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130話 クエスチョン、一番大切なモノは何ですか? カミラ様の答えなど一つに決まってる!



『――――何だっていうのよっ!?』



 カミラは立ち止まり、いつでも戦える様に構えた。



 入り口が開かれ足を踏み入れた途端、目の前に広がるは前世でもSF映画でしか見たことが無いような内装。

 電灯などが無いのに明るいし、妙にテカテカする通路。

 それが何を意味するのか考える間もなく、先ほどの無機質な女性の声。



『誰か居るのでしょう。――――出てきなさい』



 油断無く周囲を観察しながら、慎重に足を進める。



『(さっきの声は何て? AI? シナリオ? そもそも世界平和恒久実現機構? それに――――“時空間操作”能力研究所?)』



 馬鹿馬鹿しい、とは一蹴出来なかった。

 どの単語も心当たりがあるし、何より。



『日本語。確かに日本語だったわ』



 調査中のループで、薄々気付いていた。

 何故、異世界の筈なのに英語があったのか。

 何故、前世の単語がスムーズに通じているのか。



『(ゲームの中に、ゲームに似た異世界へ転生したと思っていたわ。だって、前世では魔法なんて無かったもの)』



 だが、だが、目の前に広がる光景はなんだ?



『(誰もいない…………いえ、最初からいないと言うより、誰かが生活していた?)』



 通路の途中にある部屋に手当たり次第に入るも、人影一つ無いがらんどう。

 誰かの居住部屋だろうか、ナイロンに似た手触りの上着や、テーブルの上には出しっぱなしの“ボールペン”に“ノートパソコン”。



『いったい、ここは何処なのよ…………』



 胸にわき上がる郷愁、足下が崩れる様な不安定感。

 それに突き動かされ、カミラは天井に向かって叫ぶ。



『答えなさいAIとやらっ! ここはっ、世界はっ、セーラはっ、私は何なのよっ!』



『Tとお呼び下さいカミラ・セレンディア』



『――――っ! 答えた!』



『はい、回答しますカミラ・セレンディア。Tは当施設の管理AI、約100年前に死去した前所長の遺言により、イレギュラーTTに該当するカミラ・セレンディアに全ての権限が委譲。――――ビデオメッセージをお預かり致しております。再生しますか?』



『今すぐ再生なさいっ!』



『では、時空転移実験室までお越しください。ご案内致します』



『このノート型で再生出来ないの?』



『遺言ですので、どうかご了承くださいませ』



 Tの返答に肩透かしを覚えながらも、カミラは誘導に従って部屋を出る。

 事務所の様な部屋、調理室と食堂。

 そして。



『何? このガラスの壁だけある部屋、嫌な感じだわ』



『それは人体実験室です。ですが被献体が表れなかった為、使用した記録はありません』



 今朝、始めてきたユリウス達と同じように、きょろきょろしながらカミラは進む。



『…………ねぇ、この等身大の人形が沢山あるのは?』



『作業用アンドロイドの生産工場です。現在は資源不足と機械の老朽化、技術者の不在等の理由により、製造を停止しております』



『…………散らかってるわね、この部屋』



『寄り道ですか? そこは工作室です、必要とあらば今すぐ使用出来る様に手配しますが』



『必要ないわ、先に進みましょう』



 そうして、サーバールームの横を通り過ぎた後、案内は止まる。



『ここが時空転移実験室、或いは時空間制御機関・コントロールルームです』



『なんで二つも名前があるのよ?』



 不振な目で大きな扉を見るカミラに、Tは説明した。



『当ユグドラシルは、その成り立ち故に最後まで一枚岩ではありませんでした。所謂タカ派が時空転移実験室と、ハト派が時空間制御機関・コントロールルームと名付け、日々争いを』



