第6話
啓介は、その声を聞き後ろを振り返る。愛菜が啓介を見ていた。夢では無いか、そう思った啓介は何度も何度も目をこする。しかしそれは夢ではなく現実だった。
啓介はベットに向かって行く。
「愛菜?愛菜?」と啓介は言う。うるうると涙が出てくる。愛菜が微笑みながら啓介を見ている。
「啓くん…帰ってきたよ」と愛菜は言った。啓介は愛菜の手を握ると愛菜の方をまた見た。啓介の頬に涙が通る。その涙がベットのシーツに、落ちる。
「愛菜…あ、ありがとう…俺、ずっと心配だったんだよ。俺の大切な人が死んじゃうんじゃ無いかって、ずっと思ってたんだよ…けど…戻ってきてくれてありがとう」不安だった事が無くなり啓介は一安心している。
愛菜は手術を終え、その後2週間生死をさまよっていた。その2週間、啓介は毎日愛菜の病室を訪ねその日あったことをずっと愛菜に話していたのだった。最初は「こんなことやって意味があるのか」とと思っていたがそれそのうち慣れた。啓介のやっていたことが、やっと実を結んだのだった。
「と、とりあえず、看護婦さん呼んでくるよ」
「うん…わかった」
2人はそんなやり取りをして、啓介は病室のドアを開け走ってナースステーションへと向かっていった。
啓介をナースステーションへ着くとそこにいた看護婦さんの1人に「愛菜が意識を取り戻した」と伝える。それを聞き看護婦の1人が驚いたような顔をしていた。「本当ですか?」と聞かれ啓介は頷く。看護婦さんはどこかに電話をかけていた。その電話が終え看護婦さんがナースステーションから出てきて啓介の元へと来た。そして一緒に愛菜のいる病室へと向かって行った。
ガラガラガラと部屋のドアを開け2人は中へと入っていった。愛菜は入ってくる2人を見ていた。
その後、手術をした医師が愛菜の部屋に来て、それを見た。「いつかは意識は戻ると思っていたがこんなに早く意識が戻るとは思っていなかった」と医師は言った。それでも医師かよ、と啓介を小声で聞こえないようにそう言った。しばらく愛菜と医師らが話した後、愛菜の母と愛菜の所属している事務所の社長が来た。そして、啓介と社長の目が合った。
「君は…誰だ?」と社長が言う。
「愛菜の…幼馴染です。そして…俺の彼女です」と啓介は社長に言う。社長はそれを聞いて驚いたような顔をしている。
「君の彼女…?それは本当なのか?」社長がそう言いながら啓介に近づいてくる。
「はい、そうです」と短く啓介をそう言う。
「そうか…それは契約違反になるな。契約解除…か」社長はそう言う。確かに人気のアイドルに彼氏がいただなんて事がバレてしまったら、その子はだいたい契約を解除される。
啓介は振り返った社長の背中を見ていた。
「確かに、そんな事したら契約違反になっちゃうんですが今そんな事関係ありますか?社長さん」強めに啓介は言った。それを聞き社長が振り向く。
「そんな事?関係あるに決まってるだろ。とりあえず、契約解除だ」
「あ、あの」と2人の会話に愛菜が入ってきた。そしてこう言った。
「啓くんは、私の事を救ってくれたんです。意識が戻らない間ずっと私の看病してくれていたんです、って本人が言ってました。社長、恋愛禁止のルールを破ってしまってごめんなさい、けど啓くんがいなきゃ私今頃…いなくなってたかもしれないんです。それでも、私をやめさせますか?」愛菜が社長に言った。しばらく誰も喋らない空間が広がっている。
「わかった。特別だからな。それと、君」社長が啓介の方を見た。そして、微笑む。
「色々とすまなかった。彼女の事、幸せにしてやりなさい」と先ほどとは違う、優しい声で社長はそう言った。
「あ、ありがとうございます。こちらこそすみません、ずっと黙ってて…っていうか言ったらダメですよね。とりあえず…ありがとうございます。社長」その病室にいた全員がそのやり取りを見て笑みを浮かべいた。
その1週間後、愛菜は立てるまでに回復した。
2人でリハビリを続ける日々が続いたのだった。