青春の輝き
「信じれば夢は叶う」
誰がこんなこと言い始めたのだろう。信じてたって叶わないときは叶わない。本当に叶う夢なんてごく一部なんだ。部活動に励む生徒を見るとつい胸が痛む。
「信じてたって、叶わないときは叶わないんだよ。現に俺がそうなんだから――」
――春、様々な部活が新入生歓迎に励む時期だ。真新しい体操服に身を包み、野球部にも新入生がやってきた。
「今日は体験入部の奴はもう上がれー!」
監督の声がグラウンドに響き、一年生のほとんどは部室に向かった。まだどこか幼さが残った顔は、練習で砂まみれになっている。
「ここから、何人残ってくれるかだな」
キャプテンの南条 太一は呟いた。野球部の練習は厳しいと、この高校では有名だった。今日は新入生用のメニューだったので軽めだったが、部員はここからさらに練習だ。
「けどさ、入学する前から入部してくれてる子もいるし大丈夫じゃねーの?」
そう言ったのは真田 伊織。ポジションはピッチャーだ。
「毎年、五月くらいにぽつぽつ抜けるじゃん。俺、あれが気になって……」
「大丈夫だって。逆に五月を乗り切ったら誰も辞めないし。それよりもそろそろ練習再開みたいだぜ」
「あ、本当だ。集合かけなきゃ」
体格も性格もどっしりとしている南条は、皆をまとめるのに適しておりキャプテンにピッタリだった。体格をいかしてポジションはキャッチャーだった。お調子者の真田はムードメーカー。いつもふざけているように見えるが、人一倍努力家で皆をよく見ていた。
どっしりと構える南条とムードメーカーの真田は、波長が合うのか高校に入ってからずっと仲良くしていた。
「おい、真田。帰ろうぜ」
新入生が帰ってからしばらくして、部活も終わったころにはすっかり暗くなっていた。泥のついたユニフォームを早く脱ぎたいと思いつつ南条は真田に声をかけた。しかし……
「悪い、これからちょっと自主練するからさ。先帰っててくんない?」
そういって真田はグローブを持ち、もう一度グラウンドへ向かった。いつもは一緒に帰るのに。南条は自分もした方がいいのかと思いつつも、部室へ向かった。
それから毎日、真田は居残りで自主練をした。天気など関係なく、雨が降っている日も居残り練習を一人でしていた。毎日の部活は決して生ぬるいものではない。三年間続けていたとしても、終わった後はへとへとだ。最初は何も言わず見ていた南条だったが、どんどん心配になってきた。
「じゃ、今日も居残り練するから」
「まてよ。最近、走り込みも自主練としてしてるって言ってたよな。最後の甲子園が近いとはいえ、あんまり動きすぎるとオーバーワークで体壊すぞ」
「大丈夫だよ。ちゃんと寝てるし、じゃあな」
そう言って、真田は逃げるようにグラウンドへ向かった。南条はその後ろ姿を見てることしかできなかった。
「甲子園に行きたい」
これは、野球部にとって全員共通の夢だった。しかし、毎年準決勝あたりで負けるのがうちの野球部だ。俺が一年生の時も、二年生の時も準決勝で負けていた。真田は、甲子園を見て野球を始めたと言っていた。だから、憧れが強いのかもしれない。それに、いつもふざけたふりをしているから気づきにくいが、真田は努力家で真面目だ。テスト前はよく寝不足で体調を崩している。そんな奴に大丈夫なんて言われても信じられるわけがない。
南条は真田のことを気に掛けつつ、帰路についた。
「ふー……」
自主練もひと段落し、誰もいないグラウンドで一人、ため息をついた。俺だって、仮にもこのチームでピッチャーをさせてもらってる。俺は、このチームの要といっても過言でもないのだ。それなのに、最近俺はチームの足を引っ張ってる。そんな気がした。皆、うまいのに俺だけ足を引っ張ってる。もっと頑張って、野球部の悲願である甲子園出場を目指さなければ。
「痛っ……」
右膝から鈍い痛みが伝わった。やっぱり、南条の言う通り少しオーバーワーク気味なのかもしれない。
そう思った真田はグラウンドを整備し、一人帰路についた。
