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111話 ネイキッド・C

新章スタートです。

開始が遅れたので、いつもの倍以上のボリュームです。



 今、カミラは史上最大のピンチを迎えていた。



(こ、このままだとっ。の、脳が溶ける…………っ!)



 視覚は背徳。

 感触は幸福。



 そう、現在カミラの膝上にはユリウス――もとい、ユリシーヌがしなだれかかっている。



「ああ、可愛いカミラ。何を考えているんだい? どうか、俺の事だけ考えておくれ」



「あぅ、あ……うう…………」



 これは恐るべき卑劣な事態であった。



 ユリウスの実家から帰宅するその最中、そして学園に戻り定期テストを受けている期間も。

 その後、テストが返されてカミラのサロンで。

 皆がほっと一息付いているこの瞬間も、である。



「いやー、幸せそうでなによりですカミラ様。御結婚の暁には、わたしにもちゃんとお婿さんを紹介してくださいねーー」



「すっごい棒読みで言わな――――ひゃん!」



 いつもの紅茶ではなく、珈琲をブラックで飲みながら投げやりな態度のアメリに、カミラは最後まで文句が言えない。


 

 何故ならば、頬にちゅっとキスをされたからだ。



「なぁカミラ。俺がこんなに近くにいるんだ、例えアメリでもその目を向けないでくれ」



「~~~~ううぅ。み、耳元で囁かないでぇ…………」



「…………そうか、恋人にはこうして迫ればいいのだな!」



「ガルド……アンタはまた変な事を学んで……。間違ってはいないけど、ちょっと特殊な例だから忘れなさい」



 そうか、特殊なのか。と呟くガルドと、生温い目で見守るセーラのコンビはどうでもいいが。

 何よりカミラにとって、今のユリウスが最大の障害だ。



(やらなきゃいけない事があるのにぃ! うあああああん!)



 だって、あれだ。

 あれである。

 誰だって、恋人が四六時中熱烈に甘い言葉で迫ってくる状況。

 それを甘受せずにはいられない筈だ。



 それに何より、ユリウスは元々ユリシーヌとして、女として完璧に生活出来るほど中性的な色気の備わった人物だ。



 そんな恋人が、自分の武器を自覚し。

 女よりも女らしく美しい女装で、中身は男丸出しの。

 (カミラにとって)淫靡で。

 (カミラにとって)倒錯した。

 性癖クリティカルヒットの迫られ方をしているのだ。



(こ、これって据え膳…………じゃないっ! そうよ、そうよ。自重するの私! あ、あとでこれを堪能する為――――。い、いえ。ちょとくらいなら…………ううんっ、駄目よ駄目っ!)



 カミラは鼻血を出すのを精一杯堪えて、密着し頬を撫でているユリシーヌを、理性を総動員して十センチ程離す事に成功する。

 ちなみに、今までのベストレコードだ。



「ゆ、ユリウス……? 貴男の気持ちは嬉しいけど、テストも返却されたし、そろそろ私、やる事が――――」



「――――ふぅん? それって、俺との時間を裂いてまでしなきゃいけない事か? 俺との時間はその用事より“軽い”と?」



「うぐっ…………、ず、ずるいわよぅ…………」



 そう言われてしまえば、カミラは黙るしかない。

 正直な所、今のままでも良いかな? と思っているし。

 やる事と言っても、ユリウスとのイチャラブ新婚生活の為の、魔族や王族へのアプローチであり、まだ時間はある。



 無論、ユリウスの行為はカミラが“よからぬ”事をしでかそうとしているのを、察知してるが故の行動だ。

 その中身までは解らずとも、カミラという存在を野放しにしたまま放置すれば、何かしらの大騒動を起こすのは想像に難くない。



「ほら、また俺以外の事を考えてる。――――お仕置きだな、これは」



「ゆゆゆゆゆゆ、ユリウスっ!?」



 こんな場所で、と言いながら拒否しないカミラをいいことに。

 やたらと情熱に塗れた熱情の、性的な眼をユリウスはカミラに浴びせた。



「み、みんなが見てるから…………」



「大丈夫さ、俺達が幸せなら皆平和だから」



 そう言いながら、ユリウスはカミラの大きく形の良い胸を。

 冬使用の少し分厚い制服を、その長い指でフェザータッチでなぞる。

 なお、アメリは砂糖の壷を視界から遠ざけ、ガルドはセーラに手で目隠しされ、セーラはガン見である。



(今思えば、変なところで解りやすいなお前は…………)


