121話 宴終わり、兵どもが夢の跡………いやこれ、内容と微妙に関係ないな。
久しぶりの一日二話投稿の二話目です。
一話目は前話ですだよ。
「祭りの後って、いつも寂しいもんね…………いや、初めてなのかな」
文化祭の撤収作業の音音を聞きながら、セーラは一人、東屋で黄昏ていた。
なお、クラスの模擬店の後始末はサボりである。
別に、ミスコンで優勝できなかった事が悔しいのではない。
ただ、楽しい時間だったから、考えてしまったのだ。
――――自分は後、どれくらい生きられるのかと。
「あのヘタレババァは何も言ってこないけど、これ、ヤバいわよねぇ」
陰る日に手を翳すと、僅かに揺らぐ肉の輪郭。
やはり、セーラは人では無いのだ。
それだけでは無い。
「転生したってのも、きっと嘘っぱちよね。だって――――」
今の生の過去を思い出せない。
前世の生を思い出せない。
そして、この世界は記憶の“それ”より遙か未来の世界だ。
何より、ゲーム知識としても、記憶の齟齬が存在する。
「アイツはPCゲームで、あたしはVRゲーム。なまじ話しが合うから誤解してたわ」
それすらも、カミラはきっと知っているのだろう。
セーラは、妙に秘密主義なヘタレ女の顔を思いだし、ため息を一つ。
カミラはお人好し、というか根が優しい人物だ。
――――少なくともセーラの知る限りでは。
「まぁ、何か手を打っているんだろうけど。…………そろそろ聞いてみようかなぁ」
セーラは考える。
自分は何のために生み出されたのだろうか。
そして、ゲームから外れた今、何が出来て、何がしたいのだろうか。
「唐変木が気になるのも、漫画とか描きたいのも、逆ハーしたいのも嘘じゃないけど」
何か、目指す所とは違う気がするのだ。
恐らく、自分が何かしなくても。
今日の様子を見ていれば、カミラ達は自分自身の力で幸せを掴むだろう。
「アタシの幸せって何? 例えば生身を得たとして、それで何をするの? ――――ああ、そうか」
羨ましいんだ。
そう、セーラは呟いた。
セーラは、カミラが羨ましい。
「アタシも、誰かの為に一途に突っ走ったら、…………幸せ?」
誰か、幸せ。
口に出すまでもない。
ガルドの為に、何かをすれば。
それで、セーラに向けて、セーラにだけ、笑顔をくれたら――――。
「な、なっ! ないないないないっ! あ、アタシは何を考えて――――!?」
セーラの顔が、瞬間湯沸かし器の様に沸騰する。
そんな、だって、いや、これは。
攻略対象達に感じていた、どこか虚ろな熱情ではない。
セーラがセーラだからこそ得た、制御できない“想い”だ。
「ぐっ、…………どんな顔で、アイツに会えって言うのよ。うん。もう少しここにいよ」
火照った頬を、冬風で冷たくなった両手で冷ます。
下がった体温が、ひんやりとして心地よい――――。
「ここに居たかセーラよ、探したぞ! カミラが呼んでいるから、サロンに――――うん、顔が赤いぞ、熱でもあるのか?」
ぼんやりと宙を仰いでいたから、セーラはガルドの接近に気づけなかった。
更に。
ビクゥ、と硬直するセーラに、ガルドはピタっと額を合わせる。
何だ、何が起こっているのだろうか。
「~~~~ち、ちかっ、ちかっ、ちかっ!?」
(睫、意外と長い――――じゃなくて、唇の色は薄目――――じゃなくて!? じゃっ、なくてぇっ!?)
