140話 乙女ゲー転生したらモブだったけど、ループの末に魔王を簒奪したので、今度は隠し攻略対象を堕として幸せになりました!
「先ずは小手調べといきましょうか。聖剣・最大解放――――」
時間操作による瞬間移動で大きく距離を取ったシーダ0は、聖剣を対新人類用処刑モードに展開。
同時に、魔王の権限にて膨大な魔力を使用し、空が見えなくなるほど魔光弾を打ち出す。
「何が小手調べよ初代バカオンナぁっ! 全力全開じゃんっ! アメリ! アタシの後ろに隠れときなさいっ!」
「ちぃっ! あれが魔王の力なら、聖剣で対応出来る筈だ、やれるかユリウス!」
ユリウスは即座に返答しようとした。
今は一刻を争う事態、――――――――だが。
「止まりなさい“私”! でなければユリウスを殺す」
「――――…………へ?」
瞬間、空気が凍り付いた。
こともあろうに、カミラはユリウスの首筋にいつの間にか取り出したナイフを当てている。
「…………うん? カミラ? お前、何やってるんだ?」
「その手があった! でかしたバカオンナ!」
「カミラ様!? 何してるんですかっ!? ここは盛大なバトルが始まる所じゃないんですかっ!?」
「なるほどなぁ…………こういう手もアリなのか…………」
ガルドが余計な事をラーニングしているのはさておき、シーダ0でさえも、ちょっと思考が追いつかない。
ドヤ顔で、最愛の恋人を人質に取る“自分”に、どう対処すればいいのだろうか。
「――――え、待って。本当に待って、それは無い。無いわよ“私”!?」
「勝てばいいのよ勝てば」
同じ存在だというのに、この差。
ユリウスは命の危機だというのに、興味深げに見守る。
「今は、最終決戦で、こう、ラストバトルだ! 的に盛り上がる所じゃないの!? 私を乗り越えて、過去の全てを乗り越えるとか、そんな感じじゃないのっ!?」
これが今までで一番幸せな“自分”のやり方なのか。
過去の“自分”は、全て乗ってきてくれたというのに。
困惑を隠せないシーダ0に、同調するはユリウス以外の味方。
「…………普通はそうですよねぇ」
こくこく、と頷くアメリ。
「ご愁傷様ね、初代バカオンナ。育てすぎたのよ最新型を、ご覧の通り脳味噌あっぱらぱーじゃない」
同情の視線百パーセントのセーラ。
「余も、流石に同情するぞ…………過去の繰り返しでも、そういえば見かけたなぁ…………そうかぁ、生で感じるのはこんなにやるせないのか…………」
「これでいいのかねぇ…………」
ガルドとフライディアは、気まずそうな顔で。
当のカミラは、そんな空気を全く無視して号令をかける。
「――――さぁ、ボコりなさい皆。全ての因縁に決着を付けるときっ!」
「キリっとした顔で言うんじゃないわよ“私”!? というか、それでいいのユリウス・エインズワース!」
シーダ0の悲痛な叫びに、ユリウスへ視線が集まる。
何を言うのか、肯定か否定か、兎も角これで事態が動く。
緊張が走る中、カミラは一言告げる。
「解っているわね、ユリウス」
「ああ、勿論だカミラ。――――観念しろシーダ0、お前がその圧倒的な力を振るうというなら」
ごくり、と誰かが唾を飲み込む音が聞こえた。
「俺は――――、カミラを殺す!」
ナイフを突きつけるカミラと同じく、ユリウスは聖剣をカミラの首筋に当てる。
「貴男も頭沸いてるんじゃないのっ!?」
「ふふっ――――それでこそユリウス」
「何、死ぬ時は一緒だカミラ…………」
「何なのよもおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!?」
特に戦闘行為があった訳でもないのに、激しく疲労した様に、聖剣を地面に突き刺し杖にするシーダ0。
(――――引っかかったわね“私”ぃっ!)