 逆を言えば、知られたくない所はとことん見せないカミラだが。

 兎に角。

 ユリウスはかつて自分が迫られた様に、カミラへ迫る。

 だってそれは、カミラがして欲しい迫り方だと気付いたからだ。



 人前でするには少々どころか、教育にとても悪い姿を前にセーラはため息を一つ。



「…………いいなぁ」



「う、うむ? あの二人が羨ましいのか? セーラよ。というか手をどけてくれ、見えないぞ」



「アンタにはまだ早いっつーの。んで、あの二人が羨ましいんじゃなくて…………はぁ」



 セーラはそこで言葉を切った。

 言える訳がない。

 ガルドにセーラは思いを寄せている、恥ずかしがらずに言えば“好き”だ。



 だが、逆も然り…………ではない。

 ガルドという存在の精神年齢が幼いことを加味しても、彼にとってセーラの存在は“姉”だ。



(もうちょっと育ちなさいよアンタ。でないと心変わりしちゃうんだからね)



 少し切なげなセーラの様子に、ガルドはふぅむ、と気付いたのか暫し熟考。

 バカップルの破廉恥なんだかヘタレなんだか判らない遣り取りをBGMに、一つの提案をする。



「なぁセーラ。後学の為に、余もそなたの膝に乗って、抱きついてもいいか? そうすれば、何か解るかもしれん」



「なぁっ!? アンタ、何言って――――」「隙あり」



 思わぬ提案に同様したセーラの隙を言葉通り突いて、ガルドは彼女の膝に乗る。

 バカップルもう一丁追加だ。



(やってらんねーー)



 サロン内の空気は、砂糖どころか蜂蜜とメープルシロップに生クリームを足したくらい甘い。

 流石のアメリも、これには答えて静かに退出の準備を始めるが、そこに女性二人の声無き切なる視線が突き刺さる。



(話題! 何か話題出してユリウスの気を反らして頂戴アメリ!)



(助けてよアメリ! ひぇっ! く、首筋撫でないで! アンタ初めての筈なのに、なんでそんなに巧いのよっ!)



 流石はガルドというべきか、ユリウスの迫り方を完全トレースしてセーラに試し。

 故にセーラもまた、カミラと同じ状況に陥る。

 即ち――――幸せな地獄だ。



(お二方を目覚めさせたのは、全て貴女達の責任ですよ、――――南無)



 アメリは速攻で二人を見捨てる決意をしたが、はて、と手が止まってしまう。



(ちぃっ! しまった! カミラ様への伝言を忘れてました!) 



 うんざりした顔で、アメリは考える。

 特段、急を要するモノではない。

 だがしかし、――――酷くなるのだ。



(あー。ああーー……。寄宿舎に帰ったら、カミラ様へのラブラブが酷くなるんですよねぇ……ええ、あれからずっとですもん、わたしだって学びますよ)



 何をどう過ごしているのかまでは把握していないが、就寝時間ギリギリに戻ってきたカミラは、幸せな顔で憔悴している。

 その割には、純血を守っているらしく、一体何をシているのだか?



 ともあれ。

 貸し一つですよ、と二人に目で言い、アメリは席に座り直して口を開く。



「えー、おほん。そういえば、カミラ様にお伝えしなければならない事があるのを忘れていました。ですので男性のお二人は、はい、席に戻ってください」



「……アメリがそう言うなら仕方がないな」



「アメリがそう言うなら、余も席に戻るとしよう」



「あれ!? 私とアメリじゃ態度が違う!?」



「なんで、アメリが言うと素直に聞くのよ!?」



 ころっと平常運転に戻った男性陣に、抗議の声二つ。

 だが残念だが、常識人として信頼度が違うのだ。



「はいはい、お二人はもう少しご自分の行動をよーく振り返ってから言ってくださいねーー」



「うむ、そうだな」「ああ、そうだな」



 アメリは、ブーイングする残念美少女二人を置いて、前置きに入る。



「さて、もうそろそろ文化祭ですけど、わたし達のクラスは何をするか、覚えてますね?」



「ああ、確か喫茶店……だったか」



「余達が自分で料理を作って配膳するのであろう? 今から楽しみなのだ」



「何? 文化祭の話? ウチのガッコは飾り付けから買い出しまで専門の業者が入るし、当日の調理補助にプロが付き添うんでしょ。何かやることあったっけ?」



 セーラの言葉にカミラは頷いた。

 文化祭とはいえ、ここは裕福な商人、貴族の通う学院。

 その辺りのフォローはばっちり、至れり尽くせりで今更なにを話と言うのだろうか。



「ご存じの通り、準備打ち合わせなどは必要ありません。せいぜい料理の練習するくらいです。といっても、当日のわたし達の配置は“配膳”――ウェイトレスとウェイターです」



「ああ、本決まりになったのか」



「そうかぁ……余は調理しないのか……」



「あ、希望すれば当日、調理班に加わってもいいみたいですよ。――――それが一つめです」



 アメリはそこで右手の人差し指を立て、続いて中指を立てる。



「それで、二つ目。これが本命の話しです」



「あら? 他に重要な話があるのね? 何かあったかしら…………」



 首を傾げるカミラに、アメリは神妙な顔をして一言。



「――――今回から“ミスコン”が開催される事となりました」



「ミス……」



「……コン?」



 ミスコン。

 ミス学院コンテスト。


 その言葉に、ぬるま湯に浸かっていたカミラの脳細胞が猛烈に回転を始める――――。



(ミスコンイベント! 忘れていたわ、ゲームでも重要なこのイベントの事をっ!)



