132話 ループ終焉と、もう一人の…………
「では、再開するわ。ここからは新たな真実等はないから、安心して見て頂戴」
「…………そうか、前の余が死ぬ所ぐらいか」
カミラとガルドの言葉に、全員は安心して。
否、それでも少し不安そうに映像を待つ。
明かりがパッと消され、再び室内は暗闇に。
続きは、カミラが死んで巻き戻る所からだった。
『(後三回、貴方の悲しむ顔を見るのは三回だけ…………待っててユリウス)』
幼児に戻ったカミラは、一人で屋敷を回れる三歳頃まで、普通に育った。
前回とは違うのは、赤子の頃から魔法が使える事。
『次回からは、五歳の魔法素質検診の時まで、使うと所を見せないようにしましょう』
三歳児カミラは使用人達の目を盗んで、ユグドラシルの施設へ続く森の上を、魔法で飛んでいる。
『天才扱いでちやほやされるのは新鮮だけれど、少し過保護な気がするわ』
常識で考えたら至極真っ当な事だが、今のカミラには有り難迷惑だ。
十六歳より先に行く為に、ユリウスと共に在る為に。
今は何より時間が惜しい。
カミラは入り口に着くと、扉が開ききるのも待てずに中に入る。
そしてTに対し手早く、それでいて過不足一つ無い説明をすると、本題に入る。
『前回のループで、貴方は三回ほど繰り返す必要があると言ったわ。魔法を極めるのに、それだけの時間が必要だと』
『肯定です。それに加え、健全な組織を長続きさせる方法、穏当かつ素早い権力の持ち方、それらの実践と改良には時間がかかります。…………それと、ユリウス・エインズワースへの接し方。課題は山済みですが、美貌に関する事だけは、指導の必要が無いのが幸いでしょう』
対人関係への駄目出しに、ぐう、とカミラは唸る。
それに、ユリウスへの接し方とは何が問題なのだろう。
Tはカミラの顔色より疑問を読みとり、ばっさり切り捨てる。
『十六年という決まった期間の性質上、貴女の組織は、貴方個人に頼り切った構造だと判断しました。部下に大きな仕事を任せる勇気を持ちましょう』
『…………成る程?』
『領地の富ませ方も同様です。焦るのは理解できますが、ご両親の知恵袋になる程度でいいのです』
『…………了解したわ』
『権力を得るのも、もっと健全に行きましょう。弱みを握り、脅迫するやり方は効果的ですが。貴女は個人の怨恨を買いすぎる。十六年後も人生は続くのだと、しっかりと理解して、なるべく相互に利益が出る形で、実行するべきです』
『…………耳が痛いわね』
『それから、ユリウス・エインズワースへの接し方です。もう少し、恋愛感情を押さえて関係を持ってください』
『……………………えー』
カミラは不満そうに口を尖らせる。
金、人、権力への指摘は素直に受け入れよう。
だが、ユリウスへの理解は他の誰より深い。
『私のやり方に問題でも?』
『話を聞き、何万通りものシミュレーションを行いました。結果、貴女に足りないものが判明しました』
『足りない!? 私に何が足りないって言うのよ!』
怒りを向きだしにする三歳児に、Tは諭す様に答える。
『――――勇気。貴女には勇気が足りません』
『勇気? 告白する勇気も、卑劣な罠に落とす勇気も持っているわ!』
『胸を張って言うことではありません。彼の性格と境遇から考えるに、彼一人だけの救世主、女神となる事が必要です。それはもはや、貴女の素顔とも言えるでしょう』
『もっと誉めても良いわよ?』
『ストーカーが犯罪行為の結果を誇らないでください。そして、貴女に必要なのは、その“犯罪行為”を暴露する勇気です』
『――――嗚呼、そういう事ね』
カミラの理解は早かった。
ユリウスの過去、正体を知った事を、己の実力による看破。
その理由が周囲に認められるだけの、実績と権力。
そこから派生する、在学中にユリシーヌをユリウスに戻す算段。
彼本人に対しては、カミラの心情を吐露する事によって、興味を引き。
それでいて、弱みで脅迫せずに、恋人となるように正しい範疇でのアプローチ。
親友という立場からのギャップと、培ってきた対ユリウス用の美貌や立ち居振る舞い。
嫌われ、拒絶されるかもしれない事柄も、思いの丈も、全て、全て。
最後の人生の為に。
カミラの表情が引き締まったのを見て、Tは話を続ける。
『ご理解頂けて幸いです。ではこのTが“機能停止”しても、成功するように計画を始めましょう。さし当たっては、今の年齢でも魔王城に忍び込み、魔王を殺害、速やかに“魔王”という位を奪える様に、魔法と魔法を併用した体術を極めましょう』
『加えて、新しい魔法の作り方や、解析、分解の技術も学ぶのだったわね』
『それら全てを今から三回の内に可能とするのです、では始めましょう――――――――彼との恋愛関係は、長期戦の方が成就する可能性が高いのですが』
『何か言った?』
『いいえ、カミラ・セレンディア。貴女の人生に幸あれ、と言ったのです』
『はいはい、ありがとう』
聞こえないフリをしたが、Tの言葉は全て耳に届いていた。
でも、それでは駄目だ。
長期戦になればなる程、カミラ・セレンディアの心の我慢はきかない。
未知の未来への不安と、大きな期待を胸に。
カミラは握り拳を振り上げた。
そしてまた、時は巻き戻る。
ユリウスに看取られて死に、赤子に戻り。
それを二回繰り返し、最後と定めたループ。
その死に戻りの一週間前、カミラはTと最後の会話をする為に、この施設に赴いていた。
『ではカミラ・セレンディア。最終確認と致しましょう』
