24話 止まらない黒幕ムーブ……何故カミラ様はヒロインなんだ?
すげぇよ……、昼に投稿しなくても日刊からランク外になってないぞ……!?
まさか、愛されているとでもいうのか!? カミラ様を? みんなカミラ様が好きなのか!?
「――うおおおおッ!」
「グオアッ! やるな貴様――」
月のない真昼の夜の中、ユリウスの剣線が煌めき、魔族の攻撃をいなしていた。
通常ならば実力者とはいえ、未だ騎士にも兵士にもなっていない学生が魔族に勝てる筈が無い。
しかしカミラの見立てでは、魔族との実戦経験が乏しくとも、魔族では無くユリウスの優位。
その要因は――――“聖剣ランブッシュ”
経験や身体的な差を容易に覆す“聖剣”という存在は、魔族相手には非常に有利なのだ。
(悪くはないけれど、もしもの事を考えたら、ユリウスの実戦の機会を増やしておくべきかしら? ――何にせよ、まだ私の動く時ではない)
魔族との戦闘、この状況すらもカミラの想定通りであり、今日最後の目的であった。
(もうすぐ、兵達が駆けつけるでしょう。そして彼らは知る事となるわ)
王家に伝わる聖剣を振るう男。
三十年前の勇者の面影を持ち、魔族を倒す実力者の存在を。
――おまけで、カミラの恋人(偽)であると言うことを。
つまりこれは、ユリウスという名を王国に知らしめ、男としての居場所を作る。
外堀を埋める一環なのだ。
(人間に憑依出来ていた辺り、そこそこの実力者なんでしょうけど…………、魔族の真の姿ってどれも似たり寄ったりで、判別しにくいわね。誰でしたっけ? 四天王とかの側近クラスは、あの時一緒に吹き飛ばしてしまったから違う筈だけど……?)
カミラは魔族をしみじみと観察する。
全身、黒よりの紫色の肌で筋骨隆々。
大きな手には鋭い鉤爪。
額から二対の角が生えている。
――前世の昔話であった『鬼』そのものだ。
(ゲームではありきたりなデザインだと思っていたけど、実際見てみると迫力あるものね。あの時はじっくり見てる暇なんて無かったし、前の魔王は線の細いイケメンだったし)
そういえば、魔族は力が強いほどイケメンになるという設定があった。
ならば精悍な顔立ちをしている、目の前の魔族は、相応な実力者。
(これは……、万が一があり得るかしら?)
ユリウスの実力は把握している、だが相手の潜在的な強さは推し量れても、実力は未知数だ。
――カミラは迷ってる間にも、戦闘は続いている。
「――その腕、貰い受けるッ!」
「やらせるかよッ! オラァ! お返し、だッ!」
右腕を狙ったユリウスの攻撃は弾かれ、代わりにボディへの一撃ではね飛ばされ、カミラの足下まで転がってくる。
「ふふっ、苦戦している様ねユリウス様。――手助けはご必要で?」
「――この性悪魔女め、何のために俺だけを戦わせているのか解らないが、今はお前の力が必要だ」
カミラの差し出した手を無視し、自力で立ち上がったユリウスは、再び聖剣を構える。
「何が欲しいですか?」
「一瞬でいい、隙を作ってくれれば十分だ。――――いくぞッ!」
魔族へ向かって駆け出すユリウス。
その背をはすはすしながら見つめ、カミラは機を伺った。
「よう聖剣頼みの兄ちゃんッ! 遺言はすませてきたかいッ!」
「ほざけッ! 貴様こそ、辞世の句でも考えておくのだなッ!」
激突する両者。
激しい火花が飛び散り、一合二合と振るわれる度に、互い傷が増えていく。
(聖剣と接触しても大丈夫な魔族を褒めるべきか、聖剣の力を引き出せずとも互角に戦えているユリウス様を褒めるべきかしら?)
