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114話 カミラ様にだって、どうにも出来ない事だって多々ある




「どうして“これ”が“こう”なるのよ、納得いかないわ…………」



「ええ、本当に。なんとうか、はい。カミラ様は本当に妄執の権化というか…………」



 次の日の朝。

 学園祭でミスコン本番を控え、クラスの女子と共にカミラ一派の女性陣は更衣室で着替え中。

 なお、ミラの事はアメリが根回し済みで、トラブルなくとけ込んでいる。



 そんな中、半裸のアメリとセーラの視線の先は、カミラ(姉)とカミラ(妹)だ。

 二人は同一人物、同じ歳であるというのに、まるで数年離れた姉妹の様に体格に差がでている。



「あら、どうしたの? そんなまじまじと私達を見て」



「や、アンタ。そりゃ見るなって方が無茶でしょ」



「ですです。カミラ様の美容にかける熱意は知っていますが、ええ、こうも…………」



 セーラとアメリは顔を見合わせ、呆れ半分、驚き半分でミラとカミィを見比べる。

 ミラの肢体は、良くも悪くも平均的だった。

 胸部は大きくもなく小さくもなく、腰回りや下半身だって平均的。

 肌だって、特筆すべき事は無い。



「ふわぁ…………、カミィお姉様、素敵です…………うぅ、本当に同じ血が流れているのでしょうか」



「ふふっ、貴女だって、磨けばこうなるわ」



 そりゃ同一人物ですから、という叫びを、アメリ達は飲み込んだ。

 この平均オブ平均という体から、こうも変わるものか。



「本当ですかっ! 私も、その大きく、それでいて大きな胸に、コルセット要らずのくびれのある細い腰に、殿方を魅了しそうな臀部や太股に、なれるのですか!?」



「――――やっ!? ちょっ! ミラ! そ、そんなにペタペタ触らないで、くすぐったいわ…………というかアメリとセーラも触らない揉まないのっ!」



 三人は羨望と興味深さで、同じく半裸のカミラを触る。



「くっ、何よこの肌。すべすべつやつやでうるうるじゃないっ! これがセレンディア式美容法の力なの!? 狡い! アンタ狡いわよ!」



「こちらとしては、そこまで美容に熱心じゃない貴女が、私に匹敵するくらいの美を保っているのが羨ましいんだけど!?」



 セーラはゲームと同じ、スレンダーな体型だ。

 普段の食事はカミラより多めに食べているのに、禄に運動もしないで、これはない。

 女性として、狡いとしか言いようがない。



「ああ、わたしは今、初めてカミラ様を恐ろしいと思っています――――! “これ”が全部ユリウス様の為になされてるとか、正気の沙汰じゃありませんよ」



 一方アメリは、女として。その情の重さに。

 或いは、途方もなく大きい執着のなせるカミラの“業”に、その身を震わせるが。

 当のカミラとしては、アメリに思う所感がある。



「というかね、アメリ。私としては貴女の方が恐ろしいんだけど…………、ねぇセーラ」



「アンタどこ見て――――ああ、うん。確かに驚きだわ。生で見るとこんなに…………」



「うぅ、アメリさんは同類だと思っていたのに…………というか、気になってたんですけど、私の“記憶”より、二倍、いえ三倍にすら思える程大きいんですが、何があったんです?」



