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アキ  作者: politru
3/5

え?何で・・・。

とあるファンタジーの世界のお話し。


・・・。

ちょっと・・・・。

展開が追いつかない。

展開が早すぎる。


せっかく打ち解けてきたかな?打ち解けそうかな?と思った時に。

これか・・・・。


涙も出ないじゃないか。


感謝も・・・いや、感謝はしよう。


だけど・・・。あまりにも出会いから別れまでが早すぎではないか。



しかも・・・




別れが死別なんて・・・・・・・・。

















ダンッ!


ハッとして隣を見る。

ヘレが震えていた。

しゃがみこんで、震えながら、地面を叩いていた。


顔がくしゃくしゃで、涙を目に溜めてる。


「なんでだ・・・」


消え入りそうな声だ。

そして


「なんでなんだよ!!!!これから僕はどうやって生きていけばいいんだ!!!!」


何度も大きな声で「ああぁぁ」と叫びながら地面を叩く。



彼女は彼の事を家族のように思っていたのだろうか。

彼との付き合いは相当長かったのだろうか。


僕だって、散々お世話になったのに。

涙すら出ない。


ただ、彼女の悲痛な声だけを聞いていた。


じっとその場に座り込みながら。


ーーーーーーーーーーーーー


その日は、お墓を作った。


ヘレはライルさんの近くから動けず、僕一人で作った。

案外地面が柔らかく、穴掘り用のショベルみたいな道具を持っていた人がいたので、地面を掘るのは苦労しなかった。

数十人分の穴を掘るのは無理だったので、大きな穴を掘った。

何度か死体を運ぶときに、吐きながら。

それでも、時間をかけて埋めた。


特別な宗教の知識があったわけではない。

ただ、肉は腐るものと思っていたからかもしれない。


ふと冷静になったからかもしれない。


彼女が取り乱した姿を見たから。


「ヘレ、ライルさんのお墓を作ったから埋めてあげよう」


日も一回上がって、とっぷり暮れた頃に声をかける。

全ての人を埋め終わった後の事だった。


犬の顔の者たちも別の場所に埋めた。

最初は味方の人たちだけのお墓を作っていたが、どうしても死体を見るのが嫌だった。

だから、味方の人たちとは遠くの場所に作った。


僕の声にヘレは体をピクリと震わせた。


「嫌だ・・・・。」


ヘレはライルさんの手を握っていた。


異性として好意を寄せていたわけではないだろう。彼女は僕に同性愛者だという事を告げたのだ。


僕はヘレを見た。

彼女は男物のズボンにジャケットを羽織っている。

長距離を移動するのだから、動きやすい恰好と考えれば当然と言えばそうなのだが。だからまだ未成熟の体という事もあり、中性的な印象を与えた。

男でもない女でもない。

髪も短く切っており、女性だと言われなければ気づかないだろう。


しかし・・・・


いや、僕は何を考えているんだ。

違う。

今しなくちゃいけないのは彼女の分析じゃない。


「ヘレ。このままだとライルさんはうまく天国に行けないよ?」


ふとそんな言葉が口をついた。


「君は・・・冷静だね・・・・。」


ヘレはぽつりと言った。

非難されたようで、心臓を何かでつかまれたように苦しくなる。


違うよ。

君が取り乱したから、僕が冷静でいられたんだ。

一人だったら途方に暮れただろう。


それもおかしいか。

一人だったらライルさんの死に・・・。


いやいや。まだ知り合って間もない人の死だ。驚いたり、動揺はするだろうけども・・・。悲しむまでライルさんとかかわっていない。


僕は。

それを言葉にすることなく。

ただ。

黙ってうつむいた。


ーーーーーーーーーーーーー


この谷の間に入って2日目の夜。