内面で、ウケケケと笑い声を上げながらカミラは次なる策を実行、タキオン粒子の移動を察知されないように慎重に操作を始める。
(信じていたわ。ユリウスならば私に着いてきてくれるって! 必要なのは“私”の意識を戦闘から反らす事、そして、私に聖剣が接触する事)
どーすんだこの事態、という微妙過ぎる空気の中、カミラはユリウスに謝罪する。
「ごめんなさいねユリウス」
「何を指すのか解らないが、存分にやれよ。俺はお前と共に行くだけだ」
「ちょっと、何を――――」
その会話に違和感を覚えたシーダ0が問いただすも、時は遅し。
カミラの“策”が発動する。
「――――『其は同一である』『滅せよ』」
「ッ!? 聖剣が、消える――――ッ!?」
たったの二語、カミラが発しただけで、ユリウスの聖剣が光に分解されて消えていく。
同時に、シーダ0の聖剣も光の粒子となって消えゆく。
「はっ!? ――――真逆!? やってくれたわね“私”いいいいいいいいいい!?」
「何をしたんですかカミラ様!? 大事な聖剣を消しちゃなんて!?」
目を丸くするシーダ0とアメリ達、その中でユリウスは冷静にカミラの行動を分析した。
「――――人質は時間稼ぎ。いや、成功しても失敗してもどちらでもよかった。本命はあちらのカミラの戦力を削ぐ事」
「シーダ0の聖剣は、ユリウスの聖剣と同一の物よ。けれど、シーダ0の力が、タイムパラドックスを避けた上で、違う存在にしていた」
説明するカミラを、シーダ0は睨みつける。
「因果、消滅――――!」
「ええ、そうよ“私”。だから私は貴女の聖剣とユリウスの時間的な“因果”を結んだ。そしてその上で消滅させれば」
「成る程、俺達は聖剣を喪うが、あちらもまた同様という事か」
シーダ0と敵対する上で注意すべき点は三つ。
一つ、魔王の圧倒的な魔力。
一つ、時空間操作能力。
一つ、対新人類処刑用機能が解放された聖剣。
魔力の問題は、個々の能力で対応が可能だ。
時空間操作は、カミラで何とかなる。
だが、掠めただけで死に至る聖剣だけが、どうしようもない問題であった。
それが今――――無くなった。
「馬鹿ね“私”。問答無用で殴ってくれば良かったのよ」
「あ、カミラ。後でお仕置きだぞ、有効な手なのは解るがせめて事前に可能性くらい伝えておけ」
「大丈夫よ。王様達には、魔王討伐と引き替えに喪われたって説明しておくから」
「そういう問題じゃないですよカミラ様!」
後は囲んで殴るだけ、と軽口を叩きながら近づくカミラ達。
シーダ0はその光景に、絶望を覚えた。
(嗚呼、嗚呼、嗚呼、嗚呼、嗚呼、嗚呼――――――)
何故、こうなるのだろう。
何故、こうなってしまうのだろう。
シーダ0の心に、黒い暗雲が立ちこめる。
焼けて乾いた大地に、恵みの雨など降らせず、日光すら、青空すら遮り始める。
(消えて、消えてしまった。たった一つしかなかったのに。ユリウスとの思い出の品、あれが最後の一つだったのに…………)
目の前のカミラ達の光景こそ、シーダ0が望んで止まないモノだった。
(嗚呼、嗚呼、嗚呼、何故あそこに私はいないの?)
(何故、私とユリウスはあの場所にいないの?)
