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120話 優勝者? 勿論カミラ様に決まってるじゃないですか……え、あれ?



「――――待たせたな皆の者! それでは最後の“王妃への問い”に移る!」



 再び横一列に整列するカミラ達。

 目の前には王妃が立ち、微笑んでいた。



「ところでゼロス王子、内容はどんなモノだ?」



「これから、我が母上。ジナイーダ王妃が彼女達にある問いをする。今年は真面目なモノなので、皆、心して答えよ」



「ちなみに、どのようなモノを?」



 初参加の者達にも把握し易い様、見事な司会を見せるガルド。

 次回からはきっと、最初から参加だろう。



「ちなみに前回は、好きな人のタイプ、前々回は、好きな人に送りたいプレゼントについてだ」



「地味に色物だな」



「うむ、お祭り騒ぎだからな! でも今回は特別だ。――――観客の皆も、言わなくてもわかるだろう?」



 ゼロスの言葉に、観客も静かに頷いた。

 幸か不幸か、カミラにとっては他人事だが。

 これは、このミスコン事態が、ヴァネッサの王妃の資質を問いかけるモノだ。



(よくその状況で、この場で私と勝負する気になったわね…………いえ、それだけ大事だったのでしょう)



 ユリウス/ユリシーヌという“親友”の事が。

 この後、どんな結末が待とうと、カミラはユリウスの意志に従うのみだ。



 諦めではなく、絶望でもなく。

 かといって、燃えさかる炎の如く――――という訳でもない。

 カミラの心は、静かに凪いでいた。



「回答はエントリーナンバー順だ。言葉を纏める時間は三分! ――――では母上、お願いします」



 ゼロスからマイクを渡された、穏やかな四十代程の金髪美女――――ジナイーダ王妃が柔らかに微笑む。



「国一番の淑女足らんとする者達よ、そして未来の王妃よ」



 ジナイーダは出場者一人一人と視線を合わし、その問いを放った。




「罪と罰――――、それが問いである」



(ああ、そういう事ね。意地の悪い事…………)



 カミラは心の中で、皮肉気に笑った。

 歴代の王妃候補は因果の大鏡により、自身に纏わる罪を自覚させられる。

 そして、その上でどう答えるか。



(人は生きる上で、大なり小なり過ちを犯すわ。――――私は、他の人より多いけれど)



 この問いに、正解など無い。

 その答えによって、人間性、上に立つ者の資格を計る心理テストだからだ。



(考えるまでもない、言葉を探すまでもないわ。だって、私の心は既に定まっている)



 カミラだけでは無い。

 歴代の王妃も、今ここにいる全員がきっとそうだろう。

 観客も、審査員も、ゼロスもガルドも、全員がカミラ達を静かに見守る。

 やがて、三分が経過して順番に言葉を紡いだ。




「犯した罪には、罰が必要でしょう。でもそれ以上に、更生の余地を探したいと思います」




 エレルドレア・マドレーヌ教諭は、実に教師らしい発言だった。




「私の主人が、罪を罪だといったのならば、主人から罰を受けましょう。罰を与えよというなら、私が主人の代理として罰を。それが私のメイド道ならば」



 非常に若作りの老メイド、メロディア・ジーニアンは、あくまで主人に忠実ま従者である、と宣言した。




「罪人に罰が必要なら、私が施行しましょう。それが命を奪う事だったしても。その事で私が罪に問われるとしても。私はそれに殉じてみせます」




 凛々しい女騎士、クルーディア・クターレスは、身も心も騎士だった。




「愛しい方になら、罪も罰もわたしが与えましょう。もし愛しい方がわたしにお与えなさると言うなら、喜んで受けますわ」




 ゆるふわなSM系令嬢、リーリア・リナンシアは、愛が全て、という回答だった。




「わたくしには何も、それが天命に定められた運命ならば」




 薄幸美人、ユーミル・イーエスタンは、自身が決める事ではないと微笑んだ。

 一見、無責任な答えに見えるが、それもまた、確かな“答え”であった。




「アタシは傲慢と無知故に、罪を犯したわ。だから贖罪が必要なら、今すぐ行う。でも、もし、これから先、何かの罪と罰に出会ったのなら。それがアタシの信念に反するなら。アタシは立ち向かう。――――以上です」



