116話 世界の真実……しんじつ?
――――ミスコン。
学院開設以来、文化祭の目玉として毎回開催されたこの企画には。
その伝統故、ハイレベルな出場者が揃っていた。
今、学院校舎横のコロシアムの特設舞台には、カミラ、ヴァネッサ、ユリシーヌ、アメリ、セーラといった面子に加え。
人気の美人教師や、雑用のメイド、OB枠から前生徒会長、二年の辺境伯令嬢、三年の男爵令嬢など。
美貌だけなら、カミラに匹敵する人物揃いである。
「――――では、これより! ミス・学院コンテストを開始する!」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
司会を勤めるのは、ゼロス王子。
審査員は、特別ゲストの国王夫妻を筆頭に、学院長や、文部大臣、そして――――オッディ三世。
「ね、ねぇユリシーヌ様? いつかの路地裏でみた変質者がいるのだけれど、気のせいかしら?」
「ええ、私も確認しました。いったい何者なのでしょう…………」
審査員席に座るムキムキマッチョのオカマに、カミラとユリウスは動揺。
また、生徒達からも疑問の声がちらほら。
「まずは出場者の紹介――――の前に、この御仁を紹介させて貰おう」
そんな空気を察したのか、ゼロスはすかさず彼の身分を明かす。
「この御仁こそ! 最近ちまたで人気沸騰中の肖像画家! オッディ三世である! 今回の優勝者には、この者による肖像画が副賞として送られる! 出場者の皆は楽しみにしておけ!」
「どーもぉ! ご紹介に預かったオッディ三世よ~~んっ! ん~~ちゅっ!」
会場中に投げキッスを送るオカマに、カミラの予想に反して大歓迎ムード。
「スゲェぜ! 今超話題の画家じゃねーか!」
「一枚、ウン億円するんだっけ」
「ウチの父上が、頼んだのだが。向こう数年は予約待ちだそうだぞ」
「描いて貰うと、運命の人と結婚できるそうよ! 羨ましいわぁ」
「お、おいカミラ、人気だぞあの人!?」
「え、ええ……。どうやら知らなかったのは私達だけの様ね」
あの怪しいオカマ、そんな人物だったのかと驚く二人の横で、他の出場者は副賞に色めき立っている。
「うむ、うむ。では他のメンバーは例年変わらないので割愛するとして」
それでいいのか王子、両親である国王夫妻の紹介は割愛していいのか。
カミラは突っ込みたくなったが、夫妻も待ちきれないようで頷いているので善しとする。
「では皆の者いくぞっ! 出場者の紹介だっ!」
ゼロスがノリノリで拳を振り上げると、会場を大盛り上がり。
お、おう。とカミラだけが着いていけない中、最初の紹介が始まる。
「エントリーナンバー・一番! 誰が推薦したんだ! 去年卒業した次期宰相に籠絡された苦労人! エレルドレア・マドレーヌ教諭だぁーーー!」
「ちょっとっ!? ゼ、ゼロス王子ぃ!? その事は秘密だと先生言いましたわよね!?」
「うむ、だがマドレーヌ教諭。これは未来の夫である次期宰相からの依頼でな。寄りつく蠅を避ける為にもと、原稿を渡されたのだよ」
「あんの、唐変木があああああああああああああ!」
マドレーヌ教諭は、ずさぁと崩れ落ちながら叫ぶ。
というか、そんな奴でいいのか次期宰相。
ともあれ、強力なライバルの残念過ぎる紹介に、他の者はにんまり。
「エントリーナンバー・二番! 学園一の有能メイド! 前々学院長の頃から容姿は変わっていないぞ、いったいお前は何歳だ! メロディア・ニージアン!」
「――――誰ですか、そんな紹介文を書いたのは」
「うむ、学院長だ。文句はそっちに言うがいい」
「――――後で、覚えておきなさい若造」
美貌のメイドはロリババァ。
どう見ても十代なのに、前学院長の頃からというと軽く数十年は経っている。
カミラと同じく一年は動揺し、二年以上の生徒やOBは苦笑い。
きっと周知の事実なのだろう。
それはそれとして、またも残念な紹介に出場者達に緊迫の空気が流れる。
次の犠牲者は――――。
「エントリーナンバー・三番! 未だ根強い人気! 主に二年生以上から推薦され、前生徒会長、クルーディア・クターレスが参上だぁ! 将来有望な女騎士として、今年も六つに割れた腹筋と、審査員が悶絶したメシマズの腕は今回も披露されるのか!」
「畜生! アタシのは誰が書いたんだ王子ぃ!」
