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第2話嘲り笑う狂人

 この一帯に仕掛けられた罠は魔法だ。

 起点を作り、しっかり維持していれば自動的に効力を発揮する。

 四つの点を元に、結界を敷く魔法の名を、『四方』と言う。

 何故か記憶にある知識からも間違いはない。

 確か苦労しながら覚えた気がする。

 記憶はないけど。



「さて、確か解除方法は、術者の血液だったかな」



 怪しい記憶から引っ張り出した知識。

 右手に持っているのは、死体の頭。

 その断面に施していた【強化】を解く。

 瞬間溢れる血液。

 切断面から吹き出る頭部を掴み、右手に持った錆びた短剣を血で濡らす。

 『四方』の効力は、概ね24時間だったかな。

 結界魔法にしては効力は短め。

 まぁ、所詮は素人向けの簡易的な結界だ。

 だから、やろうと思えば力付くでも壊せるが、無駄に怪我はしたくないから、やっぱりこの方法が一番だね。

 魔力が一番良いが、死んでるので意味ない。

 楔となる基準点に血を垂らして準備開始。

 血の量は大まか定められており、分配を間違えればその反動が使用した時に返って来るので、その保険として頭部を削ぎ取り内側へと放り投げる。

 あくまで、この魔法を行使するのは盗賊自身。

 そのための頭だ。

 この魔法の基準は中心。

 よって、中心に近付くほど効力を増す。

 四つの点を繋げて一つの結界とし、その範囲内で起こり得る事象を利用した結界型の罠魔法。

 防御魔法の基礎……だったかな。

 いや、罠なのに防御? なんかおかしくね? ……おかしくはないな。

 結果的に防御になってるしね。



「さてと、こんなとこか」



  静かに息を吐き、血に濡れた短剣を地に投擲した。

 これで結界の書き換えは終了。

  次に手を握り締めて己の状態を確認。

 毒も抜けて傷も癒えている。

 動作に不安はない。

 盗賊の内訳も頭に入っている。

 現状況において武器はない。

 しかし、情報通りならば、警戒すべきは二人のみ。

 先に殺した盗賊自身よりもやや劣る程度らしい。

 実際は分からないけどね。



「ま、後は出たとこ勝負だぜ」



 全身の力を抜いて重心を下げる。

 勝算はあるが、確実ではない。

 もしかしたら、死ぬ可能性もある。

 でも、今更引けないし、血と肉が見たいから、早く殺しに行こう。

 用意をしていた石を扉に向けて投擲した。

 それはもう全力で。

 投擲した石は過度な音を立て、扉を見事にバチ壊して室内に消えていった。

 それから石を二つ持ち、威力を高めるためスキルを行使していると──



「──ふざけんな! どこのどいつだおい!」



  勢い良く現れたのは、先の盗賊よりも体格の良い男だった。

 素で戦ったらどうなるかことやら。

 呑気にそう思いつつ【強化】をかける。

 強化指定は筋力と視力、それと精密動作。

 一瞬だけ熱が全身を駆け抜けていく。

 それに合わせて横投げの体勢となり、僅かに溜めてから一つ目の石を投射する。

 その速度は先の投擲の比ではない。

 おまけにこの夜間。

 明るい所から急な暗い場所では慣れるまで時間を要する。

 そこらの盗賊に対処する術などない。

 半円を描いてあっさりと狙いであった右足を破壊する。



「ギャァアアアアアアアッ!?」



 直ぐには認識出来なかったのか。

 一瞬遅れてから悲鳴がこだまする。

 それに心地良さを覚えながら、上機嫌に身体を捻り、右脚を軸にして回転。

 左腕はしなるように伸ばし、再び正面を捉えると同時に投擲しする。

 狙いは頭部。

 石は頭蓋を容易く砕き、脳漿と血の雨を降らしながら地に伏した。

 実に美しき光景である。



「あー声につられて馬鹿が来たね」



 唇だけを動かしてせせら笑う

 自然と頰が緩むのを自覚しながら、扉から出てきた女を観察した。

 戦闘能力を有しているのは、体格の良い男と男勝りであるらしい女の二人。

 男は粗暴で短気なため楽に釣れた。

 逆に女の方はずる賢くて用心深い性格。

 じゃあどうするか。

 悩んでいた時期もあったけど、答えはいたって簡単明快。



「ジーズ! 無事なの!?」



