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閑話去れど戻らぬ過ち

「なぁ、糞爺。俺の居ない間に話が進んだのはムカつくが、それは置いといてよ。──それで良かったのか? あの男は異界の人間だぞ。それも間違い無く今代に召喚された類いの」



 明らかに柄の悪いと言えるであろう男──ナイヤガルトは、悪態混じりの口調で隣の瓦礫に腰掛けるシバに問い掛けている。



「リリアに訊いたけどよ、身柄を確保すること無く金だけ渡してお終いだったらしいじゃん。そりゃあよ、目的からは外れるから、それで良かったのかも知れないけどよぉ、あの呪われた地の外れにいるって事は──」

「──ナイヤガルト、少しは黙れ。後、リリア様を呼び捨てにするなと何度も言っておろうが。この馬鹿者」



 囃し立てるように喋るナイヤガルトに食い気味に遮り、無防備な状態の額目掛けてデコピンを行う。

 威力自体は然程無いようで、額を抑えて唸り声を上げるぐらいで済むらしい。

 眼には涙らしきものも伺えるが、シバの呆れた表情からすると、矢張り大したものではないだろう。

 やがて痛みが引いたはナイヤガルトは、眼に怒り色を乗せてシバの胸ぐらを掴もうと。

 左手を牽制に差し出し、本命の右腕を最速で繰り出すが、結果は惨敗。

 右手が届く遥か前にシバは溜め息と同時に親指と中指を擦り合わせ、パチンと音を鳴らす。

 すると不思議な事にナイヤガルトの右手がシバの胸ぐら数センチ前で停止。

 そのまま逆再生映像の如く戻り、再び額を抑える所から始まる。

 本人は何が起こったのか理解出来ていないのか、怪訝そうな表情で唸るが、何か思いついたようにシバを睨み付けた。



「〜ッ!? おい糞爺! また卑怯で姑息な手を使いやがったなぁ!? 何で同じ痛みを二度も味わなきゃいけねぇんだっ!!」

「だから──少しは黙っとれと、言ってんだろうがぁチンピラ紛いの糞弟子いぃぃいっ!!」



 怒りで声を荒げるナイヤガルト。

 だがそれは、彼の怒りよりも遥かに上回る怒声によって掻き消される。

 物理的な力を持って。


 真なる者にはそれだけで力がある。

 存在がそうであるように、こうであれと願われたものは、確かな実を結びそれが地に根付く。

 シバと呼ばれる溢れんばかりの筋肉を執事で無理矢理押さえ込んでいる白髪の老人は、正にそういう類いの存在であるので、彼が真に意思を込めたものならば、例え声であろうとも力を発揮する。


 具体的には、怒声が指向性と空間把握を有した咆哮紛いの空間魔法となり、それが惚けているナイヤガルトに向かって──



「──おぉおおおおおおおっ!?」

 


 捻れた空間破壊を起こして指定場所の存在を潰す。

 それはもう容赦無いもので、ナイヤガルトは本能の命じるままに結界魔法『そり芒の穂』と空間魔法『ジルヒィードラーク』を同時展開させ、迫り来る暴威から身を守ろうとするが、遥か上位に位置する力を下位如きが防げる道理は無い。