 このミスコンは、ゲームにおいて個別ルート確定をする最重要とも言っていいイベントだ。



(確か、生徒会に加わった主人公セーラに嫉妬したヴァネッサが、セーラを蹴落とす為に仕掛けた罠。今の状況では発生する訳がないのに――――真逆)



 カミラはキッと眉を吊り上げセーラを睨む。

 セーラは一瞬きょとんとし、顔をブンブンと横に振った。



「――――吐け、吐きなさいセーラ。今度は何を企んでいるの?」 



「ちがっ! 違うわよバカミラ! アタシは何もしてないし、わざわざ何かする理由も無いってば!」



「じゃあ誰が――――」



 これも“世界樹”の修正力なのだろうか。

 原作からすっかり外れてしまった今の流れに、何が起こるのだろうか。

 カミラがそう戦々恐々と警戒度を上げた瞬間、アメリの首から下げている“銀時計”が光を放った。



「うええ!? な、なんか光ってますよカミラ様!?」



「――――ちぃっ!? 今度は何が起きるっていうのよ!?」



「それはディジーグリーの秘宝! 何故アメリが持っているのだ!?」



 アメリの首元から自動で浮かび上がり、カパっと蓋を開けた懐中時計に、ユリウスは聖剣を呼び出し油断無く構える。



「カミラッ! 切るか!? 今すぐ切った方がいいのかッ!?」



「アンタこそ、またぞろ厄介事呼び込んでんじゃない!?」



「くっ、待って。私の予想が正しいなら――――」



 カミラとアメリ以外が、ディジーグリーの騒動を思いだし警戒する中。

 二人は目を見合わせ、確信をもって事態を見守っていた。



 そして。




『――――こ■■シ■ダ■04! 繰り返すこちらシーダ704! 聞こえてる“■”! 緊■事態な■!』




 時計から宙に浮かび上がったのはカミラの、今より数年以上歳を重ねたカミラの。

 ユリウスの実家に行く前の晩に、“平行未来”から連絡してきたシーダ704の姿がそこにはあった。



「お、おいカミラっ!? これは真逆そんな――――いや、そなたの“力”を考えれば」



「今は黙ってガルドっ! 様子が変なの」



 ガルドを始め、何より物言いたげなユリウスの視線を無視し、カミラは立体映像に注視した。

 映像の中のシーダ704は、以前と変わらず妊娠後期の大きなお腹だったが、そこは問題ではない。



(映像のブレが激しい、声も途切れ途切れね。相当無理して連絡してきた。それだけの理由――――)



 飛び飛びの音声で、シーダ704は訴えている。




『いい、よく■いて私。私の■■にも現■た“■■り者”が、こっちでは■しそこ■たのだけれど、どうやら■っちに“■■■動”した■しくて――――』




「もっとはっきり言ってっ! ノイズが激しくて聞こえないわ!」




『ごめん■さ■。急いでた■■そっちか■■通■は確■してない■。兎に角■■■! “あれ”は全てを■った■で、何を■■か■らない』




「何? 何が来るの私! そっちでは何が――――」



 カミラの声は届かず、一層ノイズが激しくなる。




『くれぐれも気をつけて! ユリ■スに■を■させないでっ! それが多分、最後の――――』




 ――――プツン。

 始まった時より唐突に、シーダ704からの通信が途絶えた。

 同時に、銀の懐中時計もその輝きを失い、アメリの首元に垂れ下がる。



 理解を越えた出来事に、静まりかえった室内。

 最初に言葉を発したのはユリウスだった。




「“あれ”は…………確かにカミラ、お前だった。俺が見間違える筈が無い。だが“あの”姿は――――」




 ユリウスの険しい表情を前に、カミラは静かに深く深呼吸。

 シーダ704が何を伝えたかったか、整理する時間が欲しかったが仕方がない。

 そして一度瞼を閉じると、意を決して言葉を紡ぐ――――事は出来なかった。




「ええ、話すわ。全部、全部聞いて――――って、今度は何よっ!?」




「――――チィッ! 悠長に話をしている暇は無いって事かッ! 何か来るぞ皆! 構えろッ!」




 全員が立ち上がり、距離を取る。

 先ほど立体映像が写っていた場所に、今度は黒い、暗闇よりなお暗い暗黒の穴。

 しかし、カミラだけにはそこが“タキオン光”で目映く見えていた。



 そして。





 こーほー、こーほー。

 そんな態とらしい呼吸音と共に、仮面を付けた一人女性が降り立った。





「こーほー、こーほー。――――あいむ・ゆあ・ふゅーちゃー」





「ノオオオオオオオオオオオオオオオ! って、何しているの“私”ぃいいいいいいいいいいい!」



 思わず、予想の斜め下の状況に失意体前屈をするカミラ。

 そしてその言葉に、他の者が同様する。



「は? え? 今なんて言ったカミラッ!? アレがお前とは、何を言っているんだッ!?」



「…………これは、平行世界のカミラか? それとも未来の? カミラの力はそこまでなのか!? いや、この場合心配するのはタイムパラドックス? セーラ! セーラ!? 余、余はどうすればいいのだっ!?」