『なんで内ゲバしてるのよ…………』



『なお、最初に名乗った世界平和恒久実現機構ユグドラシルという名称はハト派で、タカ派は新人類統治機構と』



『タカ派でもハト派でもどっちでもいいから、中に入れて頂戴』



 こんなに高い科学技術を持つのに、最後まで内ゲバ。

 まだ施設の中を歩いただけなのに、カミラは疲れた顔をしながら開いた扉の中に。

 そこは大小様々な機械がひしめく広い空間で、中央だけに丸く、何もないスペースが。



『あら、ここだけ電灯なのね。それに壁も所々焦げた跡が』



『数々の失敗により、壁の光源機能が消失。以降、修復が簡単な旧時代の電灯を使っております』



『電灯が旧時代…………まるで、今が未来の様な言い方ね』



 揶揄する様なカミラの言葉には答えず、Tはいきなり部屋の明かりを消す。



『これより、メッセージを再生します。イレギュラーTT、全ての疑問はここに。――――タカ派とハト派、どちらのメッセージから再生しますか?』



『せめてその辺くらい統一しておきなさいよっ! …………タカ派からお願い』



 新人類統治やら実験室やら、タカ派というのは胡散臭い印象だ。

 なら、嫌な事から先に聞いてしまおうという判断である。



『では再生します』



 瞬間、カミラの目の前に人相の悪い髭の老人が、立体映像の形で表れた。



『…………こんな技術もあるのね』





『これを見ているという事は、このユグドラシルが虚数空間への格納限界を越えて、地上に戻ったという事だろう。…………真逆、奴らが研究しとるタイムトラベラーとやらではないだろうな? まぁ、今となってはどちらでもよい』



 髭の老人はギロリと睨むと、ため息を一つ。

 それからまた、仰々しく口を開いた。



『ようこそ忌まわしき新人類、我らこそが旧人類最後の生き残りの一人である』



『蒙昧なる諸君、いや哀れな勇者かね? 先ずは我らの歴史を知るがよい。全てはそこからだ』



 場面は変わり、青い星が映し出される。

 見覚えのある大陸、島国――――地球。



『西暦二〇九〇年、つまり二十一世紀の終わりの事だ。――――その年を境に、世界に超能力者が産まれ始めた』



『超能力とは、現在お前達が使っている魔法。その前身と認識してくれ』



 映像は赤子が、不思議な力でベビーベッドや本棚を浮かして、親を困らせていたり。

 小学生くらいの子供が、虚空から炎や水を取り出し、投げ合って喧嘩している姿が。



『超能力は、当時の科学力では理解不能の、物理法則を無視した力として注目された』



『最初はまだ超能力者として産まれてくる数が少なかった事もあり、社会はそれを受け入れ、時に新たなる進化としてもてはやした』



 場面が変わる。

 今度はガラの悪い超能力者の若者と、警官や兵士が対立する姿だ。



『最初の数年は平和だった。だが五年経ち、十年を過ぎ二十二世紀になる頃には、超能力を使う“新人類”と使えぬ“旧人類”の間は険悪になり――――とうとう、戦争が始まった』



 戦車や戦闘機と戦う若者の姿が映し出される。

 中には、十に満たない子供でさえ、旧人類らしき軍人を蹂躙する姿があった。



『戦争は激化した。だが、二十年も経つ頃には産まれていく子供は全て新人類。勝敗の行方は明白に思えた』



 新人類のリーダーと思しき男が、志を同じくする配下の新人類達を鼓舞する映像が流れる。



『だが、そうはならなかった。戦争は泥沼化した。ああ、なんと愚かな事か、彼らは力に溺れ、過酷な支配制度を強いたのだ』



 ニュース映像や、新聞記事が写る。

 どれも、新人類の亡命者が増えているという内容。



『旧人類は彼ら亡命者を人体実験にかけ、人工的に戦闘に秀でた超能力者を生み出した――――それが魔族の源流だ』



『また、その実権の副産物で得た技術により、パワードスーツや携行型ビーム照射装置など、新人類に対抗できる力を得た』



 以前ガルドが見せた映像と同じモノが映し出される。

 パワードスーツと、地を裂き空を行き、雷さえ自在に操る新人類との戦い。



『やがて戦争は、世界全土に及ぶ殲滅戦に移行した。もはや、どちらかが滅ぶしか道は無かった』



 燃えさかる大地、破壊され行く文明、山が消し飛ぶ光景。



『旧人類は危惧した。このままでは星ごと消えてなくなると。――――だから作ったのだこの虚数空間に存在する大規模シェルター、ユグドラシルに』



 髭の老人は酷く疲れた顔で、こちらを見た。



『程なくしてオーストラリア大陸は海に沈み、ユーラシア大陸とアメリカ大陸は物理的に衝突。…………人類はほぼ滅びた』



『旧人類で生き残ったのは、この完成間近のユグドラシルにいた、一部の科学者や建設業者。そして、新人類のごく一部。百億以上いた人間が、数千人にまで減ったのだ…………』



