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第15話日常の色形

 ぐいっと眼前までメロンの絵を押し付けられ、特に好きでも無いメロンソーダを飲めと言う影の男。

 しかも自分は嫌いな癖に美味しいとほざく始末。

 男性にしては比較的高い声をしてるので、何となく幼い印象も受けるし、ならばこの厚かましく煩い態度なのも納得は出来なくもない。

 後、炭酸は好かんから、普通に考えたら俺も嫌いであるが、ここで受け取らないといけない気がする。

 これと言った理由は無い。

 少なくとも嫌いであるが飲めない訳ではないし、悪意も感じられないので素直にその好意に従おう。



「……どうも」



 あっけらかんと一言礼を言い、もう自由に動く身体を動かしてメロンソーダを受け取る。

 貰う際影の男が笑った気がしたが、興味無かったので流し、五百ミリリットル入りの缶のプルタブに指を掛け親指押して開く。

 影の男もまた先と同じ動作で缶を取り出し、特に合わせる事なく先に飲み始める。

 何か釈然としない気持ちが渦巻きもするが、気にしないようにして開け口を唇付近まで移動させた時間、ふと頭に疑問がよぎり缶を持つ右手を直前で停止。

 訝しげな視線を影の男が送るが無視し、疑問について少しだけ思考を走らせる。


 このメロンソーダが嫌いなのは別に良いのだが、問題はその出処。

 あの男は一体どこから取り出した? ……何も無い空間に突然出現しさも当然のように手に取った筈だ。


 考えると別におかしな話で無いか。

 何せ──何せ……やっぱりおかしい気がする。

 ここは教室で、俺は唯の一生徒。

 それでは、あの影の男は何に該当する。

 影は人間で生徒という認識で良いのだろうか。

 一般常識とはそんなのだったかな。


 あれ、何だ、どこか違和感を感じる。

 何故かは分からないけど、間違いだらけな気がしてならない。

 どういう事だろう。



「ふーん、疑問を覚えた所為で手が止まったのか。やっぱり君は間違いないね。でも、別にそのメロンソーダは毒も入って無い普通の炭酸飲料さ。気にする事無く飲みなよ少年」



 表情に出したつもりはさらさら無かったが、影の男にはそれが分かるらしい。

 心の中で頭を抱えていた俺に不満があるらしく、少し不機嫌そうに口を尖らせ催促を掛けて来る。

 余程メロンソーダを飲んで欲しいのだろうか。



「──? あ、この味って……」



 子供のような男に少年と言われる筋合いはないが、黙ってメロンソーダを一口飲む。

 そこで違和感を感じ、再度缶の絵柄を確認する。

 先はメロンの絵が描かれていた缶だったが、いつの間に見間違いたのか、パンプキン型の南瓜がにたりと笑っている絵柄に変わっていた。



「美味しくねぇな、メロンソーダよりはマシだけどよ」



 さして気にする事でも無いが、取り敢えず疑問に思い首を傾げ、暫し笑うパンプキンを見つめていたが。



「なーんだ、しけた反応だね〜南瓜は思いの外好きなのかな? あ、一応メロンソーダもちゃんとあるよ。今度はホント、飲む?」

「……遠慮する。それより、お前は誰でここは何だ?」



 南瓜の缶ジュースを手頃な机の上に置き、数歩前に影の男に問い掛ける。

 特に危険は無いだろうという、根拠のない勘。

 影の男は小首を傾げてからポンと手を叩き、ニタニタしたような感じで口を開く。



「そーだねー僕は誰で、ここはどこなのか。それは、君が一番知ってると思うよ? 少し考えてみたらいいんじゃない?」

「はい? ……いや、知らないからお前に聞いたんだよ」

「でもね〜僕が言える事は特には無いかな。ほら、騙されたと思ってさ、ちょっとだけ考えてごらん。君の、目的を」