 水に濡れて一瞬で駄目になる紙のように、展開した魔法はあっさりと掻き消え、ナイヤガルトはそのまま吹き飛ぶ事を選択する。



「ふん、防ぎ切れないと判断するや否、己が発動した空間魔法を再利用して後方への道を作って逃げたか。頭はからっきしの癖に本能には忠実な奴だなぁ」



 シバは蓄えた自慢の髭を指で捻りながら、派手な音を立てて吹き飛んで行くナイヤガルトを眺めている。

 しかし、余り興味は無いようで、一つつまらなそうに欠伸をした後、再び前に向き直り己の手で発動した灯りの調整を開始。

 粉塵が巻き上がり砂埃が散布されるが、洗浄魔法により瞬間回復を起こす。


 暫くして何も音が聴こえなくなり、自然独特の息遣いだけが世を覆う。

 風の音が穏やかに林を揺らし、生物達の営みが新たなる理を生む。

 そんな癒されるであろう雰囲気を楽しみつつ、温度と空気の性質を調整。同時に生命魔法により生み出した低木状の簡易型のベットの幅を広げる。

 更に安眠効果を発揮させる為、催眠効果を持つ独自の芝生を低木の周りに生えさせた。



「……こんなものかの」



 一通りの作業を終えたシバは結果を確かめるように呟き、低木の上で可愛らしい寝顔を見せるリリアを優しい瞳で眺めている。

 今日は色々な事があり、それがリリアの負担になったと考えたシバは、直ぐに元気に夏まで欲しいと願い手の込んだこの環境を作ったのだ。


 リリアはナイヤガルトの幼馴染ではあるが、彼と比べると少々幼いと言わざる得ない顔立ちと体型で、その見た目に合わせてか、精神も未熟と表現出来る程に脆く弱い。


 青緑色の美しい髪は腰付近まで神々しく伸びており、瞳は外国人のように大きい青藍色、鼻や口のパーツは完璧と言っても過言では無い程の洗練された可愛らしい顔。

 そして額には、虹色に輝く欠片が存在を誇示する。

 身長はナイヤガルトの頭二つ分よりも低く、細く華奢な肢体は何とも言い難い魅惑な色を感じさせ、小振りとは言えない確かな胸がそれに拍車を掛けた。


 しかし、何も外見だけが良ければ、という簡単な話では無い。

 昔ならばいざ知らず、今は血を血で洗う混沌の時代。

 そんな状況をリリアは乗り越えていけるのか。

 それが今シバが抱える一番の悩みである。


 ……粗暴で短絡的で独断気質のあるどうしようもないナイヤガルトも悩みの種ではあるが。



「……力の足りぬこの身が恨めしいわ。儂にもっと力があれば──」



 独白するように呟き、いつもの飄々した態度では無く、疲れ切った老人の顔を見せるシバは、皺だけが増えた両手を黙って見つめている。

 一体いかなる葛藤や絶望があるのは計り知れない。

 しかし、それだけ何かある。

 そう思わせるだけの憂いを纏っていた。


 勿論、それは本当に僅かな間であるが、その微かに滲み出た隙を見逃さなかった狂犬が目に懲りない怒りを宿らせて飛び掛ってくる。



「痛ええぇだろうがああぁァアアアっ! この糞爺めええええええええ!!」



 ナイヤガルト力の限りは吼え、無防備な背中目掛けて飛び蹴りを行う。

 身体のあちらこちらが泥と血で汚れ、内臓を痛めたのか口から血を零すしているが、それでも構わず決死の突貫を行う姿は、一種の清々しさにも似た感情を引き出してくれる。

 そんな状況のナイヤガルトに溜め息を吐きながら、シバは手を広げて握り込む動作を行う。



「あ──ガアアァァッ!?」



 突然飛び蹴りを行っていたナイヤガルトの身体が破裂。

 激しいを血液を空気中に撒き散らし、そのままシバの後方へと落下。



「そろそろ大人しくせい」



 面倒臭そうな声を上げ、地面に激突する寸前のナイヤガルトの左脚を座ったまま右腕だけ伸ばし掴む。

 そしてシバの右横に無造作に転がる瓦礫に叩き付ける。

 音も巻き上がる粉塵も魔法で一瞬で掻き消え、リリアを守護するように周りは完全に閉ざされているので、外側からの干渉は一切受け付けない。

 故に手加減は死なぬ瀬戸際を攻める。



「お、おお……ち、くしょ、う──力が、せめて、力さえ封じられて、いなきゃあ……」



 息絶え絶えに零す言葉には、未だ諦めの色が見えない。

 ここまで来ると賞賛しても良いと考えるが、ただの何も考えてないだけだと知っているシバは、瓦礫に埋もれるナイヤガルトを引っ張り出し、目線の高さ程度まで魔法により引き上げる。



