100話 カミラ×ユリウス-アメリ-ガルド=?
祝100話到達!
「ねぇ、カミラ様ぁ…………。もうそろそろ寝ましょうよ。次の日の二時になっちゃてますよ、二時にぃ~~!」
「後少しだけ、後少しだけでいいから付き合ってアメリ、後生だから――――あ、やっぱりこっちのドレスの方がいいかしら?」
カミラは、髪色に合わせた水色のドレスと、お気に入りの赤色のドレスをそれぞれ手に持ち、半ば独り言の様に問いかけた。
明日――――既に今日であるが、ユリウスの実家に挨拶に行く日である。
婚約の挨拶に行くのだ、ドレスチョイスは万全を期さないといけない。
「もー。そんなに迷うんだったら、朝起きてからユリウス様に選んでもらえばいいじゃないですかぁ…………」
「それよ! 名案だわ流石アメリ! 今すぐ――――」
「――――朝って言いましたよねこの色ボケ様!」
アメリとしても、カミラの気持ちは痛いほど解る。
解るが、既に寝ても差し障りの出る時間だ。
ぶっちゃけ超眠い。
「うぎゃっ! わかった、わかったから離しなさいなアメリ…………」
扉へ向かうカミラの首根っこを掴むと、アメリはドスの効いた声で囁いた。
夜中なので叫ばない、従者としての心遣いである。
「いや、マジで怒りますよカミラ様。わたしの安眠を妨害しようなど、万死に値しますよ?」
「あれっ!? 私への忠誠とか愛とか何処へ行ったの!?」
「残念ながらそれらは、明日の起床時間まで寝てますよ…………」
「寝てるの!? 本体を差し置いて寝てるの!?」
深夜のテンション疲れと、眠気で動きの鈍いカミラを、アメリは手早くベッドに戻す。
元より、寝間着なのが幸いである。
「はいはい、わたしの敬意が眠らない内に寝ましょうねカミラ様」
「…………しょうがないわね」
もっと渋るかと思われたが、案外あっさりと羽毛布団を被ったカミラに、アメリは安堵した。
これで漸く、眠れるというものである。
「では灯りを――――ぽちっとな。おやすみなさいカミラ様」
「ええ、良い夢を。おやすみなさいアメリ」
明かりが消えた暗闇の室内でも、馴れたもの。
アメリは迷うこと、躓く事なく自分のベッドに入り――――。
『こちらシーダ704。繰り返すわ、こちらシーダ704。貴女に伝える事があります』
「カミラ様! ふざけてないで寝てくださいよっ!」
「ち、違うわよアメリっ!? これ私じゃな――――って私!?」
「ほらやっぱり…………って、ええっ!? 何ですコレ!?」
前触れもなく室内中央に映し出された立体映像に、寝付き始めの主従はそろって飛び起きた。
いったい何が起こっているのだろうか。
「え、これ私? それにしては――――」
「――――ガルド様が見せたあの映像に似てますね」
何か違う点を上げるとすれば、アメリの枕元にある“銀の懐中時計”から投影されている事。
そして。
「…………未来の、私? いえ、でもシーダ704?」
「確かに成長したカミラ様っぽいですが、…………何か太っていません?」
薄暗い映像と、シーダ704と名乗る女性の格好が黒一色なので判りにくいが、確かに腹部が膨らんでいる。
『あら、この映像では分かり難いかしら? 太ったんじゃなくて――――妊娠、してるのよ』
幸せそうに、しかし何処か陰のある切なそうな笑顔に、カミラは素直に喜べなかった。
いったい、何がどうなっているのであろうか。
『これは直接通信だけど“世界分岐”が急速に観測されてる中では、そう長くは続かないわ』
「――――なるほど、手短にいきましょう」
シーダ704の言葉を、カミラは理解した。
目の前に写るカミラは、これから先の“辿り着いて”はいけない未来の姿だ。
細かい理屈はさておき、過去と未来の分岐が著しいパラレルワールドでは、通信が制限される。
或いは、出来なくなるという事だろう。
『ええそうよ私、概ねその理解で正しいわ』
「え? え? 置いてきぼりですかわたし!?」
『――――なるほど、やはり“それ”が原因なのね』
話が飲み込めず不満そうなアメリの姿に、シーダ704は懐かし気な視線を向けた。
正直、その様子には不安しか感じない。
カミラは苛立ちを隠さずに、必要な事を問う。
「何に納得したか、理解したくないけど。――――何故シーダと名乗っているの? 未来の私は改名でもした?」
『これは私“達”の敗北の証よ。“夏への扉”にたどり着けなかった者が、過去に向けて名乗る名前』
「“夏の扉”? まぁいいわ、故に――――シーダ。意味はカミラダッシュ。704という番号は、前任が703人目だったからね」
