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131話 いくら成長やパラダイムシフトを迎えても根っこは凡人カミラ様、救えるのはユリウス達だけ。



 ぱちり。ぱちり。

 細かいパズルのピースをはめる様に、ゆっくりと。



(思い出してきたわ。ええ、そうよ、私は――――)



 映像が始まった時より、黙り込んでいたミラ。

 否、もう一人のカミラ・セレンディアは、記憶を取り戻す。

 哀れな女が、一つ死に戻る度に。

 強情な女が、一つ強くなる度に。



 そう、そうなのだ、あれは、あれは、と巻き起こる懐かしさ。



(私は、シーダ0。総てのカミラ・セレンディアの敵となる………………)



 ループから脱出の見込みが無かった時など。

 ユリウスを救えなかった時など。

 ユリウスを殺してしまった時など。



(今の私にとっては、それすらも、“まだ”絶望に程遠い)



 シーダ0が感傷に浸る中、場面は世界の真実へと。

 皆が何度目か判らない絶句をしている光景を余所に、シーダ0は思考を巡らす。



(何を考えているの“私”? こんなモノを見たら、記憶が戻るのは確実)



 一歩間違えれば、この場で殺し合いが始まるのもやむなしだ。



(いいえ、それも考慮の内。ミラとなっている時、私は見た。“私”が幸せを掴もうと、正しく足掻いている様を。――――同じ私なら、冷静になると踏んだのね)



 絶望と怒りに染まったシーダ0とはいえ、ループ解放までは同じ道を歩んでいる。

 即ち、ユリウスとの幸せを望んだカミラなのだ。

 故に、あと一歩に迫ったこの状態を、邪魔する筈がない。



(では何故)



 何故、この場に王子達まで連れてきているのだろうか?

 確かにユグドラシル崩壊の備えに、情報は必要だろう。

 両親を連れてきたのは、カミラという人間の誠実さ。

 アメリもまた同じ。



(では、ドゥーガルドは?)



 セーラは偽りの記憶とはいえ、同じ境遇と考えればそこまで不自然ではない。

 魔族であるフライ・ディアは他の平行時間軸でも、仲間になっている所を見た。

 これもまた、不自然ではないだろう。

 だが、あの元魔王は。



(“私”は何を考えて、この場に居させているの?)



 詳しい事を知らないが故に、シーダ0は警戒する。

 自身という存在は、どんなに枝分かれしようとも情に厚い方向性にある。

 だが、その情だけで元魔王という存在は連れてこない。



(むしろ、何でこんな存在生かしているのよっ!?)



 排除出来ない理由と、利用できる価値があるからだろうか。

 そこから発生する、これからの何かへの牽制。



(――――? 牽制? え、後一歩なのに、“アレ”を諦めてないの“私”!? 気持ちは解るけど、それを乗り越えてこそっていうか、あー、もうっ! それが簡単に解決したら“私”じゃないわよねっ!?)



 シーダ0が結論に至ったと同時に、部屋が明るくなる。



「もう少しで“私”の記憶は終わりなのだけれど、色々飲み込む事もあるでしょう…………。少し、休憩と致しましょうか」



(――――っ!? これはチャンスよ。多分“私”は記憶を取り戻した事に気づいていない)



 幸いにして、今のシーダ0の姿はミラとなった時より変化は無い。

 加えて、タイムマシンである“銀の懐中時計”は、不用心にも胸にぶら下がったままだ。

 ならば、この施設及び、ユグドラシル本体を掌握する事は容易い。



(取り上げられていたら、例え“私”でも防衛機能が働いていた。…………読んでいたのかしら? いえ、それを考えている暇は無いわ。この休憩の間に動いておかないと)



 シーダ0は部屋から出ていくガルドとセーラを横目で確認すると、後を追った。





 ガルドとセーラは廊下に、後を追ってフライ・ディアが。

 きっと思う所はあるのは明白だ。



(セーラが不安になってるかもしれないけれど、そこはガルドに任せましょう)



 円卓の中で、カミラとは反対方面に座った王子とヴァネッサ。

 それから両親は、ひとかたまりとなって何かを深刻に話している。

 ――――これは、想定通り。



(今の人類を支配するユグドラシルは健在、未来への対策を練っている…………いえ、情報整理辺りかしら)



