13話 んん~、ヤンデレって本当に良いものですね!
昨日投稿した割烹で書きましたが。
平日は昼12時過ぎ、土日は夕方19時過ぎの投稿になります。
アメリと共に部屋へ戻ろうとしたカミラだったが、ユリシーヌに引き留められ人気のない寄宿舎裏まで来ていた。
「こんな所でお話とは、何ですのユリシーヌ様?」
「……今まで、気のせいだろうと考えていましたが、先程の事で確信に至りました。カミラ様、貴女はいったい何です?」
「何者とはおかしな事を、私はカミラ・セレンディア。他の何者でもありませんわ」
厳しい口調のユリシーヌに、飄々と答えるカミラ。
それが気に障ったのか、ユリシーヌは綺麗な目をキュっと細めて詰問する。
「他の皆様の目は誤魔化されても、私の目は誤魔化されません。――“あれ”は本当に魔法なのですか」
「ええ、勿論。私、この王国の――」
「――知っていますよカミラ様。ですがあまり侮らないでください。これでも王国の陰となるべく育てられた身、この世に存在する全ての魔法の知識はあります。その上で――あれは『魔法』ではないでしょう」
ほう、とカミラは感嘆した。
確かに侮ってはいた、日本語までは解っても、転生者のセーラですら、聖女であるが故に、それが『魔法』ではない辿り着けないと。
だから、他の誰にも解らないと思いこんでいた。
だが転生者ではない、他の誰でもないユリウスがそれに気づいた事実にカミラは喜んだ。
「ふふふっ、流石はユリシーヌ様! では何故“あれ”が魔法ではないとお考えに? 他にもあるのでしょう?」
「――ッ! ぬけぬけと……。いいでしょう。まず一つ、『魔法』に呪文や魔法陣が必要な場合がありますが、原則として、言語による差異はありません」
「ええ。それが世界の、『魔法』の法則ですわ」
「では何故、貴女は異なる言語を使ったのですか? しかも、言葉に魔力を乗せただけで、最後に至っては魔力を放出してそれらしい事をしただけだ」
「ふふふっ、ふふふっ。楽しいわ。お分かりになるのね……」
問いつめている筈なのに喜んでいるカミラに苛立ちながら、ユリシーヌは続ける。
「そしてもう一つ、世界に選ばれた『聖女』の力は絶大です。ただ王国一魔法が優秀なだけで、対抗できるわけがないと、私は知っています」
「――貴男のお父上の、『勇者』の力がそうだった様に、ですか?」
カミラが告げた言葉に、ユリシーヌは動じることなく、ただ睨みつけた。
「やはり、知っていましたか」
「ええ、貴男の事なら何でも。三十年前、魔王を封印した勇者の子孫、ユリシーヌ様」
――勇者。
原作『聖女の為に鐘は鳴る』では言葉だけ登場した、聖女と同じく魔王のカウンターになる存在。
実はかのゲームには、その三十年前の魔王との戦いを描いたBLゲーがあったのだ。
カミラの中の人はBLの趣味はあんまり無く、一通りクリアしただけで済ましてしまったが。
ゲームの発表時には前作のファンが、続編なのにノーマルカプの乙女ゲーなんて、と様々な怨念のこもったコメントをネットでまき散らし、炎上したものだがここでは割愛する。
「ならば、こちらの言いたい事も解るでしょう? 何故、貴女は『聖女』の力に対抗出来た、いえ、貴女はそれを無かった事にすらして、力への抵抗へも付与した。――答えて、答えなさい。貴女は……何者なの?」
只でさえ綺麗な顔に睨まれているのだ、その上、王族を闇から護衛する為に鍛え上げられた、まである。
常人ならば重圧に負けて気絶、或いは逃げ出していただろう。
だが、カミラは涼しい顔でこう答えた。
「少々風変わりな女の子ですわ。貴男を好きな、です。……でも強いて言えば、セーラの真実が明かされれる時、私の『本当』も語りましょう」
「答える気は無い、と言うことね」
凪いだ瞳でカミラが微笑む。
――ドンッ。
次の瞬間、軽い衝撃と共にカミラは背後の壁へ押しつけられた。
同時にユリシーヌの左手が壁を打ち、その端麗な顔を歪ませてカミラの顔の近くへ。
「これだけは言っておく。――ゼロス殿下やヴァネッサ様達に何かしたら、俺はお前を憎み絶対に、絶対に許さない!!」
――カミラの心に少し、罅が入った。
緩み始める涙腺を、静かに瞼を閉じる。
そして口に出した言葉は、意図せず哀しい響きを得た。
「いいえ、貴男にだけ。……貴男にだけですわユリシーヌ様……」
その言葉に、その声色の意味に、深く考えてはいけないと、ユリシーヌは苛立ち紛れに次の質問を投げた。
「では、何故あんな事を? ……セーラ嬢は確かに『聖女』としても、我が校の生徒としても未熟と言える。だが、自らの体を犠牲にすらして、セーラ嬢の罪を犯させたのは何の目的があったのだ?」
