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34話 マジかよ…カミラ様は普通の女の子だった!(普通とは言ってない)

偶にはこんなカミラ様もいいですよねぇ……



 カミラとユリシーヌは息を合わせて疾走する。

 目の前の平均台は、普通のサイズ。

 つまり、一度に一人が渡れる足場しかない。


「さあ、この二人は平均台をどうやって攻略するのか――――!」


「横歩きで渡るのが定石でしょうが、時間がかかりますっ!」


「なら飛んで行きましょうッ! カミラ様、前転に自信はおありでッ!」


「ユリシーヌ様こそっ! とちらないでくださいね――――っ!」


「おおおおおっ! 平均台を前にしてカミラ様達は速度を緩めないっ!」


「いったい、……どうやって――――はぁっ!?」


「えっ、ええっ!!」



「――――いち、に、さんっ!」



 平均台まで猛加速で進んだ二人はその勢いで跳躍。

 そして華麗な前転宙返りを連続で披露――――!



「行った――――! 見事な早業で渡りきったーーーー!」


「……これ、魔法使って…………審判さん……ああ、使ってない……使ってないであれですか!?」


「くそうっ! とてもじゃないが真似できない!」


「さ、流石はカミラ様、ユリシーヌ様。学院の女王と黒幕の名は伊達ではありませんわっ!」


 観客を沸かせながら、二人は前の一組を瞬時に追い越し次の障害へ進む。


「いよいよ、カミラ様とユリシーヌ様の追撃が始まったぞおおおおおお! 次の犠牲者は誰だあああああ!」


「早く……進むんだ、前の人、達……!」


 バルーン挟みは、手を使ってはならない。

 また、魔法により一定の圧力がかかると萎む様になって、元の位置からやり直しだ。


「これは……、二人三脚なので余裕かと思いましたが……」


「くっ! 案外と調整が難しいですわね。……あ、ユリシーヌさまもうちょっと力を緩めて――!」


「無茶言わないでくださいッ! これ以上は私と言えど腰を痛めますッ!」


 この二人であっても、流石に速度を維持できず、えっちらおっちらしながら進む。


「ああもうっ! 少しずつ小さくなってませんかっ!」


「体から地面の落ちた時点で、元の位置からやり直しですッ! 一か八か全速力で行きましょうッ――!」


「合点承知の助――――!」


「カミラ様! 合点承知の助って言葉古くありませんかー?」


「偶に……、ありますよね……。カミラ様の、死語」


「そこ五月蠅いですわっ! ユリシーヌ様も、外野も頷かないっ!」


 全速力で走りながら、カミラは叫ぶ。

 その光景に、ユリシーヌは何故だか自然と笑みがこぼれた。

 ――だが、その隙が二人のバランスを崩したっ!


「――ほわぁっ!」


「――危ないカミラ様ッ!」


 バルーン挟み終了地点に、二人は転がり込む様にたどり着き、ばったんごろん、と倒れ込む。

 同時に、ころころと小さくとなったバルーンが地面を転がった。


 セーフかアウトか、全員の目が審判に集まる――。


 次の瞬間、審判の教師は即座に、大きく丸を掲げた。


「審判! 判定は――――っ! ……セーフ、セーフです皆様っ! ――さあ、カミラ様の快進撃……あれ?」


「……トラブル、ですかね?」


 皆が見ると、カミラを上に倒れ込んだままの二人。

 そして当の本人達は、少し唖然とした表情だ。


(い、いい、いまッ! ふわっと暖かい感触したぞッ! これは真逆、真逆真逆――ッ!)


(キス……してしまいましたわっ! え、え? 公衆の面前で? キス、してしまいましたわっ!?)


 実際の所、直ぐに顔を放した為、そしてバルーンと審判に注目が集まった為、その瞬間を目撃した人々はヴァネッサとゼロス王子のみだったが、それはそれ。


 カミラは全身を赤く染め上げ、カクカクとした動きで。

 ユリシーヌも、口元を押さえながら立ち上がる。


(――――痛っ!)


 突如走った強い痛みに、カミラはそっと右足を見る。


(外からでは判りませんわ……でも、これは捻ってしまった様ね……)


「カミラ様……、こうしている場合ではありません。先を急ぎましょう」


「ええ、そうですわね」


 何事も悟らせないと、にっこり笑ったカミラは、いちに、いちに、と再び走り始める。


「さあ、カミラ様とユリシーヌ様が再び猛追撃…………あれ? ちょっとスピード落ちてます?」


「さっきの……転倒、で。……怪我、です?」


「真逆……カミラ様!?」


「大丈夫です、足をを止めてはいけませんわユリシー様」


「でも……」


 カミラは笑った。

 それは心からの笑みであったが、それが故にユリシーヌへの心配を誘った。


(そんな顔、なさらないでユリウス様。だって、だって私は嬉しいんですもの……)


 この痛みは、今ユリウスと共に居る証。

 妄想でも夢でも、死に際の幻でもなく、確かな現実の証。


(嗚呼、嗚呼、何て、何て愛おしい……)


 頬に伝う涙に気づかず進むカミラに、ユリシーヌは臍を噛んだ。


(だからそんな顔で笑うなよッ!)


