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03話 それは本当に愛なのですかカミラ様?



 ファンタジー学園モノの校内庭園の東屋と言えば、スチルの定番スポットである。

 例に漏れず「聖女の為に鐘は鳴る」でも、メイン攻略対象の王子と、隠しキャラ、ユリシーヌ(ユリウス)と初遭遇時のスチルがこの場所である。


 そこにカミラは、辺境伯令嬢ユリシーヌを呼び出していた。


「ふふふっ、いったいどうしたんですカミラ様。放課後に改まって話がしたい、だなんて。人払いまでして、いったいどんな重要な話なんです?」


 その名の通り、百合が咲くようにたおやかに微笑むユリシーヌに、先ずはと、カミラは茶菓子と紅茶を進める。


「これはカイスの実と……。この香り、カイス葉を使った紅茶ですか」

「ええ、先王の王弟殿下が好んだと言われる品ですわ」


 カイスの実は、先王の王弟カイス殿下が直々に考案した氷菓子で、シャーベットと小さく丸めた。

 言うなれば。前世ではポピュラーなアレである。


 カミラの中の人も、コラボパッケージが発売された折りには、コンビニを梯子して大人買いした挙げ句、自分で作れるようにすらなった、という知られざる逸話がある。


 一方、カイス葉というのは、カイス殿下がこれまた直々に品種改良した茶の木から作られた紅茶の葉の事だ。


 この王国では、どちらも高級品として名が知られており、貴族では味わった者がいない程である。


 だが今回に限りそれは本題ではなく。


 ――罠、なのだ。


「ああ、やっぱり美味しいですわね」


 満足気に味わうユリシーヌの顔を堪能しながら、用意していた言葉を出す。

 あくまで只の雑談、万一誰に聞かれてもそう判断するしかない、他愛もない話運び。


「ええ本当に……、これを作ったカイス殿下はどの様なお人だったのでしょう?」


「あらあら、それが本題ですかカミラ? 私と放課後を過ごしたいなら、わざわざ手紙に大仰な言葉で呼びつけなくてもよろしいのに……」


 くすくすと、どんな少女よりも朗らかに笑うユリシーヌに、カミラもにこやかに嗤い返す。


「カイス殿下は自画像がお嫌いだったらしいわね、だからそのお姿を知る者は、私達にはいない……」


 カミラの様子に不穏なモノを感じたのか、ユリシーヌの顔がほんの微かに強ばる。

 然もあらん。


 実の所、ユリシーヌの父親は――カイス殿下だ。


 そしてそれを知る者は、本人と王族の中でも一握り、前王と現王、そしてこの学園に通う王子、ゼロス殿下のみ。

 ユリシーヌの養父母ですら知らない事実を、暗に知っているぞ、とカミラは匂わしたのだ。


「ええ、少し残念な事だけど」


「ええ、本当に――、残念だわ。カイス殿下は貴女の様に、綺麗な白銀の髪色をしていたそうだから。せめてお姿の写しが残っていれば、どちらが綺麗か見比べられたものを……」


「……嬉しいけれど、それは少し不敬ではなくて、カミラ様」


 困った様に微笑むユリシーヌを、じわじわと追いつめる様に、カミラは続ける。


「そうそう、知っていて? 我が最愛の親友ユリシーヌ。伴侶を持たなかった彼の人は、病死する少し前に大層お綺麗な奥方様を迎えたそうよ」


「――ッ!? 随分広い耳をお持ちのようねカミラ様、何処でそれを?」


「蛇の道は蛇、とでも言っておきましょうか……」


 優雅に紅茶をすすり、まるで悪役令嬢のように不敵な笑みをカミラは浮かべる。

 ――尤も、獲物を前に策謀を巡らす姿は、まるではなく、悪役令嬢そのものであったが。


「ふふっ、少し目が鋭くなってますわよユリシーヌ。美人な貴女は、そんな顔も素敵ね」


「……ふふっ、あらあら。ふざけるのは止しませんか? カミラ、今日は何の用で私を呼んだのです」


 これ以上言おうものなら、決闘も辞さない。そんな顔をするユリシーヌを前に、カミラは挑発する様に口を開く。


「貴女のそんな顔を見る為、と言ったら?」


「――――。貴女とは良い関係を築けていたと思っていたけれど、それは此方の勘違いだったようね。失礼す――ッ!?」


 立ち去ろうとしたユリシーヌを、カミラは魔法で拘束する。

 呪文や予備動作はおろか、魔法具すらを使った形跡もなく魔法を使った事に、ユリシーヌは酷く驚愕した。

 ――そんな事は、人間には不可能なのだ。


 そして、それについて考察する間もなく、次なる衝撃がユリシーヌを襲った。



「忘れ物よ『 ユ リ ウ ス 』」


 その囁かれた言葉と共に渡された写真は、朝アメリが見たものと同じ写真であった。

 即ち、彼女が男だと言う証拠だ。

 更に言えばアメリに見せなかった、ユリウスの裏家業、否、本業の仕事風景を写した写真まである。


「――――ッ! 君は何者なんだカミラ、筆頭宮廷魔法使いと言えど、この事を知ることは出来ない筈だ。そもそも、俺に何の用があって――!?」


 ユリウスの言葉は最後まで紡がれる事は無かった。

 カミラが、物理的に、その自身の唇で彼の者の唇を塞いだからだ。


 ゆっくりと十を数えた後、カミラは顔を放した。


「…………はぁ。私は貴男が欲しい。勿論体だけじゃなくて心も」


「い、いったい何をッ……!?」


「宣戦布告よ、我が最愛のユリシーヌ」


「私は貴男の側に居たい、側に居て欲しい」


「一日中、私の事を考えて欲しい。私が居なければ生きていけない様になって欲しい」


「カミラ……!?」


「だから。そうなってもらう為に、努力して、行動する事にしたの」


 これから、覚悟していてね、とカミラはユリウスの頬を撫でると、東屋から去っていった。

 ユリウス/ユリシーヌは、親友の変貌と秘密を知られた衝撃に、ただ呆然としていた。

 なお、カミラによってこの光景を魔法で見せられていたアメリは、器用にもたったまま泡を吹いて気絶していた。


じゅ、純愛だから……!

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