25話 カミラ様は良妻賢母の素質ありまぁす! なお。
総合日刊から、カミラ様の霊圧が消えた…!?
(これは……予想外だったわね)
カミラは少し冷や汗をかく。
魔族を護送している馬車とは別に、カミラはユリウスと共にパパ様、もといクラウスと別の馬車に搭乗。
しかし、何だろう、これ。
「いやぁ……流石、あの方のご子息だ。最後の一撃は私も見させて貰いましたが、見事な一撃でしたぞ! はっはっはっ!」
「えっと、あの。(カミラの)お、お父上?」
「誰が貴様のお義父さんじゃあああああああい! あの方の息子であっても、愛しいカミラちゃんは渡さんぞおおおおおおおおおおおおおっ!」
(褒めるか怒るかどちらかにしてください、パパ様――――!?)
迂闊に口を出すと飛び火しかねない為、カミラは扇を開いて顔半分を隠している。
この女、好きな相手を見捨てたぞおい。
(ユリウス様――、私は貴方ならパパ様をなんとかしてくれるって信じてる!)
ばちこーん、とユリウスへウインクを投げるカミラ。
だが、それを目聡く見つけたクラウスが、コワモテ顔で、ユリウスにプレッシャーをかける。
「ほうほう……、目と目で通じ合うか……ほーん。ウチのカミラちゃんと将来を約束した恋仲だと言っていたが、そういうのは、まだ早いんじゃないかなぁ…………」
「く、クラウス様は私とカミラの仲にご反対で?」
「――ふむ、よくぞ聞いた」
先ほど魔族と戦った時より、重苦しい重圧。
ユリウスは、言葉を選び選び、なるべく穏当に話しを運ぼうとしていた。
残念ながら、無駄な努力だったが。
「カミラちゃんはな……、私達には過ぎた子なのだ。没落寸前の子爵だった家を持ち直したどころか、様々な発明品や芸術品、更には画期的な農法で領地のみならず王国の経済まで潤し、魔法の才すら王国一ときたものだ……使用人は言うまでもなく領民にも慕われ、学院にも数多くの友がいるという……、その上、毎年手作りの誕生日プレゼントを欠かさない、そんな出来た娘を! 愛する娘を、馬の骨じゃなくとも、お嫁に出すなんて……! くうううううううううぅっ!」
一気にまくし立て、挙げ句に涙を流しながら悔しがるクラウスに、ユリウスは「あ、はい」と言うしかない。
一方カミラは、感動で涙を流していた。
「パパ様、その様に思って頂けていたなんて……! 愛してますわパパ様~~~~!」
「おお、カミラ~~~~!」
ガシッと堅く抱き合う父娘。
急展開に、最早ユリウスは置いてけぼりだ。
(この子にしてこの親あり……か。今日はセレンディア一族に振り回される日なのか……?)
「パパ様!」
「カミラ!」
このまま麗しい。麗しい? 親子愛の光景のまま城まで着いてくれれば、とユリウスは思ったが。
そうは問屋が卸さない、カミラはカミラだからカミラなのだ。
「……私を愛するパパ様」
「何だい? 私の愛する娘よ」
「――ユリウスとの仲を、認めてくれませ「却下」
「……」
「……」
「――ユリウスとの仲を、認め「却下」
「――ユ「却下」
「せめて最後まで言わせてくれませんかパパ様!?」
「天丼は嫌われるぞ娘よ!」
一歩も引かないと、ふんすっ、と鼻息荒いクラウスにカミラは問いかける。
「せめて理由を教えてはくださいませんか? ――嫁にやりたくない以外で」
「そんなの決まっておるっ! あんな如何わしい場所に行った挙げ句、カミラちゃんに迫られて逃げ出そうとする男など言語道断! カミラちゃんの誘いを断るなど…………ふんっ! 無論、手を出していたらその場で直々に殺しに行っていたがな!」
「私にどうしろというのだ貴方は!?」
「――――というか、見ていたのですかパパ様?」
「あ、ぐっ……それは……」
氷点下まで下がった娘の視線に、クラウスは狼狽えた。
(成る程、セレンディア家は女性のほうが力関係が上なのだな)
ユリウスがややズレた感想を抱く中、カミラの凍てつく微笑みに屈したクラウスが自白を始める。
「いや、後を付けて覗き見ていたのは謝るがな……」
「ほう、後を付けていた、と?」
「ぐうっ……、ううっ、すまぬ。だが聖女装束を奪った魔族を釣り出す為の囮をする、という事ではないかカミラがいくら強くても、その、心配だろう?」
「それならば、部下にやらせればいいではないですか。何故パパ様が直接出張ってきてるのです……。うちの執事や騎士団の者を何名か連れてきているのでしょう? 王との約束ですし、城の兵士を手配してもよかったのでは?」
(昨日は随分と陛下と共にはしゃいでいると思ったが、真逆、あんな馬鹿な話の裏で、そんな約束していたとは……)
「せめて、せめて一言でいいから言っておいてくれカミラ……」
ユリウスは眉間を押さえてため息を一つ。
カミラはその言葉をニッコリと笑って封殺する。
「ふふっ、嫌だわユリウス様。デートという名目は本当でしたのよ。それに――――敵を騙すには先ず味方からと申しましょう?」
