カミラが口を開く。
「……終わり、ましたわ。だから、貴男も……」
「ああ、そうする」
汗をかいているのに、妙に香しいカミラの髪の匂いを感じながら、ユリシーヌは自分の背中に手を回す。
――そう、くじの内容は『お互いの下着』であった。
以前のユリウスなら、カミラを冷たく急かしながら、鼻息交じりにこなしていただろう。
だが、今は良くも悪くも意識してしまった先の出来事だ。
お互いに、高鳴る心臓を隠す事の出来ないまま、互いの下着を手渡す。
「ううっ……靴下は駄目だなんて、用意周到な……」
「しかも、同じ部位は駄目と来ていますものね……」
(うぐぅ……あったかいぞこの布切れッ! これは布切れなんだッ! 決してパン……いやいや、無心になるんだ俺ッ!)
(ユリシーヌ様のブラ。私のより大きいですわ、偽物はいえ……、あ、何かいい匂い……、って駄目ですわ。こんな所で嗅ぐ訳には――っ!)
お互いに、色々なものから目を反らしながら、外から中身が決して判らぬ様に、厳重に両手で“ブツ”隠して外にでる。
「あ、終わりましたか? 良かったですね、まだ皆さんゴールしてませんよ」
「ご苦労様だ、我が共達よ……」
ゴール前では観客が沸き上がるバトルが繰り広げられているが、そんな事に目をやる余裕は二人にはない。
「そ、そんな事はいいから確認を――」
「はいはい、わたしはユリシーヌ様のを、カミラ様はゼロス殿下に確認して貰ってくださいねー。うん、はい、確認しました。確かにカミラ様のです。――――もしよろしければ、そのままお持ちになってもいいですよっ!」
「ああああああ、アメリいいいいいいいいいいい!」
「どうどう、カミラ嬢、落ち着け落ち着け。何事かと視線を集めてしまうぞ」
「――くっ」
「よし確認……、お前こんな派手なの着ていたのか?」
「私が本物なら、殴り倒す案件ですよその言葉……」
「はっはっはっ、スマンスマン。ほら内容の達成は確認した、行くがよい」
「……はい」「……行きましょうカミラ様」
二人は顔を真っ赤にしながら、しかしルールにより手はしっかり繋いでゴールに向かう。
なお、下着は一時アメリに預け後で回収。
つまり、今二人は――――?
一歩二歩、着実に歩く。
カミラは足首の痛みと、事情により歩幅は不自然に狭かったが。
ユリシーヌも、下手に何か言うと確定された藪蛇なので黙って歩く。
「……着きました」
「ああ、着きましたね。……長かったです」
パンパンパン、と魔法の花火が上がりゴールを知らせる。
同じ第一走者達に祝福されながら、二人は顔を真っ赤にして俯いたままだった。
その後、競技参加者が全員走り終わり、昼のアナウンスがあるまで、二人は黙って手を繋いだままだった。
明日も夕方七時にプラグイン!
いや、マジでカミラ様は普通の女の子
普通の女の子で居られなかった女の子




