11話 魔王からは逃げられないっ!
魔王と悪役令嬢を組み合わせたら、邪悪令嬢になるなんて
このリハクの目をもってしても、見抜けなかった……!
「はッはッはッ! 男としての俺も流石……なんて言うとでも思ったかカミラ、お前はいったい何がしたいんだ!?」
「あだっ! あだだだだっ! ギブっ! ギブですユリウス様! 握力意外と強っ! 頭割れるっ!」
「いやー申し訳ありません、ユリシーヌ様、カミラ様に言われて仕方なく……しくしくおよよ」
ゴールである寄宿舎が見えるまでもう少し、カミラはユリウスにアイアンクローをくらっていた。
原因は、門前に仕込んだ生徒に棒読みが混じっていた事と、それに付随するアメリの裏切りである。
「――ふんッ! この勝負、カミラの反則負けだ、いいな」
「ううぅ、解りましたわ……」
「罰としてお前の持っている魔法で『世に出していない』ものを、この学院の生徒達に『授業』で教えてもらおう」
つまり、ドキドキ二人っきりの蜂蜜授業ポロリもあるよ、は無期限延期である。
――諦めたとは言ってない。
「ぐ、ぐうぅぅぅぅ、そんなぁ~~」
「この短い時間で、カミラ様の操縦方法を学ばれたのですかユリシーヌ様、流石です! 」
「……認めたくはないのだけれど、私には『比較的』素直みたいなので」
「そうでしょうねぇ……、ああ、急に女言葉に戻らないでくださいユリシーヌ様、男装姿だと何か気持ち悪いです」
「ぐッ……。気を、つける……気持ち悪い……」
「アメリ、貴女って私以外にも結構容赦ないのね」
「大丈夫です、人は選んでますからっ!」
「選んで、学院一の令嬢にその物言いなのね……」
アメリの胆力に驚いている間に、寄宿舎の門の前へ。
何事もなく中に、とはいかずユリウスは玄関の前でたむろっている一団を発見した。
内訳は、女一人に男三人の逆ハーレム集団。
セーラと堕とされし婚約者達であった。
「ユリウスっ! ユリウスじゃないっ! 何でこんな所に…………、カミラっ! アンタ真逆――」
大声で叫んだセーラに、カミラはニヤリと微笑んだ。
そして見せつける為に、ユリウスと腕を組み口撃を始める。
「あらあら、これはこれは、ごきげんようセーラ様。もう自室謹慎の方はよろしいので?」
「――っ! あ、アンタには関係ないわ。それよりどうしてユリウスと……」
謹慎中であるセーラを注意しようとしたのであろう、何かを言い掛けたユリウスの袖をちょこんと引っ張り、カミラは前に出た。
この状況こそが、今日一番望んでいた状況だった。
「ふふっ、随分と大きいお耳をお持ちなのねセーラ様、ユリシーヌ様が男装してユリウスと名乗る『遊び』をしてから、まだ三十分も経っていないのに、その名を知っているなんて」
カミラの指摘に顔色を変えたセーラは、くぅ、と唇を噛みしめて言い訳を始める。
だが既に時は遅い、ユリウスは、セーラが知る由もない情報を知っている事に、不信感を露わにしていた。
「――見苦しいですわセーラ様、生徒会長である王子から直々に下された謹慎を守らず、複数の殿方を侍らして遊んでいらしているなんて」
「何を言うカミラ嬢! 謹慎の件も貴女が仕組んだ事だと聞いているぞ! 挙げ句、ユリシーヌ様にこんな格好をさせて、卑怯者め! 恥を知れっ!」
「……貴女こそ、……毒婦」
「俺の筋肉が言ってる……、貴様こそがこの学園の悪であると!」
「あらあら、嫌われたものね。生徒会の仕事も王子の補佐も、婚約者もほっぽりだして平民の女に入れあげる殿方は、流石、言うことが違いますわ」
ショタ、根暗、筋肉は思い当たる節があるのか、仲良く三人黙り込む。
「――ホンッット! 何なのアンタ! 名前さえ出てこなかったモブの分際で、いきなり現れてアタシの邪魔してっ! アンタもファンなら解るでしょう!? アタシは良いけど、三人を責めないで!」
「セーラ」
「……セーラ」
「おお、セーラ!」
手を広げ三人を守るように悪へ立ち向かうセーラ。
そして感動で声を震わす三人衆。
茶番もいいところの光景にしかアメリには見えなかったが、妙に厳しい顔をするユリシーヌとカミラの様子に怪訝な顔をする。
(そういえば、初めて見るわね……、これが彼女の『力』、いえ『呪い』……)
魔法に秀でている訳ではないアメリには解らなかったが、カミラとユリシーヌには見えていた。
セーラが三人を庇った瞬間、確かに『魔法的』に空気が変わったのを。
そして、カミラだけが気づいていた。
セーラの足下に、花がたった今咲いたのを。
「……ッ! これが貴女が言っていた『魅了』というモノですか。普段から対策していなければ、私も持っていかれる所でした……」
ユリシーヌの背景はゲームと同じだ、故にゲームでもセーラの魅了の力に気付き、危険視して監視のため側にいるイベントが発生し個別シナリオに入る。
――だが、ここはセーラがいて、そして現実だ。
「……ああ、私は『知って』いたわ。セーラ、貴女は自分に素直で、そして彼らを真実、想っている人」
