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27話 嵐の前に朝食を

試験的にタイトル変えました。

好評の様なら、これで行きます。

前の長いのは、それはそれで意味があるものでしたので、これが不評なら戻します。




 魔法体育祭、その朝。

 寄宿舎の食堂は、いつになく賑わっていた。


「当日ともなると、皆この時間にいるもんですねぇ……いつもは結構バラバラで、誰か一人いればいいものなのに」


「まあ、普段は派閥のみの食事が暗黙の了解となっていますからね。こういう時ならではの光景でしょう」


 カミラと空いている席を二人分確保し、アメリは朝食を取りに行く。

 貴族といえど、ここでは学び舎の生徒。

 無用な甘やかしはせず、自分で取りに行くのがルールだ。

 カミラはアメリに甘やかされているので、取りに行った事はないのだが。


「……あら、ユリシーヌ様も今からお食事なのね。アメリ、誘っておいてくれないかしら」


 ユリシーヌに挨拶するアメリを見ながら、カミラは待てをされた子犬の様にそわそわしながら待った。


 そして一方、ユリシーヌを見つけたアメリは、昨日の言の通り、カミラの為に一つの話を打ち明けようとしていた。


「おはようございますっ! ユリシーヌ様っ!」


「ええ、おはようございますアメリ様。今日も元気ですね」


「へへ~。それがわたしの取り柄ですからっ!」


 びしっと敬礼するアメリを、微笑ましい目で見ながらユリシーヌは共に朝食を受け取る列へと並ぶ。


「そうだっ! ユリシーヌ様、わたし達と一緒に食べませんか?」


「ああ、偶にはそれもいいですね」


「なら決まりですね。あ、そうそう。ユリシーヌ様に耳寄りな話を持ってきたんですよ」


「あら、何です? そんな悪い笑みを浮かべて……」


 悪戯そうな笑みを浮かべ、アメリはユリシーヌに顔を近づける。


「お耳を拝借――、実はですねぇ。カミラ様ってば男の方に迫られた経験ないんですよ。だからユリシーヌ様から迫ればもしかすると……」


「――へぇ、それは良いことを聞きました」


 この情報が真実か否か、そもそもカミラの仕掛けではないか、諸々と疑惑が浮かぶ。

 が、しかし――。


(その可能性は薄いと判断するか、……あの性悪魔女もアメリ嬢に対してはどこか神聖なものとして扱っているしな)


 以前カミラに対して調査を行った所、カミラ自身は調査不能な所が多々あったが、その腹心、右腕とも言えるアメリは綺麗なモノだった。

 汚職のおの字どころか、末端の不始末でさえ関わらせない有様。

 よほど大切にされているのだろう。


 そんなアメリが、カミラの弱みを言う意味とは。

 

(――表裏のない彼女の言う事だ。考えるより直接聞いた方が早いか)


 ユリシーヌは自分の分の朝食を受け取った後、アメリもそうするのを待った。


「それで、私にそんな事を聞かせて何が目的なのアメリ様」


「あちゃー、やっぱり解りますか……、あ、そのコーヒー二人分取ってください」


「はいどうぞ、カミラ様は朝はコーヒー派なのですね」


「ありがとうございます。――それですよユリシーヌ様」


「それ?」


 ユリシーヌは辺りを見渡した。

 しかし、アメリの言う“それ”は何処にも見つけられない。


「違いますよ、そうじゃありません。――さっきユリシーヌはカミラ様はコーヒー派だと知りましたよね。“それ”なんですよ」


 ユリシーヌは思案した。

 コーヒー派だという情報は初めて知った。

 だがこの場合コーヒー派そのものに意味はないだろう。

 つまり。


「……カミラ様を、知る?」


 アメリは微笑んだ。


「ええ、わたしはカミラ様がユリシーヌ様に、思いを告げられた事を知っています。そして、カミラ様が不気味なくらいにユリシーヌ様の事をご存じな事も」


「そうね。それに彼女は意味不明な事ばかり言うわ」


 苦笑するユリシーヌに、アメリはウインクした。


「だから“それ”なんです。カミラ様ばっかりユリシーヌ様の事を知っていて、その逆は全然です。それって恋愛としては不平等だと思いませんか?」


「恋愛は兎も角、人間関係という点においてはその通りかもしれません」


 成る程、とユリシーヌは頷いた。

 そう言えばデートの折り“何れ知る”と思ったばかりである。


「だから、知ってください。わたしの敬愛する素敵なカミラ様の事を、たまに意地悪なカミラ様の事を。――――さ、席に行きましょう。あははっ、カミラ様ったら焦れて、今にもこっちに来そうですよ」


「しようのない方。こんな可愛らしい忠臣がいると言うのに……」


「口説き文句は、カミラ様にお願いしますね」


「……違います」


 ぷくーっと頬を膨らませ始めたカミラに、慌てて朝食を持って行くアメリに、ユリシーヌも続いた。



 今日の朝食はスクランブルエッグにソーセージが二本。

 それに焼きたてのクロワッサン。

 デザートには季節の果実入りのヨーグルトである。

 女子の分量で渡される為、本当は男であるユリシーヌとしては足り苦しいのが、毎朝の悩みであった。


「そういえば、足りるんですか?」


 公衆の面前であるが故に、言葉を選んで問いかけるアメリに、ユリシーヌは苦笑して答える。


「実の所は足りませんわ。だからいつも東屋の所で多めにお茶菓子を食べているのです」


「へぇ~。苦労なさっているんですねぇ。あ、そうだっ! これからはカミラ様と一緒に差し入れに行きますよ」

 

 ね、ね。と同意を求めるアメリに、カミラは先程からふくれっ面のままだ。

 それを維持したまま食べているのも、こう、なんていうのだろうか。


(……何だこの気持ち。好ましい、とは少し違う気がする?)