「そう言う事にしておいてやる。…………クラウス様? そんな同情した様な顔で肩を叩かないでいただきたい!?」
「そうか…………恋人といえど、苦労しているのだな…………」
「クラウス様!?」
「パパ様、これも愛情ですわ。――そしてユリウス様、騙していた事は謝罪いたしますわ。ごめんなさい。でも王国筆頭魔法使いの座にいる者としては、陛下のご命令には逆らえませんでしたので」
絶対嘘だ、と言う言葉をユリウスは賢明にも飲み込んだ。
表向きは臣下の関係ではあるが、その裏でカミラとジッド王は対等な協力関係だ。
カミラは魔王であるが、現在、魔族は統治していない。するつもりもない。
これはジッド王にも通達している事である。
なお、カミラが魔王の事を両親に何も言っていない事実を、どう受け取るかは難しい所。
故に魔族の犯行は関知していないとはいえ、動かないのは余りにも無責任。
今回のデートにかこつけ、あわよくば実行犯を捕まえるつもりだったが、代わりに有力な情報源が手に入ったので良しとする所である。
「おお、そうだユリウス殿。一つ、話しがあるのだ」
「話し、ですかクラウス様」
義理は果たしたわね、とカミラが考える側で、クラウが世間話という口振りで話しをふる。
目が笑ってないあたり、良い話しでは無いのは確かだ。
「私達が魔法体育祭を観戦する為に、王都に来ているのは話しているね」
「ええ、覚えています」
口元だけを歪ませ、クラウスは笑った。
「――トーナメント、出ることにしたから」
「……は?」
「へぇ、トーナメントに出るんですねパパ様…………うん?」
トーナメントとは魔法体育祭の最終種目、学生による一般種目が終わった後、次の日に行われる学院最強決定戦(飛び入り参加自由)である。
「確かにOBの方が観戦のついでに参加して行きますが、クラウス様も?」
「ああ、今年はタッグバトルだろう? セシリーと共に参加する予定だ」
「――はぁっ!? ママ様もですか!?」
狭い馬車内で、思わずカミラが叫んだ。
「うむ、セシリーも学院の卒業生である事は知っているなカミラ。何を隠そう私達の出会いもトーナメントでな……」
何だか長い惚気話になりそうなので、カミラは単刀直入に疑問を突きつける。
「その話しは後でも出来ますわパパ様。――何故トーナメント参加をユリウス様に話されたのです?」
特に関係無いでしょう? とカミラは続け、ユリウスも頷いた。
だがクラウスは、ユリウスに向けてギロリと目を光らせる。
「先に言っておこう。この話は陛下とゼロス殿下の許可を得てある」
「――――勝負だ、婿どの」
「貴様は『ユリウス』としてカミラと組んで出場し、見事我ら夫婦に打ち勝ってみせよ。……それがカミラとの仲を許す条件だ」
ゴゴゴゴ、と威圧感を出すクラウスに、カミラとユリウスは動揺しながら、瞬時に目と目で会話した。
(どういう事だ性悪魔女ッ!?)
(違います誤解です、私だって知らなかったんです!)
(…………一応、今の俺達は恋人設定だ。――この貸し、高くつくぞ)
(ええ、倍にして返してあげますから、後生ですのでマジお願いします)
――この間、コンマ一秒である。
「解りました。それで許して貰えるなら、私は『ユリシーヌ』ではなく『ユリウス』として出場し、カミラと共に見事、勝利してみせましょう」
「無論、ハンデはあげますわパパ様。私は攻撃魔法は使いません。――だってユリウス様はお強いですから」
「――カミラッ!? 何故不利になる様な事を!? 驕りすぎだッ!」
「そうだぞ我が娘よ、国一番のお前程ではないが、我らも結構やるものだぞ、遠慮はいらん」
「ふふっ、驕りでも遠慮でもありませんわ。強いて言うなら、娘としての“矜持”ですわね」
涼しい顔で言うカミラ。
なお勿論の事、矜持などではない。
ただ単に、まだ魔王の魔力を持て余しているだけなのだ。
(うっかり攻撃魔法を使ったら、王都を更地にしてしまいそう、だなんて言えませんしね……)
「……何か策があるんだな。信用しているぞカミラ」
「成る程、そう宣言する事ですら、もう策の内という事だな我が娘よ。……うう、成長したな!」
「うふふふふっ、ご自由にお取りくださいな(これで学院でもユリウスと正々堂々いられるやったー、パパ様大好き! 王様グッジョーブ!)」
禄でもない勘違いを生みながら、馬車は城へと到着したのであった。
どうした!? 皆の愛するカミラ様のご活躍が、総合日刊から消えているぞ!?
ふぅむ、まだまだカミラ様への貢ぎ物が足りないようで。
これはまだ、ブクマと評価をしていないカミラ様信者がおりますな……。
さぁ、ブクマと評価をしてない学院生徒達よ、ぽちっと押すのですぞ!
戯言はさておき、来週も二話投稿しますが。
私の執筆速度が微妙におっつかないので、飛び飛びに二話投稿します。
ああ、ご心配なく。
そうでない日でも、夕方七時には確実に毎日投稿しますので。
では来週も、サービスサービスぅ!




