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137話 最終決戦前に過ごすのが同性でいいのかカミラ様! ユリウスは一人寝でいいのかカミラ様!



「さぁ、寝るわよアメリ。明日は決戦なのだからっ!」



「誰の所為で仕事が増えたと思ってるんですかっ!? カミラ様達がいちゃこらしてる間、誰が仕事してたとお思いでっ!?」



 決戦前夜。

 学院寄宿舎の自室にて、アメリの声が響きわたった。

 共にネグリジェ姿だが、カミラはベッドでごろりと、アメリは机に向かって珈琲片手に最後の書類仕事。



 カミラからみれば緊急時だし、帰ってきてからやって、書類の日付を変えればいいのでは。

 と不真面目な考えだが。

 アメリ的には、手を抜かずに最後までやりきる所存。



 そんな適当な考えだから、ループ中の組織運営に失敗してるのでは。

 という言葉は主従の情けで飲み込んだ。

 今敬愛すべき主人に送る言葉は、それではない。



「カミラ様が幸せなのは、わたしとしても嬉しいですよ。あの日まで落ち込んでたのは、何処行ったの? とか。避妊はしてくださいね、とか。色々っ! 色々ありますがっ!」



「………………てへ?」



 ふんがー、と怒るアメリに、カミラは笑って誤魔化す。



「いやね、諸々の準備や調整を、全部任せているのは悪いと思ったのよ?」



「確かにわたしも、任せてくださいとは言いましたが! 言いましたが! 問題解決したなら、少しは手伝ってくださいよっ! 決済印を押す書類を、一々ユリウス様の部屋まで持ってくの手間じゃないですかっ!」



「ふふっ、ごめんなさいね。逐一裸で出迎えてしまって」



 照れながら、いやんいやん、と体をくねらせるカミラに、アメリは地団駄を踏む。



「だ・か・らっ! 発情期の猫じゃあるまいしっ! 時と場合を考えてくださいっ! 気持ちは解りますがっ! 恋人がいないわたしの身にもなってくださいっ!」



「あ、気にする所そこなの?」



「勿論ですともっ!」



 アメリは完成した最後の書類を、カミラに投げて渡しつつバンと立ち上がった。

 カミラは不作法にも壁を机代わりに判子を押しながら、彼女の話を聞く。



「そりゃあ、わたしだってミスコンで優勝した時は、ちょっとは、いえ大分期待しましたよ。これで縁談は困らないって」



「と言うと?」



 カミラは各書類を、関係各位に魔法で送りながら相槌を打つ。



「けどどうですっ!? モテモテを実感する間も無く里帰りに同行したのは良しとしましょう――――だって、大切なカミラ様の事が知れたのですから」



「アメリ…………」



 カミラは涙腺を潤ます、アメリもまた優しい顔でカミラを見つめ、近づいてその両手でカミラの頬を包む。



「で・す・が~~! 何なんですセーラが魔王とか、ミラ様がやらかしたりっ! 帰ってくれば、見合い話の一つも無いじゃないですかっ! 学院には皆いないしっ! わたしの出会いと青春はどうなるんですかっ! 生殺しですかこの野郎っ!」



