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104話 カミラ様! 転生チートとか大人げないですよ!



(嗚呼、嗚呼…………そう。この子もまた)



 顔を真っ赤にして仁王立ちするアイリーンの姿に、カミラは看破した。

 確認のためアーネストに視線を送ると、こくりと頷く。



(アイリーン・エインズワース。“ブラコン”いえこの場合は“シスコン”なのかしら?)



 兎に角。

 カミラは胸を張って、大人の体を見せつけるように、さりげなく腕を組んで軽く胸を揺らしながら、アイリーンに宣言した。

 カミラ様は大人げない。



「――――受けましょう、その挑戦っ! この私、カミラ・セレンディアは逃げも隠れもしないわっ!」



「じょ、上等じゃないっ! 吠え面かかせてやるわ…………くっ、まだ成長するんだから」



「いや、何でそうなるんだ二人ともッ!? 父さんもそうだけど、何でそんなに喧嘩腰なんだよッ!?」 



 バチバチと火花を散らす二人に、頭を抱えるユリウス。

 そして静かに見守るアーネスト。

 一方でイヴリンは既視感を覚えていた。



「真逆、歴史は繰り返すと言うの…………!?」



 そう、あれは泣きながら鼻水出して土下座でアーネストから結婚して欲しいと。

 足に縋りつかれて、愛半分憐憫半分で結婚を承諾した若き日のその次の日。



(この館に連れてこられ、義姉様に勝負を挑まれましたわ。確かその時、義母様は――――)



 イヴリンは対処法を思いだし、ぐっと拳を握る。

 きっと、義母様も同じ様な苦労をしたのだろう。

 今だからこそ解る、エインズワースの血族は家族愛が深く、そしてそれ以上に伴侶からの深い“愛”を受けているのだ。



「カミラさん、アイリーン。二人の気持ちはよく解りました」



「母さん!?」「ほう」



 地味に役に立たない男性陣を放っておいて、イヴリンは提案する。

 これはきっと、エインズワース家がそうと気づかず継承する風習。



「なので、――――晩ご飯を作りましょう、一緒に」



「料理勝負って事ね、負けないわよ泥棒猫!」



「ふふっ、これでも腕に自信があるの。――――せいぜい後悔する事ね」



 不敵なポーズを崩さずに、カミラは内心動揺していた。

 何故なら、シーダ達の未来予想には無かったイベントだからだ。



(この私“達”が予想出来なかった? こんな重要なイベント、対策しておかない理由なんて無いし――――)



 ならばこれは、前カミラ達未踏の領域。

 確実に幸せに近づいている“吉兆”。



(うふふふっ、ユリウスの好みを知り尽くしている私が負ける筈なんてないわ)



 しかし、この不安はなんなのだろうか?

 何かを見落としている様な――――。



「――――という事で、カミラさんにはカレーを作って貰いますわ。アイリーンはデザートで。よろしいかしら?」



「ええ、勿論よ」



「わかったわお母様」



 そして、アメリを含めた女性陣は厨房に向かい。

 メイド美少年を含めた男性陣二人は、頃合いまでこの場で雑談である。





 案内された厨房は、意外と小さかった。

 とは言え、あくまで前世に起因する貴族認識では、というだけで。

 今の時代、貴族の女性教育には料理が必須項目。

 屋敷内に一般庶民家庭と同サイズのキッチンを完備している貴族も多く。

 エインズワース家もまた、例外では無かっただけである。



「それで義母様。材料に何か制限はありますか?」



「この屋敷にあるものは何でも使っていいわ。間に合うのなら買い出しに行ってもいいわよ」



「ま、自慢じゃないけど、町にはちょっと離れてるの! 買いに行って間に合うと思わない方が賢明よ義姉様!」



 こんな事もあろうかと、でアメリの差し出した若奥様風フリフリピンクエプロンを気ながら、同じく準備をするアイリーンを微笑ましい目で見た。

 きっと、根はいい子なのだろう。



「あらあら、ふふっ。ありがとう」



「れ、礼を言われる事じゃないわ! わたしはただ、不戦敗がイヤだっただけだもん」



「そうね、そういう事にしておくわ」



 頬を朱に染めてそっぽを向くアイリーンに微笑みながら、カミラはさて、と思考した。



(これはアイリーンとの勝負もあるけれど、義母様からの“試練”も兼ねている筈)



 なお、深読みのし過ぎである。

 手早くサラダを作り始めるイヴリンと、材料を揃えるのに苦戦しているアイリーンを横目に、カミラは頭の中で算段を着けた。



(ならばここは、魔法を使ってでも全力で勝負に行くわ――――)



