32話 幾ら鎧を纏おうとも、心までは……的なあれ
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大玉転がしの直後、カミラはアメリに引きずられて、本部のテントまで来ていた。
中には既に正座しているユリシーヌと、ほほほ、と目が笑っていないヴァネッサ。
カミラも促され正座する。
――小石が膝に食い込んでちょっと痛い。
「――やりすぎです、カミラ様」
第一声、額に青筋を浮かべ仁王立ちするヴァネッサ。
笑顔を崩さないのが、もっと怖い。
「ええ、事の次第は聞いております。貴女が必死になって勝利を追うのも、成績が劣る生徒を鼓舞し、上への可能性を示したのも素晴らしいと思います」
「ですが、その上でもう一度――――やりすぎです」
一緒にいるアメリは苦笑し、ユリシーヌは何故自分が正座させられているか、解らないといった顔だ。
「そして、ユリシーヌ様」
ジロリ、と矛先がユリシーヌにも向かう。
「は、はいッ!」
「貴女も同罪です」
「はッ、えッ!? 私もですか!?」
「当たり前です、カミラ様にあのような勝負を挑めば暴走する事は自明でしたでしょう」
「ううッ……、弁解のしようもありません」
「今日の魔法体育祭には、王もご覧になっています……、そして王は憂いております。――言いたいことは解りますね」
体操着姿で、扇をパシパシと閉じたり開いたり。
ヴァネッサは、カミラとユリシーヌにプレッシャーをかける。
「えーと、ヴァネッサ様。お気持ちは解りますが次の競技もある事ですし、その辺で…………」
おずおずと割って入ったアメリに、ヴァネッサは感激した様にその手を取る。
「そうね、アメリ様。……今までもカミラ様の行動は過激だと思っていましたが、思い違いでした。貴女がブレーキ役だったのであの程度で済んでいたのですね、さぞ大変でしたでしょう…………、カミラ様に愛想をつかしたらわたくしの下にいらしてもよろしくてよ、好待遇をお約束しますわ」
突然の引き抜きに、カミラは焦った。
「ヴァネッサ様っ! 後生ですからアメリを取らないでくださいましっ!」
「そ、そうですよ。わたしからカミラ様の下を去る事はないので、お気持ちは有り難いのですが……」
「おほほっ、少しからかっただけですわ。――まぁ、アメリ様が欲しいことは真実ですけれど」
「ぐっ、心臓に悪いことを言わないで欲しいですわヴァネッサ様……」
「なら、あまりアメリ様にご負担をかけないように、気を付けなさいねカミラ様。先程だって、噴出する不満の声を押さえて回っていたのですから」
「アメリ……」
「貴女の為に生きるのが、わたしの喜びですから、カミラ様……」
「――アメリっ!」
「――カミラ様!」
ひしっと抱き合う主従。
美しい光景ですわ、と感動するヴァネッサに、ユリシーヌは水を差す。
「楽しそうな所申し訳ありませんが、時間が余りないのではありませんか?」
「ああ、そうでした」
「ですね、伝達事項があるんですカミラ様」
「伝達事項?」
はて、とカミラは首を傾げた。
「それはですねカミラ様だけ魔法禁止のお知らせです。禁止と言っても、先程のあの分身した魔法と、大玉を猛スピードで転がしていたあの変な魔法は、今後使用禁止だそうです」
「悪戯書き、キックとパンチも使用禁止ですわカミラ様」
「ちょっとやりすぎたのは反省してるけど、キックとパンチも駄目なの!?」
「……貴女には、それくらいしないとハンデにならないでしょう?」
「ユリシーヌ様までっ!?」
カミラは叫んだ。
どうやって戦えばいいのだろうか、しかし、全く以て自業自得である。
「なお、張り手や膝蹴り、間接技。その手のもの全部駄目ですよカミラ様。――でもわたし、カミラ様なら何とかなるって信じてますからっ!」
無邪気に信頼するアメリに、カミラはこれ以上なにも言わずに受け入れる事にした。
(や、やったろうじゃないっ!)