「アタシに振らないでよガルド!? ――――うーん、これホントにカミラなの? こんなネタ満載…………いや、この当人以外にはアタシにしか伝わらないネタ。やっぱりカミラなの?」



「えーっと。シーダ様……で、よろしいですか? 取り敢えずテーブルの上から降りてください」



 訂正。

 カミラの奇行で耐性の付いたアメリだけが、冷静に状況を進める。

 アメリの言葉に従い、テーブルから降りたシーダらしき不審者は、黒いガスマスクを外さないまま、辺りを見渡した。



「こーほー。アメリにセーラ、そっちの見慣れて見慣れないない男はドゥーガルド。…………ユリシーヌ? え、ユリシーヌ? 何でこの時期にユリシーヌ? いったい“私”は何をやって――――」



 カミラ以外には、正確に把握出来ない事をぶつぶつ呟く不審者に、ユリウス達も警戒を解く。



「よく解らないが、先ほどのカミラともまた違うカミラみたいだな…………」



「え゛? ユリウス、アンタ“あれ”がカミラだって認識できるの? 話の流れでなんとなくじゃなく?」



「いや、あの声と体格。先程の映像のカミラともまた違うが、確かに“アレ”はカミラだろう? 見て判らないか?」



「アレが自分で言わなけりゃ判らないわよっ! ――ったく、あのバカ女。常日頃から規格外の変態だと思ってたら、真逆、こんな無茶苦茶な奴だったなんて…………頭痛いわ。ガルドじゃないけれど、タイムパラドックスとかはどうなってるのよ…………?」



「たいむぱらどっくす? ガルドも言っていたがそれはどういう――――」



 ユリウスが首を傾げ疑問を晴らそうとしたその時、漸くカミラが復活する。



「――――それで、何しに来たの“私”。シーダ704が何か連絡してきたけど、関係あるの?」



「こーほー。嗚呼、あの“私”、ギリギリで間に合わなかったみたいね」



 向かい合うカミラと推定カミラ。

 方や白い制服で、方や喪服の様な黒一色のドレス。

 黒尽くめで不吉な印象があったが、同じく黒のガスマスクでシリアスが仕事をしない。



 何を考えているか解らない自分に、カミラは頭痛を覚えながら提案する。



「取り敢えず、その趣味の悪いガスマスクを外しなさいな? 前世紀過ぎるネタも、もういいから」



「あら、いいの? 私が“コレ”を外すと――――ユリウスが惚れてしまうわ!」



「ユリウスは! “私”と! ラブラブなの! いいから外しなさい! あーーもうっ! 面倒臭い女ねっ!」



「カミラ、カミラ。お前それ、盛大なブーメランだって解ってるか?」「ブーメランだな」「ブーメランね」「盛大なブーメランですよカミラ様」



 ユリウスを皮切りに口々にツッコまれ、Wカミラはぐうと同時に呻く。



「どうやら味方は“私”だけね…………」



「さぁ、それはどうかしら」



「え? ――――――――っ!?」



 不審者カミラの言葉を問い返そうしたカミラ、そして他の者も、その素顔を見て一様に息を飲んだ。



「シーダ様…………、その、お顔は…………」



「ふふっ、ちょっとね。でも心配いらないわアメリ“様”」



 素顔は確かにカミラと瓜二つだった。

 当然である、同一人物だ。

 だがそこには、顔の右半分が大きく火傷の痕。

 そして、左は額から顎まで続く太い切り傷の痕。

 しかし、当のカミラは“そこ”以外に衝撃を受けた。



(――――っ!? “様”!? アメリ相手に“様”付け!?)



 カミラは戦慄した。

 目の前のシーダ、いや、カミラはいったい何なのだろうかと。



(シーダ704はアメリを喪ったと言っていたわ。でも、あくまで“喪った”のよ。今みたいに他人行儀ではないわ)



 この異常事態をアメリは気付いているだろうか。

 カミラは焦り視線を向けると、アメリもまた、困惑した顔を見せている。



(多分、アメリと私の出会いは、きっとシーダ達の積み重ねの答えの一つ! となれば“アレ”はあの時のアメリを見捨てたか、出会わなかった私!)