 幸いにしてと言うべきか、当然の事ながらユリウスの好みは百%把握している。



「ジャガイモと人参と玉葱は使わせて貰うとして――――アメリ」



「はいカミラ様! 以前散々味見させられた“あの”カレーを作るのですねっ! 大丈夫ですお肉と“ルゥ”は何時でも転送出来ますよっ!」



 実の所、文化の失伝は著しい。

 また“世界樹”の文化コントロールで、存在できなくなった食文化も数多く。

 しかしカミラならば、前世の記憶を持ち、“世界樹”の支配から逃れているカミラだからこそ、用意出来るモノがある。



「やって頂戴アメリ、とろけるタイプのチーズも忘れずにね」



「お任せあれ」



 イヴリンとアイリーンの注目を浴びながら、アメリは分厚い肉――――角煮用豚バラブロックとカレールゥを、セレンディアの実家の倉庫から転送した。



「…………正気? そんな分厚いお肉、火を通すのにどれだけ時間がかかると思っているのよ」



「まぁ見ていなさい。最新の料理魔法というものをお見せするわ」



 訝しげな目をするアイリーンを軽く受け流し、カミラは人参、ジャガ芋の皮を手早く向き、大きくカットして鍋に放り込む。

 同時に、玉葱を飴色に炒めるのも忘れない。



「凄いわカミラさん。魔法を使っているとはいえ、何という手際の良さ…………」



 見る見る内に下拵えを終えたカミラの姿を、イヴリンは戦慄と畏怖をもって誉め称えた。

 職業料理人は魔法を使うのが当たり前、それにより調理時間を短縮したり、極めて細かな味の調整を可能としている。

 だが、――――それにも限度がある。



「くっ! 玉葱を切る手際も並じゃなかったけど、その魔法は何!? 反則よ反則!」



「言ったでしょう、――――最新の料理魔法をお見せする、と」



 それは、正しく料理の、ユリウスへ作るカレーに入れる玉葱を炒めるだけに作り出された魔法だった。



「流石、王国一の魔法使いですよねカミラ様。こがさない、旨味を逃さないのは当たり前。それでいて、一分もかからずに玉葱が飴色になるのですから」



 どこか疲れた様なアメリの発言に、カミラは解せぬ、と思いながら魔法を展開し続ける。



「この魔法わね。玉葱の品質を分析して、焦げない様に細胞の一つ一つまで防護を張り、それでいて高火力の熱で適切な時間で火を通す。――――細かい事は抜きにして、そういう魔法よ」



「恐ろしい事に、これ一から自分で作っているんですよねカミラ様…………」



「そんな! 普通、完成させるのに数年かかる魔法を、ただ玉葱を炒める為だけに創り出したと言うの!?」



「なお作成時間は、多分、数秒ですねぇ…………。カミラ様の魔法の技術については、考えるだけ無駄ですんで、素直に賞賛だけする事をおすすめします」



「…………アメリさんと言ったかしら? ご苦労なさっているのね」



「同情するわ、規格外な主にいつも振り回されているのね…………」



「玉葱が仕上がったわ――――って、何かディスられてる私!? というか貴女は味方でいなさいよアメリ!」



 味方は何処!? 助けてユリウス! と叫びながら、しかしてカミラは手を止めず、今度は豚肉に手を付ける。



「いいわ、見ていなさい――――っ!」



 大人げなく魔王の魔力を体に注ぎ込み、一瞬の包丁捌きで角煮用豚肉バラブロックがちょっと大きめに切り分けられる。

 そしてそのまま、フライパンに投入。

 直後、じゅわぁという音と共に、表面が焼かれる香ばしい匂いが厨房へ漂い始めた。



「うーん。いい匂いですねぇ……。これだけでもご飯がおかわり出来そうです」



「ねぇねぇアメリさん。今のお肉は何処産かしら? とってもいいお肉に見えたけれど」



「お目が高いですね奥方様。あれはセレンディア領地産の最高級黒毛豚――――通称カミラ豚なんですよ」



「まぁ! これがあの噂のカミラ豚!」



 ドヤ顔のアメリと目を輝かせるイヴリンに、カミラは思わず叫んだ。



「ちょっと待ってっ!? 何で私の名前付いてるのよ!? 確かに品種改良して、育成の指導をしたのも私だけども!?」



「え、豚に伯爵令嬢の名前付けているの? どういう神経してるのよ」



「そうよね、それが正しい感覚で義姉さん嬉しいわアイリーン!」



 誰が義姉さんよっ! というアイリーンの叫びはさておき、アメリは澄ました顔で答える。



「いえカミラ様。セレンディア畜産農家協会から、申請書類出てましたよね? 判子押していたじゃありませんか――――ああ、そういえば書類を届ける直前。クラウス叔父様が代わりに許可を出してましたっけ。これでカミラ様の功績がまた一つ後生に残るとか何とか」



