31話 もうカミラ様一人でいいんじゃないかな
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有難う!
「良く頑張ったわね。これでも飲んで、今は体を休めなさい」
「……ありがとう、ございます……はぁ、はぁ」
玉入れの試合は酷いものだった。
結局、カミラがでる幕もなく勝利を得たのだが、それ故にこちらの疲弊が激しかった。
カミラはスポーツドリンクとタオルを、差し入れて回る。
(ふふふっ、見事にしてやられたわね。これからどうしましょうか……)
出場した紅組選手を労いながら、カミラは思案した。
今までの綱引きの結果だけでも判るとおり、カミラの実力からすれば、前に立って鼓舞し指揮する必要もない。
では、何故そうしているか。
それは紅組勝利の為――――ではない。
カミラ本人の勝利の為だ。
(ユリシーヌ様との勝負にも、本来なら私一人で十二分に勝利を重ねられる。――でもそれだけじゃ駄目)
圧倒的な力で以て勝利をもぎ取る。
それは効果的だけど、最初からだと意味がない。
カミラの実力は、ユリシーヌ達が考える以上に隔絶したものだ。
地球という星に、蟻が勝てるだろうか?
つまりはそれ故の――――。
(ええ、紅組の生徒達は正しく枷。――そして、白組に、ユリシーヌ様に付け入らせる“隙”)
カミラ一人には、手も足も出ない。
だがその周囲には策が通じるのではないか。
そう思わせる為の布石。
同時にこれは、ユリシーヌがどれだけ勝負に真剣なのかを計る試験石。
(お遊びや義務じゃない、どれだけ私相手に本気で勝利を望んでくれるのでしょう。いいえ、本気にしてみせる)
敵である白組に甚大な被害を与え、どうあってもユリシーヌが直接出場しなければならない状況へ。
味方である紅組の全てを疲弊させ、たとえ個人競技であってもカミラが出場せざるおえない状況を作り出す為に。
そして、圧倒的な力で以て勝ち得た後に、カミラの真の目的がある。
(ええ、踊りなさい。私の思うが儘に。……そして、私の予想を越え、倒してみせて――)
誰がどう見ても魔王そのものの思考を迸らせるカミラの視線の先に、とある紅組の鉢巻きをした男子生徒がいた。
(やはり来たわね……、でもお甘いわリーベイ様。見知った相手に間諜を使う時は、せめてご自分とは全く関係のない者を使うべきよ)
紅組の生徒は、アメリによって作成されたリストを使い、全員魔法でマークしてある。
そして、あの男子生徒はそのマークが付いていない。
(相手が悪かったわね。それで騙せるのは、その辺の貴族だけよ。――でもいいわ、見逃してあげる)
「ふふっ、ふふふふふっ」
「どうしたのですカミラ先輩、いきなり笑い出して?」
「ふふふっ、皆が頑張って得た勝利、それはとても尊いものだと思って」
「はぁ、良く解りませんが。カミラ先輩が嬉しいなら私も嬉しいです!」
悲しいかな、アメリの様に長い付き合いではないエミリには、カミラの邪悪な本音まで読みとれなかった様だ。
(ええ、ええ、貴方達は尊い尊い――犠牲となるの)
私の勝利、という犠牲に。
「あれ? カミラ先輩何かいいましたか?」
「何でもないわ。……ああ、そろそろ個人競技が始まる時間ね」
「えーと、次は徒競走の50M、100M。それから部活対抗仮装リレーに、三年生の飛行魔法ショー。カミラ先輩が出場なさるのは、その後の大玉転がしで、後は昼休憩の後の午後の部ですね」
「では皆の勝利を期待して、応援しましょうか」
「はいっ! 頑張りますっ!」
「ふふっ、私の分まで個人競技頑張るのよ」
「カミラ先輩に、勝利をっ!」
遠くからの、いたいけな生徒をだまくらかして、というアメリの批判の視線を笑い飛ばしながら、カミラは席に戻った。
