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118話 原作再現




 次の試練の準備の為、出場者達は裏に下がる。

 その繋ぎに、ゼロスが知力試練を振り返った。



「第一の試練が終わったが、やはりと言うかカミラ嬢が頭一つ飛び出ているな。では王よ何かコメントを」



「うむ。アメリ嬢もいい線をいっておったが。流石は我が王国の魔女! その情報も随一であったな! ははっはっ! ――――やはり最初から殿堂入りで、出禁でよかったのでは?」



「王よ、率直すぎです。ですが、ここからは魔法禁止の体力勝負、如何にカミラ嬢でもそう易々といきますまい」



 そこでゼロスは、体力試練の下馬評を魔法で大きく投影する。



「事前予想ではこの通り、騎士クルーディア・クターレスが一番です」



「二番人気がメロディア・ニージアンですね。彼女は過去のこの試練で勝利した経験もありますから」



「三番にユリシーヌ、四番ヴァネッサ嬢、五番カミラ嬢。以降は似たり寄ったりの評価だのう…………」



「我が愛しきヴァネッサとカミラ嬢は、護身術くらいは嗜んでいますからね。他は厳しいでしょう――――と、用意が出来たようだな。では入場してくれ!」



 王子の声と共に、音楽隊からファンファーレが鳴り響き、カミラ達は特設ステージに上がった。



「これより、体力の試練のルール説明する!」



「悪いけど、恨みっこ無しよユリシーヌ様、アメリ」



「ふっふっふー。こっちこそですよカミラ様」



「…………意気込むのは良いですが、王子の話は聞きなさい二人共」



 やれやれと、ユリウスはカミラ達を眺めながら微笑んだ。

 だがその裏では、目まぐるしく今試練の対策を考えている。



「では、見ての通りそれぞれ麗しいドレス姿に着替えて貰ったが。ダンスの腕を披露する――――のではないっ!」



(そう、ダンスの腕――――じゃないっ!? え、ええっ!? 何でこんなにゲームと違うのよっ!? どうなってるのよおおおおおおおおおおお!?)