地方予選の対戦校も決まった次の日曜、ハードな練習の前に体を休める目的から部活は休みだった。しかし、真田にとってそんなことは関係なく家の近くを走っていた。
真田は最近ずっと右膝が痛く、階段を上るときやストレッチをするときに特に痛みを感じた。そんなことを気にせず、走っていたのが仇となった。
「痛っ……!」
真田は走り始めてしばらくして、激しい痛みを膝に感じた。歩くこともやっとな状態のなか、なんとか家に辿りつくものの二階にある自室に上がれない。異変に気付いた母親がパニックになりつつ病院に連れて行ってくれた。
「ガソクエンですね」
「はい?」
聞いたこともない病気の名前に驚き、ついまぬけな声が出る。医者はパソコンに映った真田のカルテを見ながら、説明をした。
「鵞足炎。膝の内側が痛くなるのが特徴です。原因は真田さんの場合、クーリングダウン不足または休息不足でしょう。話を聞く限り、大会に向けて練習をしすぎてたんでしょうね。受験生ということで勉強もしていてうまく休息もとれてなかったんでしょう」
「どのくらいで治るんですか?」
震え混じりの声で聞く。その声ですべてを察したのか医者は真田から少し目を逸らして言った。
「早くても二週間はかかります」
「に、二週間後には甲子園の地方予選があるんです。間に合いませんか……?」
「真田さんの場合は症状が進行してるので、それ以上かかると思われます。また、鵞足炎は再発しやすいので治った後もしばらくは安静に」
頭が真っ白になるのが自分でもわかった。もう野球はできないんだ。皆と甲子園にいけないんだ。
それからしばらく、医者は病気の治療法など細かく話してくれたが覚えていない。抜け殻のようになった俺は、いつの間にか自室のベッドで寝ていた。膝が痛いのにどうやって階段を上ったのかも覚えていない。机の上に置かれた病院の診察カードだけが、悲しい現実を告げていた。
次の日、真田は、いつも自転車で四十分かけて行く学校へ母に車に乗せてもらい、いつもの半分の時間をかけて行った。車の中は気まずい沈黙が流れ、真田の母は
「送り迎えできるときはできるだけするわね」
とだけ言い、あまり話そうとはしなかった。真田は、昨晩自分が両親に話した自分の決心がこの気まずい雰囲気を作り出してるのは重々承知していた。しかし、真田は自分の決心を変えるつもりはなかった。
移動時間は短いものの朝練にでないのでいつもより家を遅くでた。いつもより遅く学校に着いた真田は母に礼を言い、すぐに職員室へ向かった。この時間なら監督もすでに学校に来てるはず。朝練は、監督は出ない自主練のようなものなので監督は職員室に居るはずだ。
真田の予想通り、監督は職員室に居た。真田は普段は使わないエナメルバッグから医者からもらった診断書を出し、監督に見せながら言った。
「俺、『鵞足炎』っていう病気らしいです。完治に二週間以上かかって、地方予選に確実に間に合いません。だから、先に引退という形にしてもらえませんか」
監督は真田の目をじっと見た後、静かに頷いた。
「真田が、鵞足炎にかかったそうだ。地方予選までに完治しないらしいから、先に引退するらしい」
「今まで、ありがとうございました。俺の分まで頑張ってください」
そうとだけ言うと、すぐ真田は野球部を後にした。
南条が一番恐れていたことが起こった。予想はしていた。もしあの時、俺が強く止めていたら。もしあの時、俺がちゃんとしていたら。そんな「もしも」の話が南条の頭の中をぐるぐる回り、それと同時に強い後悔が頭を占拠する。真田が去ったあと、部員は全員落ち着かない様子だった。真田の代わりは誰だとか、真田のけがは本当に間に合わないのかとか様々だ。
「それにしても、真田先輩も薄情だよな。野球部のカバンじゃなくてエナメルで来てさ。それに挨拶もそっけないし、あの人にとって野球部もそんなもんだったんだな」
南条の中に激しい怒りがこみあげてくる。自分のキャプテンというポジションを気にし、口には出さなかったものの、怒りを抑えるのに苦労した。