 一つ気付けば、連鎖的に違和感に気付く。

 何故だ、何故だ、何故だ、何故――――――――。




「皆っ! そいつから距離を取りなさいっ!」




 カミラの切羽詰まった叫びに、推定シーダ以外の全員がとっさに大きく離れていく。



「うふふっ。流石というべき? いえ当然ね、だって“私”だもの」



「ええ、気付くわ“私”。だって“私”だもの。――――ねぇ教えて?」



 カミラは拳を堅く握りしめて、鋭い視線を向けた。 これだけは、はっきりさせなければならない。




「何故――――ユリウスに抱きつかなかったの?」 




 そう、ユリウスだ。

 あれがどの様な道を辿ったカミラであれ、例え“自分”のユリウスでないと理解した上でなお、まず最初にユリウスに抱きつく筈だ。

 カミラ・セレンディアとい存在は、そういうモノだ。



「――――カミラ、何を言っている? 俺に抱きつく? それが何を意味している?」



 ユリウスの問いに、カミラはカミラから視線を外さずに答えた。



「ユリウス、私という人間はね。貴男という存在に全てを捧げて生きていく事しか出来ない人間なのよ。――――だから、目の前のユリウスが“違う”ユリウスであっても、全身全霊で衝動的に触れたくなる事を押さえられない」



 故に。



「幾ら私がネタに走るといっても限度があるし、意味がある。――――ユリウスとのロマンチックな邂逅以外、取り得る選択肢など“無い”わ」



 カミラは更に、続ける。

 鬼の形相で、あってはいけない、あり得てはいけない存在を否定する様に。



「ねぇ“私”――――その服はまるで“喪服”みたいだわ」



 そうでなければいい。

 思い過ごしであればいい。



「ねぇ“私”――――答えて」




 お願いだから、どうか、否定して欲しい。




「――――何人、いいえ。何回ユリウスを“殺した”の?」




 だが、その思いは届かない。

 対するシーダの答えは簡素なものだった。





「そんなの、忘れてしまったわ」





 嗚呼、嗚呼、とカミラの心に嵐が吹き荒れた。

 許せるものか、断じて、許してなるものか。

 あの“過ち”を、カミラが今のカミラになった、あの“過ち”を。




「一度だけでも、一度だけでも――――」




 カミラは両の拳を握りしめ、血が滴った。

 噛みしめた唇は、血が流れ出た。

 認めてはいけない、目の前の存在を、可能性を。



 同時に思う。

 目の前の存在は、どれだけの悲しみを。

 絶望を抱えているのか。

 そもそも。



「何故、何故なのよ。…………どうして、生きていられるの?」



「諦めきれないからよ“私”。そして、燃やし尽くさずにはいられないから」



 淡々と答えるシーダの表情は、プラスマイナス0の極めてフラット。



「矛盾してるわ“私”」



 ゆるゆるとカミラは頭を左右に振り、殺意を高める。

 駄目だ、駄目だ、駄目なのだ。



 人類種の敵である“魔王”より、人類の生け贄たる“勇者”“聖女”より。

 世界の支配機構たる“世界樹”より。



 何よりも、自分自身が恐ろしい。



(嗚呼、嗚呼、嗚呼。殺さなくては。殺さなくては。殺さなくては――――)



 膨れ上がる恐怖はカミラの視野を狭くする。

 漆黒の殺意は魔力となって渦巻き始め、漏れ出たたった少しの“それ”だけで、硝子戸をビリビリと震わせた。

 ユリウス達が何かを言っている様だが、今のカミラには届かない。



 そんなカミラを見て、シーダもまた虚空から剣を――――刃こぼれの目立つ錆びた“聖剣”を取り出した。

 何度も同じ様に殺意をぶつけられているのだろう、その動作に躊躇いも油断も無い。



「だけど、それが“私”でしょう?」



「認めない、“私”が“私”である限り、絶対にっ! 認めないっ!」



 高まる殺意と緊張を前に、“カミラ”以外の全員が気圧され手が出せない。



「――――ええ、喜びなさい罪人/私」



 シーダは笑わない、淡々と。

 カミラは嗤う、激情のままに。



「ええ、喜びましょう私/咎人――――」



 シーダが“聖剣”の“真の力”――――魔力を無力化し、その魔力の発生源を“原子分解”する、“対新人類”戦略兵器を機動させた。

 ――――元より。言葉は不要だったのだ。



 カミラは“魔王”の“権限”を一時破棄、魔力を心体エネルギーに戻し、人為的な奇跡“侵・雷神掌”の放つ準備を終えた。

 ――――ただ、殺せばいい。




「死という裁きを――――安心して、ユリウスは貰ってあげるから」




「過ちが正せる事をっ! ――――死んで、あの世で指銜えてなさいっ!」



 そして――――暴力の嵐が吹き荒れた。



 カミラとカミラが戦いを始めた瞬間、残りの三人もまた同時に動き出す。



「ユリウス! セーラ! アメリ! 魔力の続く限り防御結界を張り続けろっ!」



「結界だけでいいのっ!? あれは確かに“聖剣”でしょ、なら――――」



 結界を張った直後に破壊され、青ざめたセーラがまた張り直しながら怒鳴る。



「見て判らないかッ! 俺でも目に追えない早さの戦いだッ! 悔しいが介入できないッ!」



「というか効果あるんですかコレ! 他の生徒に避難を呼びかけた方が――――」



 アメリの真っ当な意見は、しかして却下される。



「こんなの気休めだっ! だが黒いカミラの方が通信魔法系をどうやってか無力化してるのだ! 他に出来る事がない! そもそも余達はあやつの結界によって逃げる事すらできないんだぞっ!」