□
概ねカミラの予想通りに、事は進んでいた。
自力に劣る紅組生徒達は、当初こそ戦意を保ち勝ち進んでいたが。
魔法薬の副作用で欠場する者、そうでない者もカミラの指揮支援抜きでは勝利を重ねられず、白組との得点差は拮抗状態となっていた。
また、競技が進むにつれ白組からの間諜が増え、中には大胆にも紅組の格好のまま来る者もいた。
勿論それに気づいた生徒もいたが、カミラが何もしないのを見ると。
手を出さずに控えていた。
(ふふっ、残念な事だけど。だから成績が下なのよ貴方達は。もう少し自分の考えで動く事や、疑う事を覚えなさい)
午前部終了まであと少し、残すは大玉転がしと魔法禁止の障害借り物競走。
紅組の生徒達は、既に限界が来ていた。
カミラの席の周りに、辛うじて動ける者が集まる。
「――申し訳ありませんカミラ先輩。次の大玉転がしに出る人達全員、動けないみたいで」
「くそっ! ここまで互角の戦いが出来ているのに……! 面目次第もありませんカミラ様」
口々に謝罪する紅組生徒に、カミラは愛する我が子見守る母の様な笑みを浮かべた。
「いえ、貴方達は最善を尽くしました……。普段、負け続けている相手に、一歩も臆さず立ち向かったではありませんか」
「忝いお言葉、ありがとうございます。しかしそれでは我らの勝利が――」
「団体競技である大玉転がしに欠場とあれば、得点は大幅に白組へと流れ、もしかすると逆転すら不可能になるかもしれません」
膝を付き悔し涙すら流す男子生徒の肩に、カミラはそっと手を置く。
「大丈夫です、手は打ってあります。一人は皆の為に、皆は一人の為に。――個人戦では出場する事の出来なかった身です。……私一人で何とかしましょう」
「そ、そんな! カミラ様お一人で!?」
「ええ、そうです。今ミリアを交渉に行かせています――ああ、ミリア! どうでした?」
駆け寄るミリアに、居合わせた全員の視線が集まった。
「はいっ! 特例として認める! だそうです!」
「うおおおおおおお!」
「これは! カミラ様なら――!」
周囲が大げさに喜ぶ中、ミリアは申し訳なさそうに言う。
「ただし、これっきりで、午後の部はおろか、来年以降も一切認めないそうです……」
「貴女がそんな顔をする理由はないわ。今出場出来るだけで良しとしましょう」
「ああ、なんてお優しいカミラお姉さま――――!」
心配になるくらいチョロイんだけど、ウチの生徒達は将来大丈夫かしら、とカミラは案じたが、それはそれこれはこれ。
「では行ってくるわね。――圧倒的な勝利と言うものを目に焼き付けなさい」
そう言い残して、一人グラウンドに向かって行った。
誰一人その後の惨劇を予想せずに、行かせてしまった。
先ずは結果を言おう――――カミラは、勝利した。
競技が始まるや否や、世界初の分身魔法で幾人にも増え、半分は大玉を転がし、もう半分は妨害へ向かう。
大玉を転がす者達は、重力魔法を使い余裕綽々で進撃し、おまけに光魔法で某エレトクリカルパレード状態。
妨害に向かった人員は、魔法を使うまでもないと、殴る蹴るで、軍の正式重装備の敵妨害部隊をじわじわとなぶり倒し、顔に悪戯書きをして回る
三分も経たない間に、地面に頭から埋もれる者、再びヌルヌルになる者、下着一つで変顔になって気絶する者、etc.etc。
それを目撃してしまった観客、敵味方問わず、今後絶対口にしないと言わしめる惨劇だった。
なお、勝ったはいいが無効試合とされ、得点は無しに終わった。
実はPVも、十万超えてました!
これも皆さまのおかげです!
ありがとうございます(^^♪
では明日も夕方七時にお会いましょう!