先輩と呼んでいたので後輩が言ったと思われるが、誰が言ったかはどうでもいい。ただ、真田を馬鹿にするな。あいつはここに来るだけで心が苦しかったはずだ。野球部のカバンじゃなかったのも決心が揺るぐのが怖かったからだ。あいつの、泣いたせいで赤くなっている目でわかる。目なんか見なくても誰よりも甲子園に行きたかったのはあいつだって知ってる。俺は、キャプテンとして公平な立場でいなければならない。ただ、一人の友達としては引き止めたかったんだよ。
野球部を引退してからの真田の生活は退屈なものだ。受験生なのだから、勉強しなきゃいけない。今まで、数えるほどしか行ったことがない図書室に放課後毎日通った。どうせ、帰りは母親を待たなければいけない。そのついでに図書室で勉強をしている。ただそれだけだ。
図書室から校門へ行く途中、様々な部活動が練習している。校内を歩いてると聞こえる吹奏楽部の練習は、心を穏やかにする。下駄箱へ行く途中にある体育館からは、ボールが跳ねる音が聞こえる。そして、下駄箱から校門へ行く途中には、野球部の掛け声。
皮肉なものだ。みんな夢が叶うと思って練習してる。その中から夢が叶うのは、夢の大きさにもよるけどほんの一握り。信じたって夢は叶わない。だって、実際に俺がそうだったのだから。
真田が引退してから一週間以上、野球部は地方予選まで数えるほどになった。真田にとって、野球がないという非日常は日常に変わりつつあった。クラスメイトの対応は変わらない。いつも通り話してくれた。ただ、野球部員はあまり積極的に話そうとはしてくれなかった。クラスに野球部員はいないので、話す機会がないからかもしれない。しかし、そのことは真田にとって好都合だ。つらい過去を思い出す必要がない。もう、あんな辛い出来事を後悔しなくていい。そう思えた。真田がそう思えるように、野球部員はあえて真田を避けていたのかもしれない。
地方予選三日前、真田のクラスにとある人がやってきた。お昼を食べているとクラスの子に誰か来ていると告げられ、出入り口には一人の女子が立っていた。
学年章から読み取れる、学年は二年。長い髪をひとつにくくった女子は、野球部のマネージャーだった。
「真田先輩、お昼中庭でご一緒しませんか?」
真田は言われるがまま中庭へ行き、二人で弁当を食べる。
女生徒の名前は藤堂 若菜。二年生の野球部マネージャーだ。真田たちの代、つまり今三年生の代はマネージャーがいない。今は、二年生に一人、一年生に三人マネージャーがいる。一年生が入るまで、藤堂は二年生で後輩という立場でも先輩に物怖じせず、きちんと言いたいことを言う。だからこそ、一年生が入るまで一人でマネージャー業をこなせてたのかもしれない。
「先輩、もう野球部来ないんですよね」
ほら、このド直球。いいところなのか、だめなところなのか……
「まあな、けがも最初のころと比べるとましになったけどまだ完璧には治ってないし。地方予選には間に合わない」
「けど、地方予選中に治るでしょ?」
「練習不足な状態で参加してもただの足手まといだよ。再発もしやすいらしいし」
「練習、見るだけとかじゃだめなんですか」
「俺だって、受験生だぜ? 練習にも参加してないのに見にいけないよ……」
「いい加減にしてください!」
藤堂が怒鳴った。
「さっきから、うじうじ。人の目も見ず、下向いて話して。今まで先輩は、ちゃんと人の目を見て話してましたよ。どうせ、まだ未練があるんでしょう? 私、先輩がわざわざ遠回りして、野球部を毎日見てから帰るの知ってますから。先輩だけじゃなくて、キャプテンも先輩の代わりにピッチャーに入った小西君も元気ないですし。それぐらいわかるんですよ、マネージャーなめないでくださいね」
そういいつつ、藤堂は空になった弁当箱のふたを閉めた。そして弁当箱を入れたカバンから一つ、封筒を取り出し、真田に渡した。
「これ、地方予選一回戦のチケットです。キャプテン、先輩抜けてからその穴を埋めるかのようにずっと練習してるんです。どうせ部活やめて暇を持て余してるんでしょう? 他の先輩方のためにも来てくださいね」