ともあれ、そろそろ潮時だ。
背後に聞こえる軍靴の足音を聞きながら、カミラはそっと右手を前に伸ばす。
「――止まりなさい」
たった一言。
魔法を使ったわけでもない、魔力を乗せたのでもない。
ただの一言、それだけで魔族の体勢は崩れ、ガクッと片膝を着く。
そして、それを見逃すユリウスではない。
「覚悟――――ッ!」
「ちぃいいいいいいッ――――!」
ユリウスは斜め上から聖剣を振り下ろし、魔族の左腕と左足を切り落とす。
そのまま左上へ振り上げ、必殺のV字切りが完成するかと思われた。
だが――――。
「…………ああ、強えぇな、強えぇな兄ちゃん。オレはもう何も出来ねぇ。だから止めを刺す前に、ちょいと待っちゃくれないか」
ギリギリの所でカミラの言葉の重圧から逃れた魔族は、あえて無事な右足を犠牲にすることで、ユリウスの間合いから逃れてみせた。
「――ふん、まだ右腕が残っているだろう。俺はその心臓を潰すまで油断しない」
隙なく魔族に近づくユリウス、その顔に慈悲の光は無い。
躊躇せずに聖剣を振り下ろそうとした瞬間、カミラは制止した。
「待ってくださいユリウス様。生け捕りにするのです!」
「了解した、『万物を統べる――』」
拘束呪文を詠唱し始めたユリウスに気づき、魔族は顔色を変える。
「くッ、生け捕りになどされてたまるかッ――――!」
「――自害を禁ず」
「――馬鹿なッ!?」
魔族の両目が驚愕に見開いた。
種族特有の金色の目を揺らし、カミラを見つめる。
「嬢ちゃん、いや、貴女様は真逆――――ぐうッ!?」
何かを言い掛けた直後、ユリウスの魔法発動し魔族は蓑虫みたいに転がった。
自害を許さないように、口輪まで完備である。
「カミラ!? 何故ここに? それにユリウス殿!? この魔族は」
「あら、パパ様達が一番乗りですか? どうです見事なものでしょう。――ユリウス様が王都に進入した魔族を見事打ち倒し、生け捕りにしたのですわっ!」
「おおーー!」
「貴族の坊ちゃんみてぇだが、凄いじゃねぇか!」
「馬鹿お前っ! お貴族様だぞ、もうちょっと丁寧な言葉使いをせんかっ! ――ありがとうございます。お二人のお陰で、魔族の被害を事前にくい止める事が出来たようで」
「……見たかよ、あの剣。もしかして聖剣なんじゃ」
「いやでも、聖剣って言えば亡きカイス殿下の持ち物じゃなかったか?」
「じゃあ、あの銀髪の若いのはいったい……?」
ユリウスが何か言う前に、先手を打ってカミラが賛辞すると。
パパ様、もといクラウスと衛兵達がユリウスを取り囲み、褒め称え始める。
(ふふっ、この一件と後もう一押し、その後でユリシーヌ=ユリウスという事を世間に知らしめる。我ながら完璧な作戦だわ)
人はそれを陰謀とか、卑怯な外堀埋めとか言います。
ともあれカミラは、やんや、やんやと胴上げまでされ始めたユリウス放置して、魔族へ近づく。
騒ぎに加わりたそうな見張り番を、変わるからと言って追い払い。
カミラは魔族と二人きりになった。
「ふふっ、これなら誰にも聞かれずに話しが出来ますわね」
「…………」
「あら、折角お口を自由にして差し上げたのに黙りですの?」
悔しさと怯え混じりにカミラを見ていた魔族は、怖々と話し始める。
その顔には、縋り求める様な『何か』があった。
「何故こんな……いや、そもそも。貴女様は『何』だ?」
「ただの、人間。ですわ――――『魔王』という存在そのモノを奪った」
「――――ッ!? やはり、貴女は……、いや、何故だ? それは魔族にしか受け継がれない、受け継ぐことのできないもの。何故……。ああ、教えてください。貴女は我らの新しき王なのですか……」
絞り出された言葉に、カミラは嗤った。
「はい、いいえ。私に魔族は必要ありませんから」
「そんな……、では我らはどうすれば……。いや、それならば何故前王を……、どうして人間なんかが……」
カミラに拒否された魔族は、途端に青い顔となりぶつぶつと呟き項垂れる。
それをカミラは、憐れみながら見下ろした。
「悲しいものね貴方達という存在は。……なまじ魔王への絶対服従がプログラムされているから。こんな不完全な私にでも反抗することが、憎み、恨み、怒る事すらできない」
「何故……、どうして……、我ら魔族は……、ああ、ああ、ディジーグリーは知っていたのか……」
「ディジーグリー……」
やはり、とカミラは頷いた。
原作では魔王復活を目論む黒幕ディジーグリー。
学院長ディンに憑依して、善人のふりをしてセーラ達を誘導していた。
カミラとしては、倒した所で死亡フラグが消えるわけではなかった為、すっかり失念していたのだった。
「成る程、いえ予想してしかるべきだったわね。――『命じる』私の事は話すな。ただしディジーグリーの事は聞かれたら話せ」
「――――くッ。わかった」
先程とは違い、魔王権限を以てしっかりと命令する。
続いて、カミラは慈愛の笑みを浮かべて言祝いだ。
「哀れなる者よ、操られし定めにある者よ。貴方の、今私の目の前にいる貴方にだけ、魔族の縛りから解放します。もう魔王に『服従しないでいい』わ、そして私を『恨んでいい』『怒っていい』『復讐を許します』だから、もし貴方が生きながらえたら――『自由に生きなさい』」
「…………は?」
何を言われたかを即座には理解できず、ただ目をきょろきょろさせる魔族。
カミラは用は終わったから、と立ち上がると。未だユリウスを囲み騒ぎ続ける兵達に声をかけた。
「はいはーーーーい! 注目っ! 注目っ! 撤収準備始めっ――――!」
我に返ったクラウスと兵達は、直ちに魔族を護送する体勢を整え始めた。
明日も、夕方七時に投稿です。
何かおねだりしようと思ってたのですが、いい文言が思い浮かびませんでした。
あ、いつものは続けてお願いします(だが一人一回だという)
月曜から気合いでまた、二話投稿予定です。