額を離した後、無遠慮に頬や首筋に手を当てるガルドに、セーラは混乱した。
「うむ、ちょっと熱が高めか? 脈拍は――――」
「――――さ、触るなっ!? 馬鹿男っ!」
「あだっぁ――――! 何をするセーラ! いきなりグーで殴るとは!?」
「お、乙女に触れるなら、せめて一言あるべきなのよ馬鹿ガルドっ!」
赤い顔で、ウガーと吠えるセーラに。
ガルドは、首を傾げつつ頷く。
「成る程? そういうモノなのか…………うむ、覚えたぞ」
「くっ~~~、こ、コイツは…………」
セーラは、あー、だの、うー、だの一頻り唸った後、パンと自身の両頬を叩き活を入れる。
「んで、――――カミラが話あるから来いって? ったく、用があるならそっちが来なさいよ」
「まぁそういうな。あっちはあっちで取り込み中の様だったし、ご両親が来ているみたいなのでな」
ぶつぶつと文句を言いながら、セーラは歩き出す。
カミラのサロンに向かうのはいいとして、この唐変木はどうしてくれようか。
「――――あ。そういやアンタ、ミスコンの時、デートがどうのと言ってたわよね」
「うむ、覚えていた様だな!」
偉そうに満足気な顔をするガルド。
そもそも、デートの約束はおろか、“そういう”関係ですら無いのにどういう事だろうか。
「デートって何するのよ。買い物でも付き合って欲しい訳?」
これはもしかして、もしかするのか。
ガルドは本気で、コナかけに来ているのか。
いやいや、そうではないだろうと、セーラは期待を出来る限り沈める。
この唐変木は、自分の恋愛感情に疎い。
そんなセーラの推測を肯定する様に、甘さなど一欠片もない健康的な笑顔で、ガルドは頷く。
「うむ、すまないが。デートとは二人っきりになりたい方便だ。――――大事な話があるのでな」
「だ、大事っ!? ――――ええ、うん、そうね。取りあえず言いなさいな」
そこガルドは足を止め、きょろきょろと辺りを見渡すと。
誰も居ないこと確認して、セーラの耳元で囁く。
「――――そなたの体を創り出す算段がついた」
「ああ、うん。知ってた。解ってた――――あれ? 何それ聞いてない!?」
「知ってたのか、知らぬのか、どっちなのだセーラ…………。まぁ兎も角だ。カミラから、一部の精密機械を譲り受けるとして、後は少しの調整で、準備が整う」
誉めて誉めてと言わんばかりの顔をするガルドに、セーラは頭を撫でなから詳しく聞く。
「有り難いし嬉しいけど、また何でそんな急に…………」
「実はな、当初は自力で何とかする算段だったのだが、我ら全員でカミラの実家に行く事になってな」
「ついでだから、アタシの体の関係も済ませようと? というか、カミラの話はそれか」
「うむ、その通りだ!」
ついで、ついでかぁ、とボヤきたい気持ちをぐっと堪えるセーラに。
ガルドは、真面目な表情で続ける。
「それでだな。――――この事は、カミラ達には秘密にしないか?」
「秘密?」
言葉の“堅さ”に、セーラも思わず声を潜める。
「秘密にする必要があんの? カミラに協力してもらうんじゃないの?」
「それは確かだがな…………思い出してくれ。余とカミラの方針の違いを」
「方針の違い? ――――…………ああ、“世界樹”がどうのこうのって奴?」
セーラの記憶が正しければ。
ガルドは“世界樹”を壊したい。
カミラは“世界樹”を存続させたい。
詳しい理由は解らないが、そういうモノだった筈だ。
「此度の帰省。カミラは魔族にも一人、代表者を寄越すように言った。つまり――――」
「――――あるわね。絶対、何か企んでる」
「うむ、何があるか判らないからな。少し強引にでも、時計の針を進めておく」
トラブルメイカーの高笑い思い浮かべながら、二人はがっしり握手する。