 強いて言うのならば、未来のカミラ達、シーダの仕込みと、今のカミラが起こした数々の原作改変の積み重ねの結果。

 乙女ゲー的イベントから、全体的にコメディ路線に舵を取っているのだが、自覚していないカミラに気づける筈もない。



「美しい女性は、戦う姿も華麗だろう! 第二に試練! ドレスでステゴロバトルロイヤル!」



「ダンスも自信がありますが、腕力で負けるわけにはいきませんわ」



「例え、ユリシーヌ様が女の方であろうとも、負けませんよぅ!」



「ちょっとカミラ!? アンタ何やらかしたの!? さっきから原作と外れまくってるんだけど!?」



「私に聞かないでっ! こっちが聞きたいわよっ!」



 同じく原作知識を持つセーラも、カミラと同じように慌てふためく。

 だが、二人以外は周知の事実だったようで、無情にもそのまま進行する。



「ルールは三つ!」



『一つ、魔法禁止


 二つ、頭部、髪への攻撃は禁止


 三つ、ドレスを故意に破く行為は禁止


 四つ、それ以外は――――何でもアリだ!』



「場外か敗北宣言、気絶、或いは判定員による宣言により個々の勝敗が決まる! 最後に立っていた者が――――勝者っ!」



「勝負内容がガチ過ぎるわよ! 怪我とかどうするのよっ!」



「良い質問だカミラ嬢。王国から選りすぐりの治癒魔法の使い手を集めて待機させてある。また、一定以上のダメージを吸収する魔法をかけてあるから、安心して戦うと良い」



「無駄に用意周到っ!」



 アカン、これガチ中のガチだ。とカミラは頭を抱えてしゃがみ込んだ。



「こうなったら腹くくるしかないわね! ハン! やったろうじゃないっ! ほら、アンタも立ちなさいな。始められないでしょう」



 この試練を乗り越えずして、何が逆ハーか! アイツの嫁か! と即座に順応したセーラは、鼻息荒く、握り拳。

 ついでにカミラを立たせ、各自のスタート位置へ向かっていく。



「ああもうっ! やってやるわよこん畜生っ!」



 自棄になったカミラが最後に位置に着くと、ゼロスは高らかに叫んだ。




「ステゴロ最強女傑決定戦! 開始いいいいいいいっ!」




 瞬間、カミラの戦闘スイッチが入る。

 視野は敵だけに、余分な情報は総てカット。

 拳を握り、半身になって腰を低くする。



「これも世の習いだ、卑怯と罵ってくれて構わないよ」



「いくらカミラ様でも、魔法が使えない今なら、勝ち目がある、そういう訳ですわ」



「なるべく痛みは無しにしてあげますわ、お嬢様」



「ええと、その、ごめんなさいっ!」



 どっしり構え、待ちの体勢のカミラに、上級生やOB達。

 ヴァネッサとユリウス以外が取り囲む。



「さぁ、やっちゃってください、皆様っ!」



「――――なるほど、良い手だわアメリ」



 彼女たちの後ろで号令をかける親愛なる配下の姿に、カミラはアメリがガチで勝利しに来た事を悟った。



「おおっと! ユリシーヌとヴァネッサを除いた全員がカミラ嬢を取り囲んだあああああああ! 我らが魔女もこれはキツいかああああああああ!?」



 ゼロスの実況と共に、五人が一度に襲いかかる。

 誰しもが、カミラの脱落を幻想した。

 だが――――。





「――――これで三人」




 瞬き一つすら満たない時間で、マドレーヌ教諭、ゆるふわ女リーリア、薄幸美人のユーミルが昏倒する。

 それだけではない、残る二人の視界からカミラの姿は消えていた。



「ちィ! 中々や――――何処だッ!?」



「魔法だけが取り柄ではないという事ですね。――――何処の流派でしょうか?」



 焦った様に周囲を見渡す二人に、カミラは“上”から余裕たっぷりに返事をする。

 


「生憎と、我流ですわ。メロディア様、クルーディア先輩――――!」



「なんという跳躍力!」



「しかし、種が解れば――――!」



 カミラの空中跳び蹴りをクルーディアはその豪腕を以て受け止め、メロディアは避けて背後に回る。

 メイド、女騎士共に、かなりの手練れだ。

 流石のカミラも二対一では分が悪い、しばしの膠着状態に入る。

 そして、遅れて状況を把握したゼロスが叫んだ。



「い、いきなり三名が脱落うううううううう! な、何が起こったんだあああああああ!」



「うむ、特別解説役のガルドだ。今の攻防を説明しようではないか」



 事前の取り決め通り、ゼロスがステージ脇の特別観客席から出て、ゼロスの横に並ぶ。



「さっそくだが頼む」



 ヴァネッサとユリシーヌとアメリが三つ巴の戦い――――というより、アメリが二人から逃げまどう中、ガルドは映像をスローモーションで出す。



 映像の中のカミラは、ただ立っていただけだ。

 だが、彼女達の拳が届く前に、メイドと女騎士が防御するように腕を構え、左右と後ろにいた少女達が制止する。

 そして、弾かれたように手練れ二人が後ろに飛び退き、他は昏倒。

 カミラは垂直ジャンプで、二人の直上へ。



「――――見ての通りだ」



「いや、わからないぞ!?」



 したり顔で呆れるガルドに、ゼロス以下観客はさっぱりだ。

 


「では、改めて説明しよう。あれはな――――殺気、だ」



「殺気? いくら貴族の令嬢といえど、自衛程度には武術の訓練を行っている筈だが?」



 殺気。

 魔法という存在に比べれば、おおよそ知名度は少ないが。

 貴族ならば、話くらいには。

 騎士階級などは、自明の理として認知されている。



「それはあくまで自衛程度、というモノだゼロス王子。カミラのアレは、それこそ熟練した武芸者のソレ。あの女騎士や怪しいメイドすら気絶させる代物だ」



「…………という事は、あれでも手加減していたと?」



「手加減、というより。カミラが本気を出したら、殺気だけで気の弱いモノは死にかねないからな。足止めの小手調べと言った所だろう」



 ガルドの解説を聞きながら、女騎士クルーディアとメイドのメロディアは戦慄する。



「貴様っ!? 手加減しただと!? 全力で戦え!」



「――見事な、心臓を貫かれるイメージの殺気。噂以上に規格外なお方ですね」



「お褒めに与り光栄ですわ、貴女達も中々やりますわね」



 涼しい顔で総ての攻撃をいなすカミラに、対峙する二人は敗北を予見した。

 


(ええ、そうでしょう。そうでしょうとも。魔法使いが接近戦を出来ないと誰が決めたの? ましてやこの私が、魔法を使えない事態を予測していないとでも?)



 繰り返される生と死の狭間に、何度戦闘行為があっただろうか。

 幼子を殺すしかなかった事もあった。

 王国軍を殲滅した事もあった。

 魔王に、なまくらとなった聖賢で戦った事も。

 ましてや、ループ中は魔王の力を手に入れる“前”の事だ。

 復活させたSF兵器など、ループの終わりに近づいた時だけ。



(そうよ。私は、人並みの魔力と培った経験だけでここまで来た)