 緊張と焦りを見せながら叫ぶ女。

 どうやら今殺した男はジーズという名前のようだ。

 実にどうでもいいが、この二人は恋仲らしい。

 きっと男の悲鳴は、女の意識を掻き乱して混乱させるには丁度良かったのだろう。

 残骸となった男を視界に入れた瞳。

 歪む表情と叫び声。

 絶望が渦巻くこの空気。

 その光景ときたら、何と甘美なことか。

 実に楽しくて、本当に興奮を覚えるね。

 てか、恋仲なら一緒に出て、仲良く死んで上げれば良かったのに。

 今更鳴いて、薄情な女だよ。

 まぁ、笑えるから良いけどさ。



「ジーズ……ああ。誰が、誰がジーズにこんな──っ!?」



 わざと大きな音を立てて歩く。

 案の定こちらに鋭い視線を向ける女。

 実に分かりやすい反応である。

 家の周りは簡易的な手入れをしているので、半径十メートル程度はそこそこ視野を確保可能。

 そしてこれが『四方』の結界範囲である。

 無駄にゆっくりと近付き、月明かりが照らす結界内の草原に踏み込み、女の前に姿を見せた。



「お前は、誰!? まさか、お前がジーズを殺ったのかっ!?」

「ジーズ? 鼻糞を固めたような名前だね」

「ふ、ふざけるなっ!!」



 女は死骸を大事そうに抱き抱え、瞳からは涙を零しながら吠えている。

 明らかに激情に呑まれている様子に、思わず堪え切れない笑み浮かべて事態の状況を喜んだ。

 そして、茂みから移動する際、横に置いていた頭部のお披露目である。



「頃合いかな? いや、もう少しか」



 視線を天へと向けて雲の様子をみる。

 雲が差し掛かっているから、女の方からは良く見えないだろう。

 怒り心頭といった様子だが、まだ最後の線を超えていない。

 だけど、こちらに来て貰わないとね。



「この……訳の分からないことばかり言って!」



 女が声を荒げた時だった。

 差し掛かっていた雲が徐々に流れていく。

 その結果今までよりも明瞭に辺りを照らした。

 今ならば反対側からでも良く見えるだろう。

 機は熟した。

 右手に掴んでいた頭部を無造作に投げる。

 勿論狙いは女から確実に視える距離。

 わざと雑に投げたので、地面の上を何回か転がりながら女の元に辿り着く頭。

 我ながらナイスコントロール。

 それを視認した瞬間、女から表情が消えた。



「マークス? ──嘘……嘘よね。だって、こんな、こんなことって……許さない。絶対に殺してやる」



 流石に共に連れ添っただけはあり、最早原型が崩れていても認識出来るようだ。

 実に素晴らしい絆です。

 欠伸が出る程度には感動した。

 既に眼球はなく、耳と鼻は斬り落とし、保険として頭皮ごと髪の毛を剥ぎ取ったけど、人間顔じゃないってこういうことか。

 勉強になるわ。マジで。



「殺す。刺し殺して、同じ目に遭わせてやるわ!」



 女は腰に差していた長剣を抜いて地を駆ける。

 完全に怒り狂った形相。

 長剣を構えて距離を詰めてくるのを眺めながら、罠魔法が発動するのを感じ取った。

『四方』の効果は、範囲内で起こり得る事象を利用した罠魔法だ。

 そして、さっき仕掛けた罠とは。



「おぉおおおおお──ッ!?」



 斬りかかる数歩前で、女は足を滑らせた。

 その瞬間を見逃すことなく距離を詰め、前傾姿勢になり崩れてくる女の右手を掴み、捻るように曲げて背中へと移動する。

 背中側に回ったら即座に右手に持つ長剣を首付近まで強引に掴んで持っていく。



「はい、ご希望の刺殺だよ」



 耳元で告げると同時に、そのまま脚を掛けて地面に落とした。

 自分の体重を背中に掛けることを忘れない。

 女は屈辱に瞳が濡れていた。

 口を動かしてなにかを言うとしている。

 でも、興味ないから聞かない。

 言葉となる前に、自らの長剣で首を貫かれる女。

 顔面から体重を掛けて落ち、首には長剣が刺さり、右腕は間違いなく折れた状態で、泣きながら絶命した。

 結構面白い死に顔である。

 無念に死んだ落ち武者が一番似合う言葉かな。

 その姿を少しの間眺め、ひとしきり笑い声をあげて意識を切り替える。

 殺し合いは終わりだ。

 次は一方的な虐殺をしよう。


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