01話 死亡フラグが折れたのを確認しました
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今日でカミラ・セレンディアは十六歳になった。
「やはり、仮説は正しかったわけだわ」
己の誕生パーティをそっと抜け出して、カミラは一人満足げに頷く。
貴族としては標準的な整った庭園の奥、アルコールで火照った体に夜風が気持ちいい。
――カミラは転生者である。
所謂、現代日本の乙女ゲーオタクとして、灰色の青春を送ってきた人種だった。
ある連休に、お気に入りの乙女ゲー「聖女の為に鐘は鳴る」を連日徹夜でプレイしたあげく、ジュースを買いに外へでたら、トラックにドカン。
気がつくと、赤子まで戻っていた有様。
記憶が戻った当初は、この水色の髪に違和感を覚えてしょうがなかった位である。
(思えばここまで長かったわ……)
体感時間で千年はかかった、とカミラは豪語した。
まぁ、それほど待ち遠しかったのだ、この時が。
(転生に気がついた時は、それは喜んだものだわ。だけど――カミラ・セレンディアなんて)
原作のカミラの役所は、魔王覚醒の前兆に巻き込まれ、犠牲者となった。の一文しか書かれないモブ中のモブ、キングオブモブである。
名前だって、設定資料集の片隅にひっそりと乗っていただけで、本編にはモブの立ち絵すら使用されなかった有様だ。
故に、カミラはこの世界を謳歌したいのをぐっと我慢して、死亡フラグの元凶である魔王を倒し、念には念を入れその力まで奪い。
タイムリミットである、この十六歳の誕生日まで自重していたのである。
「――今の私ならっ! 専用の立ち絵やイベント、スチルなんかも用意される筈だわ!」
ぐぐっと一人握り拳をつくり盛り上がるカミラの後ろから、一人の少女が呼びかける。
「……『いべんと』『すちる』とは? また新しい商品ですかカミラ様」
「ただの戯言よアメリ」
カミラに声をかけたメイド服の少女。
白いエプロンを押し上げる球体に、また育ったのでは? と益体の無いことを考えながら。
メイド少女、アメリにここに来た理由を問う。
「……それにしてもどうしたの、まだパーティは終わってない筈では?」
「もう夜も遅いですし、パーティの主役がこんな所にいるんですもの、お開きムードですよカミラ様」
「なら、いいわね別に」
「はい、カミラ様のお気に召すままに……」
カミラは改めて、自らに付き従う同い年の栗毛の少女、アメリ・アキシアを見た。
彼女も貴族令嬢であるが、今は伯爵家令嬢であるカミラのメイドとして行儀見習いである。
本来なら主人公の友人役である彼女は、ゲーム開始前にやらかしたアレコレで、今ではすっかりカミラの取り巻きにして、忠実なる配下。
「わたしに何かついておりますかカミラ様」
「ええ、アメリ。おめかしして綺麗になった顔が付いてますわ。例えメイド服でも、貴女は綺麗ね……」
「ふふ、ご冗談を。綺麗という言葉はカミラ様にこそ相応しい。わたし等とてもとても」
満更でもなさそうな顔で言うアメリに、カミラは語りかける。
なお、カミラが美しいのは現代知識によるチート染みた努力と魔王の美容力の結果なので、カミラ的当たり前である。
「思えば、色んな事があったわね」
「どの事でしょうか? その類い希なる魔法の力で、山賊を山ごと吹き飛ばした事でしょうか?」
「…………あれは、少し手加減が狂っただけよ」
「手加減してアレですか……、史上最年少で宮廷筆頭魔法使いに叙されただけの事はありますね」
「(魔王の力があるから、あれ位当然……じゃなくて)もっと他にあったでしょうアメリ」
ため息と共にカミラは促すと、アメリは掌をポンと合わせる。
「ああ、カミラ様が考え出した肥料や農具で、農作物の生産高が一気に数倍に上がった事ですか?」
中世ヨーロッパ風のファンタジー、ご飯の質はそんなに悪くなかったけれど。
どうせなら美味しい和食を、とちょっぴり? 頑張った結果である。
それは兎も角。