 髭の老人は、震えながら言う。



『もう二度と、こんな過ちは繰り返してはならないと! もう二度と戦争など起こさせないと!』



『我々は立ち上がった! このユグドラシルが人類の道しるべになる為に!』



『解るだろう! お前達は平和だった! 戦争などなかっただろう! 生活に不便した事もなかった筈だ!』



『それも全部、全部、全部――――我らユグドラシルの功績である!』



 絶望の光を宿した老人は、しかして恍惚となりながら説明を始めた。



『戦争末期、旧人類のテクノロジーは超能力の完全解明を成し遂げた…………。このユグドラシルの共鳴装置で超能力者の脳波を全て受け取り、変換する事で、万人が同じ効果を発揮する新たなる超能力――――魔法を実現させたのだ!』



『それだけでは無い。二度と戦争が起こらぬように、共鳴装置による思考制御――――戦争への認識阻害、そして平和への誘導』



『更には、将来人口が増えた時の備えとして、共通語、テレパシーを併用した新言語“バベル”の普及! 押さえつけられた悪感情の行き場として、ネレサリーエネミー、コードネーム“魔族”の設定』



『そして――――歴史の捏造』



 髭の老人はくっくっくっと笑うと、吐き捨てる。



『ああ、そうだ。君たちの歴史は全て嘘、このユグドラシルが作り上げた偽りのシナリオ!』



『どうだい? 絶望したか? 憎悪したか? いずれにしろ、我々は全て滅びており、ユグドラシルが地上に降り立ったという事は、――――もう、手遅れだ』



『だが安心するといい、このユグドラシルは機能を停止するが、魔法は残る。共鳴装置など補助輪の様なモノでね、君たちが適応し魔法が使える様に進化している事は確認済みだ』



 最後に、老人は懇願した。



『このメッセージを見ている者よ。どうか、どうかお願いだ。思考誘導は直になくなる…………。人類に平和を、二度と、戦争など起きぬように』





 そして、再び暗闇が訪れる。



『――――以上です。次のメッセージを再生しますか? カミラ・セレンディア』



『いいえ、その前に質問を答えて貰うわ』



『何なりと』



 人類が一度滅んだとか、新旧人類がどうだのと、驚きはすれ、腑に落ちない事はない。

 だが、次を見る前に幾つかの疑問は晴らしておきたかった。

 カミラは暗闇の中、虚空を睨む。



『さっきユグドラシル――――世界樹は虚数空間とやらにあると言ってたわ。つまり別空間にあるのでしょう? どうしてこの施設は地上にあるの?』



『肯定、この施設は地上に。ハト派とタカ派は文明崩壊後暫くの間、共に暮らしていましたが。その方針によりハト派は地上に移り住む事を決定したしました』



『成る程、それがこの施設だと』



『はい。元々崩壊前に作られていたのですが、その特異な技術により、唯一完全な状態で残存。幸か不幸か山に埋もれ。新人類に及ぼす影響は皆無で在った為、と聞き及んでおります――――備考・当施設の奥にはユグドラシルへの転送装置があります。ご利用の際はお声掛けください』



『…………そう』



 果たして、ここを発見出来たのは偶然なのか、必然なのか。

 すっきりしないモノを感じたが、次の質問へ。

 これこそが本題である。




『私の事を、イレギュラーTTと呼んだ。』




『肯定です、カミラ・セレンディア』




『その事と、私の時間が十六歳の誕生日でループしている事、そして前世、2000年代に生きた若い女性の記憶がある事――――関係が、あるのでしょう』




 この施設の名前から察するに、TTとはタイムトラベラーの略称。

 確信と、真実への不安と共に、カミラは返答を待つ。




『肯定。――――新人類、超能力者の中でも存在しなかった“時空間操作”能力者』




『しかし、その存在を確認していたハト派は、ここにたどり着く可能性を望み』




『対象能力者の時間循環措置――――“ループ”と、加えて、現在に最適な過去の不特定な個人、その記憶粒子をダウンロードする、所謂“前世”を準備、実行』




『該当の装置は今も正常稼働中――――疑問は解消できましたか? カミラ・セレンディア』




 あまりにも、あまりにも簡単に明かされた“真実”に、流石のカミラも絶句した。



『(この記憶がっ! 前世の記憶が、死んだ人間に仕組まれたものっ!? こんなにもはっきりと、家族の記憶が思い出せるのに。家族が既に死んでいる事に、悲しみを覚えるのに――――)』