「力が元の状態でも結果は変わらん。能力を封じるついでに知能まで一緒に封印されたのか、馬鹿弟子よ?」

「んな訳なぇだろっ! てか、ささっと降ろせ糞爺! 一番の老害はテメェだっつう自覚足んねんじゃあねぇのかぁ!?」

「……あっ!? テメェ今何って言ったぁ。誰が老害だとぉ? 俺をあんな腰抜け共と同じにするんじゃあねぇえええよおおお糞ガキがァアあああっ!!」



 超えてはいけない線を超えたしまったナイヤガルトは、シバという邪神の逆鱗に触れてしまったのは本人が一番理解しているらしい。

 先程まであんなに毒を吐き不屈の精神を示していたというのに、今ではヤクザに目を付けれたチンピラの如く震えている。

 本来の彼ならばこの程度のミスを犯したりはしないが、異世界人や能力の封印にあたり色々支障を来してしまった。

 そうとしか言えない。



「すっかりあの塵屑糞連中に毒されおったがらにぃ……不愉快極まりないわぁ。覚悟は出来ておるよなぁ〜ナイヤガルトおおぉぉぉ」

「……いや、ちょっと、その──」

「今更謝罪は受け付けん。この世の厳しさをその精神と肉体に嫌という程刻んでくれるわぁあああ!」

「ちょ──ま、待て、話せば分かる。だから……」

「いや、待てん」



 シバがその身から垂れ流す魔力と殺気はナイヤガルトの比ではなく、ただそれだけで理が書き換わりそうになる程強烈な暴威である。

 その次元が違う邪神の魔の手が、ナイヤガルトの頭を掴み、地獄をその脳漿に顕現させようとした時。


 一雫の救いの手が、奇跡的に舞い降りた。



「ふわぁあ〜なんか覚めちゃった……あれ? 二人とも、何してるの?」



 小動物のような可愛い欠伸を噛み殺しながら、眠気まなこな目元を擦るリリアが、低木の上から上体を起こしてぼっーと眺めている。

 本来の姿はこちらなのか、普段の礼節を重んじた態度では無く、見た目に応じた子供らしい口調。

 身に付けている服は緑と青がおり入り混じったふりるのドレス。

 このドレスはリリア自身の感情を現しており、緑と青が混ざった状態は半覚醒の調和を示している。

 表立った行動する際の色は、ある種の幻想さを思わせる白だ。



「──リリア! 丁度良かった。この糞爺が暴力を振るうんだ、何とか言ってくれ!」

「は? おい、待て糞ガキ。自分のやった事を棚に上げて何都合の良い手前勝手な寝言言ってんだぁ、ああっ!?」

「ひっ!? ……負けてねぇぞ、このやろう。早く助けてくれリリア!」



 リリアが運良く目を覚ましたのをいい事に、ナイヤガルトはまた強気な態度で助成を求め、シバに毒を吐きつつ手を伸ばす。



「ふん、散々煽って最後にはその様か……お前は儂から何を学んで来た。呆れを通り越して悲しいわ」



 そんな無様な一部始終を視界に収めたシバは、落胆の表情のまま宙に吊るしていたナイヤガルトを無造作に落とす。

 既に熱も冷めたようで、顎に手を置き詰まらなそうに灯りを見つめている。

 ナイヤガルトは一瞬拍子抜けたかの如く口を開けたが、何を思ったのか次の瞬間には思い切り首を振り、シバの隣にある瓦礫まで恐る恐る移動して腰を据えた。



「……おい、なんか今日の爺おかしいぞ。いつもならまた死闘になるのによ──気が抜けるなぁ〜」

「糞弟子の相手をしてる程の暇が無いだけだ。……お前の相手は疲れる。今日はもう休ませろ」



 そう切り捨てたシバは、犬でも追い払うように手を払い、ぼんやりと意識を沈めていく。

 リリアはいつもと様子の違うシバを見て困惑し、声を掛けようするが、踏ん張りがきかないのか形の良い眉を寄せている。


 流石に今日はもう辞めよう。

 そう感じたナイヤガルトだったが、性というのはそう簡単に治るものでは無く、寧ろこの機会を活かそうと決め込む。



「はぁーん、読めたぞ糞爺! そうやってぼっーとして振りをして、さりげなくリリアを視姦してんだろ!? どうだ、図星だな!」

「えっ!? ……そう、なのシバ──?」



