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136話 未来ラヴ・ファイターズ ~其ハ獣也~



 アメリから連絡を受けたユリウスは、準備万端で東屋で待っていた。



「ああ、待ち遠しいな…………」



 今のユリウスは、今までのユリウスとは違う。



(俺は覚悟が出来たよカミラ)



 寄宿舎方面から東屋に続く道を、睨みながら待ち続ける。




「お前の愛を知った。お前の愛に染まってしまった」




「だからきっと、これはお前の所為だ――――」




 カミラからの愛を、その秘密を、カミラを思って待っていたユリウスではない。



「もう一つ先に進む為に、お前と対等になる為の、もう一つの“やり方”」



 それを、カミラが望んでいた事は気づいていた。

 しかし、ユリウスには実行する覚悟がなかった。

 あの時、新たに関係を作り決意を見せたが、まだ足りない。

 真の意味で、対等になるには“まだ”足りない。



(でも、お前が先に覚悟を見せたんだ。――――男として、恋人として。答えるべきだし、答えたい)



 道の先を見つめる眼差しは暖かく、そして重苦しい。

 この気持ちを、衝動を、カミラはずっと抱えていたのだ。



 誰かを愛する。

 狂おしい程に求める。

 それが時として、愛する者の意志を無視するとしても。



「愛してる、愛してるカミラ…………」



 何度言っても言い足りない。

 ユリウスはその不満足感を心地よく思いながら、カミラの過去を反芻し、想いを高ぶらせる。



「早く、早く来てくれカミラ」



 彼女が来たら、何て声をかけようか。

 それとも、先ずは抱きしめるべきか。

 有無を言わさず、拘束してみるのもいい。



 ユリウスは様々な考えを巡らしながら、カミラを待つ。





 学院は昼間だと言うのに、しんと静まりかえっていた。

 無理もない。今の大騒動に加え、学院は冬季休暇。

 校内に残っている者など、平民である一部の教師と貴族ではカミラ達ぐらいである。



 ともあれ、カミラはユリウスの待つ東屋へ向かっていた。

 ――――ユリウスの心境の変化に、迂闊にも気づかないで。



「雪が降りそうなくらい寒いわね…………」



 答える者はいない。

 一人、葉が落ちた並木道の石畳を進む。



「私の目指すべき結論、そういうモノは何処にあるのでしょうね…………」



 ――――否、そうではない。



 ユリウスの声を聞いたら。

 ユリウスの顔を見たら、決意が揺らぐ。



「弱くなったわ…………こんなにも怖いなんて」



 握りしめる拳は震え、足取りは重い。



「強く在らないと、奪われてしまう。でもそうじゃない事も知っているのに。――――私は」



 否、この言葉さえ、思考さえ“誤魔化し”だ。

 嘘ではない、本心。

 しかし、この不安の大本は“其処”ではない。



(ユリウスは…………嫌っていないかしら。失望していないかしら)



 彼はカミラの全てを知った上で、愛を誓った。味方になった。

 だが、その事実を以てしても、カミラの不安は拭えない。

 失敗し、奪われ、全てが無に還してきた時間は余りにも長すぎる。



 その経験は、歩みを止めてしまう程辛いものだったけれど――――。



「今の私にはアメリが居る、そして、愛してくれるユリウスも」



 信じる、信じたい。

 でも、でも、でもだって。

 大きな不安と期待に揺れるカミラは、歩みを止めなかった。

 だがそれ故に、簡単に東屋へ着いてしまう。



「――――待たせたわね、ユリウ…………す?」



 あ、あれ? とカミラは首を傾げた。

 俯き歩き、ようやく顔を上げ。

 そして待っていたのはユリウス。

 そう、ユリウスだ。

 だが――――。



「えっと、その…………どなた? ユリウス?」



「ああ、待ちくたびれたぞカミラ」



「うん、はい。ごめんなさい…………?」



 アルェー、とカミラはもう一度首を傾げる。

 先程の感情が良くも悪くも薄れゆく、なんだろうか思ってたのと違う。



(え、これボケなの!? ツッコんでいいの!? というか自分で言うのもなんだけど、ロマンチックな感じのシーンじゃないの!?)