「……違うわよ」
「それでは、齢三つにして王国全土に眠っていた伝説の武具等を発見し献上、それによりセレンディア家の爵位が上がった事ですね!」
「そうじゃないってば!」
カミラとしては、魔王の関係で必要だっただけである。
そんなモノは、思い出でもなんでもない。
「むむむ、難しい事をおっしゃいますねカミラ様、この他となると…………、カミラ様考案の美容グッズが領地だけでなく王都の民にまで馬鹿売れし、今全庶民の間でカミラ様に踏まれ隊が流行語となってる事でしょうか?」
「え、何それ!? そんなの私聞いてない!?」
いや、マジで聞いてない。
「あれ? 言ってませんでした?」
「聞いてないわよ馬鹿!」
「まあまあ、聞いていた所でカミラ様がどうと出来る事でもありませんし……」
「そうだけど……」
うぐぐ、と頭を抱えて唸りだしたカミラの姿に動じず、アメリは続ける。
「それで、結局何が言いたかったんですかカミラ様。貴女様のお側に居て早十年以上。今更改めて思いで話をする仲でも無いでしょうに」
「あー、もう。それが解ってるなら、とっととそう言えばいいですのに……」
「申し訳ありません、いと美しきカミラ様の功績を一日一回褒め称えないと、夜眠れなくなるもので」
「ありがとう! 嬉しいけど自分一人でやりなさいよ!」
「お褒めに与り恐悦至極」
「褒めてるけど褒めてない!」
「まぁまぁ、それで。今度は何を始める気ですかカミラ様。逐一、王族との折衝役をするのは骨が折れるのですが」
「……アメリは私の事を何だと思っているのよ」
「災厄と幸福の女神?」
「せめてもう少しスケールを落としてくれる!?」
腹心の部下の歯に衣着せぬ物言いに疲れながら、カミラは本題を切り出した。
この為に生きて、今のこの立場を作ったのである。
是が非でも協力してもらいたい。
「実はね、私。…………『恋』をしているの」
「あー、何か耳が壊れてしまった様でカミラ様、もう一度お願いします」
「『恋』を! してるのよ……!」
目をキラキラと輝かせ、文字通り恋する乙女の様に頬を紅潮させるカミラの姿に、アメリはこっそりと胃を押さえる。
彼女のこれまで経験から、最大級の警報が頭の中で鳴り響いていた。
(そ、そんな馬鹿な……! 今までに幾度と無く縁談を断り、王子との縁談すらも蹴った、あの、百合趣味とも噂されるカミラ様が、恋!?)
新たな特大な厄介事の気配に、アメリは恐る恐るカミラへ問いかける。
「か、カミラ様? そ、そのぉ……、お相手の方は……?」
「私の最愛の親友、――ユリシーヌ様……きゃ、言っちゃったっ!」
体をくねらすカミラに、アメリは栗毛の髪をぶんぶん振りながら絶叫。
「ほらやっぱりーー! ユリシーヌ様は女じゃないですか! カミラ様のヴァカーーッ!!」
「やっぱりって何よ! アメリ貴女私をどういう目で見てたの!?」
乙女ゲー「聖女の為に鐘は鳴る」をクリアしたのなら、白銀令嬢ユリシーヌが実は公爵家の三男だと言う事を知っていただろうが。
転生者でもない只人であるアメリに知る由もなく。
――結果、盛大なる勘違いを起こした。
「誰かーー!! 誰かぁーーーー! 遂にカミラ様がご乱心なさったわ! 早く、誰か早く医者をッ! 医者を――――ッ!」
「あ、アメリ!? わたしは正気よ? どうしたの!? アメリ! 待って! 待って! 何処に行くの!? アメリ! アメリ――――!?」
ダダダッとメイド服のスカートを揺らめかせ屋敷へ駆け出すアメリに、カミラもドレスの裾を持ち上げて全力ダッシュ。
こうしてカミラの十六の誕生日の夜は、慌ただしい最後を飾るとともに。
この先の輝かしい? 未来を暗示させるものであった。
あったのだ(強弁)
□
――そして、この時こそが。
魔王セーラを愛の力にて撃退した聖女。
邪悪令嬢、純愛令嬢とも言われたカミラ・セレンディア様の無限を世に知らしめた。
真の始まりであったのだ。
~第一級歴史資料、アキシア家令嬢アメリの手記から抜粋~