「――――全ては、アイツ次第って事かッ!」



 ユリウスは、自身の無力さに歯噛みした。

 だがカミラはユリウスの様子に気づける筈もなく、シーダとの激しい激突を繰り返す。



 旧人類の叡智の結晶。

 新人類の最先端。

 戦いは互角、少なくとも今は。



「――――奇妙な技を使うわね“私”。超能力に見えるけど、そうじゃない。かといって魔法ではない」



「教えると思って――――!」



 掠るだけで即死は免れない聖剣の斬撃。

 右上から振り下ろされ、返す刃で上に。

 シーダには、カミラはそれを見事に回避した様に見えた。

 だが――――、それは否。

 カミラは聖剣を避けたのではない。



(幾ら“侵・雷神掌”でも、聖剣“そのもの”には対抗出来ないっ! ならば振るう腕を“誘導”すれば――――っ!)



 右から左から、返す刃で追撃。

 時には鋭い突きと、力一杯の横薙。

 一撃一撃の重さに反して、くるくると優雅に“踊る”シーダ。



「ふふっ、あははははっ! どうしたの? 私を殺すのではなくて? 避けているだけでは傷一つ付けることは出来ないわよ?」



「そっくりそのまま返すは“私”! 裁きを与えるのではないの?」



 シーダがダンスならば、カミラは曲芸。

 “侵・雷神掌”によって輝く手足により、何もないところで階段を駆け上り、時に有るはずのない壁を蹴って三角跳び。

 経験でもって上回るシーダをもって、完全に補足できない動きを見せる。



(今なら解る、シーダ704達の仕込みは、ユリウスを幸せにする為だけじゃない、この“裏切り者”を倒す為――――)



 ならばそこに勝機がある筈である。

 しかし“そこ”に至るまでの時間は足りない。



(何れ、“侵・雷神掌”の仕組みに気付かれる、何よりこの部屋が“持たない”!)



 カミラ自身には傷一つ無いが、サロンは既に半壊。

 ユリウス達は必死で防御しているが、いつ余波が届くようになるのも、そう遠い事ではない。



 戦闘開始と同じ状況を作りだしながら、カミラは必死に頭脳を回転させた。



(真の力を解放した聖剣、その威力は絶大だわ。――けど、それも長くは続かない)



 そも、聖剣自体が科学の産物である。

 よって、当然のように限界はあるが、それを言うならカミラの“侵・雷神掌”の限界の方が早い。

 人為的とはいえ、奇跡を起こしているのだ。



(悔しいけど、流石“私”といった所ね。“侵・雷神掌”による人体破壊が“出来ない”なんて――――)



 同一人物を相手にしている弊害か、それともカミラの思いもしない対策手段があるのか。

 しかしそれもまた、考える時間などない。



「ほらほら、どうしたの? このままではじり貧じゃない? ふふっ、ふふふっ」



「ニコリともせずに笑わないで気持ち悪いっ!」



 当たらぬなら当てるまでと、剣を振るうシーダの姿。

 普通ならそれは絶望の象徴であったが、同じ存在であるカミラにだけは、一つの事を教えていた。



(ええ、解ってきたわ。私なら、戦いを無駄に引き延ばさない。それは即ち決定打の不足っ!)



 カミラの、カミラだけが持つ絶対的な切り札。

 ――――“時間操作”能力。



 それを使ってこない原因は、カミラのカウンターを警戒してでは無い。



(そうよね、意識だけを跳ばすループでもなく、“私”は生身のままここに来た)



 カミラは試したことが無いが恐らく、人体の“時空間移動”には莫大なタキオンを消費する。

 ――――故に今、シーダのタキオンは枯渇している筈だ。



 そしてもう一つ。

 この部屋のタキオンが枯渇状態なのは、シーダが登場するその時から起こっている。



(“時空間移動”の際には、向かう先のタキオンも膨大に消費してしまうっ! ならっ!)