解ってた、理解はしていた筈だった。
(過去の自分をいくら救っても、私のユリウスは戻ってこない。幸せになんて、決してなれない…………)
でも、他に方法が思い浮かばなかった。
過去に戻って自分に憑依し、やり直すべきだったのか。
しかしそれは、ユリウスに再び“死”を味あわせる事と同義であり。
何より。
(それはループでの犠牲を、全て無に返す事と同じよ…………)
選べなかった。
(気付いていたわ、そうするべきだって、でも、駄目なのよ、無理なのよ…………)
シーダ0となり平行世界を渡っていく中、気付いてしまった。
(私はもう、――――戻れない)
時空の因果から切り離され、シーダ0になる前の世界には戻れない。
(何処に元の世界があるのか判らない。世界を渡る力でさえ衰えて、後何回もどれるか。それに)
戻った所でその場所には、シーダ0となる前の絶望のまま死に至る別の自分が居るだけだ。
(私という存在は、“カミラ・セレンディア”から外れてしまった)
だからもう、憑依は出来ない。
シーダ0は永遠に、彼女が愛したユリウスに出会う事は無い。
(嗚呼、嗚呼、嗚呼――――)
許せるものか。
許してなるものか。
カミラ達がシーダ0の至近距離まで迫った時、彼女は顔を上げる。
「――――聖剣を奪った所で、倒せるとは思わない事ね」
「あら、奥の手があるのかしら? プレゼントを送りたいから、後日にして欲しいのだけれど」
哀れみの視線を投げかける“自分”が憎い。
隣に居る元気な姿のユリウスが憎い。
セーラもアメリも、ガルドもフライ・ディアも全部、全部が憎い。
「目障りなのよ“私”! どいつもこいつもっ! 私の目の前で幸せになってっ!」
シーダ0は銀の懐中時計を握りしめ、タキオンを注ぎ込む。
「――――っ!? 皆、距離を取りなさい! 仕掛けてくるわっ!」
時間停止による瞬間移動からの各個撃破、或いは、逃亡か。
カミラが判断する前に、シーダ0の“奥の手”が完成する。
「最後に頼れるのは、結局自分自身のみっ! ――――この恨み、晴らさでおくべきかあああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」
瞬間、シーダ0が大量に出現した。
「はぁっ!? 増えたぁっ!? ちょっとカミラ! 向こうのアンタは何考えてんのよっ!?」
「ど、どうするんですかカミラ様!?」
「増えた分だけ、魔王の魔力は分散するわっ! 捕まらない様に倒しなさいっ!」
「無茶言うなカミラっ!? そなた剣術も格闘も魔法も、全部一級品ではないかっ!」
あーだこーだと叫びつつ逃げまどう皆に、カミラは叫ぶ。
「固まって行動っ! セーラとアメリは囮っ! 魔法はガルドと私がっ! ユリウスとフライ・ディアは物理で殴りなさいっ! 一定のダメージを受ければ消えるわっ!」
「「「時間稼ぎなんてさせないっ! このまま仲良く死に晒せえええええええええええっ!」」」
――――それは、悪夢の様な状況だった。
国一番、否、人類最強の存在が、一斉に襲いかかる。
カミラの指示は有効だが、三十分も過ぎるとボロが出始める。
いくら倒しても、無尽蔵に沸いて出てくるのだ。
無限の最強と有限の有能、どちらが有利かは考える迄も無い。
「どうするんだカミラッ! このままだとジリ貧だッ! ――――このッ! このッ!」
「オラァ! ――――オレはまだまだイケるっ! が嬢ちゃん達は限界が近いぞっ!」
「カミラ! すまないが魔力が切れそうだっ!」
「も、もう限界ですよぉカミラ様あああああああああああああああああ!」
「ああ、もうっ! 何とかならないのカミラっ!」
「「「じわじわと嬲り殺しにしてあげるっ!」」」
カミラとて、ただ目の前の敵を倒していた訳ではない。
時には極光・雷神撃で纏めて殲滅しても、分身体は直ぐに復活し、対処法を覚えたシーダ0には通用しない。
(――――ちぃっ! キリが無いっ! この分だと、“私”が侵・雷神掌どころか、極光まで使える様になるまで、そう長くは無いわっ!)
