やぁやぁ、僕は白崎アキ
「ぃやあっ!」
僕の剣が敵を切り裂く。
隣には可愛い女の子。幼馴染の○○だ。
「油断しないで!まだ来るよ!」
周りはゴブリンの群れだ。
でも、大丈夫。僕のレベルはマックス近くまで鍛えている。これくらいの雑魚キャラなんて屁でもない!
「だいじょうぶ!僕が守ってあげるよ!」
そう言って、目の前の数匹のゴブリンに向かって、火の玉を投げた。ファイアーボールだ。
効果は絶大で、そいつらは黒焦げになって地面にぶっ倒れた。
「あと少しでこの包囲網を突破できる!がんばろう!」
そうドヤ顔で彼女に顔を向けた。
あれ?
彼女ってこんな顔だっけ?
何か若干更けてるような・・・・
「・・・何を頑張るのかね?白崎君?」
あ、、、、、、、
ゆめか、、、、、、
ですよねー、、、、、、、
僕にカワイイ幼馴染なんていないですもの。
目の前にセンセーが立ってる。
最近の子供は、体罰として見られるから叩いちゃダメだって言われてるはずなのに、僕は先生の定規でガンッと叩かれた。痛い。
「いてー!センセー!これ体罰じゃん!」
そう抗議するも
「白崎君の親御さんからはむしろ頼まれてねぇ。『私たちじゃあ甘やかしちゃうから、先生お願いします』って言われちゃってからは、教育指導は積極的にするんだよ。」
と来たもんだ。
老夫婦の子は辛いね。
甘々の世界から、いきなり暴力教師のお膝元だもんね。
お膝元。
今日そんなことを習った気がする。
よく分かってないけど、かっこいいから使ってみた。
周りの女の子がくすくす笑ってる。
あ?おれちょっと受けてね?これ、モテ期きちゃう系?
「アキよー。お前またゲームやりすぎたんだろ?そんなんじゃぁまた期末赤点だぞ?」
呆れるように言ったのが、友達のユウト。
見事に俺の株を下げてくれる。
株ってよくわかんないけどね。
ラノベとかでよく言われてるから使ってみたよ。
じゃない!これ受けは受けだけど、アレだ!最底辺の奴に対する嘲笑だ!馬鹿にされた笑いだーーーー!!
「寝てた白崎君には、後から話があるので、職員室に来るようにね。」
あーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!
今日の時間限定のゲームイベントがーーーーーーーーーーーーー!!!!!
僕は死んだ。
~fin
ーーーーーーーーーーーーー
こってり職員室で絞られた後、大量の宿題を入れたカバンを背負い。俺は帰宅する。
あんな宿題の量やってたら、しばらくイベントには参加できねーなぁ。
あーあ。せっかく今日はイベント報酬で、魔石がざっくざくてに入る日だったのに・・・・。
全部がパーだよ!パーだよ!うえええええぇぇぇ。
そんな事を考えながら、家へ向かっていた。
でも、あれな?俺アホやからそんなンすぐに忘れて、(今日のご飯何かなー?バーグだといいなー。バーグバーグ)とか考えてるんだから、幸せなのかもしれない。
こういうのなんて言うんだっけ?楽観っていうんだっけ?ラノベで覚えたし。
あ、そうそう。
僕は主人公の白崎アキ!中学二年生!11に成ったばかりね。
いつかはゲームデザイナーとか、小説書いたり、漫画の原作書いたりしたいから、頭の中でこうやって説明を付けながら、日々を面白おかしく盛るのが僕の癖なんだ。
・・・・・・・「僕」って、何かいい子っぽいな。
頭はたいして良くないんだけどね。
・・・・
そんな感じで、今愛しのわが家に帰っているところなんだ。
家には優しいけど、ちょっと老けたうちの両親がいる。
なんでも、出会ったのがちょっと遅くて、俺が生まれるのが遅かったんだって。
だから、小さいころから俺がほしいモノは大体手に入った。
ちゃんとアレよ?カンシャしてるよ?