ようやくライルさんのお墓を作り、多くの死体が埋まっている墓のそばから少し離れたところで、僕たちは腰を下ろした。


ライルさんの形見として、大きめのナイフと、緑色の魔石を手に入れていた。

その2つは今彼女が持っている。

ナイフを腰に差し、魔石をじっと手に持ち眺めている。


夜は肌寒く、僕は肩を抱いて貧乏ゆすりをしていた。

色んな事がありすぎて、おなかは全然減っていない。

彼女も同じだろう。


「ねぇ。」


ヘレが口を開いた。


「ライルさんとは普段どういう話をしていたの?」


視線を緑色の魔石に落としたまま、彼女はそう言った。


「ほとんど話さなかったよ。お互い緊張していたから。」


僕はライルさんとの思い出は、ほとんどが狩りを教えてもらった事だけだ。


「そうか。」


彼女はそれだけ言った。


2日間寝てないせいか、そこで僕の意識は途切れたのだった。

空腹感はなかったが、寒かった。

だけどそれよりもただただ眠かったのだ。


ーーーーーーーーーーーーー


次の日の朝。

よく風邪をひかなかったものだと僕は僕自身に感心した。

体が冷え切っていたけども、十分に睡眠をとったためか、体は軽かった。

おまけに少し空腹感もある。

昨日墓堀りをしたことで、体が温まっていたからだろうか。

代謝がよかったのだろうか。


とりあえず、このままここでじっとし続けるわけにはいかないと、彼女の方を見る。

彼女はまだ横になっていた。

僕より寝るのが遅かったのだろうか。

右手に魔石を握ったまま


・・・?

額にびっしりと汗をかいている?


「ヘレ?」


僕は近寄って彼女の額に触ってみた。


熱い!


熱が出ている。


彼女は「うう・・・」とうめき声をあげながら、うずくまった。


まずい。風邪だろうか。

とりあえずこの場所でこのままでいたら、夜また寒い思いで寝なければいけない。


僕は考えた。

ここに彼女を置いて、薪を取りに一旦来た道を帰ろうか。

しかし、それだと病気の彼女を一人きりにして危険な目に合わないとも限らない。

手荷物の食料には病人が食べられそうなものは無い。

水は十分にあったが、いつまでもつかわからない。


僕は谷の間の先を見た。

ここの入口に着いたのがたしか日が昇り切った後だった。

日が暮れた頃が大体6時だとして、6時間くらいかけてこの場所に来たんだよな。

だけど、戻ったところで開けた場所に着くだけで、近くに川は無かった。

木の実も生った気はなかったと思う。

ライルさんに大体の食べられる野草や木の実は教えてもらったから断言できた。


「あと半分で谷の間の出口に着く」という事をリーダーから聞いた気がした。

そして、ライルさんに出口から東側に沿って行くと、ヤハトの街があり、そこに行く前に川があるから休憩すれば良いというようなことも聞いた気がした。

いや、確かに聞いた。

2日前の休憩のときにそんな話をしていたはずだ。


確か病に聞く薬草が、きれいな水の流れる場所に生えていると言っていた。



ヘレ・・・。

僕はどうしたらいいだろうか。

丁度中間地点という事は、この見渡す限り岩に囲まれた場所を6時間くらい歩かなければいけない。

先に進むにも、戻るにしてもそうだ。


それに・・・。

彼女を置いておくわけにはいかないだろう。

あんなにすごい動きを見せたライルさんでも,死は簡単に訪れたのだから。

弱った彼女をここに置いて、万が一にも何か起こるかもしれない。


僕が先に行って帰ってきたときに、ヘレが力尽きていたら。

僕はこれから先、死んでも死にきれない。

そう思った。


「ヘレ、少し辛いだろうけど我慢してね。」


そう言って、僕は彼女を背負った。


ーーーーーーーーーーーーー


最初は・・・、そう・・・。「イケル!」と思っていた。

だって彼女は重くない。

そう思った。

このままヤハトの街まで行けるんじゃないの?