「いざとなったら、ちゃぶ台をひっくり返してでも止めるわよ!」
「ああ! 共に、カミラを止めようぞっ!」
ガルドとセーラは、ふんすっ、と鼻息荒く。
仲良く肩を抱き合いながら、カミラのサロンへと向かった。
時は少し巻き戻る。
セーラが東屋に独り、ガルドが探しに行く前の事。
カミラのサロンは、妙な空気に包まれていた。
「だから言ったのですカミィお姉様っ! どんな手を使ってでも勝ちに行くべきだと!」
「あら、いいじゃない。穏当に済んだのだから」
「あの乱闘騒ぎが穏当…………?」
「いや、確かにただの乱痴気騒ぎだったが、穏当という表現は違うと思うぞ俺の馬鹿女」
「外野は黙っててください! わたしはお姉様と話をしてるんですっ!」
バンと強くテーブルを叩き、ミラはヒートアップした。
ミスコンとその後の騒ぎで、王と王妃から正座お説教のコンボの後、サロンに戻って合流してからずっとこうだ。
「まったく。貴女は何を苛立っているのかしら? 可愛いミラ」
過去の自分を可愛いと形容する事に、むず痒さを覚えつつも。
カミラはミラの“理由”を問う。
ミラが本当にカミラの過去ならば、今を讃えど、責める謂われは無い。
やはり、シーダ0(仮称)としての経験に起因しているのだろうか。
「お姉様。正直、貴女には失望しました」
「失望? ふふっ、失望とは強い言葉を使うわね」
刺々しい視線を余裕の笑みで受け流すカミラに、ミラは拳を握りしめて叫ぶ。
「茶化さないでくださいっ! 解っていますかっ!? カミラ・セレンディアという人物は、誰よりも強く、美しく、全ての頂点に立たなければならないのです」
「何の為に?」
「――――支配する為です」
その言葉にカミラは、そしてユリウスとアメリも強く反応した。
自分自身であるカミラは勿論の事、二人にも覚えがある。
それは、少し前のカミラ。
不安定だった時のカミラの思考“そのもの”だ。
(やはり“そう”、なのね。純粋に私の過去の姿ならば、その言葉は出てこない)
それが出てくるのは即ち――――、“失敗”した経験があるからだ。
故に、カミラはミラの言葉を掘り進める。
彼女は本当に、記憶が戻っていないのだろうか。
「ではミラ。私は何のために、何を支配しなければならないの?」
「勿論、世界全てを。もう決して――――奪わせない為に」
「あらあら。今の私は、何も奪われてもいないわよ?」
おかしな子、と優しい笑みを浮かべる裏で、カミラは警戒を強めていた。
同時に、何があってもいいように、ユリウスとアメリにも警告しておく。
そんなカミラ達の行動に気づかず、ミラは俯いて語り出す。
「…………お姉様。わたし、夢をみたんです」
「夢? どんな夢かしら」
「顔は判らないけれど、とても大切な人を、亡くす夢。掴んだモノ全てを、壊す。とても、とても悲しい夢を見たんです」
ミラは曇った瞳でカミラを見つめると、ぽろぽろと泣き出しながら、想いを吐露する。
「思い出したくないのに、思い出してしまって。――――その度に、心が叫ぶんです! 失うなら! 奪われるなら! 全てを支配しろ! 全てを壊してしまえって…………!」
「でもそれは“夢”――――有りもしない悪夢よ」
カミラは、ミラから目を反らした。
どうして、今のミラを直視出来ようか。
「いいえっ、いいえっ! わたしには判りますっ! これはわたしとお姉様に降りかかる“未来”の暗示! ですのでっ! ですからっ! お姉様は、わたしは――――っ!」
静かに慟哭するミラの声に、カミラは胸が締め付けられる思いをした。
(嗚呼、嗚呼、嗚呼っ! 夢じゃないっ! それはきっと夢じゃないのよ“私”――――!)