 それだけではない。

 ならば、ならば。

 この世界が、乙女ゲーム“聖女の為に鐘は鳴る”と酷似している理由は何だ。



『――――Tっ! 貴方、入り口で“シナリオ”と! “聖女の為に鐘は鳴る”と言っていたわね! どういう事よっ!』



 その叫びに、今度はTが数秒沈黙し。

 機械の癖に、言いにくそうに答えた。



『……………………肯定。先ほどのメッセージの中で、支配する為に“シナリオ”を用意した、というニュアンスの言葉は覚えているでしょうか?』



『ええ、覚えているわ胸糞悪い――――真逆っ!? そのシナリオを、ゲームのシナリオから流用したとっ!?』



『…………その答えは、肯定であり否定』



 人工知能の曖昧な言葉に、カミラは眉を吊り上げる。



『はっきり言いなさいっ!』



『…………当施設は“時空間操作技術”の応用で、保持されています。しかし、本体のユグドラシルはそうではありません』



 その言葉に、カミラは非常に嫌な予感を覚えた。

 前世の記憶からしてみれば未来の技術とはいえ、人のメンテナンス無しで、百年以上完璧に動作する精密機械などあり得るのだろうか。



『本体に、ここの技術は使われていないと? その口振りでは劣化でもしている?』



『…………肯定。本体は経年劣化、及び管理者死滅後に発覚したソフト面の不具合により、正常な動作をしていません。あちらのAIからの報告では、シナリオに既存の創作作品から流用する事で、解決を計ったと』



『――――っ!? 他に、他に致命的な不具合は?』



『世界平和を実現する為の、思考誘導装置、及びプログラムに重大な不具合が。シミュレーション上では問題なく効果を発揮しているとの事ですが。今現在、実際に効果があるのかは不明』



 Tの報告に、カミラは頭を抱えた。

 こんな事を聞かされて、どうすればいいのだ。



『理論上、虚数空間への本体格納時間の限界は、あと数百年先です』



『――――仮に、本体の全てを破壊したら?』



 もはや、全機能を停止した方が後腐れないのではないか。

 その考えをTは否定する。



『此方からの遠隔操作は技術的に不可能、直接乗り込むしかありません。また、その場合カミラ・セレンディアの帰還できる可能性はゼロ』



『打つ手無し…………なのね』



 諦めようとしたカミラに、Tは答えた。

 まるで縋る様に、答えた。



『一つだけ方法が、崩壊前より行方不明となっている、オリジナルの“タイムマシン”を手に入れる事が出来れば。このまま全てを闇に葬る事も可能となります』



『崩壊前より行方不明? 大陸が衝突して全て崩壊して、百年以上経っているのよ。…………それに、どんな形をしているか判っているの?』



『不明、Tの記録には存在しません』



『そんなの、奇跡が起こらない限り無理よ』



 どことなく投げやりなカミラに、Tは十秒以上沈黙した後、呟く様に言った。



『――――では次のメッセージを再生します。カミラ・セレンディア、前文明を受け継ぐ者、どうか我らの祈りを、どうか』



 余りにも人間臭い言葉に、聞き返す間も無く。

 次のメッセージが再生された。





『さて、この映像を見ているという事は、貴方がタイムトラベラーだね』



『先ずは謝罪を。我々の身勝手な願いで、終わることの無い煉獄に落としてしまった事、大変申し訳なく思っている』



 痩せた厳つい顔の老人は、深く頭を下げる。

 そして、顔を上げると説明を始めた。



『この世界の歴史と、ユグドラシルの成り立ちは聞いているという前提で話そう』



『それはまだ文明が崩壊する前、私達旧人類の科学者がユグドラシルに乗り込む約一ヶ月前の事だった』



『当時の場所で、日本の…………なんだったかな? 兎も角、旧首都である東京の端の地域にて、タキオン粒子の異常変動が確認された』



『タキオン粒子の説明は省こう。今でもすべては解明されていないし、その時でも未知の粒子の一つでしかなかったからな』



 次に映し出された画像は、事故現場の様な光景だった。

 大きな楕円形だったと思しき物体がへしゃげ、燃え上がり、無惨に散らばっている。



『これは――――タイムマシンだ。ただし、平行時間軸の一つから迷い込んできた、という注釈が付くがね』



 画像は切り替わり、大怪我をした人物と、映像の老人が会話している光景。



『生き残りは彼一人。世界と世界の狭間にある、“箱庭”と呼ばれる場所から来たと言っていた』



『そこに住む者はすべてがタイムトラベラーであり、彼は、新たな居住時間を探す任務の最中だと言った』



『まったくもって眉唾な話だ。だが、新人類のスパイという証拠は出てこず、我ら旧人類の人間だという証拠も出てこない』



『その時の戦況は旧人類に非常に不利だった。故に、彼はタイムマシンの残骸と共に、研究対象として移送された。藁にも縋るという事だ』



 再び映像は老人に戻る。



『研究対象として送られたとは言っても、こういう戦時下だ。各種手続きや費用、人員の目途が付くわけが無く。事故から一週間も経てば人々の記憶から消えていった――――世界が、滅ぶまでは』