そんな楽観的に考えていた。


しかし・・・。



30分くらい歩いていたあたりから、彼女の足を持っている手、足に違和感が出てきた。


1時間もしたら足はがくがく言いながら、もう歩けないといった様子だった。


歩き始める際に荷物を整理し、食べ物と飲み物だけを持っていくようにしてなるべく軽装にしたのに・・・だ。

自分がこの世界に来る前に、ろくに運動なんてしてこなかったというのが今になってあだになった。


「こ、ここら辺で一回休もう・・・。」


息も絶え絶えになりながら、僕はそうつぶやいた。

ヘレはすでに目を覚ましていて、すまなそうに僕を見ている。


「ごめん。僕が体調を崩したばっかりに。」


彼女はぐったりと体を横にしながらそう言った。

たまに咳もしている。今日このまままた寒い夜を過ごすというのは体に悪いだろう。

僕は息を整えて、改めて決心を固めた。


「いや、大丈夫。今日中に川があるって言っていこの谷の間を抜けよう。」


そう言って立ち上がり、また彼女を背負う。


「ごめん。本当にごめん。」


耳元で言う彼女の言葉に、ややくすぐったさを覚えながら、僕は前へと進んだ。



何回目かの休憩の後、ようやく僕たちは谷の間を抜けた。

両隣りにそびえ立つ岩の壁が切れたところに足を踏み入れたあの感覚。

絶対に忘れないだろう。

それくらい僕の中には大きな達成感が生まれていた。


やった・・・。僕は初めて偉業を成し遂げたんだ・・・。そんな自画自賛が出てくるほど、僕は達成感が生まれていた。

同じことを二回言ってしまった。

この形容しがたい思いを上手く表現できない。小説家の道は僕にはないな。

まぁ、無事に帰ることが出来たら、また将来の夢は考え直そう。


そんな事を考える余裕も出てきた。


川はすぐ谷の間の出口の横を流れていた。

谷の間の岩の壁の終わりを歩いていた時に、川の流れる音がしていたから、近くに水があるとは思っていた。

歩いて2~3分のところにきれいな水が流れていたのだ。

近くにはライルさんから教えてもらった薬草も生えている。

今日の野宿はここで良いだろう。

僕はヘレを柔らかそうな雑草が生えているところに下し、急いで薪を集めた。


そうこうしているうちに、日はとっぷりと暮れてしまった。

僕はライルさんに教えてもらった通り、苦労しながら火をおこし、彼女に温まるように促した。


しかし、ここでまた困ったことが起こった。

彼女もずっと背中におぶさっていて、心労というかストレスのようなものが溜まっていたのだろう。

体調が今日の朝よりも悪い。

そのせいで、水場まで体を起こすこともできず、食事も全く喉を通らないらしい。

食事と言っても、もう手持ちは干した固い肉しか残っていなかったから、調子が悪い時は食べたくないのだろう。


僕はとりあえず水を飲ませないと!と思い、ヘレが持っていたライルさんの大きなナイフを借りた。

それで木の少し大きい枝を切り、中をくりぬいて簡単で不格好なコップを作った。

それで川の水をすくい、彼女に飲ませた後、やはり何も食べないと病気が治らないかもしれない、と考えた。

一瞬だけ、硬い肉を僕が噛んで彼女に口移しで食べさせようかと思ったけど、流石にすぐにその考えは頭から振るった。

それをやるには、あまりにも僕には根性がない。

いや、根性というか度胸というか甲斐性というか。

それで、すぐに僕は木の実や野生の果物を探した。

幸い、すぐに山ぶどうの様なものを見つけ、彼女に食べさせた。

僕はブドウを食べた彼女に少しほっとした後、一人で近くの森をうろうろ歩いた。


ライルさんからサバイバル技術というのを少しだけ教えてもらっていた。