「いひゃいっ! いひゃいってはめりぃ~~~~!」



 アメリは一転、笑顔から目を釣り上げてカミラの頬を抓る。

 カミラとしては、甘んじて受け入れる他無い。

 ならばせめて、体だけでも慰めようと。

 その大きな母性を揉むと、今度は渾身のチョップが飛んでくる。



「慰めはいらんですよカミラ様っ! そういうのはユリウス様にしてくださいっ! もしくは男に変化してからでお願いしますっ!」



「~~~~あがっ!? す、素直になったわねアメリ…………」



「下手に感情を押さえても、何もならないという見本が目の前にいますからねぇ」



「あれっ!? ヒドくないアメリっ!?」



「カミラ様に言い返す権利は無いでーす! だって、そもそもカミラ様がユリウス様へ、不安を全部打ち明けなかった事が原因でしょうに」



「…………………………ぐぅ」



 通算何度目かわからないぐぅの音を吐いて、カミラは沈黙した。

 そこを突かれては、カミラには何も言えない。



「ユリウス様と婚前交渉は結構ですが、これからは時と場合と場所を考え、避妊もしてくださいねっ!」



「わかりましたアメリママっ!――――あぐはぁっ!?」



「ママと呼ぶなら相手を持ってこいチョーップっ!」



 私、生きて帰ったらアメリの婚約者用意するんだ…………、と妙なフラグを立てながらベッドに沈むカミラに。

 アメリは苦笑した後、同じベッドに飛び込む。



「もう…………約束ですよ、絶対ですよ」



「ふふっ、約束するわアメリ。ユリウスに負けないぐらいのいい男を見繕ってあげる」



 二人は笑い合いながら、掛け布団を被り、部屋の電気を消す。

 確信していた。

 明日のその先も、きっとこんな風に一緒にいられる事を。



 言葉には出さない。

 ただ二人、手を繋いで目を瞑る。



「お休みなさいアメリ」



「お休みなさいカミラ様」



 そして、意識は闇に落ちる――――筈だった。





「はい! という事で大カミラ会議を始めます!」



「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」」」」



「え? はい? 何処よここっ!?」



「カミラ様が一人、カミラ様が二人、カミラ様が三人…………うん、夢ですね。どうせならもっとロマンチックな夢がよかったなぁ」



 意識が途切れた瞬間、小規模な白いコロシアムの中心に制服姿。

 観客席にはカミラが居て、隣にもカミラ。

 アメリは夢だと判断して、カミラは真逆……と身構える。



「ようこそアメリ・アキシア! そしてシーダ705(仮)! 大事な決戦前なのは悪いけれど、貴女達の夢を介して、この場を儲けさせてもらったわ」



「夢だけど、夢じゃなかった!? え、これマジモンのカミラ様達ですか!?」



「大会議って、何か話し合う事あったかしら…………?」



「色ボケしてないで、しゃきっとしなさい“私”。大切な事が残っているでしょうが…………」



 首を傾げるカミラに、704と丸いネームプレートを付けたシーダ704がため息を吐く。

 一方でアメリは席に座るシーダ、もといカミラ達を興味深げに観察していた。



 殆どのカミラは、十六歳前後の姿であったが。

 中には、三十路四十路のカミラや、変わり種としてはビキニアーマー姿や、筋肉モリモリな上、道化師の格好をしたカミラ。

 果てには、男のカミラが一人。



「はぇ~~。色んなカミラ様が居るんですねぇ…………679のカミラ様は男で。あ、カークって書いてますね」



「シーダ679の事ね、あれもかなりのイレギュラーなのよねぇ…………ループの最初から男だったらしくて、でもこうして繋がってるって事は同じ“私”だし、何より680は女に戻ったけど、介入したのは彼だし」



「どの“私”も、凄く興味深いけれど、用事があるから呼んだのでしょう? 明日は決戦なのだから、とっとと始めましょうか」



 カミラとしては、唯一の双子のカミラが気になっていたが、それはそれ。

 シーダ704(24歳・二児の母親)に、用件を促す。



「ごほん――――では、始めましょうか。夢だし“私達”の力で時間は無制限でも、だらだらしている理由は無いわ」



「あ、無制限なんですね、便利過ぎじゃないですかカミラ様?」



「ま、“私達”がいればこれくらいわね? …………そういえば、シーダ0の姿が見えないわね。どうしたの?」



 カミラの疑問に、704はそれよ、と答える。

 他のシーダ達も一様に頷き、表情を引き締めた。



「悪いけれど、貴女達の状況は“銀時計”を通じて見ていたわ。その上で、伝えなければいけない事があるの」



「――――聞きましょう」



 カミラもまた、凛とした表情で704を見る。

 正直な話、情事の事まで知られている筈なので、気恥ずかしさはあるが、ここに居るカミラは全てユリウスとの関係がある筈である。

 そこまで、否、ほんの少しくらいしか気にしない。



「先ずあの子がシーダ0と呼ばれる由縁は、知っているわね?」



「ユリウスを喪ったから、そしてこの過去介入を始めた者だから――――それ以外にあるのね」



「ええ、シーダ0はね。私達の中で唯一“至って”しまっているのよ」



「“至って”いる…………?」



 カミラは704の言葉に、不穏さを感じた。



「“私達”はタイムトラベラーよ。それ故に、ループも過去介入も、こうして平行未来軸の自分と話が出来る。――――でも、平行未来軸に“直接行き来出来る”のは、シーダ0。彼女だけなの」



