表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

122/141

122話 だいたいカミラ様の所為。



 辺境の地、セレンディア。



 王都の遙か南方、山々に囲まれた厳しい立地で。

 街など無く寒村が幾つか、農作物などの収穫はごく僅か。

 幸いなことに領地面積は狭く、税は少ない。

 食料に関しては、山で狩猟を行う事により人々の生活は保たれていた。

 良くも悪くも、今の時代の“底辺領地”――――それが、セレンディアであった。



「…………苦労しましたねぇ、カミラ様。山々を一瞬で吹き飛ばし、魔法で一気に土壌を整え、街と農耕地を幾つも確保。四苦八苦して移民してくれる人々を呼んできたり。魔法を使わない得体の知れない数々の品で、次の年から大豊作で、また人を集めたり」



「ええ、色々あったわね…………。ゴーレム達に知能を付けすぎて、労働組合が出来て、ストライキが起こった時とか、どうしようかと」



 カミラ達一行は今。

 ユリウス、アメリ、ミラ、セーラにガルド。

 そしてセレンディア夫妻に、魔族フライ・ディア。

 おまけにゼロスとヴァネッサを連れ、機上の人となっていた。



「あっ! あれ見てくださいよカミラ様! 名物三日月山! 知ってます皆さん、あれはカミラ様がご幼少の砌に、盗賊団を山ごと吹き飛ばしてできたんですよ!」



「あれ以来、何故かセレンディアでも有数の観光名所で賑わってるのよね。不思議だわ」



 カミラとアメリは、眼下に広がる光景にて思い出話。

 それをニコニコと聞いている夫妻。

 他の者は、セーラですらも困惑と驚愕に溢れていた。

 時刻は昼過ぎ、天気も良く景色が綺麗に見渡せる。



「不思議ってカミラ様~~。あそこの山脈一帯が銀山だって判明したのはカミラ様のお陰じゃないですか」



「あら、派遣したゴーレム…………何号機の何タイプだったかしら? ともかくそれの手柄よ」



「筆頭執事ロボ、カーネルから株分けしたサージェント七号君ですよカミラ様。そしてそれを開発したのはカミラ様なんですから。やっぱりカミラ様のお陰ですって」



 にこやかに笑うアメリに、カミラもふわりと笑う。



「ふふっ、貴女が言うなら、そういう事にしておくわ」



 麗しい主従の会話。

 しかし、しかしである。



「え、これがセレンディア!? けど何となく見覚えが…………うっ、頭が…………いえそうじゃないわっ! パパっ!? ママっ!? セレンディアはどうなっているんですかっ!?」



「これが嬢ちゃんの領地かよ…………魔王様が負ける訳だ…………」



「ファンタジーに輸送ヘリって何考えてるのよアンタぁ!? 何? こないだ、見たのはこんな内装だったの!? ジャンボジェットのファーストクラスより居心地良さそうじゃない!? というか街! 街よっ! なんかそれっぽい同人ショップまであるじゃないのよ!? どうなってんのよおおおおおおおおおおおお!?」



「ジャンボなんたらは解らないが、ああ、言いたいことは理解するぞセーラ。寒村? 底辺領地? どういう事だカミラっ!? そなた、どうやって“世界樹”を誤魔化してるんだ!?」



「いやはや、報告では聞いていたが…………はっはっはっ! 流石は我らが魔女謹製の都市! 王都より格段に狭いが、王都より凄いではないか!」



「凄いの一言で片づけないでくださいましゼロス。…………カミラ様は本当に規格外のお方で」



「――――そうか、俺。将来ここの領地を治めるのか…………。治めるのか…………治めるのか?」



 三者三様の反応を聞き流しながら、ユリウスは遠い目。

 領地、領地ってなんだ?



(全身ガラス張りの長方形の建物は何だ!? 道は全て舗装されてるし、しかも只の舗装じゃない、最新技術のコンクリート製だぞッ!? 他にも魔動馬車じゃなく、荷台部分だけで走ってるし…………ああもうッ! 上げればキリがないッ! どうなってるんだセレンディア領はッ!?)



