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106話 エインズワース家って、変態を呼ぶ家系だよね



 カミラが素直に相談に乗った理由は、二つ。

 一つは、気分転換。

 叫び出したい程の重苦しい渇望だったが、元々あったモノを再認識しただけの事、覆い隠すのは造作もない。

 もう一つはそう――――事が、“相談”だったからだ。



(そういえば、誰かの“相談”を聞くのは何周ぶりかしら?)



 乙女ゲーならず、ゲームならずとも、“相談”とは“情報”だ。

 それも極めて、“個人的な”である。



(情報イズパワー、情報イズジャスティスよ。ループと転生の強みは情報と経験による積み重ね)



 それによる最適解を以て、次の周回を生かす。

 尤も、カミラは今更ループなどする意志など無いが、このメイド美少年はあのアイリーンの従者。

 カミラのとってのアメリ。

 つまりはウィークポイントである。



(鴨が葱をしょって来た、って所ね)



 ここまでの思考にコンマ一秒もかからず至ったカミラは、密かに“防音”の魔法を使うと同時に微笑む。



「では、そこの椅子にでも座りなさいリディ。――アメリ、お茶を用意して」



「そうくると思って用意してますよ、少々お待ちください」



「そ、そんな! ワタシはこのままでっ!」



 恐縮するリディを、カミラは微笑ましく見つめた。

 同時に彼に近づき手を引いて、部屋の窓側にあるテーブルセットに誘導する。



「ボ、ボクは自分で歩けますカミラ様ぁっ!」



「ふふっ、いいからいいから」



 カミラは、照れくさそうに顔を真っ赤にするリディを、それとなく観察した。



(瞳の色に合わせた栗色のセミロングはウイッグね。そしてこれはアレよ、成長しても可愛いままのショタね。メイド服を着せているとはある意味趣味がいいわ)



 無論、人として失格モノの行為だが。

 その事実に、カミラはほくそ笑んだ。



「大変ね、貴男も。その格好はアイリーンの趣味でしょう?」



「うえっ!? な、何故お分かりに!?」



「それは愚問というヤツですよリディさん、カミラ様で無くとも安易にわかります。――――だって、アーネスト様とイヴリン様に、そんな趣味は無いでしょう?」



 テーブルに紅茶の用意をしながら、アメリが答えた。

 そしてその言葉を、カミラが引き継ぐ。



「エドガー義兄様も、そんな趣味は見受けられないわ。ユリウスだって趣味ではなかったし。なら、残るは一人ではなくて?」



「はい、その通りです!」



 言い当てたカミラとアメリに、はわー、とキラキラした目を送るリディ。

 その姿はメイド姿を差し引いても、少女の“それ”だ。

 だが――――。



(成る程、そういう事ね)



 カミラは相談について、幾つかの“あたり”を付けた。



「リディ、貴男。その格好はお嫌? いいえ違うわね。貴男からは女として振る舞う“ぎこちなさ”はあっても、嫌悪感は見られない」



 そして。



(本当に、苦労なさっているのね義母様…………)



 カミラは心の中で嘆息した。

 このリディもまた、“愛深い”者だ。

 同類だからこそ解る、アーネストが許容しているのもその所為だろう。

 エインズワーズの血が、“愛深い”者を呼び寄せるのは本当らしい。



「ええ、お話なさいリディ。貴男の敬愛するご主人様の事でしょう?」



「そこまで解るんですか!?」



「…………そういう事ですか。類は友を呼んでしまったんですね」



 遠い目をして嘆いたアメリは放っておいて、カミラはリディの言葉を待つ。

 視線で促されたリディは、ポツポツと語り始めた。



「その…………。ボ、ワタシは…………」



「落ち着いて話しなさいな、私はきちんと聞いてあげるから」



「はい! ええと、カミラ様のお考えの通り、ワタシは今の姿に不満を持っているわけではないのです」



「――――貴男は、ユリウスと、ユリシーヌと面識があったのかしら?」



「あのお方が“ユリシーヌ”と呼ばれていた頃に数度。このお屋敷に住んでいた頃は、まだワタシはまだ、ご奉公に上がっていなかったので」



 少し、寂しそうに言われた言葉に、カミラは然もあらん、と得心がいった。



「“永遠”だと。“揺るぎない”と思っていたのね」



 リディは唇を一度噛んで、絞り出す様に吐き出した。



「多分、そのつもりは無かったのでしょうが、きっと――――」



「“代わり”だと、思ってしまったのね」



 頷いたリディを前に、カミラは紅茶を啜る。

 そして、カップをコトリと置くと、彼に語るべき言葉を探す。



(小さくともアイリーンは“女”だわ。エドガーは気づかずとも、ユリシーヌが“男”である事を察していたのだわ)



 そして、アイリーンはブラコンだ。

 ユリウスが学院に通い、その喪った“兄弟愛”の行き場を、リディに求めたのであろう。



 ユリシーヌという令嬢が、実は“男”であったなど。

 リディに知らされる筈も無いし、第一、女装であった事実は、魔族による“呪い”であったと、カミラが仕立て上げた。



(だけど、そんな“些細”な事、私“達”の前では理由にならないわ)



 その視線、興味の矛先が移ってしまった事が、一大事だ。



(ユリウスがアイリーンの兄とはいえ、実は異性だった事も関係しているのでしょうね)