「シーダ0だけ…………?」



「私達も全てを理解している訳じゃない。でもこれだけは判明しているの。――――シーダ0は“時間樹”に至った事で、“因果の鎖”から外れてしまった。もっと深い“時間の真実”を知ってしまった」



「だから――――彼女だけが平行世界に行けると? それはつまり、“私達”は自分の過去にしか行けないと?」



「概ねその解釈でいいわ。“私達”が直接過去介入出来るのは“一回”。それ以降は分岐して、現在の姿が変わってしまう」



「あれ? それでは、この状況の説明が付かないのでは? 過去を変えたら今が変わる。なら…………あれ?」



 混乱するアメリに、704は言った。



「本来、同じ存在の人間は。同じ時間と場所に存在出来ない。実行すれば、過去か未来、どちらかの姿に吸収される。それだけじゃないわ、未来に戻っても――――変化した先の未来にしか戻れない。全て上書きされて、こうして。同じ“私”に話しかける事すら出来ないのよ」



「それが世界のルールだとして、今の状況は何?」



 この摂理に則れば、シーダ達の存在が説明付かない。

 704は神妙な面持ちで、カミラに話した。



「“私達”が持つタイムトラベラーとしての特異性。もっとも、他の者は知らないから、推測に過ぎないのだけど――――」



「――――そこで、シーダ0が出てくる訳ね」



「ええ、そうよ。唯一、平行時間軸を移動出来る彼女の恩恵を、同一存在である“私達”も受けている」



「だからカミラ様達が過去に介入しても、未来が上書きされずに分岐して、話合う事や、過去未来が変わった事を認識できる、と言う事ですか?」



 アメリの言葉に、704は拍手を送った。

 他のシーダ達は満足そうに頷き、カミラとしては、言いたい事があった。



「“私達”の絡繰りは理解したわ。――――それで? 真逆この事を伝える為だけに、呼んだんじゃないでしょうね?」



 もしそうだとしたら、安眠妨害も甚だしい、と呆れるカミラに、シーダ0は笑う。



「それこそ真逆よ。明日は彼女と対決するのだから、万が一の為の“秘策”は話しておこうとは思ったけどね。――――“私達”の用件は、ここからが本題」



 その笑みは、どこか寂しそうに見えた。

 カミラの知らない、特別な思いを抱えた笑み。



「今回は触れ合う機会が少なかったから、“私”には実感が沸かないかもしれないけれどね」



「いいえ、そんな事は無いわ。だって――――伝わってくる」



 嗚呼、嗚呼、そうだ。

 伝わってくる。

 ここは夢の中で、同じカミラで。

 なにより、カミラ以外のカミラが、同じ想いを抱えているのだ。

 伝わらない筈がない。




「――――助けたいのね、彼女を」




「ええ、――――お願い」




 唯一、シーダ0だけがユリウスを喪ったのだ。

 唯一、シーダ0だけが戦い続けているのだ。

 シーダ0以外のカミラは全て、彼女に助けて貰ったのだ。



「“私達”は、彼女にも幸せになって欲しい。ううん、そうじゃないわ。彼女こそ、――――幸せになる権利がある」



「彼女と貴女達の積み重ねで、今の私が在る。方法は解らないけれど、全力を尽くすわ」



 その言葉を切っ掛けに、カミラの持つ“銀時計”へ、シーダ達が発した“光”が集まる。



「では、任せたわ“私”。もし上手く行かなくても、“私”なら彼女を“未来”に繋げられるって、信じている。――――だって、その為の“仕込み”も積み重ねていたのだから」