 後で両親とは対話の時間を作ろう。

 そう考えながら、飲み物でも用意、と考えた瞬間、カミラの袖を引っ張る者が一人。



「うええぇぇ…………か゛み゛ら゛さ゛ま゛ぁ゛~~~~」



「あ、アメリ!? どうして泣いて――――いえ、心配をかけたわね」



「そうだぞカミラ。あんなものを見せられては…………悲しかっただろうアメリ」



「あんなものって言われたっ!?」



 同士よ、とアメリに対し頷くユリウス。

 然もあらん。

 恋人が、愛する主人が、こんなに悲惨な過去を背負っている事を目の当たりにして、悲しまない者はいない。



「わ゛た゛、わ゛た゛し゛、し゛、し゛ら゛な゛く゛て゛ぇ゛~~~~」



「ごめんなさい、アメリ、ユリウス。誰にも話してはいけないと、話す事は甘えだと思っていたから」



 えぐえぐと泣くアメリの涙を、虚空から取り出したハンカチで拭い、優しく抱きしめる。

 その光景に、ユリウスは若干のジェラシーを感じながら、カミラの頭を撫ぜる。



「でも、お前は過去を教えてくれた。その悲しみも、怒りも、絶望も、苦労も全部」



「カミラ様…………わたし達が、その時にお力に成れなかったのはとても残念で歯がゆい事ですが、嬉しいんです。打ち明けてくれた、その行為が」



「アメリ。ありがとう、本当に、ありがとうぅ…………」



 カミラは涙ぐんだ。

 過去を明かした結果、猛烈に拒絶される事も覚悟していた。

 だってそうだ。

 あんなに人を弄んで、血塗られた道を歩んできた人間に、誰が側にいてくれるのだろう。



「お前はさ、もっと俺達に感謝すべきだし。もっと信頼すべきだったんだ」



「そうですよっ! こんな過去があっては、臆病になるのも当然ですけど。…………わたしは、ユリウス様は、そんな過去を経験して、今ここに居るカミラ様を好きになったのですから」



「ふふっ、ええ、そうね。…………私は、臆病だったわ。それに、世界一の幸せ者ね」



「ああ、そうさ。お前が俺を幸せにすると言うなら、俺も、お前を幸せにする」



「私もですよっ! カミラ様!」



 ありがとう、とカミラは涙をこぼした。

 ――――だからこそ、最後の一つ。

 未来に及ぼす計画だけは、誰にも知られてはならない。



(………………こいつ、また臆病になって何か企んでいるな)