そうそう。俺がおもちゃやら漫画やら、ラノベやらさ。そういうので遊んだものが、将来の役に立つんだよ。
そうに決まってるよ。
ルート見えるもん。
俺が大人になったとき、かっちょいい会社でバリバリゲーム作ってる姿が。
そして、暇なときに小説書いちゃったりして、それが爆売れして、大金持ちになるんじゃー!
がっはっは。
そんなことを考えてるチューボーですよ。はい。
すると、ほんのちょっと家から離れたあたりかな?小道が並ぶ一つに、妙な黒い石っころを見つけた。
ちょっと気になるから立ち止まって見てみる。
なんだろうこれ?
都心でこんな道端に石なんて珍しい。
アレかな?
おかんが最近ハマっているパワーストーンってやつかな?
ゲームや漫画やラノベにハマっている俺が言うのは何だけど、パワーストーンって怪しくね?
いや、別に漫画にはまってるからって、パワーストーンを怪しく言っても変じゃないよな。
まー、それはいいんだけど、
「金運が付くから」とか言って、なんか変な黄色い石をキラキラした目で言われても、困るんだけど。
おとんも困ってたんだけど。
そこんとこ空気読まないで、変な営業トークかましてくるからな。うちのおかん。
業者かよ!って突っ込みたくなるくらいセンノーされてるのか、まぁ・・・喋る喋る。
こんな石に何のパワーがあるんだろうね?
でもアレだなー。
恋愛運が上がる奴はほしいなー。
ツキアウとかよく分かんないけど、最近恋愛って興味有るよ?
とか考えながらその石を持ち上げる。
おかんに見せたら、何か特別な力があるんだーとかいうかな?
それよりも、もしかしたらこれ落とした人、探してるかもなー・・・
って、事を考えてたら、何かちょっと黒い石に違和感がある。
あれ?
なんかちょっと光ってね?
うわっ!
わわわわ!!!!!
まぶしい!
・・・・・何か変な感じがする。
周りが白くぼやけているような気がする。
強い光を出すLEDでも入ってたんだろうか?
目がしばしばするような。
・・・・・・・・・・・
光に包まれちゃったよ。
ーーーーーーーーーーーーー
俺は今、ボー然としている。
多分光に包まれてから2~3分しか経ってないと思う。
なのに・・・。
何だろうここ?
ほ、ホログラムとか、立体何とかっていう現象かな?
どこだろうここ?
え?
え???
えええ????
ホントに何処ここ????
さっきまで住宅街のど真ん中にいたのに、何で自然がいっぱいなのここ???
あ、説明説明。
こんな体験絶対に珍しい。後でこの体験を本にするために今の状況を言葉にしなきゃ。
うん。
これアレだ。
よく言う異世界への転送とかそういうやつだ。
あはは。
ゴーグルなんてつけないでも、ゲームの世界に入れたんだ。
そう思おう。
うん。
えっと、もっと詳しく説明するとね?目の前にはなんか見たこともない木の家がいっぱいあるのね?
地面は舗装されてないよ?砂利とか草でいっぱいだよ。
こっから僕の冒険が始まる!
とか?
え?
ほんと?
これゲームなんだよね?
なんか、まぶしくて目をつぶっていたから、何が起こったのかよくわかってないんだけども・・・。
これゲームの世界とかいうやつだよね?
そしたら、チュートリアルで、村人Aが話しかけてきて、世界を救えとかなんとかいうやつだよね?
あ、ソンチョ―の家に連れていかれたりするのかな?
この国の何とかがヤバイとか?
そんな事言われたりしちゃったりする系だよね?
えっと、何か、全然チュートリアル始まらないんですけど。
あれから十分くらい・・・ああ、アレってのはこの変な世界に着いてからね?うん。それで十分くらいじーーーーっと話しかけられるの待ってるんだけど、誰もここ通らないよね。
いきなりクソゲーですか?
バグ?