「え、え、え?」



 三人の視線が、アメリの驚異的な“胸部”に集まった。

 そう、以前よりその胸の大きさには定評のあるアメリであったが、実の所、ゲームより大きいのだ。



「私に付き合って、マッサージや美容法を試してもらってたとはいえ、何故貴女だけが“そう”なるのかしらねぇ?」



「っていうか、やっぱアンタが原因なんじゃない! “元”も着痩せ設定あったけど、その比じゃないわよっ!?」



「よくわかりませんが、カミィお姉様の仕業ですか…………何故だか納得いくような、頭の何処かで“魔改造”だと叫んでいる様な…………?」



「わ、わたしの事は良いですから、ほら早く着替えましょう! 時間なくなっちゃいますよ!」



 焦った様に誤魔化すアメリの一声に、それもそうだとカミラ達は着替えを再開した。

 途中、アメリの胸がきつい……、という呟きを聞き逃さずに、“チャイナドレス”へと着替えたのだった。



 クラスメイトと模擬店の打ち合わせを終え、領地から呼び寄せた直属メイド集団、そして直属の商会から呼び寄せたシェフに後を任せた後。

 カミラ達は早速、宣伝の為に看板を持って校内を回り始め。

 始め――――。



「負けっ、たわっ…………」



 カミラは“それ”を見て、思わず崩れ落ちた。

 アメリも一瞬“それ”に見とれると、慌ててカミラを支える。



「か、カミラ様! 理解できますがお気を確かに! 鼻血だしながら真っ白にならないでくださいっ!」



「反則よねぇ…………良くやったわガルドっ!」



「はわわわっ! カミィお姉様! やっぱりユリシーヌ様は女なんじゃ…………」



 セーラは複雑そうな顔をしたものの、カミラの様子に爆笑して、ガルドと固い握手をする。

 ミラなどは、“それ”のあまりの美しさに、まだ性別を信じられないようだ。



「残念だが、男なのだよミラ」



 そして最後に、ユリウス。

 否、学園一の美少女――――ユリシーヌがやけっぱちになりながら胸を張った。

 深いスリットから覗く足が、なんとも艶めかしい。



「――――フッ、やはり私が一番のようですね」



「ええ、貴方が一番ですよユリシーヌ様…………、今なら解りますカミラ様、そりゃぁ、途轍もなく自分を磨かなければ、横に並べませんよねぇ…………」



「わかってくれるのねアメリぃっ!」



 女装した美少年に美貌で負け、女子全員が。

 その場に居合わせた、他の生徒達全員が理不尽さに涙した。



 兎も角。

 それから三十分は費やして復帰を果たしたカミラ達一行は、今度こそ本当に校内巡回を開始する。



「ただいま、ウチのクラスではカミラ様直伝の新作料理が食べられますよー! 是非寄っていってくださーい!」



「応援してます? はい、ありがとうございます…………何故男子生徒ばかりに、やはり噂は本当――――、はい、何でしょうか?」



「――――ええ、はい、そうです。後、アタシ達もミスコンに参加するので、来てくださいねー! 是非、是非アタシに清き一票をっ!」



「ああ、すまぬ。余は参加しないのだよ、変わりに彼女たちを応援して欲しい」



「…………何で私には誰も寄ってこないのよ?」



 校内や肯定を練り歩くカミラ達の目論見通りに、数多の生徒達に、アピールは成功していた。

 ――――ただし、何故かカミラには人が寄らず。

 主にアメリやユリシーヌに、人だかりが出来ていたが。



(くっ! チャイナドレスは失敗だったかしら?)



 カミラは自分と、アメリとユリシーヌを見比べる。

 ある意味、全てを上回っている恋人の人気は納得しよう。

 だが、アメリの人気は何故なのだ。



(――――はっ! ま、真逆!)



 胸、大きな胸がいいのか。

 カミラは確信した。

 ユリシーヌが女子にも囲まれているが、アメリには男子生徒のみ。

 しかも、皆一様に鼻の下を延ばし、視線は斜め下。

 ――――巨乳に釘付けである。



(アメリ、恐ろしい子! チャイナドレスの胸の部分がパツンパツンな上、胸の谷間が! しかも、今にもボタンが取れそう!)