 力なくため息を出し、老人は俯いた。



『何を間違ってしまったのだろうなぁ…………。何か出来なかったのだろうか。…………こんな世界で、ユグドラシルのやり方は、本当に正しいのだろうか』



『いや、すまない。話を続けよう』



『文明崩壊後、今でいう鷹派の人員は、支配による平和を望んだ』



 老人の目がギラつく。



『一方で我々鳩派は――――タイムトラベルによる救済を望んだ』



『そう、君に望むのは。君に、昔の記憶を与え、その生を繰り返しに固定したのは、あの時回収し損ねたオリジナルタイムマシンを見つけ、過去に戻り』





『――――世界を、歴史を変えて欲しい』





 身振り手振りを大仰にして、老人は叫ぶ。

 聞くものが、哀れみを覚える様な叫びを。



『君の時間の世界が、どうなっているかは解らない。楽園かもしれないし、地獄かもしれない。愛しい者も居るだろう、大切な家族もだ』



『だが、だが、お願いする。こんな世界は間違っている! 新人類と旧人類の戦争など、支配による平和など、あってはならないのだ!』



『旧人類の文明と記憶を受け継ぎし者よ、そして新人類である者よ!』





『総てをやり直し、今を無かった事にするのだ――――!』







 映像は終了する。

 部屋に光が戻る。

 Tは、何も言わない。



『嗚呼、嗚呼、嗚呼、嗚呼、あぁ――――――』



 カミラは両手で顔を覆い、天を仰いだ。



『本当に身勝手だわ。人類の行く先を全部押しつけて、自分たちは死んでしまっているなんて』



『彼らにはタイムトラベラーの素質は無かったのです。だから』



『解っているわ。出来るなら試しているでしょうね』



 虚ろに響く言葉、それはカミラの心そのもの。



『人類の平和。ええ、どちらもそれを望んでいたわ。私にも理解できた』



『では、どうしますか? 過去に戻る道を、それとも、世界をユグドラシルから解放しますか?』



 そんなもの、決まっている。

 カミラの為すべき事は、既に定まっている。

 今更こんな事を知った所で、一ミリも揺るぎはしない。




『――――どうもしないわ』




『ええ、彼らの願いなんて、私には“どうでもいい”』




 カミラは笑う。

 くつくつと、希望に満ちあふれて笑う。

 だってそうだ。

 大切な事は、世界の事でも、人類全体の事でもない。

 ただ一人、――――ユリウスの事だけ。



『…………それが、貴女の決断ならば』



『物わかりが良い子ね、T。なら、早速動くわよ』



『何をするのでしょうか? この先、貴女は何を為そうと?』



 カミラは胸を張って答えた。



『決まっているわっ! ユリウスを幸せにするのよ! それだけじゃないわ! ループさせている装置があるのなら、それを壊せば私は生き延びられるっ!』



『シナリオ上、貴女の死は避けられない様に思えますが』



『何を言っているのよっ! 貴方とこの施設があれば、シナリオのルールから逃れる方法がきっと見つかる筈! 貴方、言ってたでしょう? 私に総ての権限があるって』



 Tはありとあらゆる可能性を検討し、そして結論を出す。



『……………………肯定。幾つかの条件を満たせば、カミラ・セレンディア。貴方がシナリオの支配下でも生き残れる可能性を確認、また、魔法も使用可能になるでしょう』



『ふふっ! 魔法まで使えるの!? それは僥倖!』



『今すぐ実行を開始しますか?』



『いいえ、どうせなら最高の状態でスタートを切りたいわ。ループの破壊と生き残る為の条件を満たす事は、最後にしましょう』



『了解しました。では三回か四回のループ後に、それを実行出来るように計画を練りましょう』



『ええ、そうして頂戴。――――ふふっ、はははっ! 待っててユリウス!』



 そうして、カミラの最終局面が訪れた。



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という訳で、世界の真実回でした。

これもまた、初期構想から変わらずですね。

ではでは、恐らく次回は今週中です。


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