「おーい!うんえいさーん!このすごい装置はすごいよ。未体験だよ。でも、チュートリアル始まらないよー」
・・・・・・・・・
返事がない。
あれ・・・・・・・・
困ったな・・・・・・・・・・
さすがの楽観主義者の俺でも、ちょっと不安になっちゃうよ?
っていうか不安だよ?
だって、さっきから俺にかかってくる風がやたらリアルだもん。
風で気づいたけど、地面の石の感触もすげーリアル。
ヴァーチャルの世界も、ここまでリアルになったの?
いつの間に?
さらに十分後
村人っぽい人発見。
「あ、あのー・・・・?」
とりあえず
→話す
コマンドを実行してみるよ。
あれ?
何かびっくりしてるね。
「お前、ここで何やってるんだ?」
そんなこと言ってもさー。
俺だって知りたいよ。
こっちはゲームを作りたいとか夢を描いている小僧だよ?
こんなリアルなヴァーチャル体験に突っ込まれても、どうしようもないってば。
いきなりそんな何してるなんて言われても、何もしてねーよ!
強いて言えば座ってるだけだよ!
「え・・・っと、あのう?ここはどこなんでしょー?」
とか言ってみるしかないわけよ。
だって、目の前の人。やたらと動きがリアルだもん。
「このゲームすごいっすね!」とか言える雰囲気じゃないもん。
とりあえずこれがチュートリアルだと思って無難に現在地を聞くしかできないよね。
「ここはアリルの村だ。お前は何しにここに来たんだ?親はどこだ?」
とか言っちゃってさー。
いきなりフラグっぽいじゃないですか。
ここで、日本の世田谷区とか言っても通じないあれでしょー?
知ってる知ってる。
これフラグだから。
だからこう言うぜ
「あ、あの・・・・実は自分が何者かも、どこから来たのかもわからないんです・・・・」
ってちょっとしょんぼりするわけよ!
そしたら・・・
「あ、ああ。そうか。それは大変だな。とりあえず村の長に話をしてみるからちょっと来てくれないか?」
ってね!
ほらー!
このルートで大正解!
これで村長の元に行って、大冒険の始まりですよ!
ってわけで!
この僕!
白崎アキの大冒険の始まり始まり―!!!!!!!!
・・・・・・
帰れるんだろうね?
そろそろ誰かヒント下さい。
ーーーーーーーーーーーーー
「村長。外でこの子がぼーっとしてたんだけど、何か知ってるか?」
第一村人Aさんは、村長に質問した。
「んん?知らんなぁ。どこからきた?」
村長は俺に質問した。
あ、これ俺が答えなきゃいけないのね。
「えっと、わかりません。気が付いたらあの場所で座ってて・・・。」
とりあえず用意していた『記憶喪失』キャラを使う。
これで、アレこれ質問しても、ある程度は怪しまれないだろうという姑息な計算もしてる。
「記憶がないのか・・・。しかし、言葉に支障はないな・・・?記憶を削り取るやつは、言葉も失うらしいんだがなぁ?」
何か怖いこと言ってます。
この世界には、意図的に記憶を削る者がいるそうです。
いや、者じゃなくて物かな?
村長の家は、わりと古いタイプの家っぽくて、基本的に木の家に木の家具だ。
窓なんてガラスじゃない。
窓は着いたままじゃ外が見れない。
木で隙間も何もかも埋めちゃって、手で持ち上げて一旦外すタイプだ。
こんな窓、日本で見たこと無い。
周りは自然いっぱいなのに、虫とか入ってこないのかな?
だから部屋にはいるとやや薄暗い。
外ではは太陽がまださんさんと輝いているのに。
そんな未開の地っぼいのに記憶を意図的に削れるってすごいよね。
確か日本にそんな機械も薬もないよね?
俺が知らないだけ?
