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祭り事

異形の祭り

作者: 結依

ハロウィン記念のつもりで考えましたが、あんまり関係無くなりました;

和風異界ハロウィン?

短いので気軽に楽しんでいただけると幸いです。

 『2010年10月31日 夕方5時頃

  ○○県○○市○○町 神社で開かれた秋祭りで

  滋岸(しが) ひなた さん(10)が行方不明になった。

  滋岸さんは母親と秋祭りに来ていて、

  人混みではぐれたという。

  その後、アナウンスで呼びかけたが戻らず、

  秋祭りが終了した後も戻らなかったため、

  母親と秋祭り運営協会が捜索願を出した。

  警察は事件に巻き込まれた可能性もあるとして

  捜索を続けている。



  

  11月3日 夕方5時頃

  行方不明になっていた滋岸 ひなたさんが

  神社の境内で倒れているのを

  この神社の神主が発見し、警察が保護した。


  行方不明になっていた間のことを

  ひなたさんは何も覚えていない、という。


  着衣に乱れはなく、行方不明になったときと同じものだった。

  しかしながら、三日間行方不明であったにも関わらず、

  身体にも衣服にも目立った汚れは見当たらなかった。

  また、手首には何者かの手形のような痣があり、

  首にも痣のようなものがあった。


  このことから警察は、ひなたさんが

  何者かに連れ去られた可能性があるとして捜査している。



                  ―――新聞抜粋』





  ――――少女と女の境はどこにあるのだろう?

 『あれ』と出会ったあの祭りの日。

 私は、少女から女になった。





 ――金魚すくい。射的。りんご飴。わたあめ。

ぼんやりと揺れる提灯。

人混みのむせ返るような熱気。

目も眩むような法被の鮮やかな色。

それに導かれるように、

私は『そこ』に紛れ込んでしまった。



 「お嬢さん。あんた、人間だねぇ。」

しわがれた声に横の屋台を見ると、

頭巾を被った鬼の老が座って、唇を歪めていた。

屋台には紫煙が立ち込め、

この世のものとは思えぬ品々が所狭しと置かれていた。

私は悲鳴を上げた筈だった。

だが、それは祭りの賑わいにかき消された。


――――そこは、異形の祭りだった。



「人間だ。」「ニンゲンニンゲン。」

「腕をもらってもいいかな?一本。一本だけ。ね?」

「だめだ!!オレがいただくんだ!!」

「イエにカザル。」

人間ではない『何か』達に、私は、もみくちゃにされる。

本当に腕をもがれて連れ去られそうな恐怖に、

私は助けを求め、弱々しくもがく。



「コッチに来テ!!」

ふと手を伸ばされた。

それはそこの誰とも違う大きくない、

子どものような、人間と同じ手だった。


私はその何かの渦から引き抜かれた。

手を引かれて、無我夢中で走った。

目の端を通り過ぎる提灯の光の帯。



 ――やがて、建物の陰。木の茂みの間に連れて行かれた。

「フゥ。ココならアンゼン。

大変、ダッタネ。ダイジョウブ?」

鮮やかな蒼の外套を纏い、

動物の髑髏のような仮面を被った『それ』は人間ではないのだろう。

でも、さっきの『何か』達よりはだいぶマシだと思った。

逃げてさっきのに捕まるよりはいいかもしれない。

友好的だし、優しそう。


「だい、じょうぶ。あり、がと。」

緊張でなんだかぎこちなく、

『それ』と同じような喋り方になってしまった。

「ドウイタシマシテ。ヨカッタ。ヨカッタ。」

小首をかしげて、ぴょんぴょん、と飛び回る

『それ』は、本当に子どもに見えた。

思わず私は笑ってしまった。


「ワラッタ!ワラッタ!ワーイ!」

ますます『それ』は嬉しそうだ。

「君のナマエは?」

やはり鳥のような動きで『それ』は首をかしげた。

「私の名前は・・ひなた。」

「ヒナタ?ヒナタヒナタ!」

無邪気に跳ね回っていた『それ』だったが。



―――「ヒナタ、イイニオイがスル。」

『それ』のキラキラした眼が間近にあった。

それは捕食の眼だった。



「ヒナタを・・――チョウダイ?」

やっぱり『これ』も普通じゃなかった。

けれど・・私は・・・


「・・・・―――いいよ。」

なんでだろう?

