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12話 世界は現実である

ちょっと世界の本質に触れる回


 結果として、セーラは罪に問われなかった。

 国内でも有数の権力と最大の経済基盤を持つ、被害者本人であるカミラが、望まなかったからだ。


(『聖女』であるセーラを今処分したら、何が起きるかわからないじゃない!)


 そんなカミラの内心など知る由もなく、アメリやヴァネッサ等は慈悲深さを称え。

 ゼロス王子やユリシーヌは、何企んでるんだコイツ、といった目で見ていた。


「取りあえず、あの者を独房にて魔法体育祭まで謹慎としたが、本当によかったのかカミラ嬢?」


「ええ、それでいいのですわ」


 首の痣をわざと治さず、被害者アピールしながらカミラは微笑んだ。


(本来なら『聖女』に覚醒するのは魔法体育祭のトーナメント優勝決定戦での事、シナリオから外れた今、どこまで修正力が起こるか確かめないと、ユリウスを堕とす事すらままならないわ)


 こんな邪悪そのものに狙われるユリウスは不憫としか言いようがないが。

 ともあれ。

 セーラを除いた彼らは今、寄宿舎の食堂にいた。

 カミラの要望で、寝取られ三人組と、寝取られた三人娘も同席である。

 なお、カミラとユリシーヌは着替え済みで、カミラが大いに嘆き悲しんだ事を追記しておく。


「……それで、ヴァネッサ様。わたし達は何故呼ばれたのでしょう?」

「私の愛しい根暗エミール様も」

「うちの脳味噌筋肉様も、何故縛られて転がっているのですか?」


 ちゃっかりエリカ、フランチェスカ、グヴィーネの寝取られ三人組が各自の婚約者、リーベイ、エミール、ウィルソンを抱き抱え確保しているのは、流石と言えよう……言えよう?