 そう、彼らの眼下に広がる街。

 それらは所謂――――前世で言うところの近代都市であった。

 しかも、ただの近代都市ではない。



 カミラの前世の記憶にある町並みと、世界崩壊前の技術と基準で作られた。

 未来においての近代都市である。



「――――我ながら、やりすぎたわよね」



 領主館の屋上に設置されたヘリポートが見え始め、着陸のアナウンスが流れ始める。

 皆と同じく着席する中、カミラは固く決心した。



(地下の巨大ロボット基地と、前人類が使っていた軍事衛星や月基地行きのワームホールは、存在すら知られないようにしないと…………!)



 そして何より。



(私の私室から行ける隠し部屋は、最優先で封印しないといけないわ! だってあそこには、あそこには――――今まで集めたり盗んだり盗撮したユリウスグッズが山ほど有るのだから!)



「あ、ユリウス様。後でカミラ様の部屋の隠し部屋に案内しますね。そこにユリウス様へのストーカー行為の証拠が沢山あるので」



「アメリいいいいいいいいいいいい!?」



 あっさり暴露するアメリに、カミラは口を塞ごうとするが、時は既に遅し。



「『動くなカミラ』――――是非とも案内してくれアメリ。そしてガルド、セーラ、すまないがカミラを」



「うむ、任された」



「別にいいけど、見ない方がいいと思うけどなぁ」



 絶対命令権まで使って、カミラを制止するユリウス。

 頷いたセーラは、気の毒そうにユリウスを見た。

 彼女の予想が正しければ、風呂の残り湯のコンプリートとか、下着すり替えとか、ともすればそれ以上の、考えるのすらおぞましい収集が行われているに違いない。



 カミラに生ぬるい視線が、ユリウスに同情の視線が注がれる中、豪華使用になった輸送ヘリ(反重力制御、元局地支援型)は、無事に着陸するのだった。




 各々が、屋敷の客室に案内され。

 カミラの熱烈ストーカーぶりに、ユリウスが頭を抱えて焼却処分。

 失意のカミラが、その反動で無駄に豪華な食事を画策など、それなりの事があったが。

 何故か夕食の時間を前に、皆が応接室に集まり。

 そうとは知らずくつろいでいたカミラが、呼ばれて最後に入室した。



「あら、どうしたの皆揃って? まだ夕食の時間には少し早いわよ」



「何故ってカミラ嬢。俺達一同、お前に呼ばれてここまで来たが、詳しい話を聞いていないのでな」



 平常運転のカミラにゼロスが言い、全員が頷いた。



「大切な秘密を打ち明ける。そう言ったが、セレンディアまで来た意味があるのか? そして、そこに居る――――“魔族”。何故、彼がここに居る」



 ユリウスの言葉に、ヴァネッサと夫妻が身構える。

 だが、問答無用でクラウスが抜剣するより早く、カミラがあっさりと説明した。



「ええ。“魔王”として、私が呼んだのだから」



「――――!? カミラ! お前が――――、い、いやっ、魔王としてだと!? 何を言っている!?」



 愛する娘の言葉に、生まれてからこの方、常識外れの道を歩む愛娘に、クラウスは辛うじて手を止めてただ困惑の声を上げる。



「おいおい嬢ちゃん――――いや、魔王様よ。オレの事、説明してなかったのかい?」



「すまないわねフライ・ディア。明日、とある所に行く予定で、そこで全てを話す予定だったから。その時でいいと思ってたのよ」



「…………偶にそなたは、うっかりミスをするよな。まぁ余が言えた義理ではないが。そういえば事情を知らない者も、この中には半分くらい居るのか」



 そういえば、何故このガルドという少年もいるのか。

 ミラというカミラの似た少女も謎だ。

 カミラと親しいアメリや、恋人のユリウス、聖女であるセーラ。

 王子やヴァネッサも、まだ理解出来るのだが。

 というか、カミラが魔王とは何なのか。



 そんな視線を数名からカミラは感じ取り、明日スムーズに話を進める為にも、と自己紹介を提案した。



「皆の気持ちは解りましたわ。では、折角ですので、ここらで自己紹介といきましょう」



「うむ、余とカミラは隠し事が多いからな。必要だろう」



 緊張した空気のまま、ガルドを皮切りに皆が口々に賛同する。

 一同を見渡してから、カミラは、先ず自分からと口を開いた。



「急なお話でしたが、皆様ありがとうございます。全ては明日、詳しく話すわ。――――私はカミラ・セレンディア。父クラウスと母セシリーの“一人娘”にして、三歳の時に“魔王ドゥーガルド・アーオン”を殺害し、その力と地位を奪った者」