「我が国の筆頭将軍からでだな。えーと何々? 追伸、例えメシマズでも、剣の刃を握りつぶせる豪傑でも、一向に構わん。今夜、寝所にくるといい、嫁にしてやろう。だそうだ、愛されているな!」
「あんのクソナイスミドルうううううううう! その自慢の髭全部ちぎってやるからなぁ!」
会場中に笑いが広がり、代わりに出場者側が冷え冷えとする。
「…………ねぇユリウス? この国ってこんなに面白可笑しいので大丈夫なの?」
「悪意は無いし、実力は確かなんだ、実力は…………」
「そうなのね…………」
遠い目をする二人を余所に、紹介は続く。
「ではお次はナンバー・四番! ゆるふわおっとりが人気の秘訣! だが、婚約者を首輪で連れ回す豪の者! マジで誰が推薦してここまで残ったんだ! リーリア・リナンド!」
「うおおおおおおおお! リーリア様! 俺たちも踏んでくださあああああい!」
「あら。ミジンコまで生まれ変わったら考えて上げるわ」
男女問わないドM達の大歓声の中、紹介は次へ。
…………この学院、大丈夫なのだろうか。
「さぁ行くぞ次だ! エントリーナンバー・五番! ユーミル・イーエスタン! 愛人にしたい薄幸美人OB調べ一位! 政界からのプッシュが凄かったナイスミドル殺し! でも本人の好みは幼い少年だそうです残念! これからも貢いでくださいね、との事だぞ!」
「後妻に来てくださいなんでもしますからぁ!」
「合法ショタ見つけてくるから愛人になってくれぇええええええ!」
「はいはい、観客席で叫んでる官僚共と某侯爵、お前たち後で査問委員会な!」
カミラはユーミルを恐ろしげに見て、身震いした。
やばい、前世では成人していない年なのに、アメリ調べでは実は処女なのに、あの色気はやばい。
もはや疲れ果てたカミラとユリシーヌだが、紹介は続く。
「エントリーナンバー・六番! 学院始まっての問題児! その双璧の一人、正当派美少女セーラ! 猫かぶりぶりっこ聖女は廃止したとはいえ、今度は素のサバサバ系でファンを増やしているぞ! 後、今度のデート何時にする? とクラスメイトのガルドから伝言だ!」
「今伝える事じゃないでしょ馬鹿ガルドっ!」
恥ずかしさと嬉しさで、思わず顔を隠して照れるセーラ。
その純情アピールが実にあざとい。
「続いてエントリーナンバー・七番! 学園一の苦労人! 我らが魔女の右腕! お嫁さんにしたい女生徒ナンバーワン! アメリ・アキシアだあああああ!」
「――――何故、貴女だけ恵まれた紹介なのよ」
「普段の人徳では? カミラ様」
カミラが戦々恐々とする中、遂にその番が来る。
「エントリーナンバー・八番! 説明不要! その功績は数知れず、起こした騒動も数知れず! 最凶最悪の美女! カミラ・セレンディアだっ! 今回のミスコンでは彼女による哀れな犠牲者は出てしまうのかっ!?」
「人を凶悪な犯罪者みたいに言わないでっ!」
「どうどう、どうどう、押さえてカミラ様」
「落ち着けよカミラ。お前の魅力は、本来なら俺だけ解ってればいいんだから」
憤慨するカミラを置いて、次の出場者へ。
「エントリーナンバー・九番! 我が最愛の乙女! ヴァネッサだぁあああああああああ! 愛しているぞヴァネッサああああああああああああああ! お前がナンバーワンだああああああああああああああああ!」
「きゃ、も、もう~~。誉めすぎですわ殿下」
「審査員! 王子の贔屓を何とかしなさいなっ!」
「うむ、落ち着くのだカミラ嬢。あの馬鹿息子には後で注意しておくし、なにより投票権は観覧者と同じだ。贔屓で偏る事はあるまいよ」
生暖かな視線が、王子とヴァネッサに向けられて、場が和んだ所で、最後の出場者。
ゼロスのアイコンタクトを受け、前に一歩出ると、コロシアム全域に動揺の空気。
「では最後! エントリーナンバー・十番! 何故参加したお前! 存在そのものが卑怯! 下馬評では圧倒的な優勝候補だ! 優勝したらミスコンの意義って何だ! ユリウスもとい、ユリシーヌ・エインズワースとして、堂々の復活と参戦だああああああああああああああああ!」
「うおおおおおおおお! ユリシーヌ様あああああ! 貴方になら俺は総てを捧げる覚悟だぜ!」
「ユリシーヌ様ああああああ! お慕い申し上げますうううううううう!」
OBや父兄も含め、観覧者全員が沸き立つ。
カミラも含め、全出場者は、厳しい戦いを覚悟した。