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第14話夢幻との邂逅

「やーれやれ、何も思い浮かばないな。ホント、どこに進んだものか」



 いつまで経っても何も生まない自分の脳味噌加減に溜め息を吐きながら、進めど変わらぬ景色を乗り越え歩む。

 既に時刻は昼頃。

 お天道様は青空の中心で、喧しい程存在を誇示ている。

 獣共も活発化しており、時折匂いを嗅ぎ付けて襲い掛かって来る個体も多々いるが、この辺りの魔物は雑魚なので、容易に葬り魔素へと粒子になり魔素へと帰還。

 いつ見ても幻想的に写ると思いつつも、流石に感情が動かなくなって来たなと感じる今日この頃。


 未だ道を定めること無く、林の中を彷徨っている。

 いい加減早く決めろと自分でも思うが、これが中々に決まらない。

 特に行きたい場所が無いから。


 現在『ジルヴァールアン街道』の外れを宛てもなく進んでいるが、この林を抜けた先には幾つかの町や都市が存在する。

【死都•アルカディア】から近い位置にある都市【ダイラバナー】は、四つの大国を除くと一番に大きい。

 仮にも大国との中継地点目的なので当然と言えば当然だが、大国に良いイメージが無いので興味がそそられないからパス。

 同様の理由で商業が盛んな町【アマナリード】も行きたくない。


 矢張り大国周辺に集う町はそれなりの規模なので、遠くに行かないと穏やかな場所は無いのだろう。

 しかし残念なのは、大雑把にこの世界の地理を記憶してるだけなので、点在する山村や小規模な町については記憶してない。

 地図を持っている訳でも無いし、記憶もして無いのだから、行く先が決まる道理が無かった訳だ。


 いっそのこと『魔族』の住む大陸でも目指そうと考えもしたが、海を越えねばいけない場所にある上現在は戦争中なので不可。

『獣人族』が生息する国は『人間族』から見ても近い位置にあるので、そっちの方に行こうかと一瞬思ったが、あちら方面は魔物のランクが高いので厳しく、その上俺自身が大して興味を抱いて無いから選択肢から必然と消える。