罠の張り方、弓での狩りの仕方、ナイフ一つでどうやって一人で生きていくか。

たった2週間の講座だったけど、僕はその教えを必死に思い出して、周りに罠を作り、食べられる野草を取り、キャンプの所までを何度も往復した。

夜も深くなるころには、自分たちの周りは安全と言えるくらいの整備はしたつもりだ。

そして、明日は小動物用の罠に何かかかっているといいなと思いながら眠りについた。


ーーーーーーーーーーーーー


次の日は、彼女もようやく体を起こすことができるようになっていた。

これでしばらくしたら目的地であるヤハトの街まで行けるようになるかもしれない。

そう思いほっとしていた。


そして、先日設置した罠を確認したり、獲物を簡単にした処理したり。

ぎこちないながらもなんとか作業を終え、簡単な弓とか釣り竿とか作れないかな?などと思い3日くらいが過ぎた。

その3日後の成果と言ったら、ヘレはようやく回復して、弓矢も作った。

だけど、釣り竿はあきらめた。

いや、しなる枝はあるし、釣り糸の代わりになる細くて丈夫な木の皮も作ったんだけども。

釣り針がどうしてもできなかった。

餌を釣り糸の先につけて、釣り上げるという事をヘレから聞いたんだけども、それがどうも上手くいかない。


「今度教えてあげるよ」


と笑う。

やはり腐っても現代人というか、いや、腐った現代人という奴だろうか。

この狩猟世界で生きていくというには、僕はあまりにも技能が足りない。


その日の夜の事だった。

僕はたき火を見ながら(そろそろ素材の味に飽きてきたから、調味料がほしい。何か塩や胡椒とかに代わるものはないだろうか)とか考えていた。

ふとヘレが口を開いた。


「あのね・・・。」


言い辛そうに目線を落としている。

何を言いたいんだろう?これからの事だろうか。

それとも僕と同じようにそろそろ美味しくない料理に飽きてきたんだろうか。

それはないか。


「・・・、前に僕が女の子の方が好きだっていった事あったでしょう?」


ああ、その事か。

彼女が同性愛者だという事はすっかり頭から消えていた。

何しろ彼女は女性的な体格をしているわけではなかった。

顔だちも中性的で、背負っていた時も思ったけど胸もそんなに出ていない。

だから”男だ”とは思えなかったけど、女の子とも思っていなかった。

そんな事を伝えたら、彼女は怒るわけでもなく、少しだけ笑った。


「僕の周りには、母さんと合わせても数人しか女っていなかったんだ。」


そういえば、村にいた時思ったけど、何件も空き家があった。

結婚していない未婚の男の人の家だったのだろう。

その男の人が戦死したため、家には誰もいなくなったんだろう。


「だから、僕に家の事を教えてくれるのは母だけで・・・。」


彼女は少し言い辛そうに言葉の最後が詰まった。

次の言葉が出てこないようだ。


次に出た話題は家の事ではなく、隣の村へ行った時の話になってた。

年の近い子が周りにいなく、隣の村までは結構歩かなければいけなかったのだ。

遊び相手に会いに行くという事で、その長い距離はそれほど苦ではなかったという事も話してくれた。


「たまに隣の村へ行った時にすごいきれいな女の子がいて、僕はドキドキしてしまったんだ。」


へー、そんな事ってあるんだな。

僕はそんな感想しかなかった。

ユーチューブですごいプレイの自分と同じ子を見て、感動するようなものだろうか。

あの興奮は恋?なのかな?

わからんけども。


「僕はそんな彼女みたいな人となら一緒にいたいと思ったんだ。彼女みたいになりたいっていうのは難しかったから。」


僕はその話をうんうんうなずきながら聞いていた。

これが恋バナというやつなのかな?

