第1話
「あなたの余命は、あと1ヶ月です」それを医師から聞いた2人の顔は唖然としている。嘘だ、そんなの嘘だ、そう思いながら啓介は医師にこう言った。
「ま、まさか…そんなの嘘ですよね?愛菜が余命1ヶ月だなんて…何かの間違いですよね?」
医師は表情を変えることなく、無言のまま啓介を見ている。なんか言えよ、そう言いたかったが口からなぜかその言葉が出てこなかった。ふと、愛菜を見ると愛菜は泣いていた。啓介は拳を握り自分の右太ももに悔しい気持ちを当てた。
そして1ヶ月後……愛菜は…愛菜は……
「SMILE」というメンバーのほとんどが中高生のアイドルグループに所属している、啓介の幼馴染、大石 愛菜。愛菜とは密かに付き合っていて数回、バレそうになったがなんとか乗り越えてきた。ある日ライブの途中で倒れてしまい近くの総合病院に緊急搬送されたのだった。幸い命に別状は無かったが、その数週間後、愛菜は「余命1ヶ月」という宣告を医師から受けたのだった。
その宣告を受けた数日後、愛菜はしばらく活動を休止する事になり家で休養していた。そのことを知っていた啓介は愛菜の家を訪ねた。インターホンを鳴らし愛菜の母が出てくる。「愛菜いますか」と聞くと愛菜の母は「2階にいるよ」と言い、啓介は愛菜部屋へと行くために階段を上っていく。愛菜のいる部屋の前に立ち、ドアをノックする。返事はない。横に伸びているドアノブを持ち下へ下げると鍵はかかっておらずすんなりとドアが開いた。
「愛菜ー、いるかー…」そう言いながら啓介はドアを開け中へ入る。愛菜の姿が見えたが何か様子が変だ。啓介は愛菜の後ろに立ち、手に持っているのを見た。愛菜の右手にはカッターナイフがありカッターナイフに反射した光がキラリと光る。
「私なんて…私なんて私なんて…」小声で愛菜がそう言っている。啓介はそれを見て今から愛菜がする事がすぐにわかった。カッターナイフが動き、愛菜の手首付近に触る。
「おい!愛菜、死ぬのはやめろ!」
啓介は愛菜の腕を引っ張りカッターナイフを離そうとした。しかし愛菜もそれに抵抗した。なかなか外れない。
「啓くん…!離して!私なんて生きてる意味ないんだって…!死んだほうがマシだって…!」愛菜の泣いた顔が啓介の目に入る。愛菜がここまで泣いているのを見るのは初めてだった。力づくで愛菜の手からカッターナイフを取るとそれを部屋の入り口に投げる。そして啓介は愛菜を押し倒し向き合った。そして声を荒げる。
「お前が死んだら、みんな悲しむだろ!余命1ヶ月って言われたけどその1ヶ月間で何ができる!いろいろできるだろ!もう少し考えろ、愛菜!」ここまで愛菜にキツく言ったのは初めてだった。啓介と愛菜は落ち着きを取り戻し体を起こした。
「ご、ごめんね…啓くん…」愛菜が謝った。愛菜はうつむいている。それを見て啓介は立ち上がり愛菜の机から適当にノートとペンを持ってきた。そして開いているページを開き愛菜に手渡す。愛菜はそれを見て困惑している。
「ほら、1ヶ月の間でやりたい事書けよ。俺が全部付き合ってやるからさ」啓介は落ち込んでいる愛菜にそういった。
「やりたい事…?やりたい事リストを書くの?」と愛菜は聞く。「うん」と短く返事をする啓介。その返事を聞き愛菜は机に向かって歩いていく。30分程度、愛菜を待った。
「出来た!」と愛菜言い、椅子から降りる。少し前まで落ち込んでいたのにもういつも通りに戻っている愛菜を見て安心する啓介。愛菜からノートを受け取り書いてあるページを開いた。
やりたい事リスト
1.デートしたい
2.プリクラ撮りたい
3.久しぶりカラオケ!
4.買い物付き合って
5.メンバーみんなで旅行!
6.久しぶりに夜、一緒に寝たい
6つ目まで普通の事が書かれていたが、最後、7つ目にはこう書かれていた。
7.メンバーのみんなで最後のライブをやりたい と。
「7つ…これだけでいいの?もっとやりたい事とかって…」愛菜を見る啓介。愛菜は笑顔で啓介を見ていた。その顔につられ啓介も笑顔になる。
「うん!私それだけあれば大丈夫!1ヶ月間、よろしくね」そう言うと愛菜は啓介の方に来て、啓介を抱きしめた。愛菜と抱き合うのは久しぶりだった。啓介は両手を愛菜の背中にやり、抱き合ったままこう言った。
「あぁ…じゃー明日からそのリストどおりやっていくからな。準備しといてな」愛菜の耳元でそう言う啓介。愛菜はそれを聞き頷いた。
1ヶ月間という、長くて短いような2人のやりたい事をしていく事が始まった。