 ひたすらに戸惑うカミラに、ユリウスは金属音をたてて近づき、その手を取る。

 


 ――――ガシャン、ガシャンって音は何だ。

 


 ――――というか、兜で顔が見えないのは何でだ。



 ――――聖剣を構えているのは何故だ。

 



「さぁ――――話をしようカミラ」





「いや、いやいやいやいやいやいやっ!? 何でフル装備なのよユリウスっ!? 腰の縄と手錠は何よおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!?」





 ――――そう、ユリウスは紛う事無く決戦装備だった。

 青いラインが入った銀色の騎士甲冑に、右手は聖剣、左手はスモールシールド。

 赤い天鵞絨のマントの裏地には、攻撃用の魔法が直ぐに使えるように、大小様々な魔法陣が刺繍されている。



(この分だと、鎧にも軽量化の魔法とか、防御様の仕掛けが――――じゃ、なーーーーいっ!)



 カミラの本能は撤退を訴えている。

 これは駄目だ。

 何が原因か解らないが、これは駄目だ。



「…………ユリウス。申し訳ないけれど、緊急の用件を思いついたわ。だから話し合いはまた後日にしましょう」



「いいや、逃がさないよ?」



「ちょっ! 離して、離しなさいよユリウス!?」



 くるりと回れ右をしようとしたカミラを、ユリウスは掴んだ手でガッチリ離さない。

 埒が明かない、故にカミラは歴戦の戦士として切り替わる。



「――――侵・雷神掌」



「づァッ!?」「隙ありっ!」



 瞬間、バチバチという雷光がユリウスの神経へ軽い痛みと硬直を与える。

 今のカミラに使えるたった一つの必殺技にして、大切な者を守る為の力。

 それをユリウスに何故向けているのだろうか、そんな疑問を脳の片隅にやり、カミラは距離を取った。



 そっちがその気なら、付き合うまでだ。



「――――理由を言ってユリウス。事情によっては納得してあげる」



 両手両腕からバチバチを雷光発し、睨みつけるカミラ。

 対してユリウスは、堂々と答えた。




「お前を、幸せにする為だ」



 幸せ、幸せ。

 それが何故、フル装備で拘束という結論に至るのだろうか。



「答えになってないわ――――ええ、でも聞いてあげる。続けなさい」



 よもや、シーダ0やセーラに何か吹き込まれたのか。

 そう訝しむカミラに、ユリウスは兜のフェイスプレートを上げて素顔を見せる。



「カミラ、俺は察していたよ。お前が何でこの数日会ってくれないのか」



「…………それで?」



 険しい顔のカミラに、ユリウスは笑った。

 今のユリウスにカミラが解る。



(ああそうだ。今だからこそ、お前が理解できる)



 何故、脅迫とほぼ同じの告白をしたか。

 それでいて、交際や愛を強要しなかったか。

 強引に事態に巻き込み、そして。



(今のカミラは、告白される前の俺と、恋人となる前の俺と同じだ――――)



 目の前にある、手に取れる道だけが幸せだと思いこむ自分と。

 だから、だからなのだ。



「思い返しても、今も、俺はお前に振り回されてばかりだ。でも不思議と…………嫌じゃ、なかった」



「それが、この状況とどう関係するのよ」



「不公平だと思わないか?」



「何が?」



 むすっと苛立ち始めるカミラに、ユリウスは告げる。



「お前は、お前の考える幸せで、俺を幸せに導いてくれた」



 そして聖剣をカミラに向け、挑戦的に微笑んだ。




「――――――――なら、今度は俺の番だ」




「…………はい?」




 ぽかんと口を開けるカミラに、そんな表情も愛おしいとユリウスは口元を歪めた。

 彼の瞳は、決意と重い愛情で染まり。

 それは、それは正しく――――。




「覚悟しろ。お前がお前の意志を押し通そうと言うのなら。…………俺は俺で、お前を幸せにする」

 



「――――ぁ」




 ユリウスの言葉に、カミラの戦意は燃え上がった。

 数日間、悩んでいた不安など吹き飛んだ。



(嗚呼、嗚呼、嗚呼、嗚呼、嗚呼――――こんな、こんなことって――――)