『ええ、頼むわ』
『聞き及ぶ限り、人と金と権力、美貌や実力など。問題は在りません』
『幼少期における魔王簒奪、実行の際の移動手段の目途は?』
これは、今でのループで意見が分かれた問題だ。
『シミュレーションの結果、やはりユグドラシル経由で、虚数空間からの魔王城進入が良いでしょう』
『やはり、人力で魔王城まで行くのは避けた方がいい、という事ね』
『権力確保の為、現王ジッドを同行させ、目撃者にさせるという力業をするのです。事を迅速に運ぶ為にもユグドラシル経由が一番でしょう』
『了解したわ。…………では、今までありがとうT。貴方には大分世話になったわ』
『次のTは、出会った時に機能停止になる手筈。確かに別れの言葉は今が適切でしょう』
いつも通り平坦な言葉のTに、カミラは寂寥感を滲ませて苦笑した。
『…………これより先、人類は安寧と平和の中に生きるでしょう。私がそうするわ、だから』
『はい、またその時は、宜しくお願い致します』
映像を見ているセーラ達に、とある確信をさせながら、場面は切り替わる。
カミラはやはり死に、幼児へと戻った。
『ばぶ』
『(最後の人生…………というのもおかしなモノね。ヒトは、一度きりしか人生が無いのに)』
もう繰り返さずに済む。
安堵と、失敗は出来ないという重圧に虚勢を張って、カミラは成長する。
施設の工場から、管理者権限で三体のアンドロイドを製造させ、領地に派遣。
一体はカミラ付きのメイドに。
一体は両親の下に、有能な人材として。
最後の一体は、開拓のリーダーにさせる為、領地の村へ。
そして、カミラは三歳まで成長した。
まだ幼いというのに国内に響き渡る、美貌と天才魔法使い。
更に、遺失したと考えられていた聖女縁の品を、アンドロイドに発見させて、ジッド国王を呼び寄せる。
『(条件は全て揃った。今夜が決行の時――――)』
全ては流れ作業の様に、最後まで進んだ。
王への事前説明も、魔王城への移動も。
それから魔王を殺し、立場を奪う事も。
だが、最後の最後。
ユグドラシルへの帰還を目前に、トラブルは発生した。
『――――! どうしたのだカミラ嬢よ!』
『くっ、あ――――。情けない事ですが、魔王の魔力は膨大で、制御が、追いつきません…………! この城が崩壊する程の爆発の恐れがあるので、先にご帰還を…………』
顔を真っ青にした三歳児カミラに、王は駆け寄るも、その言葉を聞き素直に頷く。
『わかった。そなたが言うなら間違いないのだろう、ただちに待避する。この辺りの魔族にも打撃を与えられて一石二鳥だ。――――大儀であった。後日、国一番の魔法使い“王国の魔女”の称号を与える為にも、生きて帰れ』
アンドロイドのメイドに連れられて、国王が去る。
カミラはそれを見届け、――――そして、魔力の制御を手放す。
瞬間、カミラの全身が白く染まり。
光は膨れ上がり。
千キロ以上離れた地点からでも見える、キノコ雲と爆発音が。
「成る程、管理者権限で停止状態からの心臓を一突き。“魔王”が他の魔族に継承される隙に割り込んで、カミラ自身が継承…………。うむ、これならば納得するしかないな!」
ガルドの投げやりな言葉に、誰しもが同情の視線を送る。
魔王という存在でも、ただ一人の女の深すぎる恋心の前には無力。
というか、王は色々とご存じだったのか、と項垂れる者数名。
ともあれ、映像は続き。
ループ装置――――カミラ達が今いるこの場が、三歳児カミラの手によって破壊される光景や。
アメリとの出会い。
領地が急速に発展して行く模様や、カミラが立ち上げた照会が膨大な利益を上げる瞬間など。
そして入学式の日。
『お隣、よろしくて? ユリシーヌ・エインズワース様?』
『――――は、はいっ! 光栄ですわ。お噂はかねがね。初めましてカミラ・セレンディア様』
隣に座るカミラに見惚れるユリウスの姿や、その後、順調に親友となってゆく二人の姿。
最後に、十六歳の誕生日の夜を、アメリと仲良く過ごすカミラの姿が映し出され。
そして、映像が終わった。
「――――これで、私の過去は全て見せましたわ」
カミラの言葉に、一同は安堵のため息を共にざわめき始める。
「カミラ様? 終わったのなら、明かりを付けてくださいよ」
「ああ、まだ待ってね。もう一つ、見るものがあるから」
「もう一つ? これ以上何かあるのか?」
ユリウスの怪訝な言葉に、カミラはパンパンと手を鳴らし、全員の注目を引く。
「悪いけれど、あと少し付き合って貰うわ。もう一人の“私”の過去を!」
「――――ちぃっ!? やっぱりそうなのね“私”!」
カミラの言葉に大声を出した少女、ミラに向かって視線が集まる。
もっとも暗闇の中なので、その表情は解らなかったが。
「やはり、記憶を取り戻していたわね。まぁいいわ、その記憶、見させて貰うわよ」
「…………ユリウスと“私”以外の者が見るのは抵抗感があるけれど、いいわ。見て、たっぷりと後悔なさい」
見たら後悔する程の代物なのか、というかもう一人のカミラとは何だ。
事情を知る者、知らぬ者、共に戦慄を覚える。
「お言葉に甘えて、教えて貰いましょうか。――――何故、ユリウスが死んだのか」
そして、ミラ。
シーダ0。
ユリウスを喪い、憎悪と悲しみの権化をなったカミラの過去が再生された。
ブックマークは一番上左
感想レビューは一番上、最新話一番下
評価欄は最新話下
カミラ様の過去ワンモア!
既にお気づきかもしれませんが、今章はカミラ様大百科てきなアレです。
ではでは。