 ゲームで主人公であった。

 今も聖女であるセーラは、己のルールにのみ従うと大胆不敵に笑った。




「王国の法が、王がそう定めたのなら、わたしは罪も罰も受け入れます。けれど――――」



「言いにくいことみたいですね、けれど、答えなさい。この答えで貴女がどの様な責も負わない事を、わたくしは宣言します」



 言いよどんだアメリに、王妃は優しく語った。

 アメリは深呼吸した後、カミラを向いて答えた。



「けれど、カミラ様。わたしは、たとえ貴女がどの様な罪を犯しても、その無罪を信じ、誰が相手でも戦いましょう」




「そして、どの様な罰を受けるとしても、貴女に付き従い、共に罰を受けたいと思います」




「――――ありがとう、アメリ」



 カミラは、しっかりと言葉を出した。

 自らの幸福に泣きだしそうになりながら、アメリを見つめた。

 ――――次は、カミラの番だ。




「犯した罪には罰を、そして贖いを。――――罪人は、被害者の意志/遺志によって裁かれるべきだと考えるわ」




 それは、ある意味。

 模範的な回答だった様に、王妃には思えた。

 だが、ユリウスとヴァネッサが少し顔色を変えたのを見て、その意図の一端を見い出す。



 カミラ・セレンディアという存在は、己の“法”のみに従い、王国の法を無視する。

 ――――そう、宣言したも同然の回答。

 それは、王族として無視できぬ発言だった。

 しかし、王妃として培ってきた“目”が、そうではない、と告げる。



「カミラ・セレンディア、貴女は――――いいえ、なんでも無いわ。ありがとう」



 王妃は追求するのを止めた。

 これまでの活動を見る限り、彼女の存在、行動原理は善である。

 王国の法も無視していないし、きっと、これからもそうだろう。



 そして何より。

 王妃には、カミラが“誰か”に裁かれたい様に思えた。

 ならば、行く先がどうなるであれ、口出ししていい事ではない。

 


「――――では、ヴァネッサ・ヴィラロンド。答えを」



 思考を打ち切ってカミラに微笑むと、王妃はヴァネッサと向き合った。

 ヴァネッサは、真っ直ぐに王妃を見つめる。




「王国の法に基づき、罪には罰が必要です。――――でも、それだけでは“足りません”」




「足りない、と?」




「はい。法では罪にならぬ罪をございましょう。もし許されるならわたくしは、今の法からこぼれ落ちた“罪と罰”に、贖いと更生の余地を与えたいと思います」




 ヴァネッサの答えに頷いた王妃は、更に切り込んだ。




「成る程。では、今の法での罪と罰の、その贖いと更生については?」




「勿論、そちらを軽視しての発言ではありません。罪を犯す者が出てこないよう、罪人が正しく裁かれ、更生できるよう。わたくしは力を尽くしましょう」




 王妃は満足そうに頷く。

 同時に、観客席や審査員達から拍手が沸き起こった。



(ええ、貴女はそれでいいわヴァネッサ。貴女と殿下の治める王国の未来に、幸が有らんことを)



 カミラもまた他の出場者達と同様に、惜しみない拍手を送る。

 そして、盛大な拍手が鳴り止んだ後、王妃は最後の一人、ユリシーヌの前に向かい――――。



「ええ、貴男は別にいいわね」



「王妃様ッ!?」



「いえ、だってユリシーヌは男ですし。可愛い婚約者もいるのだから、女装なんてしてないで王国紳士として、我らが魔女の夫として、王に王子に善く仕えなさい」



 突然の正論染みた説教に、笑いが溢れる。

 ユリウスとしては、粛々と縮こまるばかりだ。



「そうそう、来年からは出場禁止ね。だって男のツボも女のツボも、全て知り尽くした貴男が出るのは、少しばかり不公平ですから」



「う、うむ。そうだな母上! では来年からユリウスは殿堂入りで出禁という事で!」



 ユリウスをミスコンに引っ張り込んだ原因であるゼロスは、冷や汗をかきながらマイクを譲り受ける。

 王妃はそんな息子の様子をしっかりと見抜き、



「後でお話があります」



「…………わかりました」



 と言い残して、審査員席に戻っていった。

 ゼロスは学園祭後の説教を思い浮かべ、げんなりした顔もするも、そこは腐っても王子。

 すぐに切り替えて、次の進行へ移る。



「では皆の者! 出場者達の魅力を解って貰えただろうか!」



 続いてガルドが、詳しい説明をする。



「今から十分間、投票時間を設ける。入り口で配られた投票用紙に、これぞと思う人物の名前を書いて欲しい」



「その紙に書いた名前は、魔法によってその情報が此方に送られ、審査員の評と合わせ、厳正に計算されて、スクリーンに投影される」



 ガルドは投票用紙を掲げ、ゼロスは立体スクリーンを魔法で投影した。



「では、投票開始!」



「十分後をお楽しみにな!」



 ゼロス達の宣言と共に、会場がざわつき始める。

 審査員席も、談笑しながら記入を始めていた。



(たかが十分、されど十分。…………ええ、少し緊張するわ)



