127話 ネタバレしよう……魔王という存在は、別段ラスボスとかではない。だってゲームじゃないですしおすし
「ええ、この頃はまだ未熟だったわね。本当に大切なモノが何かも解らず、ただ悲劇だけを嘆いて」
「いやいやいやいやぁっ!? カミラ嬢!? これは嘆いて当然だぞ!? よくここから持ち直したなっ!」
「…………魔王を倒して、でも駄目で。それでどうやってこ“繰り返し”から脱出したのカミラちゃん?」
平然としたカミラの言葉に、ゼロスが思わず叫んだ。
一方で、母であるセシリーはおっとり首を傾げる。
ここから立ち直ったのは今の状態から見て解る、きっとこの先にもまだ何かあるのだろう。
親として、力になれなかった事は忸怩たる思いだ。 しかし、王子の言の通り、どうやってココから今に繋がるのだろう。
「私が魔王である事は話したかしらママ様? これから先、私は一つの間違いを犯した――――その贖罪の過程の、偶然と必然の産物なのよ」
「“間違い”?」
「ええ、ユリウス。貴男に対する…………私の“罪”」
カミラは母に答えた後、ユリウスを一瞥し、視線を映像へと戻した。
そこでは、壊れゆく自身の姿があった。
『嗚呼、嗚呼、嗚呼…………私はこれから何をすればいい、何を目的として生きればいいの? 未来永劫繰り返す、この煉獄の中で――――』
瞳から光を喪い、幼い頃より出奔して、宛もなく各地を放浪するカミラ。
幼い姿から成長を続け、薄汚い浮浪者となり、ただ死ぬその時まで彷徨うカミラ。
『ふふっ、こんな時でも貴男は現れるのね』
『何を言ってる? おい、しっかりしろっ! 今食べるモノを持って――――』
何処とも知らぬ荒野で、餓死するカミラの前に姿を見せたのは、やはりユリウスだった。
『(嗚呼、この腕の中だけは、いつも変わらない。暖かい、私だけの――――)』
死に戻る中、カミラの胸にストンと温もりが落ち行く。
『(そう、そうね。何もする事が無いのなら。この生に意味が無いのなら。せめてユリウスだけでも)』
「この決意がなければ、私は今でも繰り返していたでしょう。――――でも、決定的な過ちも犯さなかった」
ユリウスは言葉の意味を視線で問いかけるが、カミラは沈黙し、答えなかった。
映像では、どこか虚ろな目をしたカミラが、生の勢いを取り戻して活動を始めていた。
『ばぶー』
『(先ずは、目的を決めましょう。私は十六で死ぬ、でもその先でユリウスが幸せを掴めるように、その土壌を作ってみましょうか)』
自分の生存に拘らなくなったカミラは、今までの焦燥感から脱し、余裕を以て事にあたっていた。
『私一人で出来ることは限られているわ。シナリオの強制力や制限もある。四歳まで成長したし、そろそろ組織作りをしましょう。――そうね、今度は陽の当たる組織がいいわ』
これまでの周回と同じように、けれど禍根を残さないように。
カミラは手足となる人員を確保し、商会を作り上げた。
だが同時に、今までと同じように暗闇の組織も立ち上げた。
世界は、優しくない事を痛感していたからだ。
――――そしてまた、入学式の日を迎える。
『初めましてユリシーヌ、何れ貴女を救う者――――カミラ・セレンディアですわ』
『私を救う、ですか? うふふっ、おかしな人ですね』
カミラはユリウスの側に居る様になった。
セーラは殺さず、組織の力と金で出来る限り遠ざけて、二人きりの時間を作り上げた。
『(ユリウスが暗部を止めても生きてけるように、商会での立場の用意をしておきましょう。もう一つの方は、暗部として生きる選択をした時のバックアップをしてもらう為に)』
王国の表と裏から、カミラは浸食を始める。
否、入学の時点では、あともう一歩で牛耳れる所まで来ていた。
――――でも、駄目だった。
『カミラ・セレンディア! 王国の支配をもくろむ反逆者! アンタの企みは全て阻止したわ!』