そう言い残すと藤堂は、自分の教室に帰った。
「あいつ、自分が言いたいことだけ言って帰りやがって……」
つい、ため息がこぼれる。昼休みの終わりを告げるチャイムが静かな中庭に響いた。
真田は家に着き、弁当をエナメルバックから取り出すと藤堂からもらった封筒が落ちた。
「開けるの忘れてた……」
真田は封筒を開けて中身を見る。そこには、一枚のチケットと小さなフェルトで作られたキーホルダーが入っていた。真田の通う高校では様々な部活で、大会や何か大きなイベントが近くなるたびにフェルトのキーホルダーのようにお揃いの何かを作ることが流行っていた。野球部も例外ではなく、大会が近くなるたびにマネージャーが作ってくれていた。そのキーホルダーを野球部全員お揃いのカバンにつけるのが、大会前の恒例行事であった。
「今回は、貰えないと思ってたのにな……」
そう思いながら、部屋の隅に置いてある野球部お揃いのカバンを見る。もう見たくない、けど片づけたくないと思って部屋の隅に置かれていたカバン。そのカバンに貰ったキーホルダーをつける。
「こんなことしてるから、未練があるって言われるんだろうな……」
そう呟き、今まで貰ったキーホルダーを眺める。自分の青春の塊のようなキーホルダーは、今のままでいいのかと自分に訴えてきているような気がした。
「結局、来てしまった……」
甲子園地方予選一回戦当日。真田は試合が行われる球場へ電車を乗り継ぎ、こっそり来ていた。野球部を引退した手前、試合を見に来ることが気まずかったので自分なりに変装をしたが、普段着で帽子を深くかぶっただけ。変装からは程遠かった。
真田の高校の生徒が固まって応援してる様子が見えたが、あえて真田は一般人が多い席に入った。しばらくすると、試合開始のサイレンが響いた。さあ、試合開始だ。
グラウンドに響く掛け声は、現役時代を思い出させる。選手はみんな、キラキラと輝いている。いや、応援をしている人達も。抜け殻のような今の俺とは大違いだ。
周りの人が大声で応援してる中、真田はじっとおとなしく試合を見ていた。けがをしてるからもあるが、おとなしく見たい気分だった。俺が引退してから数週間、みんな前よりさらにうまくなっていた。ただ――
「小西、もう少し力抜けばいいのに」
それぞれに気になる点があった。ここをこうすれば、もっとうまく打てる。あそこをああすればもっと早く投げれる。そのようなことを一人でぶつぶつ言いながら、試合を見ていた。
試合も最後に近づき、ここを守れば勝てるという正念場。真田は手に汗を握り試合を見ていた。小西の足は震え、限界を訴えている。しかし、ここで決めなければ男ではないぞ、小西。そう自分に言い聞かせ、小西はボールを投げる。相手を見事三振させ、試合終了。野球部は見事一回戦を突破した。
「真田先輩!」
試合終了後、帰ろうとしていると声をかけられた。
しまった、ばれた!
振り向くとそこには藤堂が立っていた。
「先輩、来てくれたんですね! ありがとうございます」
一回戦を突破したからか、やや興奮気味の藤堂はいつもよりも声が少しだけ大きい。
「よければ、これからミーティングなんですけど来てください!」
「い、いや俺は……」
「真田先輩」
いつの間にか小西が藤堂の後ろに立っていた。
「本当に心配してたんですよ。みんなのために、何よりも南条先輩のために」
そう言われ反論ができなくなった真田は二人に連れられ、ミーティングに参加した。
「みんな、よくやった。ただ、勝って兜の緒を締めよ。気は抜かず練習してけ」
いつも通りの監督の挨拶はどこか懐かしく感じられた。
「では、最後に真田から一言もらおうか」
「え?」
こんなこと、聞いてないぞ。何か言うこと……。いや、ある。ただこんなこと言うと嫌われるか? お前、辞めたくせにとか言われるかもしれない。そんなこと言われたら……
「真田、無理に何か言わなくていいぞ」
南条の声で我に返る。いや、ここで何か言わなければ俺は何も変われない。俺は抜け殻のような毎日から変わりたいんだ……!