 全ての結果を受け止めると共に、気にくわなければ反故にする事すら決意しているカミラだが。

 気になるモノは気になる。

 不安を紛らわす為にも、アメリかユリウスと会話でも――――と考えていると、隣に居たヴァネッサが話しかけてきた。




「カミラ様、少し良いですか?」



「あら、ヴァネッサ様。どうかして?」



 神妙な面もちの彼女に、カミラは首を傾げる。

 この後に及んで、何かあっただろうか。



「先ずは今回の事について、謝罪致しますわ。――――申し訳有りません」



「何に対しての謝罪? 仮にも未来の王妃たるもの、そう易々と頭を下げるものではないわ」



 戸惑いながら揶揄すると、ヴァネッサはゆるゆると首を横に振って答えた。



「いいえ、未来の王妃としてではないわ。わたくし、ユリウスの親友として、そして貴女の友として、謝罪をしているのだから」



「話しが見えないわね。先の大鏡の事なら気にしなくてもいいわ。あれが私の“因果”だもの」



「それでも、ですわ。あの時の様子、そして質問の答え。…………貴女はきっと、自らの行動の責任を最初から取る気だった。そして、貴女を責める事が出来るのはユリウスだけ」



 それを、正しく理解していなかった。

 ヴァネッサは申し訳なさそうに、頭を下げた。



「いいえ、ヴァネッサ様。貴女の怒りは正しかった。――――私は、間違っていたのだから」



 だから、ごめんなさい。

 と、カミラも頭を下げた。

 そして二人は同時に頭を上げ、微笑みあう。



「あの勝負の賭は、無しにしましょうカミラ様。どの様な結果であれ、切っ掛けが何であれ。人として、未来の王妃としても、安易に他人の自由を奪う事はしてはならないのだから」