「あ、アンタ何を……」
突如として褒め言葉を送ったカミラを、訝しむセーラ達とユリウス。
アメリは、また始まったと言わんばかりの顔だったが。
相手を認めて、問う。その上で叩きのめすのがカミラ流である。
「セーラ様、貴女に今一度聞きますわ。――この学院で、その存在で、貴女は何を為しますの?」
カミラから放たれる、ゴウ、という威圧感に負けるものかと、セーラは一歩踏み出して啖呵を切った。
「――アタシは、皆を救うの!」
「皆とは?」
「ゼロス王子、リーベイ、エミール、ウィルソン、ユリウス! ついでに学院の皆! おまけでアンタも救ってあげてもいいわっ!」
「それは何故、何の為に、貴女に何をもたらすの?」
「ふんっ、白々しい! アンタだって解ってるでしょう! アタシは『選ばれし者』で主人公! いずれ、封印された魔王だって倒してみせるっ! だから権利があるのよ、皆に愛されて、幸せになるって。
――途中でしゃしゃり出て、ユリウスをかっさらって行こうだなんて、そんなの『シナリオ』になかったし、アタシだって許さない!」
――それは、あくまで自己中心的な善性の『光』だったのであろう。
しかし、何であろうと『聖女』の力を呼び覚ます『光』だったのだ。
「えっ、えっ!? 何が起こっているですかカミラ様っ! セーラがピカーって光って、周りに花が……ええっ!?」
「やはり、セーラはただ者じゃなかった……!」
「……もしかして、伝説の……」
「ああっ! セーラこそ予言された『聖女』」
三人にちやほやされて満足気なセーラは、上から目線でカミラを鼻で笑った後、ユリウスに粉をかける。
「――ふんっ、アタシこそが何を隠そう『聖女』なのよ、封印されし魔王に本当の終焉をもたらす者、特別じゃないアンタはお呼びじゃないの…………、ねえユリウス、そんな悪役顔のモブなんてほっておいてアタシと一緒に来ない? アタシがアンタを救ってあげる」
途中からは丁寧にも原作セーラの台詞を再現するセーラに、カミラは感心する。
(イベント時期はズレてるけど、聖女の力に溺れて自棄になった時のセリフをここで入れてくるとは……、もし、シナリオの強制力というのがあるのならば、成功していたでしょうね)
きっと、ユリウスは彼女の側に監視に付いた筈だ。
――だがそれも、カミラがいなければの話。
「随分と大層な望みと、我が儘な愛をお望みなのねセーラ様。――勘違いも甚だしいわ」
「何ですって!?」
「私たちの『主人公』は、貴女の望む様に、世界を救い愛を勝ち取ったかもしれない……、でもそれは全て、結果があったからこそなのよ」
「ふんっ、負け犬の遠吠え? アンタこそ見苦しい――――っ!?」
セーラは最後まで言えなかった、そして、誰もが困惑していた。
「――可哀想な人。……ごめんなさい、貴女の望むモノは全て手に入らない。勝利も愛も――だって、私が持っていってしまったから『全て』」
奇妙な光景だった、そして不吉さえ感じさせる光景だった。
艶やかに華やかに咲き誇っていた花々が、今度は一斉に枯れ堕ちていき、ついには塵となって消えた。
残るは、以前と変わらぬ玄関前の姿である。
「アンタ…………アンタ真逆!? 自分が何をしたかわかってんのアンタ!?」
この場で唯一、セーラだけが正確に事態を理解していた。
自分が倒すべき魔王は既に殺された上、カミラがその力を継承している事。
そしてセーラの目から見た順風満帆だったシナリオが、既に取り返しの付かない所まで破綻している事を。
「アンタアンタと、それしか言えないのですかセーラ様」
「うるさいっ! どうしてくれんのよっ! これからアタシはどうしたら……答えないさいよっ! このっ! このっ!」
「……ふふふっ、あがっ、こほっ、こほっ、……ふふ……こほっ」
「――セーラ様、お止めなさいッ! カミラ様の首から手を離してッ! おいッ! そこの盆暗三人、手伝えッ!」
「カミラ様、今お助けしますっ!」
「放してユリウス! アメリっ! こいつ殺せないっ!」
セーラの叫びで混迷に陥るかと思えた事態だが、その時、ドンッと扉が勢いよく開かれた。
「こんのっ馬鹿者達がッ! 何をしてるんだ――――ッ!」
「カミラ様! ご無事ですか!?」
腐っても王族とその婚約者、一喝し一睨みすると。
組み伏せられたセーラと、喉を押さえるカミラを除く、全ての者がその場で臣下の礼をとった。
昨日の投稿後、異世界転生/転移の恋愛日刊にて
なんと! 67位にランクインしている事を確認いたしました!
これも皆さまが、ブクマや評価をしてくださる御蔭です。
ありがとうございます!
カミラ様の邪悪が皆さまの元にお届けできるよう、頑張っていくので。
今後も楽しんで、読んでください。
後、カミラ様も乙女なので、偶にシリアスな純愛?シーンが混じる事がありますが、長く続くものでもないので、サクッとお楽しみに!(明日の予防線)