「今日は、先日のカミラ様のお話にでたセーラ様の『魅了』の力を確かめる筈でしたの」


「だが肝心のセーラ嬢が、アレだからな……」


「真逆、セーラ様がこんなに凶暴な方だったなんて……やはり『聖女』に選ばれし者でも、平民出身の者は野蛮というものなのかしら……」


 少し悲しそうに溜息を出すヴァネッサに、カミラはフォローを入れる。


「平民と一括りにするのは止めておきましょう、ヴァネッサ様。大半の平民は善良で、その者達によって我々貴族は支えられているのですから」


「お優しいのですのねカミラ様は、そう言われれば確かにそうですわ。ええ、わたくしが浅慮でしたわ」


「付け加えると、セーラ様の事も嫌わないであげてください、あの者はあの者なりに『聖女』として世界を良くしようする心を持っているのですから」


「言い分は理解したが、ならばもう少し自重せよカミラ嬢……」


「ふふっ、善処いたしますわ」


 こいつ自重する気ないな、とアメリを筆頭に全員が思う中、カミラはマイペースに本題へ戻る。

 即ち、取り巻き三人と攻略対象三人の件である。


「私としては、面白いのでもう少し後でも良かったのですが、ヴァネッサ様の頼みですもの。――今から、貴男達の『魅了』を解いてさしあげますわ」


 カミラの言葉に、計六人が色めき立つ。

 ただし、男三人は怒りであったが。


「カミラ嬢、貴女の魔法の腕がこの国一番なのは存じ上げておりますが……」

「……我々のセーラへの、気持ちが……、嘘だったとは……」

「いくら貴女でも、侮辱とみなしますぞ!」


 三人の怒気など、そよ風に吹かれたようになんのその。

 カミラは殊更にニッコリ笑う。

 そしてさり気なく『伝心』の魔法を部屋一帯にかけた。

 言葉を、直接彼らの心にぶつけ『魅了』の支配を緩める為であり。

 ――前世で一度はクリアした攻略対象への、ある種の意趣返しの意味もあったが。


「ふふっ、その様に眉尻を釣り上げなくても、怖いではありませんか」


「その態度のどこが怖いのですかねカミラ様……」


「アメリはだまらっしゃい。……こほん。まず貴男方が正気でいらっしゃらない証拠をあげていきましょうか」


 むっつりと黙り込む態度を肯定と捉え、カミラは続ける。


「まず貴男方は、殿下のお力になる様に教育なされて育った。それは間違いないわね?」


「そうです」

「……そう」

「そうだ」


「で、あるならば何故、あの者の入学以来、殿下の側に居ることを放り出していたのかしら? おまけに生徒会の仕事も禄にしないで」


「それは、そう、殿下の成長を促す為で……」

「他の庶務達も……、優秀……、だから……」

「セーラが、我らと共にいる事を望んだし、我らも一緒にいたかったからな」


 原作では、王子諸共『魅了』にかかり、生徒会の一員に誘われ、放課後を仕事しながら一緒に過ごすことで、仲を深めていた。

 それ故、物語後半で『魅了』が発覚しても、いかにしてそれを乗り越えて、真実の絆に至っていた。


 カミラが居なければ、全てが原作通りで平穏だった筈だ。

 ――ただし、ヴァネッサと取り巻き三人は破滅に向かっていただろうが。


 ともあれ、今度は王子達に向かって、カミラは質問を投げかける。


「ねぇ、ゼロス殿下。その他の方でもいいわ。彼らは、ご自分の役目を放りだして女に走る程、愚か者だったかしら?」


「……以前のリーベイ様なら、その様な愚かな事は決してなさらない方でした」


 エリカが涙声で言うと、フランチェスカ、グヴィーネーも悲しげに続く。


「エミール様。貴男は常々、大恩ある殿下のお力になる、と口癖のよういっていたのに……」


「もし裏切ったら『切り取っていい』って、言ってましたよねウィルソン様」


「…………グヴィーネ様、早まった事はなさらないでね」


「ええ、勿論ですわユリシーヌ様!」


「ならば、その鋏は遠くに置きなさいグヴィーネ」


「いえいえヴァネッサ様、これは後で縄を切る為のものですから」


「何があっても離さないですね、わかります」


 女性陣がちょっと焦る中、男性陣は股間を気にしていた。

 中でもウィルソンは、顔を真っ青にしてぶるぶる震えていたが。


「あ、あー。その、なんだ? 俺はお前達にいつも苦労をかけて頼りっぱなしだった。――今回の件でよく自覚した。でも、な。俺にはお前達が必要で、大切なんだ」


「殿下……」


 三人の声が揃う。

 ゼロスは三人の前に来てしゃがむと、視線を合わせて語る。



「俺はお前達がセーラ嬢に抱いていた想いを否定しない、罰しない。それはお前達のモノで、大切な思い出だからだ」



「お前達がセーラを選んで、俺を離れるなら、俺は名残惜しいが止めやしない。お前達に幸せになって欲しいからだ」



「でも、その前に。今、最後の機会をくれないか。お前達が俺を少しでも想ってくれているなら、カミラ嬢の魔法を受けて欲しい、そして冷静になった頭で、もう一度考え直して欲しい。その上でセーラ嬢を求めるならさ、俺は止めないから……」



 寂しそうに笑うゼロス王子に、三人は涙を流しながら額を床に擦り付けた。


(殿下の想いは伝わったかしら……、伝わっているといいわね……)


 カミラは優しげな目で彼らを見ると、ヴァネッサ達と視線を交わす。

 彼女たちは頷き、許可が出た。


「……では、いいですわね。今から三人の『魅了』を解きますわ」


「わかった。お前達もいいな」


「はい、お願いします」

「……僕達が、……正気でないと、……言うのであれば」

「結果がどうであれ、我らは知って、決断しなければならない」


 決意を固めた顔で、真っ直ぐ王子を。

 そして各々の婚約者を見ていた。


「では、まいりますわ」


 カミラは目を伏せ、集中し始めた。

 魔王の力を持ってしても、聖女の魅了は解除しずらい。

 より正確に言えば、魔王になってしまったが故に、そのカウンター存在である聖女の魅了は解除しずらい、という事だ。


(――けれど、やりようはあるわ)


 魔法という世界のシステム側から、解除すればいいのだ。


『管理者権限保持者“■■■■”でログイン。世界を支配する大樹よ――――』


 ――もしこの場にセーラがいたら気づいただろう。

 カミラが発しているのは『日本語』だという事に。

 他の者達は、聞き覚えもない知りもしない、辛うじて上位だと解る謎の言語に、目を白黒するばかりだ。


『――――、聖女特権“魅了”の数値変更を要請』


 帰ってくる『世界樹』の返答に、カミラは舌打ちした。


(ちっ、エラーとか面倒くさい。これだから壊れた前世紀の遺物は……)


 どうせ解らないからと、コマンドプロントを呼び出し、エラーを吐き出すプログラムを削除。

 勇者関連のプログラムの一部と聖女機能への保護プログラムが吹っ飛んでしまったが、まあいいや、でカミラは済ます。


『――特殊対象R、Y、Wへの干渉数値をゼロに変更、変更を保存、そして実行』


 『魔法』が実行される少しの間を利用して、魔力を放出しながら大仰な身振りをする。

 何か特別で大変な魔法を、懸命に使っていますアピールである。


「……我が前の病みたる者達を、正常な姿に戻した給え!」


 ――瞬間、天から光りが降り注ぎ、三人の全身からピンク色の光の粒を流出させ、いかにも、といった感じで消し去った。

 なお、この呪文も魔法的には何の意味もない、ただのカッコつけだ。


「彼らの中に、魅了への耐性もつけておいたわ。これで今後は大丈夫でしょう」


 しかし、そんなことは余人に解るわけもなく。

 カミラの目論見通り、尊敬と感謝の喝采を受けた。


「そんなっ! これは本当に……自分たちは――っ!」

「……いつ僕達は、……魅了の、……力に?」

「すべてはまやかしでは無かったっ! でも我らの気持ちは、残念ながらセーラの力あってのモノだったらしい――――すまなかったな、グヴィーネ。何でもするからその鋏は、マジでおろしてごめんなさい」


「――有り難うカミラ嬢、お陰で俺は大切な友と無くさずに済んだ」

「わたくしからもお礼を言わせてくださいカミラ様、――本当に、有り難うございました」


「このご恩は一生忘れません!」

「後でわたしの書いた、ヤンデレ対策本をお持ちしますわ」

「先程縄を切った魔法も見事でした、師匠と呼ばせて下さい」


 ウィルソンまじ頑張れ。

 ともあれ三者三様の反応だったが、今まで異常だった事を自覚した彼らは、王子と婚約者達に膝をついた。

 なお、彼らを拘束していた縄は、サービスで先の魅了解除と共にアメリの魔法で切ってある。


(いやー、やっぱり切っておいて正解ですねカミラ様)


(ええ、見てご覧なさい。魅了が解除された今でも、グヴィーネ様は鋏をチョキチョキしているわ……!)


(解除した今だからでしょうねぇ……)


 後は他人事、と部屋の隅でひそひそとする主従コンビを余所に、彼らの感動ドラマは続く。

 結末の解っているドラマなどつまらないと、カミラは。

 これ以上は無粋、とアメリは。

 ヴァネッサに会釈をしてから共に退出した。


この世界は(実質)異世界です。

ええ、(実質)異世界ですとも。

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