「じゃあしょうがないな。ライル。ここにはお前しかもう働き盛りの男はいないんだ。お前が面倒を見なさい。」
やれやれといった感じで、村長と言われたおばあさんがそんなことをいった。
そうか。第一村人はライルさんか。
理解しました。
「あ、あの・・・なんで男の人がライルさんしかいないんですか?」
ちょっと不思議に思ったから聞いてみるよ。
「・・・最近、戦争があってね。その時に働き手の男が全部連れてかれたのさ。それでも、ここを守るために一人だけ成人の男を置くことが許されたんだよ。」
おばあさんが答える。
何かすごい機嫌悪く言われてびびる。
「しかし、お婆。戦争はほぼ国の兵がやるから安全だとの話でした。我々は物資を補給するための参加だと。それに参加すると報奨金もいくらか出すとの話だったじゃないですか。」
ライルさんは言った。
あれ?なんか日本のニュースでもそんな話し合ったような?
「相手は犬の様な魔族で、知能も低いから補給部隊を攻撃する脳はないだろうって話が見事にはずれてねぇ・・・。」
おばばのその一言で、しんと静まり返る。
空気が重い。
「ここももう引き上げた方が良いのかねぇ」
そんなことを言ってる。
ライルさんは黙ったままだ。
なんと言ったらいいのか分からない。
すごい深刻な問題を抱えているんだな。
「と、とりあえず何か手伝えることがあったら言って下さい!ここの事は何も分かんないですけど、助けられることがあったら何でも手伝います。」
そうそう。これはゲームなんだからフラグはちゃんと立てておかないといけないよね。
シーン・・・と黙るってのは、俺の会話のターンってことだよね?
「そうだな。とりあえずお前の・・・そうだったな。名前も分かんないんだっけな」
あ、そういえばそういう設定だった
「エディと呼ばせてもらう。俺の親友だった奴の名だ。とりあえず俺もエディが何を出来るか分からんから、俺について回れ。出来そうになったら声をかけろ。その時にやらせてやる。」
エディの名をもらった。
そして、随分と具体的なチュートリアル。
何かやたらリアルだな。
「おじさんのお仕事は何ですか?」
とりあえず俺はライルさんに聞いてみた。
「ライルでいい。俺の仕事は狩人だ。」
狩りか・・・
「普段は大人しい動物を狩るが、村に被害を与える魔物をあらかじめかって減らすのが仕事だ」
・・・すっごい不安な仕事だ!
魔物ってやっぱりいるんや・・・。
火とか吹かんだろうな?
こうして、僕はライルさんのうちでお世話になることになった。
名前はエディといいますよろしく。
ーーーーーーーーーーーーー
こんばんわ。
アキです。
今日はライルさんのお仕事のお手伝いの話をしましょう。
狩人と言っても、弓矢で狩るばかりではなく、罠を張るのが主だそうです。
なので歩きました。
ひたすら歩きました。
たまに鹿とか出てきますので、そういうのは積極的に弓で打っていきます。
遠くから。風を見て。ゆっくりと近づきます。
そして脳天にズドンと一発で倒すのです。真似できそうもないです。
格好良かったので、弓については後で教えてもらおう。
そうして倒した鹿を、一人で担いで村へと運ぶのです。
腰には罠で倒したウサギやイタチといった小動物に、罠の予備に斧やら弓矢やら。
ものすごい重量です。
そして、村に着いたら内蔵をとり、皮をはぎ、吊すのです。
血抜きをするんだそうです。