なんだろう。あまり興味が持てない。僕がまだ初恋をしていないというのもあるんだろうか。

分からないことは分からないよね。しょうがない。


「僕の過去はそんな感じなんだ。」


まるでその『隣の村で出会った女性にドキドキした』というのがヘレの人生での一大イベントだったと言わんばかりの言い方だ。

そしてヘレは言葉を続ける。


「僕の話はこれで終わりなんだけど、エディも何か話してよ。」


ああ、そうか。さっきのは話すきっかけで、今日は僕とお話がしたいらしい。

合点がいった。

そういえば、最初に話した時もヘレから話題を振ったんだったな。


ふと僕は、学級にいた子で『自分の設定を作ってその設定の人間になり切る』という人を見たことがあった。

魔王だったっけな・・・。その子の設定。

何か前世がサタンだかベルセブブだか、何かのゲームに出てくる奴だったとか何とか言ってた気がした。


ヘレも、『ワタシおんなのこスキー』っていう設定なのだろうか。


とりあえず突っ込んで聞いたらいけない気がした。


さて、僕の事を話そうと過去の自分を振り返ってみる。

・・・と、思い返したところで、特に僕も大きなイベントが自分の身に起こったわけではないんだなぁというのが自分への感想だ。

ヘレが言った「初めて奇麗な人を見た」っていうのは心が揺れ動かされるようなイベントだったんだろう。

僕は普通に幼稚園に入って、小学校をだらだら過ごして、中学校に入って、まただらだら生活していたに過ぎない。

成績もそんなに良い方じゃなかったし、運動だって得意じゃない。

だから、ゲームや漫画や小説の世界で浸っていただけだったんだな。


僕はウーンとうなりを上げた。


「何でもいいんだけどな。話してくれる内容は。小さいときとか何をしていたの?」


と、彼女が促してきた。

だから僕は正直に、半分何も考えずにしゃべった。


「うーん。ゲームや漫画とか、小説とか読んでたかなー?」


と言った。


「ゲーム?漫画?小説?何だいそれは。」


そうヘレが返してきた事に、今更自分がこの世界と自分の世界が大きく違っているという事を思い出した。

そう言われてみたら、あの事件がそもそもの自分の中での大事件だった。


僕はその後、ゲームや漫画、小説といった空想の世界の話を始めた。

ゲームは説明がすごく難しかった。

まずテレビの説明からしなくてはいけなかった。

箱の中に別の世界があって、その世界で主人公を操作するという事自体がちんぷんかんぷんらしい。

これはパズルゲームや、ゲームを作るゲームなんて言ったって絶対に信じられないだろう。

小説については納得がいったようだった。

この世界にも物語を楽しむという娯楽はあるらしい。

だけど、「エディって字が読めるんだね」と言われたことにはびっくりした。

言われてみれば、あの村に文字が書いてあったものは何もなかったように思える。


「何かすごいね。エディの住んでた世界って。魔法の国みたいだよ。」


実際考えてみたらそうなのかもしれない。

僕もこの間見た青い服のリーダーさんが出した炎と、ライルさんが出した風の魔法は心底びっくりした。

きっと彼女が僕の世界に来たら、目を回すんだろうなぁと思った。


その日はいろいろ自分の世界の話を続けようかと思ったけども、まだ病が完全に直っていない彼女を起こし続けるのはよくないと思いなおした。

そして、2~3の短い話をした後、2人は眠りについたのだった。


ーーーーーーーーーーーーー


「そろそろ体調も良いし、ヤハトの街まで行こうか?」


ヘレは焼いた魚を、もぐもぐ口に含みながら言った。

彼女が釣った魚だ。

上手いもので、釣り糸の先にくるくるとバッタの様な生き物を縛り付け、川にチョンチョンと着けるように何度か投げ入れたと思ったら糸の先に魚が付いていた。

そんな事を20分くらい続けただけで、何回も釣れるのだから大したものだと思う。

そして、食べきれない魚は干してしまおうという事で、今岩には魚が何匹か開かれた状態で並んでいる。

僕もウサギやらイタチやら、小さい動物の皮をはぎ、小さく肉を切り分けて干しているところだった。

動物の皮は何かに使えるかもしれないという事で、それも一緒に干していた。


そんな作業をここしばらくやっていたから、すっかりヤハトの街に行くという目的を忘れかけていた。

このままここに小屋でも建てて、2人で住んでもやっていけそうだった。

いや、彼女は女の人が好きなんだったら、2人で住み続けるのは無理かな?


「そう言えば、すっかり忘れていたよ。」


だからこそ、僕は正直にそう答えた。


「このまま2人でここに住むというのも悪くないなぁと思い始めていたからね。」


と僕は続けた。


「あー、なるほど。確かに君と僕とだったら上手く生きていけるだろうね。」


彼女は照れもせずに納得して言った。

僕はそれに「だろう?」と言っているから、ここにはラブロマンもラブコメもへったくれも何もない。何も起こらないだろう。という事だけは分かった。


僕は今まで得た獲物をチラと横目で見る。

イタチの様なヤツ、ウサギ、ヘビなどの皮。

そして、結構な量の干し肉。

ヘレは何匹か干し魚を持っていた。

クルミの様な木の実や、山ぶどうっぽいモノも今干しているところだ。

街に持っていったら売れるかな?