怖いのに・・口からは肯定の言葉。

「私を・・あげる。」


ぐい、とすごい力で引き寄せられる。

スンスン、と匂いを嗅がれる。

「・・・ヒナタ、スキ。スキスキ。

ヒナタ。ヒナタヒナタ。

お日サマのニオイ。」

『それ』からは森のような匂いがした。


「・・・ねぇ。あなたの名前は?」

「ナマエ?#$%&&。」

滅茶苦茶な名前・・。

「分かんないよ。言えない。」

「ソウ。」

興味なさそうに呟くと、『それ』は首に顔を埋めた。


未知の痛みが走った。

「っ、ッ!!」

「ヒナタはボクのモノ。」

穏やかだった声が少し怖くなる。


それからのことはよく覚えていない。




「ヒナタを、ホントウに喰ベテシマイソウ。」

飢えた犬のような声を『それ』は出した。

私は甘い声を出すだけだった。

「スキ。ダイスキ。ヒナタ。

ボクが大キクナッタラ、ムカエに行クカラ。」

―――ダカラ、待ッテイテ。




 ――――私は眼を開いた。

『それ』はいなかった。

お祭りも終わっていた。

こちらの刻は『あちら』より速いようだ。

『あちら』では一日が、こちらでは三日だった。


「私も好き、かもしれない・・。」


私はその秘密を誰にも話さなかった。







 ――――今日はお祭り。

あれから随分経つ。

私はずっとお祭りに行かせてもらえなかった。

けれど、今日は抜け出した。

『あれ』が待っているかもしれないから。


なんの変哲もないお祭り。

けれど。

ふと人並みが割れた。

南瓜提灯の不思議な温かい光。

それを持っている人―――いや。『何か』。

鮮やかな蒼の外套。

動物の髑髏のような面。

随分背丈は伸びたけど・・。


「ひなた。むかえに来たヨ。」

それは幾分、より流暢に人間の言葉を話した。

そして・・そこには青年の顔がある。

「練習して化けたんだケド・・おかしい?」

鳥のように首をかしげる。

やっぱり笑顔で、天然な表情。

可愛いな。

くすり、と私は笑った。


「おかしいノ?」

少し『それ』はむくれる。

「おかしくないよ。上手だよ。」

「ソウ。良かっタ。」

少しだけ『それ』は飛び跳ねた。


「でもね・・前みたいでもいいよ。

もう、怖くないから。」

「ソウ。」

『それ』は姿を変えた。

恐ろしい異形だったけれど、

本当の姿が見られたから、私は嬉しかった。


「私も、好きだよ。」

あのときは解らなかったし、言えなかったの。

少女だったから。

でも、今の私は、一人の女だ。

『これ』に魅入られて、喰われたときから。

首の痣は消えない。

これは所有の証だ。


「ひなた。スキ、ダヨ。」

羽やら何やらの混じった腕?で、異形は私を抱く。

やっぱり少し怖いけど、あったかい。


「あのネ。

ボクの名前、人間の言葉で言えるようになったヨ。」

すごいデショーと『それ』は嬉しそうだ。

くすり、と笑って、

無邪気な異形の頭?を撫でる。

「ひなたは笑顔がステキダヨーー!」

それはそっちの屈託のない笑顔。

こういうところに、私は惹かれたのだろう。


「ボクの名前はネーー ×××××!」

素敵な名前。

その意味を理解したとき、契約は為された。

それを識るのは、ずっと後。



「サァ。行こうカ?」

『彼』の手を取って歩き出す。

ゆらゆらと揺れる南瓜提灯の列が彼らを見送った。




 ――――ひなたは、もう戻らなかった。


短編はやはり苦手です。

読んで頂いてありがとうございました!!

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― 新着の感想 ―
[一言] なんとなくハウ/ルの動/く城思い出しました。
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