 指を立てて台詞を決め込むナイヤガルトの表情は、悪意と情が混ざった何とも言えない歪なものである。

 急に白羽の矢を当てられたリリアは驚愕後、信頼を裏切られたような哀しい瞳を潤わせながら問う。

 シバがそれなりの頻度でリリアを見守る事は勿論あるが、それは親心のようなものなので、ナイヤガルトのように邪な邪心は決して無い。

 無害な老人と言える。



「……ふっ、全くお前と来たら──後で裏まで来い。内緒の話があるから、必ず来いよ糞ガキぃ」



 そんなお馬鹿な光景を見たシバは一瞬だけ笑い、ドスの効いた低い声でナイヤガルトだけに伝える。

 思惑の違いに腰を下り深く嘆くナイヤガルトだったが、それでも健気に挑発を繰り返す。



「……くっ、でも、見てんのはホントだろっ!? リリアも嫌なら糞爺を殴っても良いんだぜ!」

「──だから、様を付けろと言っておろうが。それにのぉ、儂は知ってるぞ、ナイヤガルト」

「あ……何がだよ糞爺。言ってみろやボケ」

「お前、結構な頻度でリリア様の胸を見て薄気味悪い笑みを浮かべてるだろ? はっきり言って丸分かりだからの。知らないのは大馬鹿物の貴様だけだぞ」

「……え」



 空気が凍えて止まる。

 主にナイヤガルトを中心に半径十センチ程度が。

 今まで以上に眼を見開き口をパクパクと上下運動させるナイヤガルトは、ギギィと壊れた機械のような音を立ててリリアの方を見る。

 当のリリアは僅かに頬を朱色に染めて視線を下側に向けているが、少なくとも嫌悪の類の感情は抱いて無い。

 頭の中が真っ白なナイヤガルトには、そんな細かな機微を拾える程の余裕も理解も無いのが残念の一言に尽きる。



「ああ、あーその、今のは糞爺のツマラナイ戯言だから、間に受けんなよリリア。そもそもさ、俺がそんな事する訳無いじゃん、な?」

「え──う、うん……」

「お、おう──」



 微妙な空気が二人の間を静かに流れる。

 ナイヤガルトは掛ける言葉を見失い、リリアは本当の気持ちを言うのに躊躇いを。

 そんな若い二人を眺めているシバは目を細め、数千年前の青春時代を少し思い出していた。



「あーもうっ! 糞爺の所為でリリアに変な誤解されたじゃあねえがよぉ! どうしてくれんだゴラッ!!」

「喧しいわ糞弟子。事実を事実と言って何が悪い。文句があるなら拳で語れ……語れるだけの勇気があるならの、糞ガキ」

「……上等じゃねえかぁ──殺ってヤラァアああっ!!」

「あーあ、またこうなる……もう、いいもん! ナイヤガルトの馬鹿」



 やけくそ気味に啖呵を切り、拳を振り上げるナイヤガルト。

 少し拗ねた態度で肩をガクッと下ろすリリア。

 二人の感情はそれぞれの方向を貫いているが、共通するのは正の感情。

 リリアとナイヤガルトは意味は違えど笑みを浮かべ、今だけに没頭している。



「……世話が掛かるのぉ」



 ぼそりと呟きそんな二人の様子を見守るは、慈愛のこもった表情をしているシバ。

 そんな様子を見せるのは刹那にも満たない僅かな間だが、確かに穏やかな声で言った。


 二人は若いからこそ、古き呪縛に囚われ呑まれつつある。

 ナイヤガルトは一族の負の部分を強く受け継ぎ、リリアは偉大なるアースワルドの直系者故が責任。

 どちらもシバの代で片付けなければならない事だったが、当時──現在においてもどうしようもない難題であり、それが絶望でもある。


 だからこそ、せめて今だけは安らかにいて欲しいと願う。

 やがて来る極大の絶望まで。


 そう遠くない将来、確実に訪れるであろう凶事。

 それは、シバ一人で何とか出来る類のものでは無く、この世界に住む全ての生物が力を合わせねば成らない程のもの。


 その時までに彼等に何を教え、己自身にはいかなる路を示すか。

 悠久の時を生きる彼にしても、その答えは見つかっていない。


 しかし、後世の為にも必ず示さねば為らない事だとは、シバ自身も自ずと理解していた。

 