『ええ、私相手だと理解が早くていいわ』
カミラは唇を噛んだ。
それはつまり、703回もカミラは“何か”しらの失敗で、“幸せ”を掴んでいないという事だ。
「それで、回避すべき“失敗”は?」
シーダ704はムクれるアメリを一別すると、悲哀を携えた瞳で言った。
『――――私は“ピート”を喪ってしまった』
「“ピート”を?」
「ピートって人、カミラ様の周りにいましたっけ?」
首を傾げるアメリに、カミラは戦慄した。
“ピート”とは“夏の扉”に出てくる主人公の愛すべき相棒。
カミラの関係に重ねると即ち――――アメリ。
「――――何があったの? 私」
『それを答える前に――――私は“何時”“時計”』
を手に入れたのかしら?』
「ディジーグリーがアメリを乗っ取り、襲撃して来た時よ」
その言葉を効いたシーダ704は、目を見開いて硬直し、何かをぶつぶつ呟く。
『おかしいわ。思ったより早く“ズレ”ている……、いえ、そもそもこちらでは。送り込んだ時間の影響? ――――これは真逆、イケるのかしら?』
「それで、答えを教えてくださらない? 私」
『いえ。恐らくだけど――――そちらの“ピート”は守られたわ。多分だけど“人魔大戦”も起きないでしょうね』
「え、シーダ様何て言いました? 何か凄い不吉なワードがあった気がするんですけど!?」
「いや、本当に何があったのよ私!?」
カミラとアメリの叫びに、シーダ704は羨ましそうに目を細めた後、それらを無視して続ける。
『そうそうシーダ481が仕込んだ先代魔王型世界樹制御端末はちゃんと起きた? 私の時は魔王になったときの暴走影響で消滅しちゃって、どんな影響を及ぼすか解らなかったんだけど』
「ガルドの事? え、そっちはガルド居ないの? というか、私の仕込みな訳!?」
さらっと明かされた事実に、カミラとて驚きを隠せない。
だがシーダ704は涙を浮かべて、更に続けた。
『嗚呼、嗚呼…………。“夏への扉”は近いのね…………ええ、これなら条件は後“一つ”よ』
「一つ? 無理難題じゃないでしょうね私」
『残念ながら、無理難題よ私。――――“愛”が足りないわ、足りなかったのよ私』
妊娠し、大きくなった腹部を愛おしそうに撫でながらシーダ704は言った。
『心しなさい私。ある意味最大の敵は――――“ユリウス”よっ!』
「意味が解らないわ私っ!?」
『周囲の人々を大事にして、そしてもっとユリウスを愛して、愛されなさい。それが“私達”704人の結論よ――――頑張ってね』
そう言った直後、映像にザザザっとノイズが走り、映像が乱れ始める。
『ああ、もう時間のようね。では私、貴女が新たな“シーダ”と成らない事を、近くて遠い世界から祈っているわ』
「ちょっと待ってっ!? まだ聞きたいことが――――」
思わずカミラが手を伸ばした瞬間、映像の中からシーダ704以外の声が聞こえた。
『ママーー! たいせつなおはなし、おわった?』
『こら■■■■■! ちゃんとノックして入りなさいッ!』
『はーい、ごめんなさいパパ、ママ』
『うむ、よろしい。――――さて、そろそろ夕食だぞカミラ』
『はい、アナタ。今行くわ――――ではね、過去の私』
そしてブツンと映像が消え、後には元の暗闇が。
「えええええええっ! み、見ましたかカミラ様!? 未来のカミラ様は既に一人の子持ちで、更に妊娠!? 二児の親!?」
「ゆ、ユリウス様の声だったわよね、ね、ね、ね!?」
「はい、顔までは見えませんでしたけど、はっきりと! あれはユリウス様の声でしたよっ!」
平行未来世界の自分の状況に、興奮覚めやらぬ二人。
だが、それ故に疑問が残る。
「結婚して子供までいるのに、まだ“愛”が足りないってどういう事よおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!?」
この後、何度も試したが銀時計がシーダ704と繋がる事無く。
結局カミラとアメリは、朝食の席に降りてこない事を不振に思ったユリウスが部屋にくるまで、寝坊していたのだった。
いやー、とうとう100話の大台に乗りましたね!
何だか感慨深いです……。
全体から見れば、残りは後三分の一。
宜しければ、引き続きお楽しみくださいませ!
今回はインターミッション扱いなんで、次から本格的に次章「ユリウス実家訪問編」開始です。
なお、9/19(火)20:00の予定です。
……祝ってくれていいんだぜ?