 勝てない。

 カミラはアメリに対し、初めて敗北を自覚した。

 だが今は、敗北に打ち震えている場合ではない。

 もっと目立たなければ、と思考を巡らせた瞬間、周囲がざわめき始める。



「お、おい! あっちにはヴァネッサ様達がいるぞ! しかも、東洋のドレスを着て!」



「ああ、ユリシーヌ様もお綺麗でしたが、ヴァネッサ様も良いですわね…………」



「キモノというのでしたか? あの煌びやかなドレスは。何処で仕立てたのでしょう」



 配下の三人娘を引き連れ、こちらへ真っ直ぐ向かってくるヴァネッサの姿を確認し、戦闘態勢に移行。

 アメリ達もそれに気づいたのか、カミラを先頭とする形で集まる。

 そしてカミラは、愛用の扇子をバッと広げ余裕の笑みで待ちかまえた。



「――――ご機嫌よう、カミラ様」



「ふふっ、ご機嫌ようヴァネッサ様。お互い、考える事は同じな様で」



 ばちばちと火花を飛ばす、二人の麗人。

 どちらも迫力があるので、一部の気の弱い生徒などは既に逃げ出している。



「ええまったく、そちらの調子はどう?」



「手応えは感じてますわ」



 暖かみ何処へやら冷え冷えとした言葉に、お互いの仲間に緊張が走り。

 図太い野次馬生徒達は、目を輝かせる。



「あら、貴方の周りには、誰も居なかったように見えましたが?」



「ふふっ、ヴァネッサ様こそ。見えてましたわ。随分と後ろの三人に人を集めていたようで」



 そう、カミラは見逃さなかった。

 同じ迫力のある美人であり、権力も兼ね備えたヴァネッサが、配下に人気を取られているのを。



「うふふっ――――」

「ふふっ――――」



 女帝同士の空しい争いに、無駄に緊迫した空気に一同はごくりと息を飲む。

 言葉でマウントが取れないならば、次の一手は――――。



「――――アメリっ!」

「――――グヴィーネっ!」



「は、はい!」

「た、直ちにっ」



 名前を呼ばれ、カミラ側からアメリが。

 ヴァネッサの方からは、ゲームで攻略対象を寝取られた一人、筋肉馬鹿の婚約者グヴィーネが前に出る。



「何か、――――芸をやりなさい」

「貴女もですグヴィーネ、決して負けてはなりませんよ」



「無茶ぶりやめてくださいよカミラ様っ!?」

「真逆、“アレ”を披露する時が来ようとは――――」



 あれ、乗り気? というアメリの戸惑いを余所に、事態は進む。

 先手はグヴィーネ。

 ひな祭りの三人官女のい一人に扮した彼女は、手にした柄の長い銚子に魔法をかける。

 ――――それはそれとして、ヴァネッサのクラスは何の催し物をしているのだろうか。



 カミラは微妙に気になったが、それどころではないと、周囲を同じくその行動を見守った。



「ではこのチョウシというモノを――――はい、錬金の魔法で長剣に変えました」



「それで、次はどうするのです? 出来る人は同じ事を出来る筈ですが」




「はい、いい質問ありがとうございます。勿論ここまでが下準備。――――ではご覧あれ、よっと」




「――――はぁ? え、ええええええええええええええええええええええええええええええええええっ!」



 アメリの叫び声が響きわたり、ヴァネッサ達以外の全員が驚いた。



「馬鹿な――――あの長さの剣を丸飲みしただと!?」



「え、ちょっと待ってっ! え、ええっ!? 彼女、剣にも体にも魔法仕込んでいないわよっ!?」



 そう、グヴィーネは剣を丸飲みするという大道芸を、いとも簡単にやってのけたのだ。

 正直、貴族令嬢の持ちうる芸ではない。



「ヴァネッサ様? これ大丈夫なの!? え、ええっ!? どうみても、一メートル以上の長さがあるのに――――えええええええっ!?」



 困惑と驚愕に慌てふためくカミラに、ヴァネッサは満足げに答える。 



「大丈夫よ。何回もわたくしは見てますし、その度に医者に診せてますけれど、異常一つないと太鼓判をおされてますわ」



「異常一つない事が、既に異常なのでは?」



 カミラの疑問はさらりと流され、えいやとグヴィーネは剣を吐き出す。

 魔法は、いっさい使ってない筈なのに。

 飲み込んだ先が、下腹まで確実に届く長さだといのに。

 何故に無事なのか。




「――――以上。人体の不思議、筋肉編でした」




「人体の不思議過ぎるし、筋肉要素はどこにあったのよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」



 ツッコミ所の多さと、その理不尽さにカミラは膝をついた。

 本日二度目の敗北である。



「おほほほほ、グヴィーネの婚約者は、王国に名高い筋肉馬鹿。ならば彼女だってこれぐらい朝飯前ですわ!」



「あちらが固い筋肉なので、――――対抗して、柔らかな筋肉を目指した結果です」



「そうか、世の中は広いのだなぁ」



「ホントにね、でも間違っても真似すんじゃないわよガルド」



「うむ、こんな事、出来るものかっ!」



 何故か胸を張るガルドに、呆れ顔のセーラ。

 この後でやるとか、地獄だと震えるアメリ。

 そして、どうするのかと視線で問いかけるユリシーヌに、カミラは決断した。

 無理、勝てない。絶対無理だ。



「――――ええ、これは私達の。いいえ、私の負けね」



「あら、案外と素直ですのね」



「そうですとも。だって、私はグヴィーネ様に負けたのであって、ヴァネッサ様に負けたのではないのですから。――――誇りなさって、グヴィーネ様。貴女は王国一の柔らかな筋肉ですわ」



 カミラはにっこり笑うと、グヴィーネに握手を求める。

 彼女もまた、固く握り返し。

 ここに、新たなる友情が誕生した――――たぶん。

 周囲の野次馬は、無理も無いとカミラに同情の視線を送りながら拍手を送る。



「――――ありがとうございます、お褒めに与り恐縮ですわ」



「ふふっ、貴女の進む筋肉道、楽しみにしているわ。ではね、敗者は去ると致しましょう」



 そして。

 カミラはアメリ達に目で促し、颯爽と歩き去ったのであった。



 ミスコン前哨戦――――敗・北!



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