そしてすぐにまた出かけます。
狂暴な肉食魔獣除けの罠の確認です。
その魔獣の雄の、臭いの強い毛皮の一部を使うのだそうです。
罠を確認した後は、先ほど穫った小動物の方の解体です。
きれいに小分けした後、近所に配るのだそうです。
なにしろこの村の男はライルさん一人なので、狩った獲物は村の面々に分け与えるのだそうです。
偉いなぁ。
そして気づいたのが、この村の極端な子供の男女の比率。
男の子が僕を入れて二人しか居ないんですしかもその子は1才の子。
これではおばばもこの村を捨てようと言ったのもうなずけます。
「ヘレ。これから狩猟の罠を作るから来てくれないか」
ライルさんが獲物を配る最後の家で、母の編み物を手伝っていた女の子にそう言った。
彼女はなんでもライルさんの狩猟に興味があるらしい。
見たところ自分と同い年くらいだろう。
髪を短く切っていて、ボーイッシュと言えばいいんだろうか。小学生だったらこういう子いたなぁという感じの子だった。
年も近いからお互い仲良くなろう!という気が思春期のせいかしなく、2人して「ども・・・」と言い合うだけだった。
その後、3人で罠づくりに没頭し、僕は「これどうやるんです?」「あ!ま、まちが・・・い・・・ました。すみません」と言ったり、ちょっと肩身狭い思いしながらも作業を続けました。
そのたびに、ライルさんが「大丈夫だ。」って言ってくれたことが何よりも救いだけど、ヘレって子がちょっとだけこっちを一瞥して「すっ」って音が聞こえるように目を製作中の罠に戻したり。
(これは俺に惚れたな!)ってこの僕の思考を見て思う人はいるだろう。だけどアレは侮蔑のまなざしですよ。
「早よやれや」とか「お前だけ足引っ張ってんぞ?」とか目で言われてる感じがします。こわい。
夕方になって、ヘレを家まで送った後就寝。
次の日また同じように罠を設置したり、壊れた罠を回収したり、ちょっとだけ弓の練習したり、かかってた獲物を捌いたり、ご近所におすそ分けを持って行ったり。
ヘレとライルさんと僕とで罠を作る。ヘレを送る。
そんな事を2週間くらい続けていました。
この頃かなー?
なんか違うぞ?と
これゲームと違うぞ?と
思うようになりましたよ
いや!なんかうすうす変だなーとか思ってたんだけども、確信ができなかったんだよ!
だってありえないでしょ?
最初は自宅の近所に変な石があって?それ触ったら変な世界に来て?そして狩猟生活してる?しかもなんか帰れそうなイベントもフラグも何もなくて、「俺、この村で狩人になるよ」とか?え?まじで?
もう家に帰ってゲームやりたいんですけど。
おかんのカレーとかハンバーグとか、そろそろ恋しいんですけど。
まいにちまいにちさー!!!ほんと、毎日だよ?
毎日味付けのうっすい焼いた肉と、芋と豆の入ったスープのみ!
何じゃこの食生活。
・・・・・もうやだ。
弓だって上達しないし、罠づくりだって飽きたし。ライルさんはあんまり喋んないし、ヘレは怖えし。
最初は奇異の目で見られたけど、村の人たちからは最近声かけられるようになったよ。それは正直うれしいよ?
でもよー。
ゲームしたいし、友達と遊びたいし・・・。
おかんの旨いんだかまずいんだか判別つかないけど、あのローテーション組まれた食事だって久々に食べたいし・・・。
・・・2週間だよ!?
なんで俺が・・・!
なんでこんなところに閉じ込められなくちゃいけないの?
なんで!