カミラは一瞬の躊躇いの後、切り札、先ほどから言っている“プレゼント”の準備を始める。
(時間制限があるから、無力化してからにしたかったけれど、甘い考えだったようね)
銀時計を握りしめ、カミラは叫んだ。
「――――援軍を呼ぶわっ! 後一分持たせなさいっ!」
「「「させるものかっ!」」」
動きを止めたカミラに、シーダ0達は殺到。
彼女は確信している、この“手”を通せば分が悪くなると。
同じ存在なのだ、この場で出すモノが、ただの援軍である筈が無い。
ユリウス達もまた、カミラを信じて群がるシーダ0を必死に排除する。
「――――ねぇ、聞きなさい“私”」
カミラは語りかける。奇跡の雷により、戦場の外からタキオン粒子を直接運びながら。
「私は教えてもらったわ。圧倒的な力を、特異な力を振りかざし何かを排除する事は、幸せにはつながらないって」
銀の懐中時計に、世界中のタキオン粒子が集まる。
「誰かを支配する事も、自分ですら犠牲にする必要なんてない」
集まったタキオン粒子は、銀時計を通じ、時間、世界を超えて七〇四の銀時計へ。
「貴女は見つけるべきだったのよ、ユリウス以外にも大切な人を、切り捨てられない人々を」
繋がる、シーダ0に救われたカミラ達に。
「憎悪に染まるなんて、みっともないわ。忘れたの? 私は誰かから奪ってきた分、幸せに生きなければならない事を」
それは一度きりの奇跡、繋がった先のカミラ達は、それぞれのユリウスの手を手に取る。
「貴女には感謝しているわ。けれど言わせて貰う、――――根本から間違っているのよ。後生大事に遺品なんて抱えて、後悔だけで何回も何回も繰り返して」
プレゼントの完成が近づく。カミラ達の周囲に、シーダ0達を囲むように、時空の歪みが出現する。
「理解している筈よ、私を殺して成り代わっても。ユリウスは貴女の愛したユリウスでは無いし、私のユリウスもまた、貴女を愛する事は無いって」
「「「全てを得た“私”が言うなあああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」」」
カミラが語りかける度に、シーダ0の怨嗟の声と攻撃は激しさを増し。
けれどユリウス達は、髪の毛の先一つ掴ませない程、完璧に防いでみせた。
「ありがとうユリウス、そして皆」
目を閉じて深呼吸を一つ、続いてゆっくりと瞼を開け、黄金の瞳でカミラは世界を見る。
「そろそろ前を向きましょう“私”。――――『開け、プレゼントボックス』」
その言葉が響いた瞬間、時空の歪みは人の形を取る。
「「「な、何が――――」」」
一人では無い、二人。
「カーテンコールの時間よ“私”」
七〇四組の二人が、その輪郭を明らかにしていく。
「これは…………カミラ様!?」
「俺も居る? ――――そういう事かッ!」
「数には数を、理屈は判るけどさ」
「まったく、カミラらしいな、余には無理だな」
「でしょうな、嬢ちゃんにしか出来ねぇよ」
カミラはニヤリと笑って、号令をかけた。
「蹂躙するわよ“私達”――――っ!」
「「「行くわよユリウスっ!」」」
形勢は逆転した。
無尽蔵とはいえ、魔王の魔力が分散したシーダ0。
対し、聖剣を持ち合わせたユリウス達と、疲労ひとつ無いカミラ達。
「――――ちぃっ! 力こそ全てなのよっ! 貴女達だって思い知ったでしょうっ!? 絶対的な安寧と愛の為には必要なのよっ!」
カミラ達の一撃でシーダ0は動きを止められ、ユリウスの聖剣が振るわれる度、消え去り復活する事は無い。
「大切な人が居ても、ユリウスの安全には繋がらなかった! だからそんなの要らないわっ!」
シーダ0は叫ぶ、抵抗する。
「私は間違っていないっ! 間違ってなど――――っっ!」
髪を振り回し、血の涙を流し、鬼の形相で“自分”に掴みかかる。
「私には誰も居なかった! ユリウス以外には誰もっ! 誰も手を差し伸べてくれなかったっ!」
一人、また一人とシーダ0の分身体は消えゆく。
「――――ユリウスが居ないのに、どうして幸せになれるのよっ!」
そして、シーダ0は一人となった。
「…………これで、貴女一人よ」
「――――ぁ…………」
囲まれたシーダ0はよろよろと歩くと、ペタンと座り込む。
「…………して」
「………………殺して」
「………………もう、私を殺してよ」
シーダ0は涙する。
はらはらと大粒の涙をこぼしながら、悲痛な声で。
「嗚呼、嗚呼、ああ…………。何時もこうね、私の行く先はループの頃から同じ」
それを、カミラ達は黙って聞いていた。
聞き逃すまいと、静かに耳を傾けた。
「私は幸せになんて、なれないのよ…………ユリウスに愛されなどしないのよ…………」