「――――貴女は、王妃に相応しい人物だわ」



 カミラは素直に吐露し。

 過ちを認め、正す事のできる彼女に敬服の念を覚えた。

 以前のカミラならば、その輝きに羨望を向け、隔意を向けていただろう。

 だが、――――今なら言える。



「ねぇ、ヴァネッサ様。私達、親友になれるかしら?」



 するとヴァネッサは、目を丸くしてクスクスと笑った。



「うふふっ、いやだわカミラ様。学院に入ってからずっと張り合って、時には協力して。わたくし達、もう親友ではないの?」



「ありがとう。愚問だったわね」



 カミラとヴァネッサは、堅い握手を交わす。

 今、二人の関係は以前よりも強固で穏やかなものになったのだ。



 二人の会話を聞いていたアメリとユリウスは、穏当な和解に、胸を暖かくさせながら会話に参加する。



「その、申し訳ありませんでしたヴァネッサ様、俺、いや私達の事で心配をかけて」



「もう、無理に女言葉を使わなくてもいいですわユリウス。戻って間もないけれど、男の姿を見慣れてしまったもの」



「いやぁ、一件落着ですね! 後はヴァネッサ様が優勝すれば、万々歳ですねぇ」



「あらアメリ、聞き捨てならないわね。私がヴァネッサ様に負けるとでも?」



「随分と自信がお有りのようねカミラ様。わたくしだって、負けませんわよ」



 アメリの軽口を切っ掛けに、再び火花を飛ばす二人に、ユリウスはため息をついた。



「賭は無くなったんだから、もう二人が争う理由はないだろう…………」



「何を言うのよユリウス。それとこれとは話しが別よ」



「ええ、カミラ様の言う通りですわ。何はともあれ、この先の結果は、女としての矜持の問題ですのよ。――――男に戻った瞬間、女心を忘れてしまいましたの?」



「ああ、いや、その、うーん…………」



 迫力のある女傑二人に睨まれ、タジタジとなるユリウスに、アメリが火種を追加する。



「ユリウス様も、二人に迫られたら何も言えませんね。でも安心してください。なんたってユリシーヌ様は学院一の淑女にして美少女! 下馬評でも優勝間違いなしですもん!」



「――――ユリウス?」

「――――ユリウス?」



「あ、アメリ! お前、何て事言うんだッ!?」



 焦るユリウスと、ジトリと座った視線を送る二人に、アメリはカラカラと笑いながら指摘する。



「ほら皆様、そろそろ発表の時間ですよ。真面目に待機しようじゃないですか」



「ユリウス、そしてヴァネッサ様、負けませんわよ」



「ええ、こちらこそ」



「俺を巻き込まないでくれ…………」



 四人が元通りに並び終わった直後、ゼロス達が宣言した。




「――――では! これより結果発表を始める!」




 そう、誰が学院一。王国一の淑女であるか。

 立候補したセーラ、カミラ、ヴァネッサの三人は固唾を飲んでその時を待ち。

 アメリとユリウスは気楽に傍観。

 他の出場者も、優勝にこだわる者は無く、あれやこれやと、小声で盛り上がっていた。




「今回の、ミス学院コンテスト! その栄えある優勝者は――――」




 ダラララとドラムロールと共に、スポットライトが目まぐるしく動く。




「学園祭始まって以来の高得票率! 約七〇%!」




 ライトが出場者達を端から照らし、行ったり来たり。

 会場であるコロシアム中が、静寂に包まれる。





「エントリーナンバー7番! アメリ・アキシアだああああああああああああああああ!」





「は?」「え?」「はい?」



「――――――――はえ?」



 カミラ達三人が、思わず首をぎょろんとアメリに向ける。

 当のアメリも、意味が飲み込めず目を白黒。

 一泊遅れて、歓声の嵐に包まれた。



「アメリさーーーん! おめでとう!」

「世界一の忠信、真実の淑女の姿、見事でしたよ!」

「アメリ嬢! 是非息子の嫁に!」

「アメリさん! 俺だ! 隣のクラスの! 是非結婚を前提におつき合い――――ガハッ!」「テメェ、図々しいぞ! 僕とけっこ――」「自重しろ童貞! 俺こそが――――」



 エトセトラエトセトラ。

 ひっきりなしに、アメリへの賛辞が送られる。



「ちょ、ちょっと! アメリぃ! 何でアンタがぶっちぎりで優勝してんのよ! どう考えたって、アタシが最強美少女じゃない! ゼロス王子! 審査員! 何考えてんのよ!」



「え、あれ? アメリに大差で負けた…………? そう、負けた…………。え、え?」



「くっ、少しは予想してましたが。真逆本当になるとは――――」



 くってかかるセーラ。

 今一つ飲み込めないカミラ。

 拳を握り悔しがるヴァネッサ。



「うん、おめでとうアメリ。君の様な者が配下にいて、カミラも幸せ者だな」



「ありがとうございます、ユリウス様。えへへ。まさか、カミラ様達を差し置いて選ばれてしまうとは…………」



 嬉しさと困惑と気まずさに蹂躙されているアメリは、助けを求める様に、ゼロスへ視線を向ける。

 ゼロスとガルドは、それを汲み取って説明を始めた。



「先ずは、優勝おめでとうだアメリ嬢」



「気になる者も多そうだから、上位三名を公表しよう。四位と五位は同標で、六位以降はほぼ横並びだからな」



「二位来て、二位来て、二位来て!」

「二位です、せめて二位!」



 意外というか、見たままというか。

 見栄っ張りのカミラとヴァネッサが、念仏の様に唱える。

 セーラは、一位以外意味がないと、投げやりな顔だ。



「今回の場合、流石に相手が悪かったな」



「もし“以前”のままなら、確実に優勝だった筈だろう」



 ゼロスの指示で、スポットライトがカミラ――――の横の横。

 最後尾に当たる。

 即ちその人物は――――。



「得票率第二位! ユリウスもとい、ユリシーヌ・エインズワース!」



「ちなみに、一言コメント欄というのがあってだな。いくら美しくても、男だし、憧れるけど、恋人居るし。というモノだった。数々の不利な要素を考えると、大健闘を言えよう!」