 戦闘に対する経験と技術ならば、――――誰にも負けはしない。



「では、そろそろ幕引きと行きましょうか」



 カミラは、右の掌底で前方の女騎士を吹き飛ばし。

 左の肘打ちで、不老メイドを硬直させる。



「――――ここまでかっ! 是非我が隊の訓練を!」



「開いた時間でいいので、稽古をお願いいたします師匠――――」



「気が向いたらね」



 振り向きメロディアを片手で掴んだカミラは、本人曰く“梃子の原理”を使い、ワンバウンドしたクルーディアにぶん投げて直撃。

 二人を丸ごと場外にする。



「決まったあああああああああ! 審判審判! 本当に彼女は魔力を使って――――いないっ!? いないのに人間一人を投げて、騎士共々場外!?」



「投げる前に、一瞬踏み込んだな。それで大地の力を筋肉で変換して投擲したのか。詳しくは解らないが、東洋の合気道にそんな技が――――?」



 カミラの圧倒的な強さに、観客が大いに沸く。

 なお、それに比例して異性的好感度はだだ下がりの模様。

 残念でもないし、当然である。



「――――ユリシーヌ様、ヴァネッサ様」



「ええ、言いたいことは解るわ」



「アメリ様、その提案、お受けいたしますわ」



 一方、追いかけっこをしていた三人は、悲壮な顔を付き合わせて頷く。

 それぞれ、素手での実力は女騎士達より劣るが、顔見知りな分、一瞬の隙くらいは突けるかもしれない。



「じゃあセーラも――――ってああああああああああ!」



 続いて、セーラにも協力を仰ごうとしたアメリは、しまったと頭を抱えた。




「――――アンタが一位で、アタシが二位。それでどう? したら、ユリウスのエロ同人誌を作るわ」




「――――任せなさい親友!」



「「「セーラ(様)の裏切りものおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」」」



 がっちりと堅い握手をしたカミラとセーラに、アメリ達は叫んだ。

 駄目だ、勝てない。

 カミラ一人でも、無理ゲーなのに、隠れ脳筋と名高いセーラと一緒なんて。



「くッ! セーラは聖女として万が一の為に、素手での実戦訓練を豊富に積んでいます」



「完全に裏目ってるじゃないですかユリウス様あああああああああああああああああ!」



「…………そういえばあの方、あの女騎士相手に剣でも善戦出来ると、以前ゼロスが」



 もとより、“魔王”に直接対抗する為の存在であるセーラ。

 恋愛に傾いた本人の性格的に、発揮される事は希だったが。

 そもそも基本スペックだけで言うなら、ユリウスと同レベル。

 将来性においては、ユリウス以上だ。



「知ってた! 絶対カミラ様、知ってて放置してましたねっ! この状況すら策の内なんですか!?」



 尊敬と畏怖と、大いなる呆れを向ける三人。

 もっとも、総ては買い被りで、カミラとしては偶然の産物だったのだが。



「蹂躙するわよ親友!」



「牽制ならしてやるわマイベストフレンド!」



 ひゃっはーと、カミラとセーラは駆け出す。

 アメリ、ユリウス、ヴァネッサの三人も、やけっぱちになって駆け出した。



「うおおおおおおおおお! 頑張ってくれユリシーヌ様ああああああああああ!」



「ヴァネッサ様! どうか御武運を!」



「アメリさん! 結婚してくれえええええええええええええええええええええええええええええええええ!」



 観客達のアメリ達への声援に、カミラとセーラもいらぬヒール魂を発揮。



「“アレ”をやるわカミラ! アタシを使いなさい!」



「思いっきりいくわよっ! 覚悟しなさい――――」



 アメリ達と接触する寸前、カミラとセーラは両手を繋ぎ、セーラを振り回す形で大回転。



「おおっとおおおおおお! カミラ嬢とセーラ嬢! 何をするつもりだああああああああああああ!」



「ま、真逆あれは――――」



「知っているのかガルド!」



 竜巻を起こしそうなその回転に、ユリウスとヴァネッサは絶句した。

 二人は、知っているのだこの“技”を。



「ウィルソントルネード――――ッ!? あれをしようと言うのかッ!?」



「な、何なんですそれええええええ!?」



「アメリ様、貴女もご存じでしょう。生徒会のウィルソン様の事は。これは、――――彼の必殺技。もはや逃れる事はできません」



 ウィルソントルネードとは、ゲームにおいて屈指のネタ技。 

 攻略対象である彼のルートに入ると、最終決戦時に一回だけ見れる必殺技。

 己の魔力が魔王に通じないと悟った彼が、それでもとあきらめずに、主人公にしてヒロインのセーラを魔王の元に弾丸の様に投げ飛ばす。



 ――――ジャイアントスウィング(範囲攻撃からの突撃攻撃)である!




「あははははははははは! 読み通り! 聖女の頑丈さ、思い知るといいわ!」



「すまないわね、だけど勝った者が勝者なの!」



 ウィルソントルネード、もといジャイアントスウィングにより、アメリ達は成す術無く、そして何故かひと固まりになって吹き飛ばされる。

 そして――――。



「フィニイイイイイイシュ!」



「聖女ボンバーーーーーーーーー!」



「無茶苦茶ですわカミラ様あああああああああ!」



「自重しろ馬鹿女あああああああああああ!」



「二人とも狡いですよおおおおおおおおおおおおお!」



 吹き飛ばされ場外ギリギリで辛うじて踏みとどまった三人の前に、駄目押しに発射されたセーラが。

 直後、セーラも含めて場外。

 リングの上に立つのは、満足気な顔をするカミラのみだ。




「――――勝者! カミラ・セレンディア!」



 嘆きとも歓声ともつかぬ声が、観客席から大きく響いた。



「虚しい、虚しい勝利だったわ…………」



 気分はすっかり、プロレスのヒール役なカミラは。

 ニヒルな顔で、勝利に浸った。



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