117話 世界の真実パート2
「第一の試練、知力を試されるクイズ合戦の前に、ルールを説明しよう!」
特設ステージに用意された、クイズ番組のようなセット。
そこの席に座るカミラ達出場者と、観客に向けて、ゼロスは述べ上げる。
出場者には事前説明、観客にはパンフレットで告知してあるとはいえ、様式美なのだ、必要である。
「出場者達には、知力、体力、精神の三つの試練が出される。――――その勝敗によって、直接的に優勝に関わるモノでは無いが。所謂、アピールタイムというヤツだ。気を抜かずに頑張ってくれ」
なおこのミスコンは、その昔廃止された王妃選出試験を、学園祭の行事として復活させた。
――――という原作設定がある。
(こうしてこの場にいるのも、改めて奇妙な気分ね)
王子の説明を聞き流しながら、カミラは出場者の面々を見た。
何時ものメンバー以外に、妙な既視感があるのは何故だろうか。
学院生徒、関係者とはいえ、そういう類の既視感ではない。
もっと、もっと他に――――。
「三つの試練の後、審査員達の持ち点と、観客による投票の合計で優勝が決まる。なお、審査員の一票は、観客席投票の五分の一となる」
そんなカミラの心情は別に、ゼロスの説明は続く。
要は、審査員だけで全体の半分の得点であり。
公正な投票方式だという事だが。
(まぁ、私には余り関係のない所よね。直接投票に関われる訳でもなし。やるべき事に全力を尽くすだけよ)
結局、最後に頼れるのは自分のみ、とカミラは密かに意気込んだ。
「ではいくぞぉっ! 第一の試練! 知力が試される。――――チキチキ! クイズ大会いいいいいいいいいいいっ!」
(学術難問勝負じゃないのおおおおおおおお!?)
カミラは内心、真っ青になって叫んだ。
そんなの聞いてない。
ゲームでは、大人げなく数学上の未解決問題など、超ガチな問題が登場していた為。
密かに、前文明で解決したモノに絞り、暗記してきたのだ。
「ねぇ大丈夫? カミラ様。なんか顔色が悪いけど…………」
「ええ、大丈夫よユリシーヌ様。ちょっと事前調べより、出題傾向が大はずれしただけだから」
「…………それは、ご愁傷様です」
うぐぐぐぐ、ぐえー。と内心焦りまくるカミラを、ゼロスもまた見抜き、楽しく眺めながら試練開始。
「出場者の皆は、手元にあるボタンを押してから、回答してくれ。早い者勝ちだ。――――では、第一問!」
デデドン、という効果音と共に問題文が読み上げられる。
『Q1 出場者達の中からの問題です。
ゆるふわ美人リーリア・リナンド嬢の婚約者は何回変わった?
また、最後の婚約者の性癖も答えないさい』
(知らないわよそんなのおおおおおおおおおおおおおおおお!)
カミラががっくし項垂れる中、即座にピンポンとボタンを押すものが一人。
アメリである。
「はい、ではアメリ嬢!」
「七回! そして、公衆昼のお散歩プレイからの、夜の主従逆転プレイです!」
「何で知ってるのよアメリいいいいいいいいいいいいいいい!?」
「うむ――――正解! 微妙に聞きたくない事実をありがとう! …………そうか、眼鏡の似合う優しい顔の先輩だと思っていたが、あの人は“鬼畜眼鏡”だったなんて」
ゼロスの言葉に、カミラの前世知識が反応する。
令嬢リーリエに鬼畜眼鏡。
どこかで聞いたような――――?
「では第二問!」
『Q2 これも出場者からの問題です。
女騎士クルーディア・クターレスが在校中に告白された女子の人数は?』
「ぐっ、悪いが覚えてられるか! 沢山いたんだぞっ!」
クルーディアが叫ぶなか、またも早押しを制したのはアメリ。
「はいっ! 当時の在校生、一〇八人と。校外のご令嬢やご婦人方から四二人! 合わせて一五〇人です!」
「正解だ! 当時は婚活戦争として名高いエピソードだな!」
「だから何で知ってるのよ…………うん?」
カミラはクルーディアと婚活戦争という単語に、またも引っかかりを覚えた。
本当に、何の違和感なのだろうか。
「では第三問!」
『Q3 もはやお察しの通り、これは出場者を良くしってもらう為のサービス設問です。
薄幸美人ユーミル・イーエスタンは本を出していますが。そのタイトルとジャンルを答えよ』
――――その時、カミラの脳に電撃が走った。
誰よりも早くボタンを押し、回答権を得る。
「『散る華の名前』! ジャンルはSM純文学!」
「うむ正解だ! …………あの本の読者という事は、ユリウスよ、荒縄には気をつけるんだぞ。カミラ嬢なら再現しかねないからな」
「大きなお世話よゼロス殿下っ!」
「――――カミラ。今後は荒縄を持った貴女に近づかない事にしますわ」
「ご、誤解よユリシーヌゥ!?」
今後ユリウスが荒縄調教されるかは、さておき。
今ここに、カミラは新たなる事実を知った。
(乙女ゲーだけじゃなかったわこの世界! 何してるのよ“世界樹”うううううううううう!?)
既視感がある訳である。
『令嬢と鬼畜紳士』『騎士娘だけど、くっ殺も逆ハーもありません』エトセトラ、エトセトラ…………。
(TL小説や、ラノベも混じってるんじゃない! 作者も、絵師も、出てる媒体とか、全部違うけど、どれもファンタジー系…………)
ゲームの前作が、時系列に組み込まれている時点で察する事が出来たかもしれない。
確か、ライターは別人だった筈である。
(これはあれね。仮に時代毎に“メインストーリー”があるとして、今は“聖女の為に鐘は鳴る”なんでしょうね)
後々確認した事だが、カミラの推測はほぼ正解であった。
いずれも、強大な敵や陰謀が待ち受けていたり、情勢に大きな変化がある展開だったが、“世界樹”の制御のお陰で。
彼女達の辿った足跡は、だいぶ穏当になっている様だった。
(ともあれ、クイズの法則が解ったのならこっちのモノだわ。大人げなく全力を出させて貰いましょう――――)
カミラは“世界樹”にアクセスすると、検索プログラムを自身の聴覚と同期。
以後、全十五問が終わるまで、無双し続けたのだった。
第一の試練。
チキチキクイズ大会――――勝利!