「み、みんなよく頑張っていたと思います。こんな俺が言うのはおかしいけど、本当におめでとうございます」
震え混じりの声で話す。怖いがここで決めなければ変われない。
「ただ、みんなもっと改善点があると思います。まず、小西はもっと力ぬいて投げたら無駄に体力使わなくてよくなるから、後半の疲れがましになる。お前は技術が高いから自信もったほうがいい。あと南条は――」
真田は試合に出てた全員の改善点と良い点を述べた。話しているとき、真田はずっとうつむき誰とも目を合わせないようにしていた。
全て話し終わると、沈黙が続いた。真田は沈黙に恐怖を覚えた。皆に嫌われたと思いかけたその時――
「すごく適切なアドバイスだな」
南条が口を開いた。
「俺、ずっと悩んでたことだからさ。あの一試合だけでここまで見抜かれるとは驚きだったよ」
「そうですよ!」
次に口を開いたのは、小西。
「俺、どれだけ体力つけても後半いつもばててたんで、ありがたいです。ありがとうございます」
小西がそう言うとそれに続き、皆あれこれ言い始めた。その会話の中には真田を批判する内容はなく、ほめる者しかいなかった。
「あの、もしよければ俺をもう一度野球部に入れてくれないかな?」
真田がそう言うと部員は全員声を揃えて言った。
「もちろん!」
真田はその日から野球部としてもう一度活動を始めた。しかし、選手としてではない。マネージャーとしてだ。けがのため、あまり活発には動けなかったができる限り手伝った。
真田が主にしていたことは、部員への細かいアドバイスだった。真田は自主練として、自らの投げる姿、打つ姿をビデオで撮って見直したり、プロの投げる姿を観察したりということをしていた。その経験を活かし、真田は的確なアドバイスを続けた。
その年、野球部は決勝戦まで駒を進めた。残念ながら、決勝戦で甲子園常連校の私立に負けてしまったが、真田は大いに満足していた。
数年後――
「ただいま」
誰もいない部屋に声が響く。男はネクタイを緩めながら、テレビをつける。スーツを着るには少し暑くなってきていた。もう、夏は近い。
「次のニュースです」
テレビの中の女性のニュースキャスターは淡々とニュースを伝える。地方のテレビ局なので、地元のことを多く伝えてくれる。男は家に帰ると必ずこのテレビ局でニュースを見ていた。
「本日、甲子園地方予選決勝戦が行われ、甲子園出場校が決定しました」
そこには男が通っていた高校の野球部が映っていた。男も元野球部であり、とても喜ばしく感じた。
「へー、あいつやるじゃん」
そう言いニヤリと笑うと炊飯器の音が鳴り、男はキッチンへ向かった。テレビの中のニュースキャスターは甲子園出場校について話す。
「今回、強豪である私立海宮高校を破り見事甲子園へ駒を進めた県立南原高校。その奇跡の裏には、素晴らしい監督のサポートがあったと選手は語ります。その監督へのインタビュー映像をどうぞ」
場面は変わり、一人の男と女性アナウンサーが映る。
「監督は、元南原高校野球部と耳にしましたが本当ですか?」
「はい。私自身野球部時代、甲子園を目指し練習してました。残念ながら選手としては出場できませんでしたが、監督という立場で出場できて監督として、そしてOBとしてとても嬉しいです」
「画面の向こうの皆さまに何か一言お願いします」
「えーっと、実は私は三年生の時にオーバーワークで体を壊しました。そのときにもう野球を辞めてしまおうと思いましたが、たくさんの人の支えでこのような形でまた野球を続けました。甲子園出場という夢も監督という立場ですが、叶えることができました。みなさん、何事も諦めず、できるとこまで頑張ってください。諦めなければ、何かしら起こります。思わぬ形で夢も叶うかもしれません。頑張ってください」
「素晴らしいお話、ありがとうございました。以上、南原高校野球部監督、真田伊織さんへのインタビューでした」
Fin.
ここまで読んでいただきありがとうございました。
この話は個人的に気に入っている話です。気が向けば続きも書くかもしれません。
また次回作でお会いしましょう。