そんな打算的な考えを頭に浮かべて、「じゃあ、これらをお金に換えて、当面の資金に換えようか」と言った。


「いやいや!目的変わってない?エイフェっていう人に会うんじゃなかったっけ?」


ヘレのそんな非難めいた一言で思い出した。

そうだった。

僕は実家に帰ろうと思っていたんだった。

僕は「そうだったね」と少しバツの悪そうな顔をした。


「イノシシかシカを狩ってから行こう」という提案はとりあえず飲み込んだ。

今の僕の弓の技術では、何か月かかるやらわからなかったからだ。


そうして、2人で荷物をまとめてヤハトの街まで行くことにしたのだった。


あ、ちなみにヘビは食べてません。

皮は売れるっていう事をライルさんから聞いていたから、皮だけ剥いで捨てました。

だって、ちょっとグロテスクで・・・。


ーーーーーーーーーーーーー


ヤハトの街まではそんなにかからなかった。

やはり水場の近くに街を形成しやすいという話は本当だったみたいだ。

2日くらい歩くかな?と思っていたところだったので、拍子抜けだった。


街はなかなか広く、ちょっとした地方都市くらいの大きさだった。

建物はどれも2階建てくらいで全て木造だ。

大きな中央通りには馬車が3台くらいは行き来できる大きさだ。

その大きな通りの脇には露店が立ち並んでいて、食べ物から家庭道具、衣類などを取り扱っていた。

その露天商通りを少し歩くと、武器商や銀行、各組合などの店舗があるという。

丁度、大きな道が交差する通りに一際大きい屋敷が、ここら一帯を管理する領主の館だそうだ。

僕が目を丸くして辺りを見ていたら、ヘレが得意そうに説明をしてくれた。

大昔のヨーロッパがこんな感じだったんだろうか。

そんな雰囲気を醸し出していた。


とりあえず、自分たちが持っている皮やら乾燥させた食料品を買い取ってくれるという、商業組合に行ってみることにした。

そこでもしかしたらエイフェの情報が手に入るかもしれないと、2人で決めたのだった。


商業組合は露店が途切れたところにあった。

周りの建物よりも少し大きい木造の建物で、中は人でごった返していた。

すぐ入口のそばに女の人が受付の前で立っている。

僕たちの前にも何組か人が並んでいて、皆それぞれ要件を言って案内を促されている。


「露店を出したいんだが。」


と、ひげを蓄えたがっしりした体格の男が言うと


「それでしたら右奥の部屋になります」


という具合に次々と人々をさばいていく。

僕たちはその女の人に買い取ってほしい商品があると告げると、左奥へ案内された。

奥の部屋には帳簿を付けている男が一人座っていた。

その人の周りには商品が山になってあっちこっちへ置かれていて、それらを職員の人たちがどこかへと運び出している。


「やぁ、これはまた随分とお若い商人さんだね。」


帳簿を付けていた男はそう言って顔を上げた。

物を運び出している職員と比べても、良い服を着ているというのが直ぐにわかった。


「私は、ここの商品を査定しているジョンと言います。よろしくお願いします。」


そう言って、座ったまま軽く会釈をする。

僕たちもそれに合わせてお辞儀をすると、


「それで早速なのですが、商品を拝見させてもらってもよろしいですか?」


そう言って僕たちの手元にある皮や食料品をちらりと見る。


「ああ、はい。僕はヘレと言って、彼はエディと言います。」


僕が一瞬戸惑って、商品を出そうとしたところ、ヘレがそう言った。


「そうですか。ヘレさんにエディさんですね?では時間もあまりない事ですので、商品を見せてください。」


そう言ってきた。

この人にとっては自己紹介なんて二の次なのだろう。

その言葉に応えるように、僕たちは自分たちの品物を彼に見せる。


「野兎とヒェーレ、そして蛇の皮ですか。後こちらは干し肉と干し魚ですか。」


あのイタチみたいな生き物はヒェーレというのか。


「そうですね。これらで大体450リラになります。」


と、そう男は言った。そして


「露店で売るならばもう少し値は着くでしょうが、もし露店を開くならば入口右奥の受付まで行ってください。100リラで1日の露店許可を差し上げます。店を構えるならそれも入口右奥の受付で申し付けてください。1000リラで出店の許可を差し上げます。その際の特典もそこで聞いてくださいね。もし私が言った値段で納得していただけるなら、商品をそこの棚の上にお願いいたします。」


矢継ぎ早にそう言った後、入口の近くの棚を指さした。


僕たちはその言われた通りの棚に商品をのせ、帳簿を付けている男から450リラを受け取る。

目的は露店を開くことでも店を建てる事でもないから、言われた通りの値段でよかった。


「いやぁ、助かります。最近戦争が多くてですね。食料や皮などが不足しているんですよ。」


そう言って男はフッと笑った。


「あの・・・、あと聞きたいんですけど、エイフェという人物を知っていますか?」


僕は帳簿を付けようとしていたその男に向かって言った。


「ん?エイフェ・・・?ああ!あの魔導士の方。あの方でしたらここから真っすぐ領主の館を通り過ぎて3件目の家ですね。」


とだけ言って、直ぐに目線を帳簿に戻した。


僕たちは「ありがとうございます。」とだけ言って、その部屋を後にした。

直ぐに次の商品を持ってきた人が部屋に入っていく。


「小さい時にライルさんに連れられて、あの組合に入っていったけど、やっぱりすごい忙しそうだね。」


ヘレは建物から出た後そう言った。

そこで、ハッと気が付いたように顔が曇る。

きっとライルさんの事を思い出したんだろう。

僕もヘレが風邪で寝込んだあたりは、毎日が不安や食料探しで忙しくて考えていなかったけど、やはりライルさんがいなくなるというのは寂しい事だった。

よくよく考えたら、ヘレほどライルさんとのかかわりは薄いにしても、見知らぬ僕に対してそれなりに良くしてもらったのだ。


「僕が帰れる目途が付いたら、改めてライルさんを埋めたお墓にお参りに行こう」


そう言う僕の提案に、ヘレはコクリと頷いた。


そして、僕たちは商業組合からの情報を頼りに、エイフェのいる建物へと足を運んだのだった。

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