 直感的に考えを纏め上げたカミラは、確信を以て“策”を始める。

 まず必要なのは“時間”だ。

 シーダの大振りの一撃をバク転で大きく回避したカミラは、“侵・雷神掌”を一際“光らせた”後、解除して両手を上げた。



「――――何のつもり?」



「このまま千日手になるのも埒があかないでしょう。少し、交渉といかないかしら?」



 口の端だけニヤリと曲げ、シーダはゆっくりと剣を切っ先を下げる。



「時間稼ぎかしら? こちらとしても都合が良いわ。――――だって、時間移動者との戦いならこちらに一日の長がある」



 カミラは銀時計経由で、アメリにだけ作戦を伝えながら返答する。



「それもそうね、私達と戦うとなると“それ”が決め手だものね」



 時空間移動に必要なタキオン粒子は、基本的に自然発生が原則だ。

 装備や戦闘技術の差はあれど、通常戦闘ではカミラ同士の決着はつかない。



(こちらもタキオンの自然回復待ち――そう考えた筈よ)



 故に、そこが活路となる。



 今ここにいるカミラのみが到達した頂点、人為的な奇跡。



(策はもう動いている。あと少しだけ、少しだけ時間があれば――――)



 内心の焦りを獰猛な笑顔で隠し、必死になって会話の種を探す。

 相手は自分、大方のことが想像通りだ。

 何か興味を引ける話題を――――。




「お互い、タキオンが回復するまでゆっくりお話――――すると思った?」




「――――っ!? ちぃっ!」




 だがその瞬間、シーダが一気に距離を詰めてカミラに切りかかる。

 制服の袖に僅かな被害をだしながら、カミラはすんでの所で回避に成功した。



「うふふっ! 嗚呼、やっぱり! その奇妙な力は種切れの様ね“私”ぃ!」



「目敏い女ね“私”っ!」



 見抜かれた、見抜かれていた。

 実の所、先の“策”に心体エネルギーの全てを使い果たし、“侵・雷神掌”はもう使えない。

 後は“魔王”の“力”を復活する他、対抗手段が無いが。



(それも時間が足りない――――!)



 カミラのエネルギーが尽きた後、自動復帰するように設定してあるが。

 仮にも世界を回すシステムの最重要事項。

 ハッキングでもして手順を省略させないと、この戦いには間に合わないだろう。



 ならば、ならば?



 カミラの灰色の頭脳が即座に答えを出す。

 同じ自分故に、確実に時間を稼げる手段が一つ。



「――――待って! 待って“私”! 降参するわ!」



「駄目よ、“私”に時間を与えたら禄な事にならないし。何よりここまま勝てるもの。――――“私”が同じ立場でも聞かないでしょう?」



 体に傷こそ無いが、カミラの制服は襤褸へと変貌し始めている。

 シーダに態と嬲る趣味は無い。

 これは全てのカミラという存在が、その身体能力を極限まで到達しているが故の、――――必然。



「いいえ、“私”だから聞くわ。――――お願いよ、最後はユリウスと共に逝かせて」



 カミラを殺そうとする“カミラ”であるが、その根本は同じ、ユリウスへの執着がある。

 シーダは眉をピクリを動かすと、剣を振るう手を止めた。

 一秒、二秒、三秒。

 その鉄面皮は既に崩れ、葛藤が顔に出ている。



 そして四秒五秒、シーダは力なく声を出した。



「――――駄目よ。気持ちは痛いほど解るけど、今ユリウスをここに呼んだら、“私”は最後の足掻きで聖剣を取り出して対抗するでしょう? それでも私は“私”を殺す自信がある」



「最後まで、足掻かせてくれないのね“私”」



 カミラは溢れ出る涙を隠すように俯いた――――演技をした。




「怒り悲しみ、憎みなさい“私”。それらは全て、私が持って行くから」




 ゆっくりと近づいたシーダは、膝を着き俯くカミラに向かって聖剣を――――。




 時は少し巻き戻る。

 それまで自分の身を守るだけで精一杯だったアメリは、カミラの“策”を託され、実行を始める。



「――――皆さん、防音の結界魔法を張りました。聞いてください!」



「何だ!? 今更そんな余計な結界張っても――――」



 ガルドの怒鳴り声に、アメリもまた怒鳴り返す。



「カミラ様からの伝言です! これより先“どんな事”があっても手出し無用の事!」



「何があってもって事!? あの迷惑女は何をやらかすつもりなのよっ!?」



 四人の視線の先には、両手を上げたカミラの姿。

 各々の思考に、すわ諦めたのか? という疑念や、援護に向かおうとする意志が。

 先のアメリの伝言によって封じられる。



「わかりませんよぅ! その時が来たら“わたし”にだけ解るって、そしたら黒いカミラ様を後ろから殴れって!」



 カミラ達は何を話しているか、防音結界の所為で解らなかった。

 それ故に不安が膨らむが、今はカミラを信じる他無い。

 四人の中でユリウスのみが、カミラへの信頼故に、アメリへ力強く言い放つ。



「勝算があるって事だなッ! ならカミラの事は任せるぞアメリッ!」



「はいっ! 任されました!」

 


 再び始まる攻防。

 だが、先程よりカミラの分が悪い。



(絶対、絶対お助けしますから、それまで無事で居てください――――)



 アメリの切なる祈りも空しく、カミラは膝を着き処刑を待つ罪人の様にうなだれた。

 そして剣が振り下ろされ――――。




「――――カミラ様ああああああああああ。……って、ええっ?」




 その瞬間、声を上げたのはアメリだけだった。

 ユリウス達の表情を慌てて見れば、驚愕でひきつった顔のまま。



(違う! これは――――“時”が止まっている!?)