 夢見てた事だった。

 でも何処かで諦めていた事だった。

 例え恋愛といえど、同じ熱量を同じ熱量で返す道理などない。

 だが、だがしかし。



「あはっ、ふふっ、ふふふふふふふふふっ――――」



 手に入れた。

 とうとう、手に入れたのだ――――。




「嗚呼、嗚呼、嗚呼っ! 嬉しいっ! 何て嬉しいのっ! あはははははははは――――――っ!」




 下腹が熱く燃える、そこから全身へ戦慄く様な震えが走る。



 喉の奥が、かきむしりたい程にくすぐったい。




「嗚呼、嗚呼、嗚呼っ! 馬鹿ね、馬鹿ね私はっ! 不安に感じる事など無かったっ! 貴男は私を愛している――――私と“同じ”くらいにっ!」




「――――そうか、解ってくれたか」




 ユリウスは獰猛に笑った。

 カミラもまた、本能に従うままに笑顔を向ける。




「ええ、ええ、ええっ! でもまだよっ! 全力でかかってきなさいっ! ユリウスっ! その存在の全てで私に愛を伝えなさいっ! 私もっ! 全力で――――――!」




 吐く息は重く熱く、狂おしい程の愛の衝動が全身を突き動かす。

 それはきっと、ユリウスも同じだろう。

 告白はもっとロマンチックだと想像していた。

 だが、そんな少女の幻想はもう要らない。



 型通りな愛の吐露など、溢れ出る衝動の前には無意味。

 カミラは今まで押さえてきたユリウスへの“愛”を、全力で解放した。



 全てを犠牲にしても、その存在が欲しかった。

 他人の幸せに全てを捧げても、なによりユリウスに幸せになって欲しかった。

 そのユリウスが、本能を露わに、ぎらぎらした瞳でカミラを求めてくれるのだ。




 もう――――カミラが自分を押さえる必要など、無い。




「思い知らせてやる。お前を不安にしているのはお前自信だと言う事をッ! そして刻んでやるッ! お前と俺がこれから幸せになるという“証”を――――ッ!」




 獣の様な咆哮を上げ、ユリウスはカミラに突進を始める。

 カミラもまた、侵・雷神掌を発動して突撃。




「愛してるわよユリウスううううううううううっ!」




「愛してるぞカミラああああああああああああッ!」




 彼我の距離が一気に零となり、衝撃の余波が東屋をビリビリと震わせる。




「ああそうだッ! 綺麗なんだよッ! その水色の髪がッ! さらさらしてるのもッ! 腰まであるのもッ! 俺好み過ぎるだろ馬鹿女アアアアアアアッ!」




「そっちだってぇっ! 首筋がエロいのよ男の癖にっ! 狡いってぇのおおおおおおおおおおっ!」



 二度三度と衝突する拳と剣。

 弾かれた剣先が東屋の柱を傷つけ、受け流された雷が草花を焼く。



 周囲への被害を広げながら、ユリウスとカミラは愛し合う。



「私服になる度にッ! その巨乳を見せつけるなッ! 押しつけるなッ! どんだけ我慢してると思っているんだッ! でも御馳走様だッ! 今すぐ見せろぉッ!」



「貴男こそっ! 胸板が逞しいってのっ! よく女装がバレなかったわねぇっ! 常に見せなさいよっ!」



 欲望のままに叫び、ユリウスはカミラの胸元を切り裂く。

 だが、カミラとて黙って受け入れる性分では無い。

 紙一重でかわし、ボタン数個の被害で飛び込んで、侵・雷神掌の効果によりユリウスの鎧。

 聖剣を持つ右腕と、胸当ての部分を外す。



 その勢いのまま抱き合う形になった二人は。

 ユリウスがカミラの左の胸に、カミラが右腕に歯を立てる。



「――――ガッ!?」

「――――ぎっ!?」



 その肉体は己の所有物だと、互いに主張しつつ。

 ユリウスは左手で、カミラは蹴りの一撃でもってお互いを突き飛ばす。



「あははははははっ! 何それっ! 痛くないわ気持ちいいじゃないっ!」



「お前こそッ! もっとぶつかってこいッ!」