「三歳!? 聞いていないぞカミラ!? それより、何時どの様にして、そうなったのだ!?」



「風変わりな子だとは思っていたけれど、ここまで極まっていたとは…………ええ、詳しい事は明日聞かせて貰うとしても、せめて、少しぐらい話してくれていても…………」



 驚くクラウスに、肩を落とすセシリー。

 流石のカミラも、両親の様子にばつの悪い顔をする。



「ああ、そういえば夫妻には知らせていなかったな。――――ユリウスとアメリは驚かないのか? 聞かされてはいないのだろう?」



「まぁわたし達は…………」



「いろいろ巻き込まれたんだ。多少は察していたさ」



 ミラは話が理解出来ず、おろおろし。

 ヴァネッサは口をあんぐり開けて、瞬きを繰り返す。



「こういう訳なのよこの女は。これくらいで驚いていたら、明日はきっと耐えられないから覚悟しておきなさい」



「まだ何かあるのですか!?」



 ヴァネッサの叫びに、両親も気付き、カミラを注視する。



「ごめんなさい、今まで黙ってて。ええ、明日はこれよりもう少しスケールの広い話になるから、本当にごめんなさい」



 小さくなって謝罪するカミラに、取りあえずはと、アメリが明るく自己紹介。



「はいっ! アメリ・アキシア! カミラ様の忠実な右腕ですっ! カミラ様には一生着いていく所存ですっ!」



「本当に、苦労をかけているのだなアメリ…………」



「ううっ、休みが欲しいならちゃんと言ってねアメリちゃん。私達にはそれくらいしかできないから…………」



「ええっと、はい、ありがとうございます」



 アメリに同情の視線が注がれる中、次の人物へ。



「ユリウス・エインズワース。カミラの恋人で将来の夫だ。…………以前はユリシーヌとして、女として育てられていたが、カミラによって解放された」



「これから先も困難だらけだろうが、何とぞ、ウチの娘を見捨てないでくれたまえ婿殿おおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」



 男泣きしてユリウスに縋るクラウスに、然もあらんと、またも同情の視線が送られた。



 続いて、王子であるゼロス、同じく伯爵令嬢であるヴァネッサが自己紹介し、セレンディア伯爵夫妻。

 この四人は普通だったが、次は問題児聖女セーラ。

 事情を知る者は、知らぬ者の反応を想像しつつ見守る。



「セーラよ、家名は忘れてしまったわ。――――いえ、もとより存在してなかったのでしょうね。カミラによって、“聖女”の力を剥奪され、“魔族”と同じ様な体、という訳の解らない存在にされているのが現状よ」



「――――カミラ様!? 仮にも聖女である方に対して何て事を!?」



 思わずヴァネッサが詰め寄るが、セーラは笑ってフォローする。



「いや、いいのよヴァネッサ。どうやら、そうしなければ、アタシは今、存在してないらしいし。ほら、見てよこの手」



「セーラ様!? 何を――――ええっ!? これはいったい!?」



 セーラの手を見たヴァネッサと一同(カミラ以外)は、更に困惑を深めた。

 何故ならその手の輪郭が、明らかにボヤケていたからだ。



「ああ、大丈夫よセーラ。計算では後数年持つし、もう直ぐ貴女を人にする装置が完成するから」



「さらっと言ったわねアンタ。…………そう言うなら信じるわ。無駄な嘘を言うタイプじゃないもんね」



「…………これも詳しい話は明日か。なぁユリウス、カミラ嬢にはどれだけ驚愕の秘密を抱えてるんだ?」



「それが解ったら、苦労はしてない」



 またも繰り返されるユリウスへの同情と、セーラへの困惑と心配。

 カミラの摩訶不思議さが、ぐんぐん増しつつガルドの番だ。



「ガルド。今はただのガルドと名乗っている。――――前魔王ドゥーガルド・アーオンの肉体と、歴代魔王の記憶を受け継いで生まれた。“魔族”の造りし“魔族の勇者”で、人間だ」