「皆よ、ユリウスに拍手を!」



「ちょっとユリウス!?」

「もう少し、手加減しなさい! 男になったのでしょう!?」



「無茶言うなよッ!? ――――皆様、ありがとうございます」



 カミラ達に言い返してから、ユリウスは見事な淑女の礼を披露。

 続いては三位だ。



「三位! 三位! 三位!」

「み、未来の王妃ですもの。ええ、手柄? は臣下に譲るべきだから、これくらいの位置で――――」



 鬼気迫る二人を前に、アメリとユリウスは気まずい顔で、一歩離れる。



「得票率第三位! 普段目立たぬ立ち位置だが、以外と熱烈なファンが多かった! メロディア・ジーニアン!」



「なお、十年連続で三位だそうだ。…………十年連続なのか…………」



「今年も投票ありがとうございます。でも私は今のまま学院に仕えるのであしからず」



 残念そうに、だが熱烈なコールを送る王国の老人達。

 ガルドを含む、初参加組の困惑を余所に。

 膝から崩れ落ちる、未来の王妃と王国の誇る魔女。



「馬鹿な…………、ユリウスの為に鍛え上げたこの美貌が、通じない…………!?」



「三位ですらない……、これがミスコンの洗礼とでも言うのでしょうかっ!?」



 ずーんと沈み込む二人を前に、司会役の二人は何事か審査員達とを話し合って、二人の前に進む。



「あー。本来ならば、こういう事は伝えないらしいのだが…………」



「二人は将来この国を背負う淑女。特にヴァネッサは俺の嫁だからな。推測でいいなら、敗北の理由を明かそう」



「是非!」

「お願いします!」



 がばっと顔を上げて、即座に立ち上がる二人に苦笑いしながらゼロスは伝えた。

 なお、このやりとりもスクリーンに写し出されている。



「二人の順位は、同率四位だ」



「…………つまり、引き分け」

「ですわね」



 カミラとヴァネッサは仲良く微妙な表情で、とりあえず握手。

 最下位と言われなかっただけマシである。



「それでな、敗北の原因なんだが…………」



 言い淀むゼロスの言葉を、ガルドが引き継ぐ。



「一言コメントと、下馬評、実行委員や審査員の考えを総合するとだな――――ユリウス、ゼロス殿下が原因だ」



「はい? ユリウスが…………?」

「殿下が原因とはいったい…………?」



 今一つ理解できない二人に、ゼロスは言葉を選んで告げる。



「二人の女性としての魅力は、決してアメリ嬢に劣るモノではなかった。だがな、ヴァネッサには俺が。そしてカミラ嬢にはユリウスという恋人が居たことにより、男性票が激減」



「そして女性からも二人の人気は高かった。けれど、そのな。どうやら、誰もが、誰かが二人の内のどちらかに投票するから、せめて自分だけでも、健気で家庭的で、親近感の沸くアメリに票を…………」



「そのだな。男性の方も似たような思考経路だったらしい。誰かが入れるだろうとな。それで票の行き場だが、殆どの出場者が同じように恋人持ちで、ならば手が届きそうで、その、なんだ? 学園一、胸部装甲の厚く、母性と良妻感溢れるアメリ嬢にと…………ああ、うん。すまない」



 理由を聞くにつれ、ああ、と納得し、次いでアメリを恨めしそうに見、最後にはアメリの豊満な胸と、男性全体を睨みつける敗北者二人。



「ふふっ、ふふふふふふふっ、真逆、真逆、そんな理由で破れるなんて、ね…………うふふふふっ…………ふぅ。――――アメリいいいいいいいいい! ユリウスうううううううううう!」



「くうううっ! ゼロス殿下! 胸ですか! そんなに胸が良いのですか! さあ、答えてくださいまし! 貴男の未来のお嫁さんの胸ですよ!」



 半泣きで抱きつき、ゼロスの胸をぽかぽかする乙女の姿を見せるヴァネッサ。



 カミラは、きしゃーと奇声を上げなから、ユリウスとアメリを追いかけ回す。



 収集が着かなくなってきたステージに、ガルドは疲れた顔で審査員達とアイコンタクト。

 そして、大声で宣言した。





「――――これにて、ミスコンを終了する! アメリ・アキシアに盛大な祝福の後! カミラが暴れ出す前に退場おおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」





「ちょ! 皆さん逃げるんですか!? 待って、待って! わたしも――――」



「はははッ! 死なば諸共だアメリ! 頑張ってカミラを宥めてくれッ!」



「それは恋人であるユリウス様の役目でしょう! 優勝したのにぃ! ミスコンの馬鹿野郎おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」



 ミスコン及び学園祭は、大盛況の中、無事に終了した。(大本営発表)



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