「お父様!? 気持ちは嬉しいけれど、年頃の娘にする事じゃありませんわよ!?」



「噂に違わぬ愉快な気風なのね、セレンディア家って」



「アイリーン。残念な事に、愉快さではウチも大差ないわ…………」



 母娘が遠い目をする中、カミラの下準備は完了する。

 当然、玉葱と同じように無駄に高性能なオリジナル魔法を使用した結果の早さである。



「では行きますわこれが――――」



 カミラは下拵えした食材を全て寸胴鍋にぶち込み、カレー調理における最終魔法を発動する。





「必殺――――――――『圧力』調理」




 そう、“圧力”である。

 テクノロジー制限があるこの時代、電気圧力釜は言うに及ばす。

 火力を使う圧力釜でさえ、まともに作られていない。

 なので当然、煮込み料理をするには時間をかけて煮込むしかない。

 だが――――ここに、またも一つの例外がある。



 カミラ・セレンディア。

 彼女の中の人が日本人故に、そしてユリウスへの愛故に。

 歴史上最も高性能な圧力調理が、今ここに顕現した。



 食材一つ一つの分析による、適切な圧力のかけ方を。

 食材一つ一つへ、別個の圧力を。

 電気や火力を使うより効率的な圧力を。

 爆発の危険性すら論外、絶対安全すら可能としている。



「ふふっ。自分で言うのも何だけど、これはとても高度な魔法。そして私自身の高い魔力が加われば――――ほら、出来た」



「ええっ!? まだ煮込み初めてから数分も経ってないのに!?」



 カミラが蓋を開けるのにあわせ、慌てて鍋をのぞき込んだアイリーンが見たものは。



「…………凄い。お肉以外の具材が全て溶けて無くなっている。お肉だって、食べやすい大きさになっているわ!」



「一家に一台、カミラさんが欲しいわね…………」



「カミラ様って、本当に無駄に万能で高性能ですよね」



「だからそれ誉めてるのアメリっ!? そして義母様! 私は調理器具じゃないですわっ!?」



 アメリからカレールゥを受け取りつつ、アメリは唾が飛ばないようにツッコミを入れる。



「くそう。ここまで来たら、もう驚かないわよ…………次はどんなスパイスを使うのか見せて貰おうじゃない!」



 器用にもプリンを作りながら、アイリーンは睨みながら言った。

 なおプリンにも、先達の手で専用の調理魔法が確立されている。

 とはいえ普通は制御に苦労するモノなので、他に意識を割ける余裕のあるアイリーンは優秀である、とカミラはその実力を認めた。



「見なさいアイリーン。これが、技術の粋というモノよ」



 カミラは鍋に、特性カレールゥを投入。

 そしてぐるぐると、鍋をおたまでかき混ぜ始めた。



「ねぇアメリさん。あの“るぅ”? というモノは?」



「あれはですね、通常は何種類の香辛料とか使うじゃないですか」



「ええそうね、それが手間で普段はシェフ任せなんだけど」



「ですがあの“ルゥ”は、カレーに必要な香辛料を全て入れて固形化させた画期的な発明なんですよ! なんと入れで混ぜるだけ! セレンディア領内でも貴重品なんですよぉ! しかもしかも今回は、――――ユリウス様の好みに合わせたカミラ様特性の“ルゥ”」



「…………その力の入れ具合。アーネストにそっくりねぇ」



「あ、やっぱり。さぞや苦労されているんですね奥方様…………!」



「ええ、判りますか! アメリさん!」



「知りたくなかったわ、そんな事実」



 アイリーンはお付きの従者、もといメイド美少年がこの場にいない事を恨みながら、漂うカレーの匂いに喉を鳴らす。

 カミラはそれを横目で見ながら、仕上げに生クリームと醤油とバターを少量ずつ投下。

 それらもすぐに溶け――――。



「よし、完成ね。…………味見してみますかアイリーン?」



「ええ、貴女がどうしてもって言うならねっ!」



「勿論、どうしても、よ」



 くすくす笑いながら、カミラはスプーンにカレーを乗せ、アイリーンの口元に運ぶ。



「はい、あーん」



「自分で食べれるわよ…………あーん――っ!?」



 カミラの差し出すカレーを口にした瞬間、アイリーンは敗北を悟った。

 そして、それ以上に舌が、口内が“幸せ”な事に気づいた。




「美味、しい――――――――はぅあっ!? 嘘嘘! ま、まあまあね! 及第点をあげるわ!」




「光栄ね、アイリーン」



 義妹の恍惚とした表情に、カミラは満足気に笑った。

 後は、予め用意してあるご飯の上に、とろけるシュレッダーチーズを振りかけて、カレールゥと共に食卓へ運ぶだけだ。



(楽しい食事になりそうね)



 カミラの予想は当たっていた――――ただし、半分だけだった。



只今自転車操業中により。ちょい遅れましたスミマセン。

次回の更新は9/27(水曜)20:00頃が目安です。

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