帰ってきた。
とあるファンタジーの世界のお話し。
あー・・・。
うあー・・・。
ちょっと頭がついて行かない。
ファンタジーかと思ったら、SFだし、宇宙とか言い出すし、ブラックホールとか言い出すし。
そして、ヘレの事なんて言おう。
あ、そうだ。どれだけ家を留守にしてたんだっけ・・・。
家だ。
マイホーム!
やっと帰ってきた。
わが家。
あー。懐かしい。
1か月近く帰ってなかっただけだけど、ひどく懐かしく感じる。
母さんにどれくらい僕がいなかったのかと聞いたら、意外に
「何言ってるの?あんたが学校に行った帰りに帯広にいるっていう電話があって、お母さんびっくりしたんだからね?」
と言っているところで、全く時間は経っていないようだった。
そんな事を言われて、今までの出来事が夢の中だったような感覚に陥った。
隣にいるヘレがいなければ実感がなかっただろう。
あと、自分の革と簡素な布の服を目で見なかったら、本当に夢だったのでは?と思った事だろう。
「えっと、ヘレちゃんでいいのよね?ちょっと窮屈かもしれないけど、客間があるからそこで寝泊まりして頂戴ね?」
母さんはそう言って、和室の部屋をヘレが止まれるようにつくろった。
ヘレは「ありがとうございます。」とだけ言って、頭を下げた。
父さんも帰ってきていて、最初はぎょっとして戸惑っていた感じだったけど、「よろしくね。ヘレちゃん。」と言っていた。
まぁ。
あれだね。
難しい事になると、思考を停止するのはもう、血かもしれないね。
うん。
事実をそのまんま受け入れてくれる両親に感謝しつつ、僕たちは一つ屋根の下で生活することとなった。
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僕ガッコウ。
ヘレは家。
僕帰宅。
ヘレ「おかえりなさい。」
そんなやり取りの今日。
まぁ・・・。何気ない一日でした。
学校では何でもなく、普通の一日だった。
教科書をあっちの世界に忘れたため、また教科書を買い戻す羽目にはなったのだけれども、それ以外は何のこともなかった。
だって、僕がいなくなって1秒も経っていなかったっぽいしね。
そりゃ何もないわな。
ヘレの方は父さんが色々質問をしていた。
やれ「何処から来たのか?」や「学校はどうするのか?」やら「文字が読めない?じゃあ今までどうやって生きてきたのか?」とか「口の動きと発音された言葉とがあってないね?どうなってるの?」とかだ。
父は大学の言語学教授で、ヘレの口の動きと文字の読解力のなさにすごい驚いている様子だった。
それでも、エイフェさんから借りている同時翻訳機器のおかげだろうか。文字は彼女の目を通して、理解はできるみたいだけど、細かい言い回しとか難しい言葉は読めても理解には難しいようだった。
一回文字が読めないヘレがどうやって文字を読んでいるのか?ということを聞いてみたら、頭に直接見た言葉が入ってくるみたいだった。
へー。
僕もそんな経験してみたい。
あと、食事もヘレはびっくりしていた。
「こんなにおいしい者初めて食べた」とか「え?歯を磨くって何ですか?」とか「お風呂!?いきなりお湯が張ってあってなんですか?魔法なんですか?」とか。もうヘレもヘレで理解が大変になっているっぽい。
まぁ。
そうですよね。
ここと向こうでは全然違うからね。
そして、数日は彼女の「こんなもの見た」とか「あんなものをいじった」とかそういう話で盛り上がっていた。
母さんから「いい加減もう寝なさいよ」という言葉が出るほど、僕たちは毎日話していた。
ヘレも、いつの間にか中性的な感じじゃなくて、僕と同じくらいの女の子のように感じられた。
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「ヘレちゃんを俺の大学に連れて行こうと思う。」
父さんがそんな事をある日言った。
何でも、家でじっとこもっているのも良くないとの判断だったのだろう。
知見を広げるためにも、教養が必要と思ったんだろう。
小学校や中学校、高校に通わすにはいろいろと手続きが必要なため、難しいらしいので、比較的出入りが自由な大学へと一先通わせようという事だった。
僕としては、一緒の中学を通えたらなぁと思っていたから、ちょっと残念に思った。
ヘレは毎日が楽しいらしく、元気に「はい!お願いします!」と言っていた。
もう、向こうでの落ち込んだ姿は見られない。
それよりもいろいろ吸収したことが多いのだろう。
彼女は何も知らないに等しいから、好奇心が貪欲なのだろう。
僕も早く大学生になりたいと初めてそう思った。
ぼんやりと、ゲームデザイナーとか、小説家とか、漫画の原作書きとかそんな将来像を考えていたけど、今はヘレと一緒に学校に通いたいという動機が勝っている。
この地球に帰ってきて、僕の精神も安定したのか、初めて出会った女の子の友達だ。
大事にしたいと思っていた。
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そんなこんなで1か月くらいが経った。
ヘレは毎日「大学でこんなことを学んだ」とか「アキ君のお母さんから料理を学んでる」とか吸収がすごい速い気がした。
僕も負けてられないと思い、学校の授業はすごいまじめに取り組むようになった。
今まで寝ていた授業とか、全部起きて、予習復習を欠かさなくなった。