そんな事をぶちぶち思ってた。
2週間と1日目。
もう嫌気がさしてたんだと思う。
夜になって、ライルさんが寝た後、俺は自分の手荷物を持ってそーっと外まで出たんだよね。
あ、言ってなかったけど通学中の恰好そのまんまここに来たから、かばんやらスマホやらいろいろ持ってたんだ。
スマホは当然圏外で使えなかったし、電池が無くなるのが怖かったからずっと電源切ったままにしてた。
かばんの中は、ほかに教科書とかノートとか筆記用具とかしか入ってなかったけど、自分の世界に戻ったらまた使うかもしれないからそのまま持って出たんだ。
とりあえず、防犯ブザーみたいなのをおかんがつけてくれてて、それがLEDのライトになってたんだ。だから夜の道は暗くて怖かったけど何とかなると思ったんだ。
街灯とか一切ないからね。ココ。
月明りと星の光くらいしか明かり無いから、手にあるLEDライトがすごい心強かったよ。
行くあてなんだけど。
とりあえずはここに来た最初の場所に行ってみようと思う。
村の入口のあたりね。
あそこに行けば何かあるんじゃないかな?って期待しながら行ってみる。
こんな夜更けた時に外に出る人なんていないんだろう。
周りの家は、すでに真っ暗だった。
舗装はされてないけど、踏み固められて草が生えなくなってる道路をずんずんと進んでいく。
ライルさんが言ってた「魔物」っていうのがちょっと怖かったけど、なんでも肉食の凶暴な魔物はここら一帯にいることはほとんどなくて、草食系の魔物がちょっといるだけだってことを聞いてからは怖さが薄れたんだよね。
だけど、俺がいたところにもいたイノシシみたいな魔物はいるらしいから気を付けないといけない。こんな夜には活動してないらしいけどね。
でも、なんで動物と魔物の呼び方が分かれているんだろう?っていう疑問だけはあった。
ライルさんに聞いてみても、「昔からそう言われている」の一蹴だったからなぁ。
まぁ、ここにももう居続けることはないんだし、気にしてもしゃーないか。
そんな事を考えていたら村の入口に着いた。
久々にスマホの電源を入れてみる。
ゆっくりと画面が明るくなり、21:30の文字が浮かび上がった。
テレビっ子ってわけじゃないから、見たい番組は無いけど、帰ったら久々にテレビでも見たい気がした。
文明っていうのに触れたい。
そんな事をぼんやりと思っていた。
でも・・・・・・・・。
でも・・・。
何も起こらない。
空はいつまでも月と星空だった。
時空がゆがんだりとか、突然変な明かりが体を包んだとか。そういう事は一切なかった。
ちゃんと黒い石は握っている。
でも、何も起こらない。
僕は一生このままなの?
強がっていたけど、僕はこの世界で生きていかなくちゃいけないの?
おかあさん。ユウト。ケンジ。おとうさん。
何か・・・すごい会いたい。
バタバタしてて、全然そんな事を考えている余裕はなかったけど、ちょっと落ち着いたからそう思うようになった。
最初は自分の世界と全く違うこの世界を楽しんでいたと思う。
だけど、この世界では僕の大事な物や人はいないっていうのがすごく苦しかった。
確かに剣と魔法の世界にはあこがれるけど、この2週間で魔法らしいものはなんも見てないし、剣だって使われたのを見たことがない。
というか、剣と魔法が実際にあったとしても、自分がそんなの使いこなせる自信はないんだ。
弓だってろくに使えないんだから。
時間を確認してみる。
まだ22:00だ。
ふと、目線を村の外に向ける。
あれ?何か獣っぽいのがいる。
・・・・?
どっと汗が出た。
見たこともないくらい大きな動物がそこにいた。いつから?わからない。
四つん這いになってこっちを見ている。
僕よりも3~4倍は大きい。
ここら辺に肉食はいないんじゃなかったっけ?
あ、あれ?肉食に会ったら、まずどうするんだっけ・・・
「グアアアァァァァァァァ!!!!!!」
ひっ!