 ユリシーヌが思い悩む隣で、仲の良い主従は微笑ましい茶番を繰り広げていた。


「ふんだ、アメリなんか知らないわ」


「もー。機嫌なおしてくださいよカミラ様、はい、ソーセージです。あーん」


「あーん。もぐもぐ、あら美味しい。外はパリっと、中はジューシー。どこ産かしらこれ?」


「たしかヴァネッサ様の所の特産品だった筈ですよ。次はクロワッサンです、あーん」


「あーん。もぐもぐ。やっぱりパンは出来立てに限るわね。でも許さないわよ、この私を差し置いてユリシーヌ様といちゃいちゃと……」


「もー。だから朝の挨拶をしてただけじゃないですかぁ。それよりユリシーヌ様を誘ったわたしを誉めてくれてもいいんですよ?」


「それは良くやったわ。5カミラポイントを贈呈しましょう。それより次はヨーグルトを頂戴」


「わーいやったー。ってカミラポイントって何ですか初耳ですよ。はいヨーグルトですあーん」


「あーん。あむあむ。流石我が領地で作った柘榴ね、ヨーグルトにも良く合うわ」


「カミラ様の発明した新しい肥料で、味も抜群によくなりましたし、収穫高も倍増ですものね。よっ! 流石カミラ様っ!」


「ふふふっ、そうでしょうそうでしょう! もっと誉めてもいいのよ? …………所でお話って何ですのユリシーヌ様」


「ああ、二人の世界に入ってしまったので、忘れ去られてしまったかと思いましたわ」


 コーヒーにミルクを入れてかき混ぜながら、ユリシーヌはため息をついた。


「えへへ~、いやぁ、カミラ様ってばわたしがいないと駄目駄目なんで、すみません」


「もうっ、何照れてるのよ馬鹿アメリ」


「駄目駄目と言う所は否定なさらないんですねカミラ様……」


「自分の事は、自分が一番解ってますわユリシーヌ様。事実、アメリがいないと私は駄目ですもの。――勿論言うまでも無く、貴女がいなくても駄目なのですよ」


「お気持ちは嬉しいですがカミラ様、スプーンを銜えながら言わないで頂けますか? ええ、それに――」


 続けて淑女としての不作法を注意しようとしたユリシーヌであったが、言葉を止める。


「それに、何ですユリシーヌ様?」


「ああ、いえ……そう言えば、この様な貴女の姿は初めてだな、と」


「…………ユリシーヌ様が、ついにデレだ!?」


「違いますから席に座って、座れくださいカミラ様」


(おや、これは……)


 さっきの助言がさっそく生きた、と喜ぶアメリ。

 ならば陳腐だけれどもこの手ならばと、勢いよく挙手をする。


「はいっ! はーいっ! カミラ様っ! ユリシーヌ様っ! 僭越ながらわたしから提案がありまーすっ!」


「へぇ、言ってみなさいアメリ」


「聞いてから判断します。さ、何ですか?」



「それはですねぇ……、ななな、なーんとっ! お二人で勝負をしたらどうでしょうっ! ちょうど組み分けも違いますし、優勝したチームの方が負けた方に、望む言葉を囁いてもらって、あんま~~いキスをして貰うってのはどうでしょうっ!」


「乗ったわっ!」


 ノータイムで同意したカミラと違い、ユリシーヌは少し考えた。


 アメリの提案は、おそらく先程の“知る”事に起因しているのだろう。

 そしてキスと言っているが、場所を指定していない。

 相手が望む言葉とやらも、言うだけならただだし、第一勝てばいいのだ。


「――――ええ、受けましょう」


「やった! 流石ユリシーヌ様っ! 話が解るぅ~~っ!」


「ふふふ、これは私の風が吹いているわねっ!」


 ユリシーヌには負けても痛手が何ら無い、カミラにとっては絶対に負けられない勝負が始まった――――!



 食事が終わり、ユリシーヌと別れた後。

 カミラはアメリに、一つ指示を下していた。

 折角のアメリの好意だったが、カミラとしては譲れない所があったのだ。

 勝負の結果がどうであれ、それをユリウスに見せつけるのは丁度いい。


「…………本当にするんですかぁ? カミラ様」


「ええ。私達の勝負を全生徒に広めて頂戴。殿下とヴァネッサ様、その下の三人組達は本当の事を。それ以外には、勝ったら相手チームに何でも一つだけ命令できる、とでもしておいて」


「うう、また何か企んでいるんですね……」


「大丈夫よ。きっと、楽しい魔法体育祭になるわ」


 うふふと怪しげに笑うカミラに、アメリは盛大なため息を吐き出した。



明日は二話投稿……でしたがっ!

次の休日に出勤が入り、GWも関係ない私のテンションが下がりつつあるので

暫く二話投稿しません、しても予告なしですね多分。


でも安心してください。

毎日一話投稿ですよ奥さん!

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