母さんも父さんも、家に新しい兄妹でもできたみたいにヘレを扱っている。
僕にとっては若干気になる存在になっているヘレだけど、肝心の彼女は僕の事なんてあんまり気にも留めてないのかもしれない。
どんどんと新しい事に感動して、そして学んでいっていた。
そんな時だった。
エイフェさんから連絡があった。
「やぁ。無事に帰れたみたいだね。安心したよ。そっちでの生活はどうだい?順調かい?」
「はい。僕もヘレも元気にやっています。」
「それを聞いて安心したよ。」
僕とヘレは僕の部屋でエイフェさんと話していた。
翻訳機器に、通信機能が備わっているようで、こうしてエイフェさんと話すことができるのだった。
なんでも、あの星にいると時間の経過が狂っているから、今は宇宙船から話しかけているらしい。
「こっちの世界では既に数十年経ったよ。」
その言葉にヘレの表情が曇るのが分かった。
あの星で残してきた母親の事だろうという事はすぐにわかった。
「あの・・・私のお母さんは・・・。」
そうつぶやいた。
「うん。もう既に亡くなっただろうね。」
ヘレの表情が暗い。
まぁ・・・。そうだろうな。
いくら覚悟をしてきたと言っても、肉親の死は辛いものだろう。
僕だって、両親がいつまでも生きているとは思っていない。
ただでさえ高齢出産で、参観日にはおじいちゃんおばあちゃんと言われているから、僕が思っているよりも早くに亡くなるんだろう。
でも、今の僕に彼女を慰める言葉は見つからなかった。
「それでね?君たち2人に相談なんだけど、僕の仕事を手伝ってもらえないかな?」
エイフェさんは話を続けた。
何でも、あの星の世界を自分たちが交渉しやすいように、星の統一を図ってほしいという事だった。
「もちろん、仕事だから報酬も出すし、君たちの体をちょっと強化しようとも思ってる。魔法も全部使えるようにするしね。どうだろうか?」
そんなすごい事をサラッという。
体を改造されるってどういう事だ?
仮面ライダーとか、マーベルのコミックの超人みたいになるのかな?
もうエイフェさんの話にはあんまり驚かなくなったけど、なんていうか・・・想像の次元が違うというか・・・。
「まぁ、こっちで数百年過ごしたところで、そっちの星では数週間くらいしか変わらないからね。」
1週間の小旅行だと思えばいいのかな?
っていうか、数百年て。
また話のスケールが上がったけど大丈夫なのかな?僕が。
「っていう事は、僕たちは数百年生きられる体になるってことなんですか?」
「いや?数百年どころか寿命では死なないよ?」
またー。
すごい事をサラッと言う。
もう、なんていうか、話がすごすぎる。
「まぁ、でも不老不死ではないからね?記憶のバックアップはある程度取れるけど、君たち自身の修復は出来ない。だから、絶対に死んでもらっては困るんだ。」
あー。
そうですか。
記憶のバックアップとかそういうレベルの話もあるんですね。
もう驚かないわ。
すごすぎて、思考は完全に停止したわ。
「とりあえず、母さんに相談します。後でまたかけなおします。」
そう言って通信を切った。
さて・・・。
俺は親になんて言えばいいんだろう?
また神隠しにあって、違う惑星に行って、そこで数百年の活動を得て、でも、地球に帰ってきても1週間くらいしか経ってないから、小旅行に子供を行かせると思って、送り出してください?
みたいな?
自信ない。
そんな説明できる自信ない。
そして、わが子が少なくとも寿命では死なない体になって帰ってくるという事も説明しにくい。
「アキ・・・。私も一生懸命話すから、あの星に帰ろ?お母さんのお墓参りもしたい。」
ヘレのその言葉が現実的で、僕は決心した。
ヘレにお母さんの墓参りをさせよう。
その他のエイフェさんから言われたお仕事は、そのあとよく考えよう。
まずはうちの両親の説得からだった。
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うちの両親に話したところ、意外なことに簡単に許可をしてくれた。
違う惑星の事。
超科学を持った異星人の事。
その人物から、とある惑星の調停を頼まれたこと。
僕たちが簡単には死なない体になる事。
話せば話すほど嘘っぽい事なのに、母さんと父さんはすんなり受け入れて、僕を送り出してくれた。
いや、理解はしてないんだろうと思う。
だって、僕だって最近色々ありすぎて、やや思考は停止しているのだから。
ただ、地球とその星との時間軸が合っていなくって、ヘレの両親がすでに死んでしまっていて、そのためにお墓参りがしたいという彼女の言葉だけは納得した様子だった。
恐らくは、ヘレの『お墓詣りがしたい』という言葉だけを理解したのだろう。
僕は母さんと父さんのいる間に、エイフェさんに「行きます」とだけ伝えて、またあの星に帰っていくのだった。
僕の両親とも、その通信方法に目を白黒させていたのは可笑しかったけど。
だって、その通信っていうのが、動画通話のように空中にエイフェさんの顔が映し出され、エイフェさんからも「よろしくお願いします」と頭を下げて言ったのだから、なおさら僕にあったことを理解しつつも、半分興奮してるようだった。
そして、僕らはまたあの星。ペガという名前の星に帰っていったのだった。
今度の旅は数年じゃ聞かないレベルの日々を。
そして、あの星を統一する組織の手助けをするという名目を持って。
多くの不安と期待を胸に持って、僕たちはペガの星へ。