 ――――似ている。

 カミラは、リディに哀れみと同情を覚え、そして今の自身と重ねた。



「はっきりしましょう? リディ、貴男はアイリーンに、そして私に。“何”を求めるの?」



 その言葉で、カミラはリディの選択肢を狭める。

 相談の答えという曖昧な事柄から、カミラがアイリーンに対して。

 何かアクションを起こす、という方向性へ言葉巧みに誘導したのだ。



 リディはカミラの思惑通りに考え込み、やがて、ぽつりと漏らした。



「――――望んで、いいのでしょうか」



「勿論よ、リディ。ねぇ、私達には“愛”が足りないと思わない?」



「愛が…………」



「何時いかなる時でも、私達を優先せずにいられない、そんな“愛”が、足りないと思わない?」



「カミラ様…………! ボクは、ボクは!」



 感極まった様に、言葉を熱くし始めるリディと。

 宛然と微笑むカミラの姿に、アメリは不安を覚えた。



(まだ足りないんですかカミラ様!? あれだけ愛されて、普段一緒にいて、まだ足りないのですか!?)



 絶対この後、禄でもない事が起きると確信しながら、さりとてアメリはカミラの忠実なる従者。

 ユリウスへの新たなる試練に、そっと黙祷を捧げる、南無。



 そんなアメリの想いは余所に、カミラはリディの心の奥底を知るため、一手仕掛ける。



「ここには私達だけ。――――リディ、教えて? 貴男の想いを、アイリーンへの“愛”を」



 それ即ち、アイリーンの性癖とほぼ同義。

 情報イズ、ジャスティスである。



「ボクは、ボクはもっと、アイリーン様に見て欲しいです!」



「男の姿? それとも?」



「はい! 今の“女の子”の姿で!」



 あちゃー、とアメリが無言で嘆く。

 若い身空で、性癖を拗らせてしまっている。



「アイリーンは、貴男の事を何と言ってくれるの?」



「“女の子”の姿なんてして恥ずかしくないの、って言って、踏んでくれます!」



 その言葉に、アメリは思わずリディを二度見して、微笑むカミラの姿に期待の目を向けた。

 若き美少年の性癖を正すのなら今しかない、さあカミラ様、言ってやってください、と期待を込めて。

 アメリの視線を感じ取ったカミラは、確かに頷き一言。




「――――成る程、いい趣味ね」




(違いますよカミラ様っ!? そこは年長者として止める所ですよ!? 何、良い仕事したって顔してるんですかあああああああああ!?)



 まともなのは、わたしだけ!? と叫びたい衝動を押さえ、そして飛び込んでくるリディの次の言葉。

 



「はい! はい! はい! ボクはもっと、アイリーン様の着せかえ人形になって、人間椅子とかになって蔑まれたい!」




「アブノーマル極まりないじゃないですかあああああああああああああああああああ!?」



 そしてとうとう、アメリは叫んだ。

 だがカミラとリディは、首を傾げてアメリを見る。



「いきなり大声を出して、はしたないわよアメリ」



「アブノーマルじゃありませんよアメリ様! ボクはその後、逆襲して壁ドンして、アイリーン様がボクの事を“男”だと認識して、ちょっと怯えながら頬を赤らめさせる所までしています!」



「ギャップの倒錯まで網羅している!? カミラ様、リディさんは手遅れ――――」



 と言い掛けてアメリは、はたと気が付く。

 そもカミラという人物の恋愛模様、直視してしまった性癖その他は、アブノーマルと言えなかっただろうか?



(そうだった。好きな人に脅迫している時点で、カミラ様も…………)



 ぐぅ、と黙り込んだアメリに、カミラは上から目線で語る。



「貴女も、愛する人が出来ると解るわ。その人の喜ぶ姿は勿論、怒る姿、悲しむ姿は此方としても悲しいけど、それはそれとして、また一興だと」



「ですよ、アメリ様!」



「歪んでますよお二方!? そこは、悲しみを抱かせない、とか言うべきでは?」



 普通ならまっとうな意見。

 だがここに居るのは、――――“愛深い”変態共だ。



「うふふ、まだまだアメリはお子さまね。リディを見習いなさい」



「ええと、その。アメリ様も恋をすれば解りますよ」



「それは恋というより、支配からの愉悦じゃないですか!?」



「支配?」



「たとえそうでも、愛故に、ですよアメリ様。問題など、何処にあるのでしょうか」



 キラキラとした目で語るリディに、味方がいないと叫ぶアメリ。

 狂乱としてきた場だが、カミラは“支配”という言葉に、目から鱗が落ちていた。



(支配。支配…………、そう、支配)



 何故、こんな簡単な事に気づかなかったのだろうか。

 恋敵や障害を排除するのではない。



(――――そうよ、支配してしまえばいい)



 ユリウスへの“愛”でもって。

 あの忌まわしき“世界樹”も、邪魔な“魔族”も。



(ええ、愛が足りない、足りなかったのだわ)



 心おきなく愛して、愛故に、愛される為に、この世の全てを支配してしまえばいい。



(そうと決まれば――――)



 カミラは少し温くなった紅茶を飲み干すと、スクッと立ち上がる。



「――――アメリ、お風呂の用意をしなさい」



「え、あ、はい。でも今はアイリーン様が入っておられるのでは?」



 頷くリディと、うろん気な視線を向けるアメリに、カミラは胸を張って言った。



「少し、アイリーンと話す用事が出来たわ。理解を深める為、裸のお付き合いと行きましょう」



 ――――敵は、風呂場にあり。


 

 そう言い切ったカミラを、リディのみが拍手でもって称えた。



次回は明後日です。


※追記。

カミラ様を、ツギクルのAI分析にかけてみました。

気になる方は2017年 10月12日の活動報告をどうぞ。

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