『ちぃっ! ここで来る訳ねセーラ』
『馴れ馴れしくアタシの名前を呼ぶなっ!』
『はいはい、大人しく捕まるわよ。――――この手は駄目ねセーラの踏み台にされる。次の手を考えなければ』
『アンタに次は無いわ。――――ええ、せめて父親の手によってあの世に逝きなさい』
そうしてカミラは、国王から命じられた父クラウスの手によって、その命を散らした。
次の周は、セーラに企みが発覚しない様に、これまで以上に金をばらまいて。
でも、不正を母セシリーに見つかり、口論の末、喧嘩になり命を散らした。
『お金だけでは駄目ね、セーラが敵対しても、容易に手が出せない地位と権力を手に入れなければっ! 嗚呼、まっててユリウス! 貴男をセーラと王国の暗闇から解放してあげるからっ! ふふっ、ははははははっ!』
次にカミラは、権力を求める様になった。
これまでのノウハウで人と金と繋がりを準備し、領地にも手を加え。
少しづつ、少しづつ、失敗と死を何度も繰り返しながら成長した。
そして遂には――――。
『――――初めましてカミラ・セレンディア様。貴女の護衛を命じられたユリシーヌと申します』
『ふふっ、陛下にお頼みした甲斐があったわ。これからよろしくね』
この頃のカミラは、今とほぼ変わらない風貌をしていた。
それ故に、カミラの一挙手一投足に心動かされ、ユリウスはその心を開き。
終いには、自身の過去や男である事実すら打ち明ける様になった。
だが、それでも駄目だった。
何度やっても時間が足りず、ユリウスの意志までは変えられない。
『ねぇ、考えてくれた? あの話』
『貴女の想いは嬉しいですカミラ様。でも私は、王に仕えると誓って――――なんだお前達ッ! ゼロス殿下までッ! ここは淑女の寝室です、殿方が――――』
『逃げてユリシーヌっ! 彼らは正気じゃないっ!』
十六歳の夜、最後にせめて二人で、と自室で語らうカミラの前に現れたのは、セーラに籠絡され洗脳されたゼロス達と王国騎士だった。
顔見知りの襲撃により、ユリウスはいとも簡単に囚われ、カミラは組み伏せられる。
『アンタがカミラね。まったくこうもシナリオを変えられたら、アタシのハーレム計画が台無しじゃない。――――やっちゃってよゼロス』
『ああ、愛しい君が望むなら。…………お前に恨みが無いが死んでもらう。安心するといい、君の栄華を妬んだ賊によって、死ぬ事になっている』
『よせッ! 止めろゼロスッ! ゼロスッ! カミラ様ああああああああああああッ!?』
ゼロスによってカミラの心臓は貫かれ、そして時は巻き戻る。
『(なるほど、セーラを遠ざけて放置したらこうなるのね…………。まったく、やっかいな女だわ)』
もはや自分の死に何も思わなくなっていたカミラは、冷静に次の策を練り始めた。
『(赤子から入学式まで時間はある。これまでの路線は間違っていないから、次は――――“力”。誰をも寄せ付けぬ圧倒的な力を。魔王とセーラ、二人がいなくなれば道は見える筈)』
時間は永遠にある。
カミラは自身を鍛え始めた。――――決定的な破滅から目を反らして。
『容姿のレベルを落とさずに、体を鍛えなくてはね。筋肉はどの程度必要かしら?』
魔力を使わず戦う方法を、魔王にすら対抗出来る物理的な技術を。
カミラは求めた。
『上手くいかないモノね…………。魔法の所為で、肉体のみ戦う技術を持つ者は、ほぼ全滅だわ。十回繰り返しても、前世の様な剣道師範でさえ見つけられないとは』
それなりの体術、剣術、そういった類は身につけた。
けれど、それだけでは足りない。
『こうなったら、各技術一つにつき最低十周は武者修行をしましょう』
カミラは常人では気が狂いそうな程時間をかけて、全てを一流にまで持って行った。