「魔族に作られた勇者!? 人間!? 聞いていないぞカミラ嬢! ユリウス!」



「あらごめんなさい、でも言っても混乱するだけでしょう」



「…………ああ、ガルド様が転校して来た時期の騒動は、それ絡みだったのですね」



「ご明察ですヴァネッサ様。お二人への報告は、カミラに止められてまして…………」



 申し訳なさそうに頭を下げるユリウスに、ゼロスとヴァネッサは優しく手を取り、懇願した。



「出来るだけでいい、カミラ嬢の手綱を取ってくれ…………!」



「もう、ユリウスだけが希望です…………!」



「さっきから、遠回しに私の事を責めすぎじゃないっ!?」



「残念ですが、当然ですよカミラ様」



 カミラの抗議など、アメリ以外はスルーして次の人物。

 ――――魔族、フライ・ディアに移る。



「そこの王子サマは顔知ってたな。確か牢屋に見に来ただろアンタ。魔王配下四天王が一人、豪腕のフライ・ディアだ」



「成る程、魔族の有力人物の一人であったか。――――カミラ嬢に振り回されている犠牲者なのだな」



「犠牲者というより、哀れなピエロって所だけどな」



 得心のいったゼロスに、フライ・ディアは大げさに肩を竦めた。

 呼ばれた理由はその地位と、顔見知りが理由だろうが。

 人間と魔族とは、まだ敵対状態だ。

 その行く先はカミラとガルドの胸先三寸である故に、迂闊な発言は出来ない。



「そうそう、ゼロス。近い内に魔族との和平の使者としてこの者を送るから、王にも話を通しておいて」



「聞いてないぞ嬢ちゃん!?」



「カミラ嬢っ!? さらっと言うなさらっとぉっ!?」



 頭を抱える二人に、カミラ以外の全員から、恒例となりつつある同情の視線が送られる。

 それはそれとして、最後の一人だ。

 カミラはミラの横に立ち、その手を握り、代わりに話す。



「では最後の一人。――――この子はミラ。カミラ・セレンディア。もう一人の私自身。そして、未来の“私”であり、過去に戻ってしまった“私”」



「えっ? お姉様? またそんな、突拍子も無い事を…………あれ? 皆様、どうしてそんな顔をしてるんです?」



 不安そうにきょろきょろするミラと、少し悲しそうに微笑むカミラ。

 事情を知らぬ者は、お互いに顔を見合わせて、最初は夫妻から発言する。



「…………どうやってかは、それも明日で、真実なのだろうな。嗚呼、確かにカミラの面影がある」



「面影どころではありませんわ貴方。鼻の高さも骨格の感じも、カミラちゃんと瓜二つで、何より貴方と私の面影があるじゃないですか」



「どういう事ですお姉様!? パパとママは、何故――――」



 悲痛な声を上げるミラを、クラウスとセシリーは抱きしめた。

 理屈など解らない。

 だが、親としての本能が、ミラという少女が自分たちの娘だと訴えていた。



「ごめんなさいミラ。…………否、もう一人の“私”」



「…………何でもありなのだなカミラ嬢は、もう何があっても驚かない気がする」



「気を付けてくださいゼロス。カミラ様を甘く見てはいけません」



 困惑と畏怖に震える、ゼロスとヴァネッサ。

 フライ・ディアもまた、カミラを呆れ顔で見て、所在なさげに頭をぽりぽりと掻いた。



「皆様、疑問は数多くあるでしょう。ですが全ては明日。――――明日、“世界樹”の端末で、“繰り返し”の原因となったあの場所で、全てをお話しますわ」



 カミラはそう締めくくると、それ以降、どんな問いにも沈黙を以て答えた。



ブックマークは一番上左

感想レビューは一番上、最新話一番下

評価欄は最新話下


次回から、暫くシリアスです。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