 だが、ユリウスは気が付いた。

 何かまでは判らずとも、彼女がループの中で得てしまった病的なまでの“臆病風”に。

 故に、一つの決断を下す。



「――――なぁ、カミラ。この記憶の旅が終わったら、お前に“プレゼント”がある。受け取ってくれるか?」



「ええ、勿論よ」



「――――はっ! 指輪! 今度は結婚指輪ですか!?」



「気が早いぞアメリ。“中身”は後でのお楽しみだ。ガルドにも密かに協力して貰ったんだ。きっと喜んでくれると思う」



「ふふっ、楽しみにしてるわ」



 そうして、三人は休憩が終わるまで穏やかに過ごした。





 時は若干巻き戻り、セーラとガルドが二人で廊下に出て行った直後へ。

 カミラ本人には、後で色々言うと決意して、セーラはガルドに詰め寄る。



「ちょっと! ちょっと! 何なのよあの女の過去は! 地獄が生ぬるいじゃないっ!」



「落ち着けセーラ、余も気持ちは同じだ。幾度と無く繰り返している事は知っていたが、真逆ここまでとは…………」



「おまけに何なのアレ!? 本気でアタシは何なのよっ! いや、アンタから聞いてたけど、聞いてたけどーーーーっ!」



「あ、それはオレも気になった」



 フライ・ディアが追いつき、会話に参加する。

 ガルドは逡巡した後、ため息を一つ。



「仕方ないだろう。確か、カミラがそなたに明確に接触したのは、誕生日の後だろう? ならループ中は勿論の事、その前は、ユグドラシルの強い支配下にあったのだから」



「…………アタシがゲーム感覚で逆ハーレムしようとしたのも、その所為だと?」



「記憶の中の会話が正しければ、機能が壊れている面を考慮して半分だ」



「もう半分は何なんです陛下?」



 ギロリと睨むセーラに、ガルドはそっぽを向いて言う。



「――――そなたの、素では?」



「がっでーーーーむっ!」



「ガハハハハっ! 何でぇ嬢ちゃん、アンタ根っからの強欲かい?」



「笑うなバカ野郎っ!」



 セーラはずーんと落ち込みながら叫ぶ。

 そして深呼吸してから、声のトーンを戻した。



「あー……もうぉ…………。ったく、これであの二人は、もう平気よね? 後の問題はないんじゃない?」



「そうだな。ユリウスが受け入れた。アメリもきっとカミラの事を受け入れる。いや、この場にいる全員が、彼女の事を否定も拒絶もしまい」



「いやいや陛下? 現魔王様が言っていた魔族支配の問題と、陛下の目的は?」



 フライ・ディアの疑問に、ガルドは軽く笑いながら答える。



「大丈夫であろう。ああして幸せな以上、魔族にちょっかいかける理由は無い。それにユグドラシル、――――世界樹を停止させた所で、発生した新たな問題は我ら全員が力を合わせれば平和的解決も夢物語ではない」



「あの現陛下はそんなタマですかねぇ…………」



「カミラが何か騒動を起こそうとしても、ユリウスが居ればなんとかなるでしょ。後はアタシが肉の体を手に入れれば――――」




「――――甘い」



 突如現れたミラ、もといシーダ0がそれを否定した。



「ちょっ!? アンタ、何処から出てきたのよっ!?」



「――――その力、カミラと同じモノか!?」



「はぁ~~。妹御さんは、現陛下と同じ力を持ってんのか」



「違うわよバカっ! 誰かから聞いてないの!」



 首を傾げるフライ・ディアに、ミラの事情を知っている二人は戦慄する。

 真逆、真逆、真逆の事が起こったとでも言うのだろうか。



「ふふっ、そう身構えなくてもいいわ。――――そして、初めましてと言っておきましょうフライ・ディア」



「いや、挨拶はもうしたが?」



 シーダ0は不適に笑うと懐中時計を握りしめ、瞬く間に元の姿へ戻る。



「いいえ、初めましてよ。…………私はカミラ・セレンディアにして、シーダ0。平行時間世界のもう一人のカミラ」



「――――――? は? はあああああああ!? 冗談キツいぜおいっ! マジなんですか陛下!?」



 驚くガルドは、即座に離脱しようとして。

 セーラは“念話”で、カミラに連絡しようとして。

 共に、指一本動けない事に気づく。



「悪いけど魔法は禁止よ、逃げるのも禁止。――――ねぇ、落ち着いて話を聞いてくれないかしら?」



 そうは言われても、身動き一つ、魔法すら使えない状態では反応出来ない。

 十秒経過し、首を傾げるシーダ0に、フライ・ディアは恐る恐る声をかけた。



「…………その、もしかするとだが、声も出せないのでは?」



「ああ、それね。――――はい、動ける様にはしたわ」



「アンタ、やっぱりカミラね…………」



「うむ、話を聞こう」



 疑いの眼で見ざる得ないが、先ほどの“甘い”という発言も気になる。

 二人は、カミラの言葉を待った。



「同じ“私”だからこそ解るわ。このまま“私”が何もしないなんて甘い考えよ」



「…………嫌な根拠だけど、説得力がハンパないわね」



「そう言う事は、“何か”あるのだな?」



 シーダ0は頷くと、自分が未来に向けて起こす。

 確定事項といっても過言ではない、可能性を話す。



「――――と、そういう訳よ。完全無欠の大団円目前だっていうのに、阻止しない理由は無いわ」



 ガルドとセーラ、そしてフライ・ディアはアイコンタクトで一瞬の内に、意見を統一する。

 面倒臭い女は、どこまで行っても面倒臭い女だ。



「確かに、ユリウス一人にぶん投げるには荷が重そうね。――――それに、面白そうじゃない! アイツに吠え面かかせて、アタシも目的達成でハッピー! やったろうじゃん!」



 セーラはぐぐぐっ、と拳を握り燃え上がる。



「うむ、最後の最後、この様な余興で締めるのも悪くは無い。是非とも協力しよう」



 ガルドは絶対コイツ後で裏切る、だってカミラだと、確信しながら話に乗った。



「…………陛下達が乗り気な時点で、オレ達魔族には拒否権がなさそうだな」



 フライ・ディアは、苦労する未来予想図に苦笑いしながら承諾した。



「では早速だけど、話を詰めましょう。十中八九、“私”の記憶の後に何かあるだろうから、その後に直ぐ実行するわよ」



 そうして。

 シーダ0達四人は円陣を組み、アメリが呼びに来るまで熱心に話し合った。



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穏やかなのか不穏なのか分からない休憩時間を挟んで。

次回はカミラ様の過去の最終フェイズです。


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