 そして、景色が空間ごと薄れ、白から眠りの黒へ染まる。

 カミラとアメリは手を繋ぎ頷き合い、今度こそ意識は眠りについた。





 同時刻の事である。

 王都より遙か北の地にて、魔王城跡地に出現した巨大な円柱状の構造物――――ユグドラシル。

 神話にて“世界樹”と謳われるそれの居住区で、二人の少女が向かい合っていた。



「虚数空間に隠された秘密基地、なんてのを想像してたけど、中の光景は“枝”の施設と変わらないのね」



「どちらも、避難施設を研究施設として改装したモノだから、そう代わり映えはしないわ」



 大きなラウンジの中央のテーブルで、セーラは懐かしの炭酸飲料を飲み干す。

 学院の食生活に概ね不満は無かったが、中身は二十一世紀に生きた少女――もっとも、設定ではあるが。

 ともかく、王都やセレンディア領内での飲めなかったものを飲めるというのは、僥倖であった。



「…………んぐ、んぐ、んぐ。ぷはっ! うーんこれよこれ、これが欲しかったのよ!」



「満足した? なら、明日は早いし手早く済ませましょう。――――それで、本当に良いの?」



 シーダ0の不安を秘めた言葉に、セーラは勿論と、頷いた。



「アメリからの連絡があったのは知っているわね? 今のアイツは今まで以上に元気な様よ」



「ええ、とても喜ばしい事だわ。それは、“私達”全ての悲願だもの。――――でも、本当にいいの?」



「くどいわねカミラ。この体を本当の意味で人間にして貰った事は感謝してる、でも、それだけじゃだめよ」



 きっぱりと胸を張るセーラに、カミラは困った様に笑った。

 セーラが頼んでいる事は、甚大な記憶障害が起こりえる事で、カミラとしては容易に頷けない。

 また、彼女を人間にした事で、カミラもといシーダ0の用は済んでおり。

 これ以上、付き合わせる気は無いのだ。



「ガルドに頼んでも無駄だかんね、アイツにはさっき釘さして来たから」



「何故、と。もう一度理由を聞いてもいいかしら?」



 なおも渋るシーダ0に、セーラは語る。

 こんな様子だから、実行するのだと言わんばかりの表情で。



「シーダ0。いいえカミラ、アンタの考えてる事なんてお見通しなの。――――アンタは、アタシに負い目を感じてるわ。だから“聖女”という役割解放する為、“魔王”にした」



「さてね、それはどうかしら」



「アタシはね、それが気にくわないの。――――そしてもう一つ、あっちのカミラにもね、言いたいことがあるのよ」



 セーラは空になったジュースの缶をベキベキつぶしながら、シーダ0を睨む。



「一時的なものでいいわ、向こうのカミラが来た時だけでいい。――――ループ中と、平行未来時間軸とやらのアタシの記憶。全部丸ごと寄越しなさいっ!」



「私としても初めての事だから、成功するか解らないわよ。それでも、それでも記憶が欲しいというの?」



「だって不公平じゃない。アンタ達がアタシの知らないアタシを知ってるっていうのに、アタシは映像でしか知らない」



 セーラは頷けと、シーダ0を見据えた。

 喪服の様なドレスを着る女。

 顔に大きな傷跡がある女。

 セーラを、悲しそうに見る女。

 そしてそれは、いつかのカミラと同じで――――。



「ねぇカミラ、アンタはこの騒動が終わったら、また何処か違う時間軸に行くんでしょ。なら、さ。少しはアンタを知るアタシにして。この後に及んで厚かましいお願いだけど」



「セーラ…………」



 どこか懇願する様なセーラに、カミラは迷う。

 未だ続く繰り返しの中で、こんな事を頼まれたのは初めてだった。

 嬉しかった。

 でも同時に――――。



「――――わかったわ。セーラ、貴女の頼み通りに」



「ありがとカミラ」



 アンタも幸せになるべきなのよ、そういう言葉を飲み込んで、セーラは微笑んだ。



 こうしてカミラ二人、その親友二人は夜を過ごし。

 ――――そして、朝が来た。



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本編は@三話

エピローグ一話

の予定です。


ではでは。

次話は早くて週末、凡そ来週です。



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