何かすごい怖い。
ヤバイ。
あ、足が動かない。
スマホのライト。ライトを警戒しているのか、さっきの雄たけびの後はグルグル喉を鳴らしている。
怖い。
え、何だこれ。
怖い。
「しっ!」
後ろから声のような息を強く吐いた時のような音がした。
僕の隣を「シュッ」という音とともに何かが通り過ぎた。
直ぐに前にいた動物が「ギャン」と言って、よたよたとよろめいた。
「はっ!」
今度ははっきりと声が後ろからした。
動物は情けない声を上げて、その場にズウンという音とともに倒れる。
僕は震える体のまま、後ろを向いた。
「大丈夫か?」
ライルさんが弓を持って立っていた。
「こんな夜中にどうした?」
そう言ってくれた。
怒らずに、諭すように言ってくれた。
僕はそのままぐちゃぐちゃになるまで泣いた。
ごめんなさいという言葉とともに泣いた。
ーーーーーーーーーーーーー
「近くにデッドヘッドが出た。」
次の日、ライルさんが村長さんのところで昨日倒した獣の詳細を話している。
普段は村の近くでは現れなかった肉食動物らしい。
いや、動物じゃなくて、アレは魔物に分類されるらしい。
「そうか・・・。もしかしたら餌場が使えんくなって、こっちまで降りてきたのかもしれんの。」
村長さんはため息とともにそうつぶやいた。
昨日の自分のことは聞かれなかった。
村長さんからは「何か辛いことがあったら、私に話しなさい。私に話し辛かったらほかの者でも良い」と言ってくれた。
ぼくはその言葉に甘えるようにぽつりぽつりと、「実は記憶喪失じゃない」とか「こことは違う世界から来た」っていう事を言った。
そしたら村長さんもライルさんも「そうか」とうなずいただけだった。
僕もどうしたらいいのかはわからない。
とりあえずその話は昨日の魔物の話に戻ったのだった。
「アレは非常に知能が高い獣です。デッドヘッドは必ず2匹以上で行動する。だから、昨日の出来事は遠くからもう1匹が見ていたはずです。その出来事を巣に持って帰って情報を交換するんです。」
ライルさんはそう言った。
僕は、(そんな知能が高い動物がいるのか)と驚いた。
「そうか・・・やはりこの村は捨てなくてはいけないのかもしれないのう。」
村長さんはそう言った。
「確かに、デッドヘッドがこのまま黙ってこちらに手出しをしないとは言えないです。もう少し数を増やしてくる恐れがあります。」
村長さんは、ライルさんのその言葉に黙ってしまった。
そして、30秒くらい考えた後、
「実はな・・・」
と言いにくそうに言葉をつなげた。
なんでも、また中央政府が戦争を始めるらしい。
今度も補給部隊と称して、この村も招集対象になっているらしい。
「村を守る男が一人しかいない」と村長が言ったら、「それではお前たちが売る毛皮や、織物は買い取らない」という事を言われたらしい。
「わたしのひい爺さんばあさんから、この土地を開拓して守ってきたんだがなぁ。」
またため息をつきながら村長はそう言った。
そこでライルさんが腰を上げて机を叩いた。
「いえ!守りましょう!この村を。軍への招集に応じたら、いくらかの報奨金とその他の手当てが付きますよね?俺は軍に入ってもいいです。腕には多少の心得があります。なので、俺が帰ってくるまで、みんなで隣町で待っていてください。」
ライルさんはいつになく熱心に語りだした。
こんなに熱く、この村のことを思う人だとは思っていなかった。
「前のときは、あのアジテも補給部隊に参加して、帰ってこなかったんだぞ?」
アジテという聞いたこともない人が出てきたが、恐らく彼は結構な使い手だったのだろう。
その人が帰らぬ人となったという事実から見て、補給といえども死と隣り合わせだという事が感じ取れた。
戦場はどこの部隊も非常に危険な現場なのだ。
「大丈夫です。俺はアジテからこの村を守るようにと、魔石を俺に託してくれました。だから俺はこの村を守らなくてはいけないのです。」
ライルさんの決心は揺るがなかった。
「ライルがこの魔石をもっていかなかったから死んだんだ。だから、俺はこの魔石を持って戦場に行きます。絶対に死にません。」
そう強く言い切った。
まっすぐな目は、アジテさんっていう人からもらい受けた信念が燃えているようだった。
まっすぐ村長を見つめる。
「わかった。じゃあデッドヘッドのこともあるからな。私たち女子供は近くの街で避難しておるよ。お前も死ぬんじゃないよ?この村を死ぬまで守りなさいよ?」
ぼくはそのやり取りをじっと見ているしかなかった。
ここに来て急展開が過ぎて、頭が付いていかない。
昨日、ホームシックになって魔物に襲われて、そして今日は戦争に向かうという。
あのほとんど変化のなかった2週間が嘘の様だ。
「エディ。君にも来てほしい。」
えっ?
ライルさん。
どういう事でしょう?