「それで、伝達事項はそれだけですか? でしたらそろそろ解放して欲しいのですが……」
「あ、待ってくださいユリシーヌ様、まだお二人に伝える事が」
「でも罰として、そのままお聞きになさってくださいね」
「はーい!」
「了解しました……」
素直に頷く二人を見て、アメリがこほんと咳払いをしてから言い始めた。
「えー、お二人には次の借り物競走にエントリーされているかと存じますが……実は数日前に内容の変更がありまして」
「借り物競走の内容に何か? 障害物でも追加されますの?」
「……いえ、違うでしょう。それ位ならば、わざわざ伝える程の事ではありません。――嫌な予感がします」
きょとんとするカミラとは対称に、警戒するユリシーヌ。
それを見たアメリとヴァネッサは、ニヤリと顔を見合わせた。
「いい線ついてますねユリシーヌ様、でもそれだけじゃありませんよっ!」
「今年はもっと面白く変化を、という事で……」
「今年は何と! 二人三脚障害物借り物競走! に! なりましたっ!」
「二人三脚……」
「障害物借り物競走?」
「去年までの反省を元に、今年から魔法無し。得点に関係ないお遊び競技なので、その辺はご安心くださいませ」
「成る程……なる……ほど…………真逆――っ!」
「ああッ! まさかお二人!?」
カミラは歓喜し飛び上がり、ユリシーヌは臨戦態勢をとった。
――つまり、カミラとユリシーヌはペアとなって走る、と言うことだ。
「おっと、カミラ様。ユリシーヌ様に抱きつくのは後にしてくださいね~。いくらでもくっつけますから」
「むちゅーっ! アメリっ! 愛してるわっ!」
カミラがアメリに感謝のキスを頬に降らせている中、ヴァネッサがユリシーヌを諭す。
「わたくし思いますのよ、勝負もいいと思いますけれど、二人で協力して事を為すのも良いことだって」
「ネッサ……、気持ちはありがたいですが……」
反射的に、どうやって断ろうか、と言葉を探そうとし瞬間、ユリシーヌは考え直す。
そも勝負を挑んだのは、彼女を理解する為だ。
ならばヴァネッサの言葉にも一理ある、と。
「いえ……、それも面白いかもしれませんね」
「受け入れてくれるの!? ホントにっ!」
優しげに放たれた言葉に、カミラの心はうち打ち震えた。
「か、カミラ様!? 何も泣くことはないんじゃ……」
「泣くほど嬉しいなんて、想われてますのねユリシーヌ」
「カミラ様……そんなに……」
(嗚呼、嗚呼――)
『初めて』だった。
初めてだったのだ。こんなに素直に前向きに、ユリウスが二人でいる事を受け入れたのは。
(良かった……『魔王』になって、本当に良かった……私は今、心からそう想う――)
ユリウスの髪の本数さえ把握するカミラだからこそ言える。
強引に既成事実を作っても。
弱みを握り脅迫しても。
快楽で体を蕩かしても。
拷問し、死の淵まで追いつめても、ユリウスと言う人物は心を渡さない。
また、真正面から想いを伝えても駄目だ。
彼の人の国とゼロスへの忠誠心は、例え親しい仲より優先される。
だから、必要だったのだ。
財を為し、権力を握り、王さえ無視できない圧倒的な力だ。
その上で、力付くではない関係を結ぶ必要があった。
そして今、その努力の花が芽吹こうとしている――。
静かに、しかして歓喜の涙を流すカミラを、ユリシーヌは冷静な目で見返していた。
(何故お前は、そんな目で俺を見るんだ――?)
いつもでは無く、でもふとした拍子にカミラから例えようのない視線。
それは懐古に似て、決してそうではなくて。
怖気が走るほど狂気に満ちて、けれど、何処までも優しさに満ちて。
愛というには激しすぎて、恋と言うには静かすぎる。
(まるで、それで正気を保っているような…………いや、考え過ぎか)
突如、かぶりを振ったユリシーヌに、カミラが心配気に寄り添う。
一瞬前とは打って変わってケロリとした表情に、ふと、悪戯心がユリシーヌに芽生えた。
「――カミラ様」
「きゃっ!」
「おおっ!」
「あらあら?」
ユリシーヌはカミラの腰を右手でぐいっと引き寄せると、左手で顎をくいっと上げる。
「どどどどどど、ど、どうした、の? ユリシーヌ様……」
「可憐な乙女カミラ様、私に是非、次の競技をご一緒する光栄を与えては頂けませんか?」
「は、はいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」
何これ面白い、とユリシーヌは微笑んだ。
朝の食堂でアメリが言ったとおり、カミラは攻められるのには慣れていないようだ。
顔を真っ赤にし、目を白黒させるカミラの姿にユリシーヌは満足して頷いた。
(折角だ。これを機に操縦法を見つけるとしよう。……くくッ、楽しい競技になりそうだ)
(え? え? 本当に何なの? 私今死ぬの? 天国にいるの? え、えええええええええええええ!?)
かくて。
立場が逆転しつつあるカミラとユリシーヌの、二人三脚障害借り物競走が始まるのだった。
GWいかがお過ごしでしょうか?
私は仕事です、仕事です……。
それはそれとして、GWで予定のない人は暇でしょうから
「乙女ゲー転生したらモブだったけど、魔王を簒奪したので隠し攻略対象を堕とします!」
は凄い面白いですよ、おすすめですよ!
と有名掲示板や、ネット小説紹介サイトでダイマしてきてください。
カミラ様もきっとお喜びになるでしょう。
では明日も夕方七時に。