 高ぶりすぎた感情は痛みを悦楽に変えて、お互いを更に高みへと誘う。

 再度衝突して、カミラはユリウスの鎧を剥ぎ。

 ユリウスもまた、衣服を切り裂き、下着を無理矢理もぐ。



「どうだッ! 奪ってやったぞッ! 下着まで管理してやるからなッ! 卑猥なのしか履かせないッ!」



「望むところよっ! 貴男こそっ! 男性の下着すら履けないと思いなさいっ!」



 四度、五度。

 カミラの侵・雷神掌の衝突により、ユリウスの手袋すら壊れ、聖剣がすっぽぬける。

 猛烈な勢いで飛んでいった聖剣は、東屋の柱の一つを砕き。

 だが、そんな事態など眼中には無いと、ユリウスはカミラの太股を強く握りしめ、手の跡を付ける。



「むしゃぶり尽くしてやるからなッ! 未来永劫ッ! お前の全てをッ!」



「そうよっ! 全て捧げなさいっ! 跪いて足を舐めてっ!」



「舐めてやるよっ! 愛おしい馬鹿女ああああああああッ!」



 まるで強姦の後の様な惨状で、カミラは拳を振り上げる。

 ユリウスもまた、敗残兵の様な有様のまま迎撃。

 本能のままに振るわれた拳を避け、延びた腕を掴み一本背負い。



「――――――――かはっ!?」



「唇もらったッ!」



 背中から叩きつけられ、その衝撃に隙をみせたカミラに、ユリウスは馬乗り。

 すぐさまその形の良い顎を掴み、勢いよく顔を落とす。

 歯と歯がぶつかるキスに、カミラはユリウスの唇を噛み。

 ユリウスが怯んだ瞬間、その肩に噛みつき、盛大な噛み跡を残す。



「その野獣の様な本性ッ! エロくて惚れ直すぞッ!」



「――――づぁっ!? ユリウスこそっ! 今の調子で迫りなさいよっ! どれだけ苦労して誘惑してたと思ってるのよっ! 好きな人には荒々しく求められたいじゃないのよおおおおおおおおおおおおおおおっ!」



 カミラは、ユリウスのズボンに手を突っ込み、パンツを引きちぎりながら力業で離脱。

 ユリウスもまた痛み訳と言わんばかりに、カミラの制服の中でまだ無事な方の部位。

 右脚のガーターストッキングを破り取る。



 その勢いでごろごろと反対方向へ転がり、二人は立ち上がる。

 まだだ、まだ足りない。

 この想いを全て伝えるのには、到底足りない。

 何度目かのファイティングポーズを取り、お互いへ駆け出す。




「もっと、もっと、もっとっ! 愛してるわユリウスっ!」




「お前よりッ! 俺が愛してるんだ馬鹿女ッ!」




 敵でも無いのに本気の殺気で殴り合い、もとい殴り愛。

 再び壊される東屋や庭園、果ては校舎まで。



 やがて夕方まで続いたそれは、互いに満身創痍。

 打ち身、打撲、切り傷に火傷。

 深い傷が無いのはそれこそ、“愛”だったからなのだろうか。



 どちらからとも無く、戦いを止めた二人は。

 ボロボロの体と服のまま、深い、深い口づけを交わし。

 言葉は無い、不要である。

 そこに居るのは最早、――――番の獣。



 どちらからともなく手を差しだし、ゆっくりと頷くと。

 示し合わせた訳でもなく、ユリウスの部屋へ歩いて行った。



 なお一部始終を覗いていたアメリは、盛大に頭を抱え、失神しそうになり。

 それでも邪魔が入らないように結界を張り続け、更には。

 二人が去った後、全力で東屋周辺の修復に徹夜であたった。


 言うまでも無い事だが、アメリが今回の勤労MVPを取っている間。

 月並みな言葉で、“大人”となった少年少女が一組いた事を、ここに記す。



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リアルの都合上、もう少しかかるかな? と思いましたが(ガバガバ計算)

出来たので投稿です。

では次話は次週中です。

ではでは。


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