15話 愉快なセレンディア一家
誤字脱字報告や質問など、気になったら気軽に聞いてください!
と言いつつ、全ての質問に答えたり、ご指摘を反映できるかは分りませんが。
その日の夕刻前、カミラ達の寄宿舎に一組の訪問客があった。
即ち――セレンディア夫妻である。
「いやはや、わざわざ殿下達が出迎えてくださるとは、このクラウス・セレンディア、光栄の至りでありますぞ! わっはっはー!」
「お久しぶりでございます殿下。ごきげんようヴァネッサ様、うちの馬鹿娘がご迷惑をおかけしてますよね。申し訳ありません」
「いやいや、カミラ嬢には世話になってばかりで」
「そんな、頭をお上げくださいセシリー様。本当にカミラ様には色々助けて貰って……」
夫妻の到着を聞き、急ぎ戻った三人が見たモノは、四人による挨拶合戦だった。
「パパ様! ママ様! 久しぶりね!」
第一声、喜色の笑みで放たれたカミラの言葉に、夫妻以外が固まる。
……パパ様? ママ様?
パパママだけでもミスマッチなのに、その上『様』付けとはこれいかに。
唯一の例外はアメリで、あー、と苦笑いしていた。
「数日ぶりですねクラウス叔父様、セシリー叔母様」
「ええ、こんにちわアメリ。まったく貴女はよく会いに来てくれるのに、この子ったら、誕生日以来ちっとも顔を出さないのですもの」
「そうだぞカミラ。パパは寂しかったんだからな、もう少し頻繁に帰ってきなさい」
「いい加減、子離れしてくださらない? パパ様、ママ様。アメリは用があるのでそちらに寄越しているだけです。普通の学生生活があるのに、頻繁に帰れるわけがないでしょう」
学院には各自の領地から通って居るものもいるが、それは王都近隣の領地の者の中でもごく少数だ。
大概は、王都貴族街の別邸から通うものが大半である。
それはさておき、存在に見合わぬ、カミラのパパ様、ママ様呼びの衝撃からいち早く復帰したユリシーヌがおずおずと中に割り入る。
「そ、そのカミラ様?」
「ああ。パパ様、紹介するわ――こちら学院一と名高い『白銀』のユリシーヌ様」
「初めまして、ユリシーヌ・エインズワースですわ。以後お見知りおきを――クラウス様? 私の顔に何か?」
ユリシーヌを見た途端、クラウスはずいっと身を乗り出し、じろじろと無遠慮にユリシーヌを見聞し始めた。
「アナタ、失礼ですよ。カミラのお友達に何かご不満でも?」
親子は似るという事だろうか、若干悋気を出しながら夫を注意するセシリー。
しかしクラウスは意に介さずジロジロと見た。
「いや、何故かとてつもなく懐かしい気がするのだ。昔どこかで見た覚えが…………うーん」
父の詳しい経歴など知らないカミラと、同じくユリシーヌを中心に、誰もがクラウスの奇行に戸惑っていたが、唯一、思い至ったゼロス王子だけが焦り始めた。
(――はっ! そういえば聞いたことがある。セレンディア伯爵は若い頃、勇者であったユリウスの父親の従者をしていたと、それも剣の愛弟子とも言える存在だったとか! ま、まずい、ユリウスの事情がバレかねない!?)
「あっ! あーーっ! いやー、セレンディア伯爵! そういえば先程少し風変わりな形で、ご息女から呼ばれていたな! 理由を伺ってもよいか! なぁヴァネッサ!」
「えっ、え、殿下? あ、はい。わたくしも気になりますわ」
さり気なく立ち位置を変え、ユリシーヌを庇うように動きを見せるゼロスに、カミラも事情はわからぬとも意を組み、父の背を押して誘導する。
(た、助かった……。しかし何処かの夜会ででも、あっていたのか……?)
(――これは、パパ様とユリシーヌ様の間になにか……、いえあのご様子では直に何かではないわ。もっと間接的に…………ユリシーヌ様の親族、いえその父親である先王の弟と、過去に何かあったと見るべきね、後でアメリに調べさせて、何か知ってそうな殿下にも『お話』しなくてはね)
たったこれだけで、ほぼ正解まで行き着いたカミラの変態性による、降りかかる今後の苦労も知る由もなく、アメリはパパ様ママ様問題を解説し始めた。
「はいっ! はいっ! 僭越ながらここはわたしが説明させて戴きますっ!」
「あら、お願いねアメリ」
「お任せくださいセシリー叔母様。……こほん。話せば長くなりますが遡ること六年前、流石のカミラ様もパパママでは恥ずかしい、で結果こうなりました」
「短いし端折りすぎだぞアメリ嬢!」
「はっはっは、アメリは相変わらずお茶目さんだね。いやはや殿下、私どもと親としてはですね、いつまでも可愛いらしくパパママと呼んでほしかったんですが……」
「あの子が嫌がりまして、三ヶ月の協議の末、パパ様、ママ様と」
(叔父様達、カミラ様を溺愛しすぎじゃないですかねぇ……)
はっはっは、うふふと朗らかに笑う夫妻に、アメリだけでなく、カミラですらまったく同じ感想を抱いたが、誰もツッコめる者はいなかった。
然もあらん。
「しかし、何をしに王都へ? 魔法体育祭の観戦にいらっしゃるには、まだ少し早いですわ。――ただ私に会いに来たのではないでしょう?」
「あらいやだわ。まだ用件を言ってなかったわね」
「なら、そういう事なら、そろそろ我々はお暇しましょう。後はご家族でゆるりと歓談せよ」
そう気を使って退出しようとした王子を、クラウスが引き留める。
「殿下しばしお待ちを。殿下にも関係するゆえ」
「ふふふっ、カミラちゃん。今日は大事な大事なお話を持ってきたの!」
にこにこと笑う母の姿と、むっつりした父に、カミラの第六感が警報を打ち鳴らす。
――悪い予感しかしない。
「……ママ様、その、大事な話とは?」
他の者があのカミラを、カミラちゃん……、と再び驚く中、もっと強い衝撃をセシリーは落とした。
「貴女に縁談の話しが持ち上がりました。――相手はそこにいるゼロス殿下ですわ!」
「――は?」
「――え?」
「――うっそお!」
「聞いてませんわよっ! 浮気ですかゼロスっ!」
「ぱぱぱぱぱぱ、パパ様っ! ママ様っ!?」
「くっ……、こんなに早くお嫁に行かせなければならないなんて……! ヴァネッサ様に続く、第二婦人としてお嫁に、お嫁に~~~~、うおおおおおおっ! パパはお前がお嫁に行くなんて認めな――」
「――ステイ、アナタ」
「わん」
「というわけで、明日お見合いなのでよろしくねカミラちゃん」
「えええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇっ!」
その日轟いた声は、学院中に響き渡っていたという。
いいですよね、お見合い騒動
これぞラブコメって感じがしますよね!
という訳で、数日はこのお見合い騒動にお付き合いください。
明日は朝七時過ぎの更新予定です。