 アメリには預かり知らぬ事であったが。

 これこそが、カミラの“策”であり“活路”。

 人為的な奇跡の真価なのであった。



 あの時、カミラはただ“侵・雷神掌”を光らせた訳ではない。

 タキオン枯渇の状況を利用し、シーダがタキオンへの知覚を狂わせた。

 そして――――“銀時計”への“タキオン粒子”のチャージ。



 そう。

 カミラは、自然発生しかしない“タキオン粒子”を人為的に発生させるという“奇跡”を起こしていたのだ。



 以後の“侵・雷神掌”の使用不可。

 通常なら一瞬で終わるチャージ時間の倍増。

 それらをリスクとして、カミラは賭に勝ったのだ。



(今行きますカミラ様――――!)



 カミラの為した事は解らずとも、“その時”が来たのだと理解したアメリは。

 銀時計を握りしめて、二人に駆け出す。



(これが狙い――――っ!?)



 止まった時の中でシーダが見たものは、不適に笑ったカミラ。



(ええ、“一人”で戦うなら。いずれ私は負けていたでしょう。――――でも、私にはアメリがいる)



 目の前のシーダには存在しなかった、唯一無二の“相棒”が、仲間が、確かにここに、今。




「これで――――終わりですっ!」




 アメリの拳がシーダの背に直撃した瞬間、爆発と共に時間の流れが戻る。

 雷が落ちたような爆音ともくもくとした煙で、状況が解らない。



(アメリの拳は、他時間軸に送る時間式は即興だけど完璧だった。――――だけど、爆発なんてしない筈よ)



 カミラは今更ながらに復帰した“魔王”の“力”を、腕に込め。

 その一振りで煙を晴らす。 

 おまけで、限界直前だった学園の防護結界まで壊してしまったのはご愛敬だ。



(たとえ耐えられたとしても、最悪数秒は動けない! その隙さえあれ…………あれ…………あれ?)



 視界が回復したと同時にカミラが動きだそうと、その目に飛び込んできたモノは――――。



「…………え、あれ? 何これ?」



「げほっ、げほっ、げほっ! か、カミラ様ぁ~~。爆発するならせめて一言くらい…………って何惚けているんです?」



 不満げに文句を言うアメリに、カミラはパチパチ瞬きしながら“それ”を指さす。



「ねぇ、アメリ。私達は、“私”を相手にしていた筈よね?」



「何言ってるんですかカミラ様。呆けるにはまだ早い――――あれ? これ誰ですか?」



 カミラと同じく、アメリの頭もまた疑問に満ちあふれた。

 何しろ、カミラが指さした先。

 そこには黒いカミラ――シーダではなく。



「お、おい! 終わったのかカミラ?」



「っていうか。その三つ編みのだっさい子、誰よ? もう一人のアンタは何処に行ったの?」



 残る三人も駆け寄り、仰向けに倒れる“誰か”を囲むように立つ。



(仮に、“私”が対策を練っていたとして、でもそれはタキオン不足により“完全”に機能しなかった筈。つまり、真逆――――)



 怖々と屈み、恐る恐る“誰か”に触れようとするカミラに、ユリウスが問いかける。



「…………な、なぁカミラ。正直に答えて欲しい。勘違いかもしれないが、これは――――」



「――――“私”」



 カミラは愕然と呟いた。



 背は少し縮み、髪は艶が無い。

 そばかすが散らばる頬に。

 胸もお尻も貧相で、腰にくびれが無い。



「カミラ様。この人って、あの時に見た――――」



 以前、カミラの記憶を見たアメリは、カミラと同じ結論に至る。



「ええ、アメリ。これは――――“最初”の“私”」



 ループが始まる前の、カミラ・セレンディア。

 ただ一つ違うのは、顔の火傷と傷。

 それが、彼女がシーダだという事を示していた。



「なぁ、カミラ? それはどういう――――」



「バカ女! こいつ目を覚ますわ!」



 ユリウスが問いかけた瞬間、アメリが警戒を促し。

 ――――ゆっくりと瞼が開き、体を起こす。

 そしてカミラ達が急いで飛び退く中、ぼんやりと第一声。




「…………あれ? 私なんで寝て。ってここドコ? あ、セーラ“ちゃん”! いったい何が――――ってユ、ユ、ユ、ユリシーヌ様ああああああああ!?」




(き、記憶喪失ううううううううううううううううううううううううう!?)



 想定を越えすぎた事態に、カミラの脳がパンクした。



次回は多分、来週です。

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