 やはり自分はカミラの事を何一つ知らないと、心に痛みを覚えた。


「なら、早くゴールしますよ。――着いてこれますか?」


「貴男こそっ――――!」


 二人は元の速度を取り戻し、次のスプーン卵運びまで駆け抜ける。


「どう……やら……、何も……なかった?」


「みたいですね! 残念ですね前方集団! カミラ様の追撃はまだまだ続くようですよっ!」


 鳴り響く歓声、それはブーイングか賞賛か。

 今の二人は判断する余裕も無く、それぞれ匙を取った。


「普通に運ぶのでは一位になる事は無理ですわっ!曲芸に自信はおあり?」


「――ちっ! そっちこそ一発で成功させろよッ!」


 女言葉も忘れ、ユリシーヌは険しい顔で同意。

 せーの、で二人は卵を乗せた匙を振りかぶった――――!


「あ? へっ!? お二人共何して、真逆――――!?」


「成功……すれば、MVPもの……」


 観客も選手すらも足を止めて見守る中。

 卵を終了地点に向け、高く放り投げた二人は猛烈に走り出す――――!


「キャッチまでたぶん後三秒!」


「落とすなよッ! 割るなよカミラッ!」


「三」


「二」


「一」


「…………おおおおおおおお! お二人とも見事にキャッチーー! しかも生卵なのに割れた様子がありませんっ!」


「「「おおおおおおおおおおおおおおおおお!」」」


 鳴り響く拍手にカミラ達は手を振った。

 勿論、係員の生徒に匙と卵を渡してから、であるが。


「……ふう。カミラ様、足首は大丈夫ですか」


「あら、そこまで判りますか流石ユリシーヌ様ですわ」


「もう、減らず口を……後でお説教ですからねカミラ様」


「お手柔らかにしてくださいませ」


「貴女次第ですそれは――行きますよッ!」


 スプーン運びを始める時点で二組の内、片方はゴール寸前。

 終わった今では次の競技に移っている。

 これを抜かさなければ、一位にはなれない。


「さあ次はパン食いゾーンだっ! 一つのパンを口で取った後、交互に食べさせあって間食しながらゴールを目指してください!」


「最低……二回は、あーん……する、こと……いいんですか……これ」


「だいじょーぶっ! ですっ! 事前に許可は押し通しましたっ! 学院長とゼロス殿下のお墨付きですからっ!」


「……マジ、か」


 最後の方で走る事が決まっているエミールは、自分の惨事を予見し、絶句した。


「羞恥プレイとは、出来るようになったわねアメリっ!」


「ほら、恥ずかしがって変なこと行ってないで、あーん」


「う、うううう。……あ、あーん」


 再び耳まで真っ赤になりながら口を開くカミラ。

 ユリシーヌは意地の悪い顔をして、小さくちぎったパンを口の奥へと入れる。


「あむっ!? ――んんっ!?」


「あら、駄目ですよカミラ様。私の指はパンじゃないですよ」


 カミラの舌を指で態となぞりながら、ユリシーヌはゆっくりと唾液でテカった指を引き抜く。


「な、なんて高度なプレイなんだ……!」


「ダーリン! これはきっと芸術点を稼ぐ方法なのよ! 負けてられないわっ!」


「そうか、なら行くぞ――――!」


 ただユリシーヌが暴走しただけなのだが、勘違いした者達が、続々とイチャイチャに走る。

 無論のこと、芸術点なんてものは無い。


「ヴァネッサよ……皆に芸術点なんて無いと、教えてやったほうがいいのでは?」


「おほほほ、面白いからそのままにしてくださいな殿下」


「そ、そうか……」


 すまぬ皆……、とゼロスが心の中で合掌しているが、そんな事はやはり関係ないので競技は進む。


「ひゃんっ! か、噛まないでくださいましユリシーヌ様っ!」


「真っ赤になって震える貴女も可愛いですよ。さあ、その姿をもっと見せて――、と。もうパンがなくなってしまいましたか」


 残念そうに言うユリシーヌに、カミラは戦慄した。

 確かに原作では、デレるとSっ気がある姿にギャップ萌えを感じていたが。


(危なかった……、足首の痛みが無ければ、きっと私は気絶していたでしょう……)


「皆が私達につられて、無駄にイチャイチャしている今が好機です、一気に行きますよ――!」


「わ、わかってますわ!」


 ユリシーヌに差し出された手を取って、カミラは共に走りを再開した。


明日も夕方七時に、カミラ様と握手!


この競技の決着は明日、そしたら多分、元のカミラ様に戻ります……恐らく

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