 ◇◆◇◆◇◆◇◆



 流れるようにナイヤガルトの殴りを躱し、時折様子を見て一撃を加える。

 ナイヤガルトの身体からは汗が滝の如く流れ落ち、今にも昏倒しそうな程息を切らしながら戦闘を続けていた。

 既にリリアは眠りに就ている。

 邪魔にならないよう配慮をし、戦闘を継続しながら藤堂雅臣がへし折った大木付近まで来ていた。

 幾度繰り出そうとも当たる気配の無い攻撃は、ナイヤガルトの体力と精神を削る効果しかない。

 やがて遂に力尽きた肉体は派手に転がり、仰向けの体勢で必死に酸素を取り入れる。



「はぁはぁーちくしょうっ! こ、れだけ、やっても駄目か……やっぱ、力の封印は、いてぇ」

「まだまだ精進が足りんぞ糞弟子。後、封印の所為にするな馬鹿者め」

「──んな事言われてもよ、きついもんはきついんだよぉ。ったく、もう動けねぇわ」

「手は貸さんぞ」

「……いいさ、別に。それよりもさ、一つだけ訊かせろよ」



 一切の容赦無く切り捨てるシバの鬼畜振りは恐ろしいものだが、予想外の態度と言葉に怪訝な表情を浮かべる。

 特に返答があった訳でもないのに、不満そうに眉を僅かに顰めながら言った。



「リリアから最後に聞いたんだけどよ……何であの男に助言をしたんだ?」

「……」

「そりゃあよ、今は勝手に異界の人間を殺そうとしたのは反省してるぜ。だがなぁ、傷を癒すのはいいとしても、それ以上は違うだろ。あいつらが何をしたのか、糞爺が一番良く知ってんだろうがぁ! 何であんな言葉を掛けた!!」



 矢継ぎ早に感情をぶち撒け、瞳に強い怒りを宿してシバを睨み付ける。

 終いには涙を浮かべた目元を腕で隠し、普段は決して言わない本音を吐いてしまう。



「糞爺は……爺は、俺の事を何とも思って無いのかよぉ」



 その言葉の真意や重さは他者には解り得ないもの。

 ただ一つ理解出来る事は、彼も彼なりに業を重ね今がある。

 藤堂雅臣がそうであるように、ナイヤガルトもまた相応の理由が重くその心に枷を繋ぐ。


 シバは何を言う訳でも無く、黙ってナイヤガルトの本音を聞き、やがて静まった頃に口を開く。


 

「そんな訳無かろう。お前の気持ちは痛い程分かるわ馬鹿者め」

「だったら何で──」

「──今は理解出来んかも知れん。だがな、ナイヤガルトよ。お前が憎む異世界人もまた、我等同様、被害者なのだよ。ただ、それだけに過ぎぬ」



 表情からは何も読み取れない。

 ナイヤガルトは明らかに理解してないようで、憤怒を隠して切れていないが、シバから同意を得られたので複雑な心境に陥っている。



「……何だよ、そんなの意味わかんねぇけど、もういいや。──今日は悪かったな、糞爺」



 ふくれた子供のようにそっぽを向き、仰向けの状態でナイヤガルトの頭上付近にいるシバを見据える。

 バツが悪いので視線をそらしながらぶっきらぼうに謝る姿は本当に子供らしい。

 そんな姿に呆れを覚えつつシバは、ナイヤガルトに向けて右手を差し出す。



「ほら、早く掴まれ。一人では立てんだろ?」

「爺──けっ、礼は言わねぇぞ!」



 突然の好意にナイヤガルトは、恥ずかしさを誤魔化す為反対感情を口を出すが。


 次の瞬間、それは選択の誤りだと気付く。



「ほぅ、大人しく礼でも言えばこのまま寝かせてやろうと思うたが……ナイヤガルト、お前さっき言った内緒の話は勿論覚えておるよなぁ?」

「……え、ええ? えええっ!?」

「三段活用してしても駄目だぞ。もう遅い、諦めて裏に行こうぜ」

「ちょ、ふざけんな! やめ、やめ──済みませんでしたアアアアアアアアアッ!!」



 見苦しく抵抗するナイヤガルトを強制的に引きずり、シバは夜の闇の中へと姿を隠す。


 その日、ナイヤガルトの悲鳴が途絶える事はなかった。


 リリアは夢の中で、ナイヤガルトと一緒にデートを楽しんでいる。

 当の本人には何の影響も無いが。



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