 意味深気味に手を広げ語る影の男に何故か気圧され、訳もなく言われた通りに考えてみる。


 先ず分かるのは、ここはどこかの教室で、目の前の男はガキ臭くてウザい奴ってぐらいだな。

 他にとなると、何かあるだろうか。

 ……南瓜の缶ジュースがあるくらいだなぁ。

 そういえば南瓜ってジュースにはいるのか? 微妙な気がする。

 甘味は確かにあるが、南瓜だけだとジュースというは抵抗を覚えるのが不思議だ。

 野菜ジュースだと、何故か受け入れられる。

 何故だろう。



「いや、そんなの知らないよ。というかーホントに考えたのちょっとだけだね。 何か悔しいな〜」

「……人の心を勝手に読むな。マジで何なんだお前は。その陰った見た目もそうだが、ほんわかした態度で喋りやがってよ、イライラするわ」

「あははははー怒った怒った〜何ムキになってんの? あ、もしかしてカルシウム不足? だったらゴメンね。お詫びに骨でも上げるよ。ほら、投げるぞ〜取って来い!」



 影の男が右手を後方に伸ばし何も無い空間を掴む。

 その瞬間、漫画の絵に出てきそうな骨が握れており、小馬鹿にしながらそれを投げる。

 骨の軌道は明らかに俺の顔面方向だったので、くいっと首を傾けてなんなく回避。

 男は残念そうな雰囲気で口を開こうとしているが、それよりも先に眉を寄せて言う。



「おい、俺は畜生じゃあねぇぞ」

「うーそんな真面目に返されると凹むな〜会話は楽しむ為にあるんだよ? だからそんなカリカリしなくてといいんじゃん。発情期じゃないんだからさぁ──もしかして、僕とエロい事したいの?」

「何でそうなんねんっ!? お前馬鹿? この俺の態度で分かんないの、わかんないのかぁ!? ガキは嫌いだって最初から言ってんだろうが糞ガキっ!!」



 先程からトンチンカンな事しかほざかない影の男──もとい糞ガキの言動に痺れを切らした俺は、猛る感情のままに怒りをぶつけ睨み付ける。

 糞ガキはキョトンとした雰囲気で黒い目玉らしき部分を大きく開き、次の瞬間には最大に吹き出した。



「あはははははははっ!? 何でいきなり関西弁な訳? しかも子供嫌いなんて言ってないしーホントにもう〜頭大丈夫ですかー? あはははははは〜」

「か、こ、このがきがぁ、下手に出てるからとつけ上がりやがって……」

「ん? ── 君さ、一つ勘違いしてるよ」

「あ? 何がだよ」



 もう少しで沸点を超え、蒸気機関車の如く憤怒の煙を吐き出し地獄を見せてやろうかと思った矢先、先よりも幾分か真面目な声音で人差し指を立てる影男。

 正直内容がどうであれ、そんなのに関係無く殴り飛ばしてやろうと考えてるが、つい聞き返してしまうのは何故だろう。



「ガキガキガキガキガキガキ言ってるけど、僕は君と同じぐらいの歳さ。十八だから、多分僕の方が上だね」



 影でわかりにくい癖に無駄に胸を張り、さしてどうでもいい事を語る影お。

 俺はよくそんなくだらない事を真面目に語れるなと感心しつつ、徐々に熱が冷めゆく感情に溜め息つく。



「いや、そんなガキガキ言ってねぇだろう。しかも何だそれ、新手の蜚蠊の効果音かよ、気持ち悪い」

「え、無視? しかもぼそっと言われるのがますます傷付く。泣いちゃうぞ?」

「泣けや」

「ひど! ……もういいよ。なんか君の相手は疲れた」

「控えめに見てもそれは俺の台詞じゃね? ──ま、いいか」



 いちいち人を小馬鹿にする態度に怒りが湧くが、いい加減慣れが来てしまう。

 良いのか悪いのか、本当に微妙な所だ。



「で、お前は本当に何者だ。そろそろ教えろ」


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