それだけでは無い、前世知識を元に火薬をどうにかこうにか作りだし、銃や爆弾、はては簡単なロケット砲まで作り上げた。
『ざっと二百年かけたけど…………何故、電子技術まで行くと、途端に失敗するのかしら? もう百年やって、駄目だったら諦めましょう』
一つ一つ、賽の河原で石を積み上げる様に。
カミラは多大なる失敗を繰り返しながら、前に進む。
そして、――――その時は来た。
『全軍――――進めっ! 敵は魔王ドゥーガルド!』
電子機器以外は現代の兵隊と同じ水準になった軍と、将軍にまで上り詰めたカミラは、魔族と戦争を始めた。
途中、セーラの裏切りで全てを喪う時があった。
途中、魔王の一撃で、全滅した時があった。
でもカミラは諦めなかった。
『殺せ、殺せ、殺せ、殺せ――――命令はただ一つ。全てを蹂躙して殺し尽くせっ!』
邪魔する者は全て殺した。
セーラも、ゼロスも、ヴァネッサも、国王も、クラウスとセシリーも。
ユリウス以外を全て諦めて、カミラは邁進した。
そして、魔族と魔王を殺し尽くし、王国も焦土に変えて。
――――気づいてしまった。
『うふふっ、ふふっ、あはははっ、はははははは――――嗚呼、嗚呼、嗚呼。とてもおかしいわ』
『…………なん、だ? カミ、ラ?』
魔王を倒し、王国を乗っ取り、血に塗れた王城、王座の前でカミラは狂った様に笑った。
その下で、血塗れで倒れるユリウスの姿があった。
『気づいていたのよ、ええ、目を反らしていたのよ』
力なく呟くカミラに、油断なく王国の民が槍を構える。
『ふふっ、そう警戒せずとも。私はすぐに死ぬわ』
カミラの体には、何本もの槍が刺さって突き抜けていた。
因果応報。
王国を焼いた際に犠牲となった人の家族、魔族との戦いで死んだ兵の家族。
そういった者達が起こしたクーデターによって、カミラは死に瀕していた。
『これで、何回目かしらね…………、もう覚えていないわ』
慣れきった死の予兆に動じず、カミラは呟く。
一人の犠牲も出さずに、魔族も魔王も殲滅出来た事もあった。
一人の犠牲も出さずに、権力を掌握した時もあった。
その両方を、達成できた上に、セーラを封殺できた時もあった。
『全て、全ては無に還る。私の成した事は無駄になる』
気づいていたのだ。
最初は、魔族との戦いの中だった。
次は、王族との戦争の中。
当然、魔王との戦いの最中でも。
『狡いわユリウス、――――死んでしまうなんて』
『本当に、狡い――――』
いくらカミラが頑張った所で、シナリオの強制力の前に無に帰す。
それだけではない。
これが現実と言わんばかりに、ユリウスにさえ、死の運命が与えられる時もあった。
『何一つ、貴男の事が手に入らないのに。嗚呼、嗚呼、嗚呼…………』
カミラの血が抜け、膝を着く。
ユリウスはもう、死んでいた。
ザク、ザク、と槍が突き立てられ、カミラは死んでいく。
恨み辛みを叩きつけられて、カミラは無惨に死んでいく。
『嗚呼、私には大切なヒト一人すら救えない』
『カミラ・セレンディアは、ユリウスを救えない』
『ふふっ、ふふふふふっ、あはははははははっ!』
『救えないっ! 意味がないっ! 何もかもっ! 嗚呼――――――――――!』
繰り返す度に、ユリウスの死が増えていた。
逃れられぬ破滅と共に、ユリウスが死んでいった。
ユリウスの未来を得る戦いが、ユリウスを死に追いやった。
『もういい…………、もういいわ…………』
そうして、カミラはユリウスの未来すら諦めた。
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感想レビューは一番上、最新話一番下
評価欄は最新話下
世界観はフェイク、シナリオ強制力大。
魔王がラスボスではない状態で、モブスタート主人公。
絶望しない訳が無いって話ですよ、はい。
という事で、絶望ターンは次回で最後です多分。