夢ではない。
それはきっと、カミラとミラ、両方の過去で。
(貴女が辿った“道”なのよ、“私”が辿った道なのよ…………)
ああ、そうだ。
ミラは紛れもなくカミラだ。
もはや、過去の“私”と自分を誤魔化す事は出来ない。
(間違えてしまった私、一歩間違ったら、今の私だって)
カミラは決心した。
大鏡で得た決意を、深く深く、再び魂の底まで刻む。
「――――ミラ。いいえ、もう一人の私。その悪夢、解決しましょう」
「カミィ、お姉様…………?」
カミラは泣きそうな顔で、ミラを見た。
ミラは泣き顔で、カミラを見た。
「――――ユリウス。アメリ。お願いがあるの」
「何でも仰ってくださいカミラ様」
「ああ、何でも言ってくれ」
カミラは二人に顔を向けぬまま、願いを言う。
「一緒に、私の実家に来て――――」
「――――話は聞かせてもらったわカミラちゃん!」
「パパもいるぞおおおおおおおおお!」
「カミラのご両親!? いきなり入るのは――――ああっ、すまない! 余は邪魔するつもりは――――」
「パパ様ママ様!?」
「パパママっ!?」
瞬間、バタンどたばたとサロンに入ってきたのは、カミラの両親だった。
「どうしてここに居るのよっ!?」
「そうですっ! カミィお姉様の言う通りですっ!?」
さっきまでのシリアスは何処へやら。
偽りの姉妹は、まったく同じタイミングで顔を向け、手をバタバタさせる。
「だって、カミラちゃんの晴れ舞台でしょう? 親として、OBとして見に来ない訳、ないじゃない」
「うむ、水くさいぞ我が愛しい娘よ。メロディア女史が教えてくれなかったら、見逃す所だったわい」
「「意外な繋がりがあった!?」」
「というか、お知り合いなんですかメロディアさんと!?」
アメリの疑問に、父クラウスが答える。
「私達の世代の頃も、あの人はこの学院のメイド長でな…………よくお世話になったモノだ」
「あの人、本当に何歳なんだ…………ッ!?」
思わずこぼしたユリウスに、姉妹は首をぶんぶん縦に振って同意する。
「ふふふっ、カミラちゃん。四位おめでとう。親として鼻が高いわぁ」
「アメリも優勝おめでとう。君の様な身も心も優秀な者が、カミラの側に居てくれるなんて、とても誇らしく頼もしいよ」
「あうぅ。ありがとうございます…………あっ」
暢気に照れるアメリだが、ミラの存在に気付き、どう紹介しようか悩んだ。
作り上げたカバーストーリーは、学生向けで、更に言えば夫妻には伝えていない。
下手を打てば、ミラの記憶が戻り、先日のおっかないバトルが再び――――。
「ええ、いいのよアメリちゃん。言ったでしょう、聞かせてもらったって」
「ママ様達…………いったい何処から聞いて…………」
おろおろする姉妹ににっこり笑い、クラウスが力強く胸を叩く。
「詳しい事情は後で聞かせて貰うとして、うむ。我が領地へ来るのだな! 結婚前に、婿殿に領地紹介するのだなっ!」
「勿論、ユリウスさんと、その子だけじゃないんでしょう? 他のお友達は? 是非是非お誘いなさいな」
ぐいぐいくる両親に、姉妹はアイコンタクトで意思統一。
こうなれば流れに身を任す他無い。
「うん、わかったわかったから。――――ガルド、セーラを呼んできてくれない? それから、フライ・ディア…………で、いいわね。家に来るように話通しといて。それから――――」
「カミラ!? あの者を呼ぶのか!?」
「正気ですかカミラ様!?」
「またお前は…………何をするつもりなんだ」
ため息混じりのユリウスの言葉に、カミラもまたため息混じりに返した。
「全て――――全てを明かすわ。だから代表の一人として来て貰うのよ」
「…………お前の決意を尊重する」
「ありがとうユリウス」
いい雰囲気を出すカミラとユリウスだったが、残念な事に、ここには皆が、両親がいるのだ。
「仲良きことは美しき哉。結構、結構!」
当然、邪魔だって入る。
「そうそうカミラちゃん。――――“説明”お願いね」
むふぅと満足した顔のクラウスと、うやむやにはしないと、ミラの存在について説明を求める母セシリー。
「取りあえず、ガルドがセーラを連れて戻ってきたら説明するわ。一応、彼らも関係者だから」
領地に戻る前から疲れそうだと、カミラはどこか投げやりな笑みを作った。
ブックマークは一番上左
感想レビューは一番上、最新話一番下
評価欄は最新話下
みんな、気に入ったらバシバシ入れて感想書いてレヴュー書いて。
カミラ様をバズらせてもええのじゃよ? じゃよください。
閑話休題。
後書き替わりの割烹で述べていた通り、次話から次章です。
先史文明級近代都市セレンディアで、観光もせずに過去語りの予定です。
ええ、はい。
カミラ様の過去が丸裸になる、大事な章で、次次章の最終章に繋がる大事な章です。
ありたいていに言えばクライマックスというか、次章書くために、ここまで書いてた気もします。
ここまで読んでいただいた皆々様方、どうかお付き合いくださいませ。
かしこ。