さらに僕の頭は混乱してしまった。
ーーーーーーーーーーーーー
「そういえば、元の記憶は持っているんだっけな?」
はい。
そうです。
すみません。
ちょっとここに来た時に混乱して、そういうウソを言ってしまいました。
ライルさんにそう説明すると、笑っていた。
は、初めて笑っている顔を見たかもしれない。
ちょっとびっくりした。
「いや、エディの話を聞いてて思ったけど、そういう事が起こったんだったら自分の素性は隠しておいた方がいいかもしれないよな。あ、エディっていう名前じゃないんだっけ?」
「いえ。もうここに来てエディで通っているので、エディのままでいいです。」
僕がそう付け加えると、「はっ」とライルさんがまた笑った。
もしかしたらライルさんも緊張していたのかもしれない。
得体のしれない男子と一緒だもんなぁ。そら大の大人も警戒の一つはするよな。
「それで、いつ頃戦地に行くんですか?」
あ、そうだこれも聞いておかないと
「そういえば、僕を連れて行くって言ってましたけど、どうしてですか?」
今回の件でライルさんには幾分か話しやすくなった気がする。
「うん。招集は今から4日後。ココから2日ほど歩いた谷の間という開けたところがある。そこに集合と言われているから、明日の日が傾いたあたりに出発しようと思う。」
それと、と付け加えて説明してくれたのが、僕を連れていく理由だった。
何でも、僕の話を全面的に信じてくれたみたいで、でもここにいたら元の場所に帰るための情報も何も手に入らないと考えたらしい。だから、少しでも多くの人から話を聞いてみてはどうか。
という事だった。
「戦場にまで行かなくてもいい。ただ、戦地に行く前に色々聞いてみろ。同じように招集された集落の者もいる。補給部隊の指令官に聞くのは難しいだろうが、途中から隊列を離れて中央政府の大きな町に行けば、何かヒントがあるかもしれないぞ」
と言われた。
僕はまた涙が出てきた。
あの時、勝手に出ていこうとした自分を悔やんだ。
ここまで気を使われて・・・という気恥ずかしさもあった。
そして、自分自身の無力さにも腹正しかった。
なんでもっと人に相談しなかったのか。
そんな風に僕は、頭の中がごちゃごちゃで、色んな感情や思考が渦巻いていた。
「お、おい。なにも泣くことないだろう?」
ライルさんはちょっと驚いている。そして戸惑っている。
「すみません・・・僕の無力さとか、ライルさんの心遣いへの気恥ずかしさやらで頭が混乱して。」
僕がグシグシ鼻を鳴らしながら言うと、ライルさんは呆れながら言った。
「俺の気遣いが気恥ずかしい?どういうことだ?」
え、、、っと。
なんて説明したら通じるだろうか。
う、うまく言えない。
僕はまごまご口を開こうとしたり閉じたりしてた。
「あのな。お前くらいの年の子って、今までの自分の経験で何でも解決できるかもしれないって気になるときがある。俺もこの村しか知らなかったとき、そういう思いになったことがある。だけど、常に何でも自分の力だけで解決できると思うなよ?周りの助けを借りなければ前に進めないときは、素直に借りた方がいい。」
そう言ってくれた。
「まぁ、まだそんな事を言っても理解はしにくいだろうけどな。」
今日のライルさんはよく喋った。
村で一番狩りがうまくて、調子に乗っていた時期。自分の力を過信して、世界中を冒険しようと飛び出したこと。そして直ぐに自分の力は全然未熟で、すぐに打ちのめされて帰ってきてしまった事。
村に帰ってきてから若い男衆のリーダーにもなったこと。だけど、その後すぐに戦争へ入ってしまい。自分の周りには誰もいなくなってしまった事。
「こんな何もないようなところだけど、俺はここを守りたいんだ。」
そう言った彼の目は一つの信念がこもっていた。
僕もライルさんのようになりたい。狩りをもっと上手くとか、腕っぷしを上げたいとかじゃなく、こうやって何か一つの目標を持って生きたい。
そう思った。
ーーーーーーーーーーーーー