ここに居る一人の少女は、誰よりも頑張って、でも、誰よりも報われなかった自分自身。
「ねぇ、もう、殺して? 殺してよ…………。疲れたのよ…………」
それは哀れだった。
それは悲しかった。
死んだ者は蘇らない、費やした時は戻らない。
彼女を直接救う事は、ここに居る全ての人間が出来ない。
しかし――――。
「それでも、それでも。言わせて貰うわ“私”」
のろのろとシーダ0は顔を上げる。
その表情は、何千年も生きた老婆の様で。
その表情は、生命の無い人形の様で。
何も言わず、カミラの言葉を待つ。
「――――まだ、終わってないわ」
「…………終わって、ない?」
カミラは優しく微笑んだ。
「貴女は沢山の“私”を救ったわ。…………この私も」
全てのカミラとユリウスが頷く。
「ありがとう、始まりのカミラ・セレンディア」
全てのカミラとユリウスが、銀の懐中時計を共に握る。
「貴女のお陰で、私達は幸せになった。――――だから、もうひと頑張りしましょう?」
タキオン粒子が輝く、召喚されたカミラ達の体を構成していたそれが、分解され、誰の目から見ても輝き始める。
「もう、貴女は“私達”を助けなくてもいい。…………今度は、“私達”が助ける番」
カミラもまた、ユリウスと共に懐中時計を握る。
タキオン粒子が、輝く。
「なに、を…………」
戸惑うシーダ0に、カミラは微笑む。
「これが“私達”から貴女へのプレゼント」
他のカミラが言葉を引き継ぐ。
「最後のチャンスよ、絶対にモノにしなさい」
「ユリウスと共にここに来たのは、貴女に見せつける訳じゃないんだから」
「安心して“私”。貴女を、貴女のユリウスの所へ導いてあげる」
「“私達”はさ、ユリウスの隣でないと幸せにはなれないものね」
言っている意味が解らないと、シーダ0はゆるゆると臆病そうに首を振った。
カミラはユリウスと共に、開いている手でシーダ0を立ち上がらせる。
「貴女が幸せになる方法について、“私達”は一つの結論に至ったわ」
「…………そんな、方法があるの?」
弱々しくシーダ0が口を開く。
「ええ、今から貴女を送る所は。貴女の死んだユリウスが、その魂と記憶を持つ所」
カミラ達の輪郭が、淡くなっていく。
「嘘っ! 出来っこないわっ!」
膨大な量のタキオン粒子が渦巻き、時空に穴を開ける。
「ふふっ、一人では出来ないでしょうね。だからこうして全ての“私”と“ユリウス”がここに居るのよ」
カミラ達とユリウス達が消えゆく。
シーダ0の体が、ふわりと宙に浮く。
「その縁を元に、探し出すと!?」
「ええ、だから貴女も信じて、そして探しなさい。貴女が愛し、貴女を愛するユリウスを。――――貴女の、幸せの続きを!」
召喚された全てのカミラとユリウスが、笑って光りとなった。
彼女達はその想いと共に、シーダ0の中に入り。
とうとう、時空転移が始まる。
「――――幸せになりなさい」
「――――言われるまでも無いわ」
浮かび上がったシーダ0は、カミラとユリウスの手を離れ、時空の穴に吸い込まれ。
――――そして、シーダ0はこの世界から消えた。
残るは少し荒れてしまった北の大地と、カミラとユリウス達。
しばらくは、誰も口を開かなかった。
全てが終わった余韻と、そして、シーダ0のこれからを祈っていたのだ。
やがて、ぽつりとユリウスは問いかけた。
「幸せになれるかな?」
「心配する事は無いわ、だって同じ私だもの」
カミラはユリウスに、笑みを浮かべる。
それは晴れやかな空のように、澄んだ笑み。
「もう、シーダ0は間違う事は無いわ。それに、絶対に探し出す。なら、幸せになれない筈がないでしょう。――――それより」
「なん――――んんッ!?」
カミラはユリウスの顔をぐいっと引き寄せると、その唇にキスをした。
「――――ふう、御馳走様。…………さ、帰りましょう!」
「帰ったらすぐに結婚式だからなカミラ」
「え、何それ聞いてないわよ!?」
「当然だ、今決めた」
顔を真っ赤にして、あわあわもじもじするカミラ。
同じく顔を赤くして、しかしカミラの手をしっかりと繋ぐユリウス。
その光景にアメリ達は苦笑し、それから楽しそうに笑い合った後、二人を祝福の胴上げをするために取り囲んだ。
□
――――こうして、世界は自分自身の手で歩みを始めた。
それを成し遂げたのは、カミラ・セレンディアという一人の少女の“愛”だった事は、言うまでもない。
世界は、愛で出来ている。
~第一級資料、アキシア家令嬢アメリの手記から抜粋~
本日、この最終話とエピローグを投稿です。
では、エピローグはこの後すぐ投稿です。