 残ったのが、特に宛ても無く進むという、本当にぶらり旅コースな訳だ。

 全く嘆かわしい。

 何故か情けない気持ちに陥ってしまう。


 別にそれが悪い、という訳では無いのだが。



「まぁ、国を出るという時点で当初の目的は達成してるから、それはそれで良いのか」



 自分でも慰めになってるか怪しいなと首を傾げ、そろそろ本当に決めないと林を抜けるのでは無いか。

 そんな取るに足らない不安が頭の片隅をよぎり、自然と歩む速度が落ちる。

 我ながら無駄な抵抗であるのは認めるが、そうなってしまうのは仕方ない。

 何せ心が勝手に反応するのだから。

 無駄な対抗心を燃やして。

 ……相手は不在だけど。



「──ん? あれは……」



 脳内一人闘争を繰り広げながら林を歩いている時、ふと視界の隅を見慣れたものがよぎる。

 ここに来るまでもよく見かけ、国いた頃は日常の一部でもあるもの。

 それは建物である。

 木造で造られたであろう小さな小屋。


 一瞬見間違えたかと思い歩みを止め振り返り、もう一度その存在に目を向ける。

 どうやらそれは見間違いでは無いようで、木々の隙間から姿を微かに見せる小屋が確かにあった。



「……何故、こんな場所に小屋が? 誰か住んでいるのか?」



 小首を傾げて呟くが、それで疑問が晴れるものではない。

 俺は言いようのない昂揚感が内から湧き上がるのを感じ、取り敢えず小屋の方に行ってみる事に決める。



「んーこれは……たまげたなぁ」



 距離自体は視認出来る程度なので、少し歩いた所で小屋の存在を強く認識する。

 遠目からではよく見えなかったが、どこぞの名のある樹木からでも造られたのか、逞しさと壮大さを感じさせる深い光沢と、何故か傷も汚れも無い綺麗な状態だ。

 しかも窓が一つもなく、扉が四方向それぞれに付いている。

 小屋自体は一回建てで今上げた特徴以外はなんの変哲も無い。

 いや、充分謎に満ちた小屋である。



「蛇……いや、これはウロボロスか」



 流石に扉を開けるのは憚れるので、小屋の周りを歩き観察を続けていると、扉の一つだけに文様が描かれているのに気がつく。

 正確には彫られており、凹凸がほんとんど希薄だったので、よく見ないと認識出来なかった。


 その彫り物は、蛇らしき生物が己の尾を呑み込み、一つの輪になっているもの。

 これもまた巧みで、信仰深くない俺にもある種の神々しさを連想させる精巧な出来栄え。

 芸術の極みとも言えるであろう彫り物だ。

 そしてこの彫り物には見覚えがある。

 元いた世界に馴染み深いこの形は、間違いなくウロボロスだろう。


 ウロボロスと言えば、始まりと終わりを司る完全なる存在。

 つまりは不死、完全、不滅の象徴であり、古くから信仰の対象として用いられて来たものでもある。

 この世界は異界の文化も多種多様に入り混じってるので、別段そういうのがおかしい訳ではない。

 ただ、場所とそれが付属するものが少々気になるだけだ。



「さて、どうしようかな」



 吐く言葉とは裏腹に声が上がっている。

 一通り見てみたが、人間が住む生活臭は感じ取れないし、その痕跡も見当たらない。

 足跡一つすら無いことから、長い間放置されていたと推測がつく。

 状態に付いては、何かしらの魔法やスキルが効果を発揮してると考えるのが妥当か。

 小屋とは言えこれだけの物体に効果を長期間発動するとなると、それはかなりの実力……ランクで推定するならばAぐらいは必要だろう。多分。


 確定的な事は何も言えないが、少なくとも俺の手に負えそうもないレベルという事だ。

 藪を突っついたら鬼や龍が出て来るぐらいの。


 だが、何故か昂ぶる好奇心が抑えられない。


 別に【死都•アルカディア】みたいな淀んだ空気がある訳でも無いし、危険な気配があるようにも感じられないのだから、漢だったら後は出たとこ勝負で良いのではないだろうか。

 勿論、何かあったら対処は出来ないけど。



「よし、行こ」



 あっさりと決め、直感でウロボロスの文様が彫られた扉に手を掛け、そのまま押す。

 扉は抵抗する事なく開き、隙間から暗い空間だけが見える。

 完全に開け終えた俺は、光が射し込んでも全容が明らかにならない空間を前に頬を吊り上げ、一歩を踏み出した瞬間──



「──っ!? な、なんだ!? まぶし……」



 視界を埋め尽くす程の光がこの身を包み込み込んだ。





 ◇◆◇◆◇◆◇◆





 白い。

 視界に映る何もかもが、ただ白く輝いている。

 まるで境界という概念が壊れているのか、どこまでも続く果ての無い光景が続き、自分自身がどこにたっているのかが不安定だ。

 二足歩行で立っている感覚はあるのだが、下を向いても同様の白。

 何もありはしない。


 そもそも、何故俺はこんな場所にいるのだろうか。

 ……思い出せない。

 何かを探していたような、そんな気がするが──矢張り思い当たる節は無く、呆然とその光景を眺める事が優先な気がする。



 やがて、己の身も周りの光景に合わせるか如く白く輝き始め──



 ──世界が弾けた。





 ◇◆◇◆◇◆◇◆





「……ん、んんっ!? この場所は──何故」



 意識が覚醒すると同時に情報が視界を通して入り、追い付かない脳味噌に連続してジャブを与える。

 身体は律儀に反応を示し、驚愕の声を上げながら辺りを見渡す。


 そこは、見覚えは無いが、知ってはいる場所。

 現代日本人ならば、誰もが一度は通り抜けて行く思い出深い建物。


 窓から夕陽が射し込む教室に、何故か俺は席に座り呆然としていた。


 教室には誰も居ない。

 閑散としていて、ただ薄暗く辺りを写すだけ。

 机と椅子があり、教卓の後ろには黒板がある。

 そんな何の変哲も無い教室。

 廊下からは何も聞こえない。

 窓から見えるグラウンドは誰も居ない寂れた土地。


 俺しか居ない。



「……マジで何が一体つまりどういう──」



 教卓がある方の反対側を観察してから、再度振り向き前を見た時、一人の男らしき人間がいた。

 そいつは教卓の上に腰掛け、右頬付近に拳をくっ付けて首を少し傾けている。

 じっと俺を見つめながら。



「──やっと気が付いたか」



 夕陽が反射して輪郭がはっきりとしないそいつは、くたびれたように口を開き、ゆっくりとこちらに近づいて来る。

 俺は金縛りにあったかのような感覚で、指一つすら動かせず黙って男が近付くのを眺めている事しか出来ない。



「ふぅーん、君が……ねぇ」



 顔を下から覗き込むように男は身体を曲げて迫る。

 影で出来ているのか、姿が所々黒くはっきりしない。


 暫く考え込む仕草で黙っていた男は唐突に身体を戻し、突然何も無い空間から何かを取る仕草をする。

 すると、男の手にはいつの間にかメロンの絵が描かれている缶が握られていた。



「ま、取り敢えずメロンソーダでも飲みなよ。結構美味しいよー俺は嫌いだけどね」




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