「……あの子を、幸せにする為に、ですわ」
予想だにしなかった理由に、ユリウスは絶句した。
「――――俺には、お前が解らない」
のろのろと顔を離し、ユリウスは言葉を探す。
「何故なんだ? 普通は憎しみとか、嫉妬とかあるだろうに……」
「ええ、確かに“それ”もありますわ」
「それ?」
「――憎しみ、ええ、私はセーラを憎んでいます」
(奪われて、裏切られて、利用されて、殺されて)
「ええ、ええ、憎んでいます。……でも、今の彼女には関係の無い事、これも今は時の彼方ですもの。――でも、だからこそ、幸せになってもらいたい。私の目の届かない、私の関係のない所で、幸せになってもらいたい……」
「――――ッ! 本ッ当にッ! お前は、何がしたいんだッ! そもそも何故俺なんだ? 確かにユリシーヌとして親友とも言える間柄だったかもしれないッ! でもッ! 何か、何かあったか? 俺たちは、ただ普通に仲の良い友人だっただろう!?」
叫び出す寸前の言葉に、どうしようもなくカミラは笑う。
その笑みは、今にも壊れそうなはかなさに満ちていた。
「……貴男は貴男であるが故に、知ることが出来ないわ。でも、確かに私達は……、あの時、私が十六になるその前に、貴男が見つけてくれて……」
怖々と愛おしそうに、カミラはユリウスの頬をそっと触れる。
その手が冷たかったからだろうか、それとも、それとも。
「――――ッ!」
ユリシーヌは青ざめて身震いすると、反射的に一歩後ろに下がる。
(嗚呼、その瞳は……)
まるで異形の化け物を見るような眼差しに、カミラの心の臓は鋭い痛みを訴える。
でも、これはしかたのない事なのだ。
仮に今カミラの全てを晒け出しても、きっと解って貰えない。
――でも、それでも伝えたいと、伝わって欲しいと。
逃げ出したい気持ち、痛みを堪え、震えながら口を開く。
「……貴男に、男としての幸せをもたらしたいのですわ。私が、貴男を幸せにして差し上げたい」
「俺は望んでいない。俺の人生は王族の、ゼロス王子のモノだ。それが俺の役割であり使命、それを変える事は出来ないし、するつもりもない」
「承知の上ですわ。それに、ユリウスの使命と私のもたらす幸せは両立できると考えられませんか?」
「だがその為に、罪を犯していない『誰か』を犠牲にしてもか? 俺はお前が誰かを傷つける遣り方を変えない限り、――決して、愛する事はない」
きっぱりと言われた言葉に、カミラは喜んで頷いた。
――なのに、なのに、何故さっきから頬が冷たいのだろう?
「ええ、ええ。……それでこそ、私が好きになった貴男ですわ。貴男が貴男でいてくれて、とても嬉しい」
紡がれた言の葉に、ユリウスはくしゃっと顔を歪めた。
カミラは、何か変な事を言ったであろうかと首を傾げる。
「…………ではお前は、何んで、嬉しいと言いながら泣いているんだ?」
カミラは自分の頬に指で触れると、涙を流していることに今更ながらに気づいた。
「今、私は泣いているのですね。でもそれはきっと、貴男に拒絶されて哀しいから。……そして、とても嬉しいからでしょうね」
「……」
「嗚呼、嗚呼、とても嬉しいのですわ。また、貴男の感情を一つ頂けた。貴男が私に向ける気持ちは、例えそれが負のモノであっても、――大切な、大切な宝物」
愛おしい我が子を抱きしめるように、カミラは自分を抱きしめた。
ただひたすらにユリシーヌを見つめ、涙を拭おうとしないカミラの姿にユリウスは唇を噛みしめる。
「…………くそッ!」
「――っ!? ユリウス様?」
あっ、と驚く暇もなく。
カミラはユリウスの腕の中にいた。
「すまない……。理由がどうであれ、俺はお前の心を傷つけた。――だからせめて、泣き止むまでこうしてやる。…………そんな顔で泣くな」
「勝手に流れ出るのですもの……、でも善処しますわ」
「……はぁ。泣くぐらいなら、もっと真っ当にやってくれ」
「ふふっ、それも善処しますわ」
逞しい腕、胸板、優しい体温にだかれ、カミラは震える。
ついでに、香しい体臭をクンカクンカしたのはご愛敬。
「……酷いヒト、拒絶なさるくらいなら、いっそ突き放してくれた方が楽ですのに」
(でも、だから好きになったのですわ)
カミラが初めて絶望を覚えた日、膝を抱えただ泣くだけのカミラを見つけ、抱きしめてくれたのはユリシーヌだった。
――その事実すら、今はもう無いけれど。
カミラとユリシーヌは、アメリが探しにくるまでずっとそうしていた。
なお、ひび割れた心は、この抱擁で回復した挙げ句、より強固になった。
ちょろい女である。
何を隠そう、こういうシチュ好物です。
ですんで、この先に何回は入れるつもりです(予定は未定)
皆様は好きですか?